MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『黒い十人の女』

2015-12-24 00:07:02 | goo映画レビュー

原題:『黒い十人の女』
監督:市川崑
脚本:和田夏十
撮影:小林節雄
出演:船越英二/岸恵子/山本富士子/宮城まり子/中村玉緒/岸田今日子/伊丹一三
1961年/日本

社会から隔離させられる「優しさ」について

 主人公のテレビプロデューサーの風松吉はかなりモテる男で、妻の風双葉が把握している浮気相手だけでも9人、松吉に言わせれば40人くらいとなるのであるが、だからといって全員と肉体的な関係を持っている訳ではなく、本人も言っているように「英雄、色を好む」とか「性欲絶倫」というタイプではなく、ただ優しくしている流れで浮気に発展しているだけなのである。自分が殺されることになっていることが分かった松吉は「俺は殺されるだけだからいいけどさ、殺したおまえは殺人罪になるよ」と自分に殺意を持っている妻の将来を心配するほど優しい。
 このように余りにも優しすぎるが故に、妻を含む10人の女性はなかなか松吉と別れることができず、松吉が殺されたと誤解して、彼の後を追うように睡眠薬を飲んで自殺してしまったアート印刷社社長の三輪子は幽霊になってもまだ松吉のそばを離れられないでいる。
 松吉を殺し損ねた10人の女たちは資金を出し合って、これ以上浮気ができないようにするため、とりあえず松吉にテレビ局を辞めさせて女優を引退した石ノ下市子が松吉を囲って社会から孤立させることにする。
 例え悪意がないとしても男に浮気を止めさせるためには最終的には社会から隔離しなければならないのではあるが、隔離されるものが女性に対する優しさでもあるという点にアイロニーを感じる。ラストで市子は車を運転しており、対向車線に事故で燃えている車を見かける。「事故」を起こさないためには例え便利ではあっても「車」は走らせないに限るのである。


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