原題:『愛に乱暴』
監督:森ガキ侑大
脚本:森ガキ侑大/山崎佐保子/鈴木史子
撮影:森重豊太郎
出演:江口のりこ/小泉孝太郎/馬場ふみか/水間ロン/青木柚/斉藤陽一郎/梅沢昌代/西本竜樹/堀井新太/岩瀬亮/風吹ジュン
2024年/日本
「正気」を保つ方法について
主人公の初瀬桃子は妊娠したことをきっかけに前妻との間に子供がいなかった不倫相手の初瀬真守と結婚して8年が経つのだが、実は流産したことを伝えないままに結婚したことで真守の母親の照子に疑われたまま現在に至っており、表面上は仲のいい振りをしているが、本音を言い出すと終わらない口喧嘩がいつ起こってもおかしくはない状態である。
頼りにしたい夫の真守は既に三宅奈央という愛人が存在しており、妊娠もしていることが分かったのだが、それは8年前の桃子自身でもあるが故に真守に強く言える立場ではないのである。
それでも桃子は普通の生活を送ろうと努力するのであるが、週2回で講師と務めていた手作り石けんを作る教室は閉鎖となり、元の会社の上司である鰐淵部長は口だけで頼りにならず、実家に戻って姪や甥に囲まれることが必ずしも嬉しいわけではなく、だんだんと桃子は不安感に囚われる。
そもそも桃子が飼いネコだと言う「ピーちゃん」は存在するのかどうか疑わしいし、ホームセンターで購入したチェーンソーで家の畳の床下を切り開いて見つけたアルミ缶の中にはベビー服があるのだから、桃子が呼んでいる「ピーちゃん」とは流産した子供のことで、ベビー服は自分が嘘をついていないことの証拠なのである。
たまたまゴミ出しに行ったゴミ集積場で火災が起こっていた時に警官と遭遇してしまう桃子は、当然のことながら放火犯に疑われてしまうように、流産もたまたま桃子の身に降りかかった災難であり、それらは桃子自身にはどうしようもないことである。そんな時に赤の他人であるホームセンターに勤めている外国人の李に「いつもゴミをきれいにしてくれてありがとう」と言われた言葉がどれほど桃子を励ましてくれたか想像に難くない。