台湾で現在大ヒット中の台湾映画「海角7号」は、ようやく大陸中国でも上映が許可されたようだが、その反響は台湾とは大きく異なるようだ。
江沢民以降の大陸中国では、民族意識をくすぐる「大中国主義」「中華愛国主義」が鼓吹されてきた。そこでは、「南京大虐殺」問題を挙げるまでもなく、日本は常に「悪者」扱いにされてきた。
ところが、台湾では日本が台湾の近代化に果たした役割を客観的に見つめようという真摯な態度が一般的である。
「海角7号」には、驚くべきモノローグがある。これを聞いたら、台湾に無関心だった人でさえ、一気に台湾とは何か興味を抱くはずだ。
http://www.youtube.com/watch?v=z6fH1xNmdJw (youtube映像)
「友子、太陽はすっかり海に沈んだ。
これで本当に台湾島が見えなくなってしまった。
君はまだあそこに立っているのかい。……
皆が寝ている甲板で、低く何度も繰り返す。
”捨てたのではなく、泣く泣く手放したのだ”と」
これが60年前、日本が戦争に敗れ、日本人が台湾から去る帰国船の中で、主人公がつぶやく言葉だ。もちろん、日本語で語られている。「捨てたのではなく、泣く泣く手放したのだ」というつぶやきは、別離せざるをえなかった「友子」に対する言葉だが、同時にそれは「台湾」を指していることは疑いない。
言うまでもなく、この映画は、2008年、台湾人により台湾で制作された映画だ。
馬英九政権になり、台湾はますます中国への傾斜を強めている。そうした風潮に釘を差し、台湾人の独自性(アイデンティティ)を確認するため、この映画は作られたのかも知れない。
それにしても、ここまで日本に親しみを持っていてくれているとは、信じられない思いだ。
「捨てたのではなく、泣く泣く手放したのだ」という言葉は、翻って深く我が胸に突き刺さる。そう1945年、1972年、2度にわたって、日本人は台湾を「手放した」のだから…。
「海角7号」が日本で上映されるメドは立っていない…。