
原題:『水槽』
監督:中里有希
脚本:中里有希
撮影:永山愛美
出演:木川田栞南/北田俊輔/鈴木由美子/大崎章/石山千晶/永岡史帆/深瀬菜生
2022年/日本
『悪の華』の「赤と白」
作品冒頭で引用されるのはフランスの詩人であるシャルル・ボードレールの詩集『悪の華』に収録されている「虚無の味」の後半部分である。女子高校生のヒロインは母親を亡くしており、それを勘案するならばヒロインの、自分も連れて行って欲しかったという願望を感じる。
50分ほどの上映時間で、セリフも限られておりストーリーを掴むのは難しいとしても、ヒロインが巻いている赤いマフラーと雪のコントラストをベースに、普段飲んでいる白い牛乳からラストにおいて赤い金魚を飲み込むという展開は映像としては悪くはないものの、終始カメラの手ブレが気になり、映像がチープに感じる。
引用されている詩を書き出してみる。
「華やかな『春』のかおりも消え失せた!
凍死の人の遺骸(なきがら)を大雪が埋めるように
今しも『時』は刻々に、僕を嚥(の)み込む
僕は中空(なかぞら)高くに在って地球の円味を眺(なが)めはするが
五尺のわが身の置き処(どころ)、あばら家一軒たずねない!
雪崩よ、雪崩れ落ちて来て、僕を拉(さら)って行かないか?」
(『悪の華』 堀口大学訳 新潮文庫 p.180)
原文も引用してみる。
「Le Printemps adorable a perdu son odeur!
Et le Temps m'engloutit minute par minute,
Comme la neige immense un corps pris de roideur;
Je contemple d'en haut le globe en sa rondeur
Et je n'y cherche plus l'abri d'une cahute.
Avalanche, veux-tu m'emporter dans ta chute?」
主語を女性に直して拙訳しておく。
「素敵な春は香りを失った!
そして大雪と寒さでこわばった体のように
時が私を刻々と飲み込む
私は天から丸みをもった地球を凝視し
バラック小屋の危険を避けてもう試みることもない
雪崩よ、あなたは崩壊と共に私を連れて行きたくはないの?」