ミステリー作家・内田康夫氏が亡くなってから、もう5年もたとうとしている。
彼の書いたもので名探偵浅見光彦が登場する小説は、9割以上買って読んだ。
その数は、100数十冊になり、今もずらりと本棚に並んでいる。
かなり多くが、いわゆる旅情ミステリーと言われるものだった。
日本の各地を回って、浅見光彦が難事件を解決して活躍する話は、どの話もそれなりに面白かった。
以前は、トラベルミステリーの第一人者だった西村京太郎氏の、十津川警部が出てくる本が好きだった。
だが、内田康夫氏の浅見光彦シリーズの著書に出合い、そちらの方に傾いていった私であった。
人物設定の面白さと、日本各地を巡る楽しさがあった。
浅見の家は、旧家で兄は警察庁刑事局長のエリートだが、浅見自身は三流大学出のしがないフリーのルポライターという設定だった。
だから、取材で日本各地に出かけていくことに不自然さがなかった。
そのうえ、小説の中で、出かけた先の土地についての記述が、非常に細かかった。
これは、内田氏が実際にその土地へ出かけて行って綿密な取材をしたり、興味関心を抱いた事柄について土地の方から聞いたり文書で調べたりした賜物だろうと思って、いつも興味をそそられ、感心して読んでいた。
その浅見光彦がかかわった日本中の土地の中には、いわゆるパワースポットと呼ばれる土地が多い。
本書「浅見光彦の日本不思議舞台地(ニッポンミステリースポット)の旅」は、作品の中でそれらの土地を訪ねてのエピソードや体験談を、作者の内田康夫が語ったものである。
亡くなる3年前に出版されていたのを図書館から借りてきたが、もう市販されていないようだ。
第1章では、天河神社や伊勢神社、厳島神社などの神社
第2章では、化野念仏寺、中宮寺、善行寺などの寺
第3章では、湯殿山・羽黒山、高千穂や戸隠、軍艦島などの山や島など
…を取り上げて、それぞれについて綴っている。
さすがに150を超える作品を有するだけあって、すべてを紹介しきれないが、全国30か所のパワースポットを紹介していた。
新潟県を舞台にした作品も、「佐渡伝説殺人事件」をはじめとしていくつかあるのだが、本書にパワースポットとしての紹介は、残念ながらなかった。
残念ついでに言えば、あまりにたくさんの作品を読んだものだから、「天河伝説殺人事件」「津和野殺人事件」「箸墓幻想」「棄霊島」「はちまん」…など、作品名と共に紹介されているパワースポットが並ぶが、1つ1つの作品がどんな話だったかは、1回ずつ読んだだけなので、ほとんど忘れてしまっていた。
だが、どの話も面白いと思いながら読み終わったのだったけどなあ…。
やっぱり、こうした土地の紹介とエピソードだけを読むより、展開にドキドキする浅見光彦の登場する小説の方が楽しいな。
内田氏の没後、早くも5年。
あの名探偵浅見光彦が活躍する新刊は、もう読むことができないのが、もう一つ残念なことだ。
こうして、ほとんどのストーリーを忘れてしまっているなら、本棚から取り出してもう一度読み返してみるのも悪くないのかもしれないな。