今日に至り、やうやく祖父母のお墓参りに行くことが叶ふ。毎夏さうであるやうに今回も早くに行くべきだったが、35℃の氣温が續くとやはり……。しかし、まずは夏の恒例行事をひとつ済ませて安堵す。そしてまうひとつの夏の恒例行事──デパートでの古本市を、池袋で覗く。十年以上の昔に、町の古本屋で手に入れ損ねた一冊にめぐり逢ひ、百圓で手に入れる。八十年以上昔の出版とは思へないほど状態の良いその美本の . . . 本文を読む
東京驛に用があって大手町を通った際、久しぶりに将門塚へ立ち寄る。數年前の前回に訪れた時は背後の高層ビルが建築中でやや落ち着かない雰囲氣だったが、いまでは綺麗に整備されて面積も廣くなったやうだ。江戸の守り神として尊崇され續け、現在も参拝者が絶えず、ここが東京でいちばんの聖域なのではないか。訪ねたのも御縁。丁寧に掌を合はせる。 . . . 本文を読む
終戰から七十七年となる。數字が重なるにつれて、その日がどんどん歴史の一頁に埋没していくやうな氣がする。焼け野原となった終戰後のトウキョウを闊歩する進駐米兵たちの冩真を見るたびに、私は腹の底から悔しさと怒りの綯ひ交ぜになった感情が噴き上げてくる。その土地でかつて起きた悲劇を、その土地の人々は幾世代を經ても決して忘れないのは、口承以上にその情報が遺伝子のなかに組み込まれていくからではないか。私が外國人 . . . 本文を読む
ラジオ放送で、寶生流の高橋章追悼の「東北」を聴く。東國から下って来た旅僧が京の東北院で見事な梅を眺めてゐると、一人の女性が現れ、かつて和泉式部が植ゑて愛でた“軒端梅”だと説明し、そして自分がその和泉式部の靈だと仄めかして消える──典型的な夢幻能であり、曲の後半には和泉式部が歌舞の菩薩であり、和歌はすなはち佛道を説いたものであり、と一般の現代人には難解なコトバの世界が續くも、音楽としての優美さがその . . . 本文を読む
今日はお盆のお墓参りに行く予定だったが、臺風八號の接近による惡天候のため中止し、一日を部屋で過ごす。日中は雨が急に思ひ出したやうに降ったり止んだりの繰り返しで落ち着かず、臺風なんぞさっさと行っちまえと思ふ。だいたい雨など、都市生活者にはなんの得にもならぬ。夜になっても、まだ臺風がやって来る氣配はなく、これが“嵐の前の静けさ”と云ふやつか。しかし、お盆の帰省時期に當てて臺風とは、みんな日頃の行なひが . . . 本文を読む
日航ジャンボ機123便が群馬縣の御巣鷹山に墜落した事故から、今日で三十七年云々。當時子どもだった私は夏休みで遊びに行った伯父宅のTVで、現場の生々しい中継を觀たことを、現在(いま)もはっきりと憶えてゐる。そしてなにより、奇しくも搭乗してゐた坂本九さんが亡くなった事故として強烈に印象付けられ、伯父宅で大人たちの「ああ、九ちゃんが……」といった悲痛な聲は、いまなほ鮮烈に記憶してゐる。成人後、この墜落事 . . . 本文を読む
今年一月に脳梗塞で入院し、五月に退院してリハビリ中の三遊亭円楽が、今日の國立演藝場公演で高座に復帰云々。生で見るより映像で見たはうが若々しく見える円楽師だが、さすがに實年齢相應な姿になったな、とは思へど、肌の血色も良いし眼力(め)もはっきりしてゐて、かなり不屈な精神力だと感心す。“五代目圓樂一門”では數少ない聴いてゐられる噺家なだけに、これからは無理のない範囲で活躍していただきたいも . . . 本文を読む
連日の炎暑に辟易して、今日こそはと寒いくらゐに冷房を効かした部屋に閉じ籠もって過ごす。案の定、今日の東京の最高氣温は35.3℃、関東圏では40℃近くに達した場所もあり、合宿中の運動部の學生どもが屋内で集團熱中症云々。かうした事例が數々發生してゐるにも拘ず學習しない學生ども、ならばどこに存在意義がある?永田町では、現為政者代表が大臣の首をすげ替へて、「政策斷行内閣」なるものを立ち上げる . . . 本文を読む
