孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  自制を求める国際世論へのスリランカ政府の反発

2009-05-15 23:20:11 | 国際情勢

(今年3月 スリランカ政府の攻勢に抗議してロンドンで座り込むタミル人
同様の抗議活動はトロントやニュウーヨクでも行われました。
日本ではこうした行動がなかったこともあって、スリランカ情勢への国民的関心は殆どないようです。“flickr”より By Steve Punter
http://www.flickr.com/photos/spunter/3524395535/)

【人間の盾】
スリランカでは、反政府武装勢力「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」を政府軍が完全に包囲し、長い内戦も最終段階にありますが、LTTEが多くの住民を「人間の盾」としていることで、被害が拡大。
国際社会はこの事態を憂慮し、スリランカ政府に自制を求めています。

****スリランカ、「人間の盾」3300人脱出 戦闘なお激化****
スリランカの反政府武装勢力「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」が立てこもる同国北部の地域から14日、「人間の盾」となっていた民間人のうち約3300人が脱出した。戦闘の激化で多数の犠牲者が出ているとして米国などは自制を求めているが、民間人の脱出を受け、スリランカ政府軍は一気に軍事解決を図る構えだ。

スリランカ国防省によると、LTTEが立てこもっているのは、ムライティブ近くの海とラグーン(潟湖)に挟まれた広さ3平方キロほどの地域。政府軍は3方向からLTTEに攻勢をかけている。民間人の脱出は一時途絶えていたが、14日に入って多数の人々が手作りの浮きにつかまりながら、ラグーンを渡って脱出。さらに数千人が脱出を試みており、LTTEは逃げようとする民間人を銃撃しているという。

一方、AP通信は、LTTE側にある唯一の仮設病院の関係者の話として、激しい砲撃のため、医師らが治療の継続を断念したと伝えた。約400人の重症患者を残したまま、避難を余儀なくされたという。LTTEに近いウェブサイト「タミル・ネット」は13、14日の2日間で1700人が死亡したと主張している。
例外的に現地での活動が認められている赤十字国際委員会(ICRC)は同日、「想像を絶する人道危機を目の当たりにしている」と憂慮を示した。絶え間ない戦闘のため、今月9日を最後に救援物資を運ぶ船が接岸できず、人々は穴を掘って身を隠したまま、飲み水や食料の入手さえ困難になっているという。【5月15日 朝日】
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LTTEがたてこもる地域はhttp://www.afpbb.com/article/war-unrest/2601707/4142177 に図示されていますが、海とラグーンに挟まれた本当に逃げ場のない地形です。
病院施設への砲撃で民間人に多数の死者が出ていることが報じられていますが、メディアや国際機関の立ち入りを禁止されているため、その実態、どちら側の砲撃によるものかなど、よくわかりません。

【増加する民間人犠牲者】
****スリランカ内戦:「病院に多数の避難民ら」戦闘地域の医師
この状態では脱出すらできない」。スリランカ政府軍が北東部に立てこもる反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)への最終攻撃を本格化した14日、戦闘地域に閉じ込められた病院の男性医師(39)は毎日新聞の電話取材に切迫した状況を伝えた。医師は「武装ヘリが飛び回り、あちこちに迫撃砲が撃ち込まれている。ここには2000人以上の患者や避難民がいるが、薬や食料、飲用水のない危機的状況だ」と訴えた。
「病院の外に一歩出れば、戦闘に巻き込まれる」。医師は早口で言った。非戦闘員の保護を定めたジュネーブ条約に反し、政府軍とLTTEの戦闘で多数の民間人が犠牲になっていることを物語る。

医師によると、戦闘は10日ごろから散発的に始まった。LTTE支配地域に取り残された多くのタミル人市民が、「病院なら攻撃されない」と信じて駆け込んできた。治療が必要な数百人以外は建物の外で野宿している。
LTTE側は10日、この病院について「政府軍の攻撃で2000人以上死亡した恐れがある」と主張していた。医師は「死者は推定数百人。病院の敷地外に放置されたままの遺体も多く、実際の数は分からない」と言う。
戦闘には、政府が民間人への被害を防ぐため「使用しない」としていた迫撃砲も使われているようだ。ただ、医師は「どちらの攻撃かなんて分かるはずがない」と打ち明けた。

