6月11日「朝日新聞」に次のような記事が載った。
(「朝日新聞」 2011年6月11日)
このベトナム人作家バオ・ニンは、1991年、ベトナム戦争を北ベトナム人兵士の側から描いた「戦争の悲しみ」(The Sorrow of War)で話題を呼んだ。1990年代、「ドイモイ」(刷新)政策によって文学・芸術の自由がかなり認められるようになってからのベトナム文学の代表的作品だ。
先日、私もこの本を手にとって、ようやく読み通した。中国では、文化大革命後、「傷痕文学」というのが流行った。読む以前は、それに似たものかもしれないと想像していたが、予想はいい意味で裏切られた。
(「戦争の悲しみ」メルクマール社 1997年)
共産党一党独裁下での「雪解け」現象期に書かれたこの「戦争の悲しみ」だが、「党」の指導を超えて、戦争を描いたため、本国では発禁になった。
ハノイ市民、人民軍兵士、女性、農民など、否応なく「民族の戦争」に巻き込まれた人々の姿が次々と描かれる。バオ・ニンが描くそれらの人々は、「党」が描くことを勧めるような模範的英雄ではなく、生々しい人間くささを放っている。性愛の描写でさえ、はっきりと出てくるので、「党」保守派から見れば、「聖戦」を汚されたような小説だったろう。
竹内実氏(中国文学者)がエッセイの中で印象的な言葉を記している。「アジアにおける人間の生命の価値は、甚だしく軽い」と。
ベトナム人にとって、あの戦争は「惨勝」だった。今でも重くのしかかるベトナム戦争の記憶をベトナムの側から描いた初めての本格的作品だ。