2年くらい前にロサンゼルス近郊のウッドランドヒルズという町の古本屋で買った。ようやく読んだ。詩人・公民権運動家のマヤ・アンジェロウは自伝を7冊書いており(最初の2冊は邦訳されている)、この『The Heart of a Woman』は4冊目にあたる。
彼女は歌手としても活動し『Miss Calypso』を1957年に出しているのだが、この本はその頃から数年間のことを思い出して書かれている。そのような縁もあって、ツアーに来たビリー・ホリデイを自宅に呼ぶところから語りがはじまっていておもしろい。やっぱりビリーは精神のバランスを少し崩していたようでマヤの息子につらくあたり、母子の心にも傷を与えた。ビリーのことでもあり、書くことにもためらいがあったかもしれない。
それにしても公民権運動の時代、エピソードになまなましさがある。キング牧師にどっしりとした貫禄があったことも、マルコムXの発言がつねに自分の身を切って相手と向かい合うものであったことも。マルコムXいわく、「Every person under the sound of my voice is a soldier. You are either fighting for your freedom or betraying the fight for freedom or enlisted in the army to deny somebody else's freedom」。
音楽家たちも運動の前面に出て関わっていた。「Harry Belafonte and Miriam Makeba were performing fund-raising concerts for the freedom struggle. Max and Abbey traveled around the country doing their "Freedom Now Suite"」。ところでそのミリアム・マケバは60年代後半にハーレムに住みジャズミュージシャンたちと交流していた。もしかしたらアルバート・アイラーとも互いに知る仲だったのかもしれないと思い、去年出版された『AA 五十年後のアルバート・アイラー』に書いたのだけれど、まだそのことは判明しない。
本の後半では、マヤがアフリカ出身の人と再婚してからの生活が描かれている。結婚当初は「チキンキエフ、フェイジョアーダ、エッグベネディクト、ターキーのテトラッツィーニ」(テトラッツィーニってはじめて知った)なんかを作って愉しそうなのに、一緒にカイロに移り住んでからの摩擦は消耗するようで、読んでいてつらい。最後に自分を取り戻すところも嬉しくはあるけれどつらい。ここまで自分をさらけ出すからいまも支持されているのだろうけれど。
マヤ・アンジェロウは最近25セント硬貨のデザインになったそうで、ちょっと欲しい。
●マヤ・アンジェロウ
マヤ・アンジェロウ『私の旅に荷物はもういらない』(1993年)
金成隆一『記者、ラストベルトに住む』(2018年)
デイヴ・ホランド『Dream of the Elders』(1995年)