最も有名なカフェー調建築の前に立ち「流石に金をかけている」と呟いた。表玄関は和の雰囲気だが、側面に設けられたドアは完全に洋風の造りになっている。
赤線に特有のバルコニーを持つ家。遊女は2階から帰る客を見送ったという。今ではバルコニーに布団を干した光景をよく見かける。使用目的は時代とともに大きく変わるということだ。
私は更に目ぼしい物件を探して歩いた。少し東の方へ行くと行き止まりで廃墟があった。一目でかつて娼婦が働いていた店だと分かったが、扉に「ステンドグラス」がはめ込まれているのを危うく見落とすところだった。鮮やかな緑が印象的な「木の葉」のデザインが見事だ。
ギラギラした遊里の文化を作り上げたのは業者・売春婦・客だけではない。建物の装飾を担当した人達の仕事にもっと焦点を当ててもよいと私は思う。タイル貼りやステンドグラス職人の技術には本当に惚れ惚れする。「原色の街」における「陰の功労者」は彼らであろう。