板橋大山教会にて、齋藤徹・喜多直毅デュオ(2018/3/17)。
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
このふたりのデュオは、昨年の6月に巣鴨レソノサウンドで観て以来である。そのときはまだテツさんの手術前でもあり、また、雨が降っていて、昔の病院ならではの独特の雰囲気もあって、なんだか秘められたようなサウンドだった印象がある。この日は春の光が射しこむ板張りの教会において、より開かれて明るいサウンドのように思えた。音は適度に吸収されて、雰囲気のままの柔らかいものだった。
ファーストセット。ふたりは弦を優しく慰撫するように音を出し始めた。チューニングや音合わせが、シームレスに音楽となる過程だった。旋律が対位しつつ、激しさを増し、破綻のマージナルなところとの間を行き来する。やや静かになって、テツさんが弓から弦へ、また弓へと、そのたびに音風景が変わるのだが、面白いことに、喜多さんのヴァイオリンはその変化を惜しみ前の風景を残すように弾く。そして中東的な旋律も、(驚くべきことに)笛のような音も発する。以前に喜多さんが「他のものの真似をするのが好き」だと冗談めかして言った記憶があるのだが、この憑依は真似ではない。
ここに来てふたりの音がシンクロし、豊かな倍音を創り、デュオであることの必然性があらわになった。喜多さんは薄目を開けてテツさんの様子を窺う、しかしそれは挙動ではなく音そのものを見ているに違いなかった。寒く孤独な風景が見える。かすれ、軋んで収束した。
セカンドセット。よりリラックスして打ち解けたように、奇妙な音の遊びを展開する。またしても驚いたことに、喜多さんは弦に金具をいくつか付け、振動の長さを短くすることによって、親指ピアノ的な音を出し始めた。この遊びがしばらく続いたのだが、テツさんがサウンドに介入することを待っていたようであり、「はやく、はやく」と呟き、場内爆笑。テツさんは苦笑いしながらコマを弦に噛ませ、棒で撥音を出し始めた。ふたりは周波数をつぎつぎにシフトし、その都度、響きをシンクロさせた。また、まるで空中に何度も弧を描きあうときもあった。
このセットでの旋律は、喜多さんの主導によるものか、中国や韓国の匂いが漂うものだった。テツさんの曲の旋律もあった。トゥヴァの民謡を思わせる瞬間もあった。蓄積と広がり、実に豊かな音楽の結実であるに違いない。倍音はうねり移動し、そして最後は、コントラバスとヴァイオリンそれぞれの弦の強度、はじくということの強度、震えるということの強度を提示して終わった。
ところで、2018年10月18日に、横濱エアジンにおいて、ロジャー・ターナーを加えたトリオで演奏する予定とのこと。
Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4
●齋藤徹
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
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『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
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齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
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うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン
●喜多直毅
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)