築地市場 -クロニクル1603-2016
福地 享子著 築地魚市場銀鱗会著 東京 朝日新聞出版
クロニクルとは時系列に沿った順番で書かれている書物「年代記」「編年史」のこと。1603は江戸幕府が出来て、魚の市場が出来た年。2016年は築地市場が最初の計画で豊洲へ移転する年。この後クロニクル1603-2018が出版されている。福地 享子さんは元築地市場内の付属商の建物の2階にあった図書館の館長というべき人。築地で公平な話をする唯一の人。
読み始めて、築地で働いていた人は何も説明なくても解かるが普通の人には気が付かないが多くの写真の解説が必要と思える。
第一章 築地市場の24時間の鼓動
何気なく、書いてあるが1万人を超す人が築地市場で日に水産1700トン、青果1100トンをさばいている。この数字はトン数で、市場の統計はトンで、金額は消費税込みの価格となっている。午前1時から始まるのだが大方午前4時には終わり、セリをするものが残る。開市の前日夕方5時過ぎから全国各地からトラックが入り、出てゆく。空で出てゆくトラックもあれば空いたところに築地から積んでゆく車もある。
築地の魚の売り上げはバブル時は全体で1兆円をはるかに越していたが今は青果部の売り上げを加えても、築地市場の売り上げがバブル時に届かない。しかし東京都の市場全体で築地市場の売り上げの占める割合とか、仲卸人の数などから、東京都の市場行政の全体会議は築地市場の講堂で開催される。大田市場は青果の代表的市場だが都内にある築地市場以外の人には電車で行くには不便である。新宿に都庁が移転するまで、築地市場内に市場行政の本部があった。また最後まで東京都の食品衛生試験所は豊洲移転直前まで築地市場にあった。この衛生試験所がすごいと知ったのは、ロシアと福島の原発事故で、常時稼働している食品を検査している。ゲルマニウム半導体検出器 を常時稼働させている唯一の市場だった。液体窒素で冷やしているので維持経費が掛かる。
14ページ マグロ屋はばくちをやらない。築地の人は昼で大方の仕事が終わるのでギャンブルが好きだがどうやら生マグロの業者はやらない人が多いようだ。毎日がギャンブルである。
毎年1月5日が東京都の市場の始まりで、これが日曜日あっても変わらない。
2001年の初セリでの青森・大間産のマグロが2020万円で競り落とされた。バブル時でもこの価格はなかった。ちなみに前年の2000年はは400万円、翌年の2002年は280万円だった。今初荷のTVのマグロ報道が過熱化したのは2208年からで、2013年から築地喜代村が参加した初セリ生マグロが暴騰した。この理由として、1月5日は正月で目新しいニュースがなく、景気の良い、鮮度抜群の話と絵になる風景が価格競争を激化した。
2001年の初セリ暴騰で競り落とした仲卸はその後遺症で倒産したと聞いた。頭に血が上ってライバルの仲卸を蹴落とそうとし、売り先の見込みなしで競り落としたようだ。当時は冷ややかな目で2020万円のマグロを売買参加者が見ていたという。その後、仲卸が購入見込み業者と手を結び、競り落としたすし屋を公開し、顧客誘導を果たした。正月のTVニュ-スは広告効果は抜群でNHKまで宣伝した形となった。江戸時代からの日本橋魚河岸の初物競争は魚河岸からの伝統でもある。それまで東京都の指導もあって、場内に素人を入れることは禁止されていた。混雑している場所に一般人を入れないル-ルがあった。
16ページ 冷凍マグロ 築地の花形は生マグロだが、量の多いのは冷凍マグロで一日千本、年間440億円あるという。
18ページ目利き 築地で仲卸の番号のついている帽子は仕入れ権のある人で、これを紛失すると大変である。夏などは脱いで忘れることもある。懐中電灯・ボ-ルペン・メモ用紙が必需品。
20ページ セリ人 TVでセリしている風景があるが、この時間は緊急時でも場内アナウンスはない。セリの単価をセリ落とした人の番号を間違えることを防いでいて、セリのところでは一人は書記のように取引結果を書いてある。今は大田花き市場のように電子セリが始まったがと豊洲では導入していないようだ。
