ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

東北弁、そして玄冬小説 ~「おらおらでひとりいぐも」(若竹千佐子著;河出書房新社)を読む~

2024-01-06 17:01:25 | 読む

「おらおらでひとりいぐも」

数年前、これが芥川賞受賞作と決まったときに、NHKのアナウンサーが「オラオラ デ」と「おら」を2つつなげて言っていたので、違和感があった。

それ、きっと、「オラ オラデ」と発音するのだよ、と言ってあげたい気持ちになった。

件のアナは、きっと東北弁をよく知らないのだろうなと思った。

私は、新潟県の下越地方に住んでいるが、この辺りの方言は東北弁に近い。

子どもの頃は、強い方言に囲まれて育っていた。

気の荒い同級生には、よく言われた。

「がみだんしゃんつげっど」

この意味を現代共通語に翻訳する。

「が」=きさま、おまえ

「みだん」=みたいなやつは

「しゃんつげ」=原語「しゃんつける」=はたく、なぐる

「っど」=ぞ、な(強調)

となる。

ということで、「がみだんしゃんつげっど」の意味は、

=「きさま、なぐるぞ!」「おまえみたいなやつは、なぐってやる!」

なのであった。

今の時代は、ほとんどの方言が死語になってしまった。

だけど、子ども時代の体験が、自分の中で「国語」となって生きている。

 

東北弁の「おらおらでひとりいぐも」は、耳に残っていたから、気になるタイトルであった。

これを私なりに、現代共通語訳すると、

「おら」=私

「おらで」=私の力で(独力で)、私らしく

「ひとり」=一人、独り

「いぐ」=行く、生きる

「も」=ものだ、…のだ

のように考える。

だから、「おらおらでひとりいぐも」の意味をこうとらえる。

=「私は、私の力で、独りで生きていくのだ」

と。

 

のちに、このタイトル「おらおらでひとりいぐも」は、宮沢賢治の詩『永訣の朝』からとられた言葉だと知った。

本書を図書館で見つけ、かつて思いを抱いたタイトルにひかれて読んでみた。

独り暮らしの桃子さんという、74歳の女性が主人公。

話のほとんどは、その桃子さんのつぶやきで進んでいく。

話の始まりは、独居老人としてひとりで茶をすすり、ねずみの音に耳をすませる生活からだ。

桃子さんのつぶやきは、現在と過去とを行ったり来たりするが、全体とすると現在の生活や思いを追いかけていく。

結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出し、身ひとつで上野駅に降り立ってから50年。

住み込みのアルバイト、夫・周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。

「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」と途方に暮れる。

捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。

震えるような悲しみの果てに訪れる、老後の孤独。

そこまでなら、ありきたりな話でもあるのだが、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧き起こるようになる。

それによって、桃子さんは、自分が自由だということに気づく。

そして、「おらの今は、こわいものなし」の境地となる。

 

物語のあちこちで、老後の孤独ということに、自分の近未来を見るような気がした。

どんな思いで生きていくのか、過去とのつながりをどのように思いながらいるのだろうか、そんな感覚を抱きながら…。

自分が今思っていることの一部が、桃子さんの口から語られているようにも感じられた。

生きてきた時代、東北弁など自分との共通点が重なることが、その思いを強くしたのかもしれない。

作者の若竹千佐子さんは、この作品で芥川賞を受賞した。

1954年生まれで、63歳での史上最年長受賞だったそうである。

岩手県遠野市出身だから、この東北弁や宮沢賢治作品とのつながりも見出せるわけだ。

 

ちなみに、本書のことを、「青春小説の対極、玄冬小説の誕生!」とうたっている表現を見つけた。

「玄冬小説とは……歳をとるのも悪くない、と思えるような小説のこと」だそうである。

たしかに、「ひとりいぐも」つまり、独りでも生きていける、という自信に満ちているのがいい。

だが、物語の最後に出てくる孫娘との交流が、桃子さんを一番元気にさせてくれている気がした。

それはやはり、人として生きる喜びは、人との心のつながりなのだよなあということだ。

 

ともあれ、人生の重みを感じながら生きている高齢者たち(I‘m one of them.)に、「自由さ」と「生きる意欲」を感じさせる作品であった。

 

腰痛になって3日目、痛みに苦しむ私は、自由というより不自由極まりない今なんだけどね…。

コメント
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