バーニー・ウィリアムス『Rhythms of the Game - The link between musical and athletic performance』(デイヴ・グルック、ボブ・トンプソンとの共著、Hal Leonard Books、2011年)を読む。
ニューヨーク・ヤンキース一筋16年の大リーガーにして、プロ級のギタリストである。
本書を読むと、きっと、野球好きとジャズ好きとは重なるに違いないと思わされる。「二足のわらじ」は彼だけではないし、それ以上に、ジャズは野球を題材にし続けた。たとえば、有色人種として大リーグ参加の草分けとなったジャッキー・ロビンソンという選手がいるが(1947年にメジャー・デビュー)、カウント・ベイシーが彼に捧げた「Did you see Jackie Robinson hit that ball?」という曲がある。
バーニー・ウィリアムスが米国代表として参加した日米野球の試合(2002年)を、東京ドームに観に行ったことがある。その時には、なぜ長打力が傑出しているわけでもない選手がヤンキースの4番に座っているのか不思議に思っていたのだったが、それが彼の魅力でもあった。長い手足を使った柔軟なバッティングは本当に魅力的で、イチローが憧れて同じ背番号51を付けたのも納得がいくものなのだった。
ところで、その時の日米野球の試合では、イチロー、アロマー、ウィリアムス、ボンズ、ジアンビ、ハンターと続く凄い面子だった。今岡誠がホームランを放ち、上原浩治がフォークでボンズから三振を3打席続けて奪った。渡米直前の松井秀喜が出塁した際、ジアンビに、ヤンキースに来いよとばかりに尻を叩かれていた(まだ、チームが決まっていなかった)。どこかに録画が残されていないだろうか。(>> リンク)
本書に書かれているバーニーの考えは本当に面白い。たとえば、すべてが自分のプレイにとって理想的な条件となる瞬間を、「The Matrix Moment」と表現している。もちろん、映画『Matrix』のように、銃弾も何も見通せるという意味である。日本であれば、川上哲治が言った「ボールが止まって見える」か。やはり、スーパースターならではの奇跡はあったのだなと思う。
しかし、意外なことに、ほとんどの頁は、マインドコントロールについての考えに充てられている。ほとんどビジネス書である。楽しめ、準備をして「変数」を減らせ、失敗は成功の母だ、スランプのときにはいつものやり方を変えてみろ、といった具合に。これがまた、勇気づけられてしまうものだった。バーニーでさえ、大事な出番の前には、胃がばくばくし(「蝶が飛ぶ」)、足が震えていたのである。
バーニーのお気に入りの野球選手は、デレク・ジーターであり、マリアーノ・リベラであり、ペドロ・マルティネスであった。
それでは日本選手はというと、野茂英雄のことを、「asymmetrical rhythms」を持つ投手として、パワー・ピッチングの対極に位置づけている(59頁)。メジャー・デビューとなった1995年に、9イニング平均で11.1個の三振を奪ったピッチングが、やはり衝撃的であったようだ。また、イチローについては、「ゾーンを見極めて、どのような状況でも対処できる選手」として、オーネット・コールマンなどフリージャズの音楽家に例えている(71頁)。
残念ながら、4シーズンをチームメイトとして過ごした松井秀喜のことには、言及されていない。2009年のワールド・シリーズでは、そのペドロ・マルティネスを打ち崩してMVPとなったというのに。