22-24ぺ-ジ 築地の青果物 築地市場は青果も扱っているが、大田と違って、得意先が料亭・ホテル納めとか銀座等のデパ-トの菓子専門店も近いので高給果物の扱い量が多い。コロナではかなりのダメ-ジを受けた。
26ページ始発電車の客を JR新橋駅から、顧客と築地で働く人が同時に来る。これは110Mの障害物競争と似ている。新橋駅からの相乗りタクシーは人数がまとまると発車する。お客より早く築地市場に着かないと、夜中から働いている人の休憩が取れなくなる。寝坊すると、得意先が時間がないので他の仲卸を仕入れに回り回り、場合によっては、得意先が移る時がある。JR新橋駅より徒歩15分。
28ぺ-ジ 冷凍マグロの解体の機械
冷凍マグロはマイナス80度で凍っているので、電動のこぎりで解体する、生マグロは包丁で解体する。
30ぺ-ジ すし屋やてんぷらの材料を扱う 小物屋 これの反対語がマグロ部会の大物部会。小物屋の設備はそれぞれの扱う商材で異なる。従って移転反対だった期間が長く、店舗設計に仕事の内容が十分に反映されず、豊洲移転時の使いにくいと不満が多発した。
32ページ 締める ほどく。頂点の味を求めて
築地市場には生きている水産物がある。代表は活魚だろう。〆の技術で得意先の要望に合わせて加工する。
34ページ 道具はやがて体の一部となる。
ここではマグロを切り分ける長い包丁の事を書いてある。築地市場には包丁を研ぐ業者が4社あって、豊洲へ移転するとき、銃刀法の問題でもめていた。一般には15CM以上の刃物は規制がかかっているが築地のマグロ包丁は1M以上あって、前からどのような管理をしてるか気になっていた。豊洲では警察が4社を一か所に集めようとして、もめたという話を聞いた。それぞれの会社で包丁を研ぐには秘伝があるという。隣だと技術情報漏洩の恐れがあると抵抗した。その後の豊洲の話は知らない。
36ページ 気持ち高ぶる市場の勝負服
築地水産部仲卸で働く服は、前掛け、長靴などが標準服で、特に長くつは、水産部の濡れて魚の油で滑りやすいので、特別な加工をしてある。昼までで仕事が終わるので、ギャンブルの新聞を長くつに折りたみ差し込んでいる。
38ページ店の司令塔 お帳場さん
どこでも仲卸の店舗は狭い。畳1枚あれば上等。ここはTVに良く映像で写されるが、冬は寒い。今気が付いたのだが仲卸店舗TVを見ていたところはなかった気がする。ひっきりなしの電話は雑音を避けている。TVアンテナを築地市場内に建てることが出来ず、東京都が有線でTV電波を引いていた。アナログからデジタルになって、半年ほどたって、TVが映らないことに気が付き、NHKに解約を頼んだ。少なくとも半年は事務所のTVを誰も見ていなかった。
42ページ 氷の量 一日平均140トン
築地市場の中心というべき所に新橋からの都営バスの到着所があって、その付近に氷の販売所があった。他に何か所か水産部にあって、そこにはドライアイスも販売していた。真夏に冷蔵庫が故障したときに、氷の販売所から氷柱を買って、冷蔵期の修理中の温度上昇を防いだこともあった。氷温が水産物の流通には最適な温度で、市場から出るトラックから溶けた水が落ちる。
44ページ 雪による荷物の延着
雪の日は散々だ。多くの築地人は12月中旬以後の雪の情報が気にしている。東北・新潟方面は比較的雪害による荷物の遅れは長引くことはないが、関ヶ原あたりが大雪となると西日本からの延着が長引く。特に売り上げが多い12月後半は天皇誕生日が12月23日になっていて、複雑な準備が必要となる。普段ならあらかじめ余分に仕入れることができるが年末商材の時期は難しく、さらにチラシが入っているので雪には勝てない。
46ページ やっと一息 賄い飯
このページの写真は煮炊きをしているのだが築地の魚のところはガスか練炭で煮炊きしている。石油スト-ブは原則として使わない。石油を補充するとき漏れた石油の臭いが付くことを嫌っていた。一度練炭の売っているところを築地市場周辺で探したが、見つからなかった。