明治32年10月21日読売新聞
べったら市の光景
既記の如く一昨夜はべったら市とて東は日本橋通油町(緑橋際)より西は大伝馬町一丁目角までの数丁に露店軒を連ね例のごとくベッタラベッタラの声勇ましく夕方よりぞろぞろと人出あり。鉄道馬車はギュウギュウと詰め込んで人形町に下りたれば車馬は角々に制札の往来を止めなし。警官は提灯を振り照らして群衆の中をぬい。逝く有様は店向きの若衆小僧は例の浅漬を縄に結んで振り回せば女子供が逃げ回る事の面白く絵の具屋の村田貯蓄銀行と変りたれば丸三の花瓦斯は見られざれど森田梅花堂の店に山をなし切山椒七時半には早くも売れきれの札を掲げた景気凄まじく。折節満月の明るさに乗じて遠きあたりより歩を運ぶものおおく夜更けては芳町柳橋のシレモノ達の三々五々縄に吊るしてベッタラ漬を下げて帰る様はこれは飛んだ色消しに見えたり。
花瓦斯とは広告用のガス灯のこと。
べったら市の光景
既記の如く一昨夜はべったら市とて東は日本橋通油町(緑橋際)より西は大伝馬町一丁目角までの数丁に露店軒を連ね例のごとくベッタラベッタラの声勇ましく夕方よりぞろぞろと人出あり。鉄道馬車はギュウギュウと詰め込んで人形町に下りたれば車馬は角々に制札の往来を止めなし。警官は提灯を振り照らして群衆の中をぬい。逝く有様は店向きの若衆小僧は例の浅漬を縄に結んで振り回せば女子供が逃げ回る事の面白く絵の具屋の村田貯蓄銀行と変りたれば丸三の花瓦斯は見られざれど森田梅花堂の店に山をなし切山椒七時半には早くも売れきれの札を掲げた景気凄まじく。折節満月の明るさに乗じて遠きあたりより歩を運ぶものおおく夜更けては芳町柳橋のシレモノ達の三々五々縄に吊るしてベッタラ漬を下げて帰る様はこれは飛んだ色消しに見えたり。
花瓦斯とは広告用のガス灯のこと。