この種もツツジ科の低木でした。新潟の山野を歩いていれば比較的普通に見られる種ですが、太平洋側にはないようで結構人気のあるものです。花も美しく植物の姿も小さめで愛おしい感じがします。山地の岩場に生育しているのを見ますが、栂池も似たような場所に生育しています。日本海側では生育する垂直分布範囲が広い種の一つであることが分かります。
越後の里山にはオオイワカガミがごく普通にありますから、高山に行ってイワカガミを見ても正直あまり感動を覚えません。花数もオオイワカガミに比べれば少なく見応えはしませんし、たくさん生えているといっても越後の里山にはかないません。とはいっても小さければ小さいなりに可憐ですし、愛おしい気落ちはします。このイワカガミはオオイワカガミの高山性変種と考えるべきか、あるいは高山性のイワカガミが多雪地に適応しオオイワカガミとして生育範囲を低地に広げるようになったのか・・・。太平洋側の低地にもオオイワカガミが自生する場所があるというそうですから、両種の関係はどういう進化の歴史があったのでしょうか。興味深いですね。
ヒョウモンチョウの一種がイワカガミの花に来て吸蜜しています。高山の7月は忙しい季節で羽化した昆虫は一斉に動き出し次の世代に命をつなぎます。イワカガミの花にも飛来するチョウがいるわけで、「花」という装置はしっかりと役割を果たせているようです。しかし、しっかりと観察ができていませんのでこのチョウがイワカガミの受粉に効果があったかは不明です。正直あまりポリネーターとしてはチョウは役に立っていないような気がしています。ミツバチやハナバチ系の方が彼らにはふさわしいのではないでしょうか。
珍しいツリバナがありました。花の色が濃紫色で初めて見るものです。多くのツリバナが緑色をしているのに比べ際立った差異です。クロツリバナという種で中部以北の亜高山帯に生育しているのだそうです。小さな花ですがツリバナとしては幾分大きめのようです。
黒というより濃紫色。この色の花は黒花扱いされてしまいますからいろいろな種で「クロ」の名前がついています。真黒な花は自然界には存在していません。図説で知ったのですが、クロツリバナは5数性の花のようですが果実は三稜形で3つに割れます。そういえばツリバナは5つに割れますが、ヒロハツリバナは4つに割れます。このクロツリバナは3つに割れる・・・。なんと面白い習性でしょうか。ニシキギ科のツリバナの仲間は花芽から果実を構成するまでの形態形成に焦点を置くと面白い研究ができるかもしれません。私も頭の片隅に置いてこれからも観察を続けたいと思います。
昨年はコバイケイソウの花が不作という話。確かに訪れたいくつかの場所ではたくさん花を咲かせているという光景には出会っていません。前年が度の湿原でも花が多かったということですから、鼻にも周期があるようです。その代わり昨年はワタスゲの大群落を各所で観ました。それはそうと、不作の年でも全くないということはありません。栂池のミズバショウ湿地にも例年程ではないにしろ美しく咲いたコバイケイソウがありました。折しも、アサギマダラが訪れていて吸蜜の最中。なかなか出会える場面ではありませんから夢中でカメラを向けました。
3~4mは木道から離れた位置で、性能の悪いカメラではこのあたりが精いっぱい。警戒するふうでなく悠然と自分のペースでふるまっています。高山に来ると比較的アサギマダラに出会う機会が多いようにおもいます。必ずというわけではありませんが、ふわふわと舞う姿が目に留まりやすいのと行動範囲がとても広いせいなのでしょうか。アサギマダラは渡りをするといわれるチョウで有名です。冬場ははるか南の島に行くそうです。個人的には半信半疑で近場で産卵越冬する個体もいるのではと思いつつ、根拠があるわけでもなくアサギマダラを見かけるとどこで産卵しどこで越冬するのだろうと思ってしまいます。すべての個体が渡りをするということではないと思っています。
綺麗に色着く花ばかり見ているわけではありません。不得手な部分ではあるもののスゲやイネなどあるいはシダ類にも目をやることにしています。洞察する範囲が浅いために気づきやそれから広がる世界が小さいのが悩みです。これも、時間をかけて観察をすることから世界が見えてくるのでしょうか。
ヤチスゲです。亜高山帯以上の浅い沼地などに生えているのを見かけます。水の中に生育するスゲは多くありませんから、その生態で見当がつけられます。水面をびっしり覆っているような生育ではなく、まばらに毛が生えたような状態が普通です。岸に上がっている姿も気づきませんから水の中がお好みなのでしょう。面白いことに同じような池塘が隣接しても生育しているとは限りません。深さも影響するようで結構微妙な生育条件があるようです。
ヤチスゲです。亜高山帯以上の浅い沼地などに生えているのを見かけます。水の中に生育するスゲは多くありませんから、その生態で見当がつけられます。水面をびっしり覆っているような生育ではなく、まばらに毛が生えたような状態が普通です。岸に上がっている姿も気づきませんから水の中がお好みなのでしょう。面白いことに同じような池塘が隣接しても生育しているとは限りません。深さも影響するようで結構微妙な生育条件があるようです。
もう一種ツツジ科の低木があります。夏の盛りには岩棚などに赤い実を鈴なりに見せることで印象的なアカモノです。7月は花の季節、薄ピンクの釣り鐘状の花がたくさんついていてとても美しい。木道沿いの林の縁や裸地などで群生している姿を見ると実に心地よいものです。この種もどちらかというと高山種ではなく亜高山帯から下、深山性という印象です。乾燥した場所が好きなようですがときどきかなり湿り気のありそうな場所でも目にします。山里の棚田周辺にもよく見られますから分布範囲は結構広そうです。
アカモノはシロモノ(シラタマノキ)と対比してつけられたようです。シラタマノキはあまりシロモノとは言いませんが、アカモノはよく使われます。逆に、あまりイワハゼといわないのはどうしてでしょうか。アカモノの果実はほとんど味がありませんが、シロモノの果実はサロメチールの薬ぽい味で食べる対象ではありません。
ウスノキ(カクミノスノキ)もありました。どちらかというと低山帯で見る機会が多い種という印象ですが、ここ栂池では2000mの亜高山地帯にもかかわらず見られます。個体数は多い印象ではありません。オオバスノキ(スノキ)とどこが違うのか突っ込まれそうですが、花に陵がはっきり出ていますし、がくの形も尖り気味。秋に赤い実が熟せば明瞭なのですが、花の段階では紛らわしいことは確かです。