今朝の「産経新聞」に「もう一つの国慶節」という興味深い記事を見つけた。「緯度・経度」欄に伊藤正記者が書いている。
この記事のネタは、次のウェブサイト。河北省の万安という寒村で行われた国慶節の模様を見ることが出来る。
http://you.video.sina.com.cn/b/25019135-1651667805.html
今年10月1日、中華人民共和国は、建国60周年を迎えた。北京などの大都市では、中国革命、中国共産党を賛美する数々のパレード、催しが開かれた。
一方、万安村では、手作りの廟に毛沢東、周恩来、朱徳の座像が飾られ、その左右には中共軍十大元帥の写真が飾られている。その中には、毛沢東の暗殺を企てたとされる林彪の写真も含まれている。さらに、座像、写真の周りには、村民のお布施(!?)なのだろうか、名前が書かれ寄進額が「100元」などと記入された布がかかっている。
毛沢東(右)と蒋介石~そのルーツは同一
村民達が歌うのは、文革時に革命歌とされた「東方紅」「三大規律 八項注意」など。「偉大な領袖・毛主席」「偉大な中国共産党」など、昔懐かしい言葉が次々と出てくる。まるで’60年代にタイムスリップしたかのような光景だ。
高層ビルが乱立し、札束が飛び交う北京、上海、大連などの大都市と違って、河北省などの西北部は、繁栄から取り残されている。その中でも農村の生活は、昔とあまり変わりがないように見える。
文革期に、互いに「革命派」を名乗り殺し合った過去も、今や懐かしい記憶なのだろうか? この村では、馬祖を奉るべき廟が、共産党の指導者を讃える祭壇に代わっただけだ。伝統的な中国社会は、何も変わっていないかのようだ。
その昔、日本の文革礼賛知識人は、当時の中国を「新しき革命」「文明の再鋳造を目指す中国」などと持ち上げた。いま、ご存命の方にはぜひ、上記のウェブサイトをご覧いただき、感想をいただきたいものだ。
ここには、確かに「もう一つの国慶節」「もう一つの変わらぬ中国」が映し出されている。
【もう一つの国慶節】 伊藤正(「産経新聞」2009.10.24) 抄録
「…同じ日に北京で挙行された豪勢な慶祝行事とは無縁。老人を中心とした数十人の農民が、歌と踊りで革命の先達に感謝を捧げる集いだった。…広場の”毛沢東記念館”が行事の中心だ。…正面中央に毛沢東、その両側に周恩来、朱徳の手製座像が置かれ、それぞれに供え物があった。まるで神棚のように。
…ひとしきりの歌と踊りの後、村民達は毛沢東の座像に向い三回頭を下げる礼を捧げた。
…万安村の老婦人は、国家の繁栄を喜んだが、この一見して貧しい山村は繁栄から取り残されているかに見える。祝賀行事に青壮年の姿はなく、出稼ぎに行っているのだろう。それでも、老人達には、革命で解放され、国の主人公になったという自負心が感じられた。
彼らのなかでは、時計は毛沢東革命の時代で止まっているかに見える。ただそこに、中国人が豊かさのみを追求するあまり忘れてしまった何かがある。社会の公正、正義を目指した革命の原点だ。」