金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
現在、記事の整理中。

317:奥山景布子『恋衣 とはずがたり』

2022-12-24 00:35:35 | 22 本の感想
奥山景布子『恋衣 とはずがたり』
★★★☆☆3.5
 
【Amazonの内容紹介】
 
鎌倉末期、後深草院の宮廷を舞台に、
愛欲と乱倫、嫉妬の渦に翻弄される女官・二条。
幼くして生き別れとなった娘・露子が、
二条の遺した日記を繙きながら、
晩年は尼となり自らの脚で諸国を遍歴するまで、
美しく、気高く、そして奔放に生きた実母の人生を辿る。
史上最も赤裸々な女流古典「とはずがたり」が
700年の時を超え、大胆によみがえる。
 
****************************************
 
わたしの「とはずがたり」との出会いは、
いがらしゆみこの「マンガ日本の古典」版。
わりと衝撃的で、
「迫られてむりやり……と言いつつ、妊娠中に他の男と関係して、
 ヒロインも結局ビッチやんけ」
という印象だったのだけども、
いくらか物のわかるようになった今思うと、
ヒロインはすごく痛々しい。
 
後深草院の光源氏ごっこに巻き込まれて、
十四歳で、初恋の相手であったであろう母の身代わりにされ、
父という後ろ盾をなくしたために、ただの召人扱いで
きさきの一人にもなれない。
院は嫉妬深いくせに、ヒロインを他の男に貸し出し、
当時、出産は命がけの行為だったのに、
ヒロインは何度も妊娠させられて、子を奪われる。
そういう事態を防ぐすべはあったのだろうけれども、
たぶん、不安定な立場だった彼女は、
男に求められることで自尊心を保っていて、
ただ都合のいい女として扱われていることに
最初は気づかなかったんだろう。
 
二条が実在したかどうかは疑われていて、
「とはずがたり」に書かれていることもフィクションでは?
と言われているのだけども、もし完全なフィクションだとしたら、
これはいわゆる、大昔の「ナマモノを扱った夢小説」。
しかし、こんな夢小説、つらすぎるよ……!!
 
この本は、タイトルにあるとおり、
「とはずがたり」をベースにしているのだけれども、
二条が最初に生んだ娘が、母の残した文章を読み進めることで、
母を知っていくという形式を取っていることと、
「蜻蛉日記」のエピソードを取り込んでいることが特徴。
「とはずがたり」という作品がたどった運命も踏まえた
展開もあり。
原作自体が愉快な話じゃないから、
これもやっぱり愉快ではないのだけれども、
一度だけ娘に会いにきた二条を、
娘が「天女さま」だと認識していたくだり、
なんとも切なく美しく、とてもよかった。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする