澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

樟脳をめぐる台湾史

2009年10月20日 10時13分11秒 | 台湾

手許に一冊の本がある。「世界第一・台湾樟脳 The story of Taiwan CAMPHOR industry」(台湾博物館系統双書2 2009.4発刊)だ。台湾における樟脳産業の歴史を綴った本だ。

 (「世界第一・台湾樟脳」(台湾博物館叢書 2009)

「樟脳」(しょうのう)は、衣服の防腐剤などに使われる白い固形の薬品。化学的に合成が可能になる1920年代までは、クスノキを材料として抽出が行われていた。セルロイドの可塑剤、無煙火薬の材料としても使われた。日本の台湾統治以後、樟脳は、サトウキビ、茶葉と並んで、台湾の主要な産業となる。

1895年、日本が台湾接収を行った時点では、樟脳の生産は、主に客家人(ハッカ人)によって行われていた。台湾映画「一八九五乙未」(2008年)には、当時の樟脳生産の模様が再現されている。

 呉湯興家の樟脳寮

クスノキの葉を蒸す工程

樟脳寮の仕事風景

客家人は、中国大陸全土に分布する民族だが、台湾における区分では、「本島人」として扱われる。すなわち、他の原住民と同様、従来から台湾に居住してきた民族という位置づけだ。ちなみに小平も客家人のひとりだ。
1895年、清朝高官が「台湾民主国」を宣言しながらも、日本軍の進駐を前にして戦わずして本土に逃亡したが、客家人は日本軍に激しく抵抗運動を挑んだ。この結果、1万3千人もの死者がでた。この客家の抵抗運動を採り上げたのが、上記の映画「一八九五乙未」である。

NHKの「Japanデビュー アジアの”一等国”」(2009.4.5放送)は、この抗日運動を「日台戦争」とネーミングして、次のように放送した。

http://www.youtube.com/watch?v=sA2IYMzOYGY

私は、この番組の制作手法を「センセーショナリズム」だと見なす。上記の映画や刊行物をつぶさに見れば、NHKのような番組は絶対に作れないはずなのだ。視聴者の受け狙いと、中国へのへつらい(媚中)が産んだ、奇怪な番組だった。「日台戦争」という言葉を使うことで、史実をねじ曲げ、現在の日台関係の離反を願っているかのような内容だった。

幸い、日本と台湾において、台湾の日本統治時代に関する研究は、急速に進んでいる。たとえば、「台湾 重層近代化」(若林正丈・呉密察編 2000年)などの本格的な論文集も刊行されている。

 (「台湾重層近代化」播種者文化有限公司)

このように研究が進展しているのは、1990年代以降、台湾の民主化、本土化が進み、客観的に歴史を見つめようとする気運が高まったからだ。中国や韓国とは、歴史認識の話さえタブーだが、台湾とは共同して研究可能な共通基盤が醸成されているのだ。こういう側面からも、これ以上、台湾および台湾人を見捨てるようなことが行われるべきではないと思う。

上記「世界第一 台湾樟脳」には、貴重な絵図、統計が盛り込まれている。中国大陸の出版物のように、日本帝国主義批判まずありきのようなことは全くない。実に素晴らしい本だ。

(客家人の樟脳生産風景)

 

 (左:樟脳生産は世界一 右:樟脳油のコマーシャル)