迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

美酒の味は裏切り。

2023-09-10 11:18:00 | 浮世見聞記
ラジオ放送で觀世流「大江山」の一節を聴く。


丹波國大江山に棲む人食ひ鬼“酒吞童子”を源頼光らが退治する解りやすい武勇譚のわりに、一般初心者を對象とした企画では「船辯慶」や「紅葉狩」ほどには上演されない勿体ない曲と、私はたしか金春流での公演で一度觀て以来、思ひ續けてゐる鬼物能。



山伏に扮して平井保昌らと大江山へ分け入った源頼光は酒吞童子との接近に成功し、相手を油斷させるための酒宴となる。

今回の放送ではその酒宴の件りが謠はれ、本文にはないが、酒吞童子が用意した肴は人肉であり、數年前に根津美術館で目にした繪巻物には、華やかな色彩のなかにそれがしっかり描かれてゐて、逃れがたき不氣味さを醸し出してゐた。


このあと、相手を本物の山伏と信じ切った酒吞童子は酔ひ伏し、それを狙ってゐた頼光たちに討ち取られることになるが、正体を知った酒吞童子が「嘘をついたな」と怒るところに、この人喰ひ鬼の意外な人の良さ、そしてこの傳説味の濃い魅力的な曲における一點の冩實味として、さらに私を魅了する。








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