奥山景布子『恋衣 とはずがたり』
★★★☆☆3.5
【Amazonの内容紹介】
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わたしの「とはずがたり」との出会いは、
いがらしゆみこの「マンガ日本の古典」版。
わりと衝撃的で、
「迫られてむりやり……と言いつつ、妊娠中に他の男と関係して、
ヒロインも結局ビッチやんけ」
という印象だったのだけども、
いくらか物のわかるようになった今思うと、
ヒロインはすごく痛々しい。
後深草院の光源氏ごっこに巻き込まれて、
十四歳で、初恋の相手であったであろう母の身代わりにされ、
父という後ろ盾をなくしたために、ただの召人扱いで
きさきの一人にもなれない。
院は嫉妬深いくせに、ヒロインを他の男に貸し出し、
当時、出産は命がけの行為だったのに、
ヒロインは何度も妊娠させられて、子を奪われる。
そういう事態を防ぐすべはあったのだろうけれども、
たぶん、不安定な立場だった彼女は、
男に求められることで自尊心を保っていて、
ただ都合のいい女として扱われていることに
最初は気づかなかったんだろう。
二条が実在したかどうかは疑われていて、
「とはずがたり」に書かれていることもフィクションでは?
と言われているのだけども、もし完全なフィクションだとしたら、
これはいわゆる、大昔の「ナマモノを扱った夢小説」。
しかし、こんな夢小説、つらすぎるよ……!!
この本は、タイトルにあるとおり、
「とはずがたり」をベースにしているのだけれども、
二条が最初に生んだ娘が、母の残した文章を読み進めることで、
母を知っていくという形式を取っていることと、
「蜻蛉日記」のエピソードを取り込んでいることが特徴。
「とはずがたり」という作品がたどった運命も踏まえた
展開もあり。
原作自体が愉快な話じゃないから、
これもやっぱり愉快ではないのだけれども、
一度だけ娘に会いにきた二条を、
娘が「天女さま」だと認識していたくだり、
なんとも切なく美しく、とてもよかった。