橫濱の日本新聞博物館ニュースパークの企画展「近代日本のメディアにみる怪異」を觀る。浮世には科学的理屈では解明できない“怪異”が數多く存在する、と私は固く信じてゐる。しかし、新聞草創期にはさうした浮世の怪異も大真面目に記事化されてゐて、例えば、「災害を予言してすぐ死んだ人面牛の剥製」──「狐と結婚した男」──現代ならばスポーツ紙ネタでしかないコドモ騙しな噺(ネタ)に、すでに報道屋の本質がよく表れてゐ . . . 本文を読む
安倍晋三元首相が大和西大寺驛前で偏執狂の凶彈に斃れて、今日で一ヶ月云々。あのあと、實にいろいろな出来事があり過ぎて、却って一ヶ月があっといふ間に感じられない。この事件は、政治屋と新興宗教團体とのカネを介した繋がりが明るみに出るきっかけを作ったわけだが、報道屋は得意のお祭り騒ぎをけしかけるばかりで何がどうイケナイのかについては“説明責任”を果たしておらず、繋がりをすっぱ抜かれた政治屋にうちに、「ナニ . . . 本文を読む
夕方の西の空に、不思議な形の雲が浮いてゐるのを氣にしつつ、隣町の八幡神社の祭禮で、やはり三年ぶりに奉納された江戸里神樂を觀る。演目は「天の岩戸」──亂暴者の須佐之男命(すさのおのみこと)に怒って天の岩戸に閉じ籠もった天照大御神(あまてらすおおみかみ)を再び外へ誘ひ出さうと、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)は後に神樂の起源となる . . . 本文を読む
ラジオ放送で、觀世流野村幻雪(四郎)追悼の「俊寛」を聴く。狂言に登場する僧はまず墨染衣をまとった凡俗ばかりだが、この能の俊寛僧都も、絶海孤島にあって俗世の象徴たる都への執着煩悩がつひに斷ち切れない、充分すぎるほどの俗人であり、曲の作者は高尚さを装ひつつ痛烈に皮肉ってゐるやうでもあり、だとしたら狂言になかなか引けを取らない。執着や煩悩を拂ひ落としたら、ヒトは後に何が残るのだらう……?今 . . . 本文を読む
川崎稲毛神社の山王祭にて、人災疫病禍のため令和元年以来三年ぶりに奉納された、間宮社中による江戸里神樂を樂しむ。演目は大國主命(おおくにぬしのみこと)が實權を握ってゐる中津國を献上させやうと、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が次々に使者を送る内容で、「高天原神集(たかまがはらかみつどい)」から始まり . . . 本文を読む
昨日のイヤミな雨はすっかり上がり、今日の東京は氣温が30℃以下で湿度も低く、とても過ごしやすい一日。昼頃に日が差す一瞬があったほかは曇天續きながら、その秋を思はせる陽氣に、これまでいかに過酷な暑さにさらされてゐたかを知る。が、来週からは再び猛暑となるらしい。暑さも度が過ぎればただの不愉快でしかない。その元凶は、氣温より湿度である。そしてなにより、ヒトの群れである。 . . . 本文を読む
午前中から雨がいやな勢ひで降ったり止んだり、昼頃に一度上がったが、夕方には再びザッと降り出して、町で生活する者にとって雨など恵みでもなんでも無いと、ただ腹が立つ。この雨の塊は最上川流域に甚大な被害をもたらし、鐵路をも押し流す。羽越本線と米坂線が接續する坂町驛はホームが水没する被害に見舞はれ、鶴岡市へ黒川能を觀に行く際には必ず通る馴染みのある驛だけに、衝撃をうける。さう云へば、數年前の夏に佐渡島へ“ . . . 本文を読む