(相手国に対する印書 【12月2日 産経】)
【日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化】
今日のニュースで驚いたのは、各メディアが報じている日中の世論調査結果。
“日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった”ということで、中国側の日本に対する評価が劇的に悪化しています。その他の日本に関する評価も大きく悪化しています。
これまでは、日本側の中国に対する印象は高止まりしているのに対し、中国側の日本に対する印象は(日本側に比べると)比較的良い・・・という状態でしたが、一変しました。
もちろん尖閣諸島に関する問題や歴史認識に対する問題で常日頃から日中が対立する事案はありますが、それは以前からのもので、ここ1年それらが劇的に悪化したという印象はありませんでしたので、今回調査結果には「どうして?本当?」と驚きました。
****中国側、日中関係「悪い」76%で増加 処理水放出影響か 世論調査****
非営利団体「言論NPO」(東京都)と中国国際伝播集団は2日、第20回日中共同世論調査結果を発表した。
中国側の回答で、現在の日中関係を「悪い」(「どちらかといえば」を含む、以下同)とした人は前年比34・8ポイント増の76・0%と大幅に増加して過去3番目に高く、「良い」は同21・1ポイント減の8・6%だった。
日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった。
日中関係の発展を阻害する問題(複数回答)に東京電力福島第1原発処理水の海洋放出問題を挙げる人が中国側で前年比29・7ポイント増の35・5%と最多となっており、放出問題が影響を与えた可能性がある。
中国の習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認したが、中国側は難しいかじ取りを迫られそうだ。
相手国の重要度に差
また、中国側の回答で、日中関係を自国にとって「重要ではない」とした人の割合は前年比40・5ポイント増の59・6%となり過去最高を記録。「重要」とした人の割合も同33・8ポイント減の26・3%で過去最低となった。
一方、日本側の回答で、日中関係を「重要ではない」とした人は前年比2・5ポイント減の5・0%、「重要」は同2・0ポイント増の67・1%だった。相手国の重要度に関する認識に日中で大きく差が出ている。
現在の日中関係について日本側の回答では、「悪い」が前年比15・5ポイント減の52・9%、「良い」が同1・5ポイント増の2・3%。中国の印象を「良くない」とした人は同3・2ポイント減の89・0%、「良い」は同2・8ポイント増の10・6%で、いずれも改善傾向だった。
共同世論調査は2005年から毎年実施。今年は10月18日〜11月10日、日中両国で18歳以上の男女を対象に行った。日本は調査票を渡し回収する方式で1000人が、中国は調査員による面接方式で1500人がそれぞれ回答した。【12月2日 毎日】
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【福島第一原発の処理水放出や「スパイ」行為による中国での日本人拘束が影響】
日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化・・・“言論NPOは「ここまで中国の対日意識が全面的に悪化したのは過去20年の調査で初めて」と分析しています”【12月2日 テレ朝news】
いったい何があったのか?
****中国人の日本への印象、大幅に悪化 共同世論調査****
(中略)中国で「日本の印象について「良くない」などと答えた人の割合は、去年から25ポイント近くも増え87.7%にのぼりました。
理由については、尖閣諸島や台湾問題に関する日本側の対応が最も多くあげられています。
また、両国の関係発展を妨げる要因については「福島第一原発の処理水放出」と答えた人が最も多かったということです。
また、中国で、「日中関係について重要」などと答えた人の割合が、去年から半分以下にまで低下し「日本に行きたくない」などと答えた人の割合も大幅にふえています。
背景について調査団体の代表はSNSでの情報収集が増える中、日本に渡航経験がない人々が過激な書き込みなどにふれた影響がでているとの見方を示しています。
そのうえで日本に渡航できる経済力のある人とそうではない人との意識の差が鮮明になったと指摘しています。【12月2日 日テレNEWS】
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尖閣や台湾の問題は以前からのものですから、この1年で変化のあった事実関係としては「福島第一原発の処理水放出」があります。
正確には放出が始まったのは2023年8月で、前回調査は中国側では8月18日から9月1日に行われていますので、放出開始とほぼ同時期。
ですから前回調査にも「福島第一原発の処理水放出」に関する中国側の(放出前の中国政府のネガティブな情報による)反応が一応反映はされていますが、今回調査では、実際に放出がなされ、中国側の意識としては「魚が汚染されている」という不安が強く調査結果に反映していると思われます。
中国政府によるネガティブな情報提供というか世論誘導、更にその情報がSNSで増幅され、中国国内では今でも、不安がって魚を食べない人が多いという、日本側では想像できない状況があります。
相手国への良くない印象の理由としては、尖閣・台湾以外に「スパイ」行為による中国での日本人拘束が日中双方で理由に挙がっています。
日本側の印象は「スパイ」にでっち上げられるという不安ですが、中国側の印象は実際に多くの日本人が「スパイ」として動き回っている、日本人学校はスパイの養成所だというもの。
そうした反日的情報はSNSで増幅されますが、中国政府はこれらの多くを放置しています。いわゆる国民の抱える不満の「ガス抜き」に使っているとも。
****中国のSNSにあふれる反日投稿 蔑称や過激な文言、当局が黙認か****
中国の交流サイト(SNS)は反日感情をあらわにした投稿であふれている。
日本人の蔑称「日本鬼子」や、危害を加えることを宣言する過激な文言も。経済低迷で閉塞感が漂う中、中国当局が対日批判を黙認しガス抜きを図っている可能性がある。
広東省深センで9月18日、日本人学校に通う邦人男児(10)が中国人の男に刺殺される事件が発生。事件後、多くの住民らが学校に献花に訪れ、涙する姿も見られた。
一方でSNSでは日本人学校を「スパイ養成拠点」と見なし「日本の子どもは反中勢力になる」などと根拠のない主張をする書き込みが相次いだ。【12月2日 共同】
