この小説は、主人公のシュウに、友だちのヤスオ、コウジをまじえ、彼らが中学1年生から高校3年生の卒業までが描かれている。
地方に住む彼らの、いわゆる青春時代に起こるあれこれのできごとを、それぞれ1曲の楽曲とからめながら展開される。
それぞれのヒット曲を照らし合わせていくと、登場人物たちの年齢は、私よりも6つくらい年下ということになる。
だから、私自身が高校、大学時代に聴いた歌たちも多く、それぞれの歌には自身の経験と重なってよみがえる思い出もある。
それゆえに、なにやら非常に懐かしい感覚になってしまうことがよくあった。
私とは6年の年齢差があるから、小説の後半の方に行くと、歌たちは、私の青春時代とはずれていってしまうということはあったのだけれども。
それでも、登場人物たちの心情や行動というのは、あの若い時代に共通するものだから、とても共感して読んでいけた。
特に、一男子として、女生徒に対する思い、エロ本に対する興味、東京に対する思いなどをはじめ、あの時代に私自身が抱いた様々な感情が懐かしくよみがえりもした。
そうしたことと合わせ、やっぱり魅力は、章ごとに楽曲に基づいたタイトルがあり、その時その時で様々な出来事が展開され、成長もしていくことだ。
・いつか街で会ったなら(友人の母の駆け落ち)
・戦争を知らない子供たち(男女の交換日記ブーム、戦後生まれが過半数となったこと)
・オクラホマ・ミキサー(存在が弱い友人と友情)
・案山子(近所の先輩の大学入試)
・好きだった人(「3年生を送る会」でのバンドでの出場)
・旅人よ(年上の女性と同級生の駆け落ち)
・風を感じて(サングラス姿の教育実習生)
・DESTINY(年上の女性との交際)
・いなせなロコモーション(先輩の運転免許取得と交通事故)
・スターティング・オーヴァー(親父の友人との再会と裏切り)
・さよなら(大学受験と親友たちの進路決定)
・トランジスタ・ラジオ(卒業の日=旅立ちの前日の想い)
こんなエピソードを次々と体験しながら、10代の日々が過ぎていく主人公。
そう、なんといったって10代。
誰にもある若いときゆえの不安や葛藤が、生き生きと描かれている。
さすが小説家の作品だと思う。
普通は、自分自身が抱いたものでないと、ここに出ている主人公たちの感情は描けないと思う。
フィクションもあるだろうが、作者の自伝的な経験も多く描かれているのではないだろうか、なんて思った。
また、忘れかけていたあの頃のヒット曲やアーティスト(最近はこういう表現は聞かなくなったなあ)たちの名前が次々に出てくるのが、何より懐かしい。
今度は、吉川団十郎の『ああ宮城県』だった。(中略)「次にピンク・レディーかけちゃるど。」
かぐや姫というより、むしろNSPやとんぼちゃんのノリのギターだ。
アルバムタイトルは『悲しいほどお天気』。「意味が、ようわからん」
また、『ザ・ベストテン』や『クイズ・ダービー』に関する表現も出てきて、その時代を思い出させたりもした。
あの時代に青春時代を過ごした人たちには、かつての自分を思い出す懐かしさがある。
歌が好きな私のツボにはまる青春小説だった。