丸谷才一『裏声で歌へ君が代』(新潮社、1982年)。去年亡くなった編集者さんの書棚にあって再読。台湾独立運動に関わってしまう「非政治的人間」をめぐる物語であり、いややっぱりおもしろい。
「非政治的人間」とは、たぶん「政治のことに無自覚な市民」として批判的に使われているわけではない。そうではなく、現実の国家や架空の国家のことを考え、心の中に観念ばかりを抱え、国家とか戦争とか疑獄とかいったような大きな見出しがことばの一部を占めてしまう「政治的人間」とは異なる者のことだろう。
「公」を「私」に近づけ、それを拡大していく想像力をナショナリズムの原点に置くことができると言ったのはガヤトリ・スピヴァクだった(『ナショナリズムと想像力』)。