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【今回調査対象では最終学歴が「中学校以下」が急増 SNS情報の影響】
中国側で調査に答えた1500人は、75%が中国のニュースメディアから情報を得ており(複数回答可)、このうち「スマホ」経由が昨年の25.8%から55%に上昇、さらに、53.9%はTikTokの中国版「抖音(トウイン)」や微博などのSNSから情報を得ていたとのことで、SNSにおける情報が極めて大きな影響力を持ちます。
SNSでの情報拡散は、日本の兵庫県知事選挙や、ルーマニア大統領選挙第1回投票で、泡沫候補だった極右候補がSNS戦術を駆使して一躍トップに躍り出た・・・といった事案でも注目されています。
更に今回調査では、最終学歴が「中学校以下」が25%と、22年の8%、23年の14%から大幅に比率が上がっているということで、比較的SNS情報を無批判的に受け入れるような傾向があったのかも。
今回調査に限らず、中国ネットユーザーの学歴をみると、“中卒が40.5%、高卒(中等専門学校、技工学校を含む)が21.5%、大卒(短大を含む)以上が18.8%だった。小学校卒業以下も多く、19.2%に達した。”【2020年10月1日 人民網】ということで、SNSにおける情報の受け手は圧倒的に低学歴層が多く、その情報の受け止め方に懸念もあります。
****日中関係改善へ「関係在り方問われる」 世論調査実施のNPO代表****
日中共同世論調査の結果について言論NPOの工藤泰志代表に聞いた。【聞き手・畠山哲郎】
今回、中国側の対日意識は全面的に悪化したが、大きなショックを受けたのは、この20年間の調査で一度も6割台が崩れなかった、日中関係を「重要」と思う人が、今回初めて約2割まで落ち込んだことだ。
中国の調査手法は昨年までと全く変わらず、ここまでの意識の悪化は世論構造の修正を意味している。調査を分析すると、日本への渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。
中国は米国の大統領選を意識し、米中対立の原因を「米国」だとする人が昨年から倍増した。その米国と日本が連携し、経済安全保障を強め、独自に軍事力を強めているとみている中国国民に「日本が重要ではない」という人が膨らんでいる。SNS(ネット交流サービス)上でこうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い。
ただ、日中平和友好条約を機能させるため状況を改善しようという声は中国に多く、日中が決裂に向かっているわけではない。
ロシアのウクライナ侵略に対する考え方が日中で大差がないことも調査で判明した。世界が分断に進む中、日中が連携してどのような外交を展開していくのか、日中関係の在り方が問われているのではないか。【10月2日 毎日】
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【渡航歴の有無で分断】
上記で言論NPO代表が指摘しているように、“SNS(ネット交流サービス)上で(日本軽視の)こうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い”といったSNSによる情報増幅に加え、“渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。”という点もあります。
渡航歴の有無による相手国への印象の違いは日本でも同様でしょうが、日本側については、4年8カ月ぶりに短期ビザ免除が再開されることの効果が期待できます。
中国側の印象改善(それは中国当局の意思決定にも影響します)を促すためには、なんだかんだ言ってるより、航空会社・宿泊施設に補助金でも出して日中間の航空運賃、日本でお宿泊費を格安に設定し、どんどん日本に来てもらえばいい。来てもらったら、その多くの印象は大幅に改善し、帰国後にその情報が拡散される・・・と、個人的には考えていれうのですが。
多分、「日本人の血税を中国人の観光旅行のために使うのはけしからん」と怒られるのでしょう。
【今後については、政府間の関係改善の動きの反映に注目】
最近、中国当局もトランプ氏復権を意識して、日中関係改善の方向にあります。習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認しています。
そうしたことの影響が注目されます。ただ、中国ではこれまでの政府による情報誘導によって「御鮮魚が怖い」といった放出批判が出来上がっていますので、中国当局の輸入再開に向けた対応は難しいものもあります。
【国際関係では国際協調重視の傾向】
日本関係以外で興味深いところでは、ロシアの侵略への批判も。
****ロシアの侵略に批判も****
一方、世界の紛争や緊張の原因について、中国人では「他国を侵略し核威嚇を行う国連安保理常任理事国を世界が止められないこと」が41%と1位。
ロシアのウクライナ侵略にも「どんな理由であれ他国の領土主権侵略に反対すべきだ」が同25ポイント増の41・3%となった。対日感情の悪化とともに、ロシアの侵略にも批判的な結果となった。【12月2日 産経】
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中国世論について、“国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった”とのこと。
****中国世論、ロシアや北朝鮮を警戒 国際協調に傾斜も日本は軽視****
ロシアや北朝鮮は危険で、日米連携は不快、国際秩序の安定化へ中国が指導力を発揮すべきだ―。日中共同世論調査の結果から、中国人の意識がロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核開発を警戒し、国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった。そうした中で日本の存在感は薄れている。
ロシアの侵攻は「国連憲章や国際法に反する」として反対する中国人は前年比25ポイント増の41.3%に上った。ロシアへの警戒感が日本より中国の方が高いことを示唆する回答もあった。
中国側で、東アジアで軍事紛争が起こり得る地域は南シナ海と朝鮮半島と答えた人がいずれも増えた。北朝鮮の核開発が核戦争のリスクを高めていると考える人は14.7%と微増。
中国政府はロシアや北朝鮮と友好関係を維持しているが、世論は両国に不信感を募らせているようだ。
また中国側回答では軍事的脅威を感じる国について日米を挙げた人が大幅に増えた。8割以上が米中対立の原因は米側にあるとし、6割近くが国際協調が必要とした。【12月2日 共同】
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