病院の様子は悲惨だという。頭に包帯をぐるぐる巻いた幼児が、行方不明の母親を捜して泣き叫ぶ。骨が浮き出るほどやせた老人たちが床の上で息を引き取っていく。次々と負傷者が運び込まれてくるが、ベッドは足りず、医薬品不足などで手術もままならない。野戦病院のような混乱の中、医師と看護師の計10人が不眠不休で治療しているという。
戦闘の影響なのか、電話回線は数分おきに途切れる。通算20分間、言葉を選びながら語った医師は、「病院にLTTEか政府軍はいるか」との質問をきっぱり否定。「最後の患者が保護されるまでここに残る」と語った。【5月15日 毎日】
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前出【朝日】記事にある“約400人の重症患者を残したまま、避難を余儀なくされた”仮設病院が【毎日】記事の病院と同じかどうかもわかりませんが、住民の生命が保証されない“危機的状況”であることは間違いありません。

【自制を求める国際世論】
国連安全保障理事会は13日、報道向け声明を発表し、「重大な懸念」を表明しています。
声明は「数年間にわたるテロ活動や民間人を人間の盾として使っていること」についてLTTEを「強く非難」したほか、スリランカ政府がテロとの戦いを行う権利の正当性を認めています。
安保理理事国は、LTTEに対し、武装を解除し、紛争地帯にいる数万人の民間人を解放するよう求める一方、「スリランカ政府が民間人が多数集まっている地域で重火器を使用し続けている」との報道についても「強い懸念」を表明しています。【5月14日 AFP】

英国とフランスなどはスリランカ情勢を「国連安保理で討議すべきだ」と主張していましたが、中国とロシアは「内政問題だ」と消極的でした。その妥協としての“報道向け声明”のようです。
こうした状況で、国連安保理の強い介入は難しい情勢です。

一方、国連事務総長報道官は、人道状況の悪化を阻止するためナンビアール官房長が15日中にスリランカに向かうと発表。潘基文事務総長も同国訪問を真剣に検討していると述べています。【5月15日 時事】

オバマ米大統領は13日の声明で、LTTEに攻撃停止を求めると同時に、病院などに対する「無差別攻撃をやめるべきだ」として、政府軍を強く非難しています。
大統領は手を打たなければ「人道的危機」が「破滅的状況になりかねない」と警告しています。【5月14日 毎日】

【“なぜ我々だけを目の敵にするのか”】
総じて、LTTEだけでなく、スリランカ政府に対しても自制を求める意見が出されていますが、スリランカ政府は「国際的な圧力に屈するつもりはない」「パキスタンやアフガニスタンで同様の紛争が起きていても、誰も停戦を求めたりしないのに、なぜ我々だけを目の敵にするのか」と反発しています。

確かに、パキスタンやアフガニスタンでの空爆で多数の民間人犠牲を出しているアメリカなどと同じではないか、なぜスリランカだけが批判されるのか・・・という主張は、一定に理解できる部分もあります。
スリランカ政府にとって、LTTEは分離独立を企て、長年にわたり自爆テロでスリランカ社会を混乱させてきたテロ集団です。ようやく出口がすぐそこに見えてきたこの時期に、“人道危機”“無差別攻撃”云々の批判は、納得しがたいところでしょう。
だからと言って、このまま民間人犠牲が増加する状況を放置していいということにはなりませんが。
それと、LTTEを組織的に殲滅しても、タミル人を正当に受け入れる社会・政治システムを早急に確立しない限り、スリランカ社会に対する散発的テロ等の攻撃は続く・・・というのは大方の指摘するところです。

スリランカから帰国した明石康・日本政府代表(スリランカ和平構築担当)は12日、東京都内の日本記者クラブで会見し、「LTTEは既に『袋のネズミ』。軍事的解決は最終局面に入った」と述べ、内戦が近く終結するとの見方を示し上で、政府軍がLTTEを壊滅状態にしたとしても「LTTE(の残党)がテロやゲリラ作戦を続ければ治安を乱すことが可能だ。(タミル人勢力を)民主的体制に政党として参加させることが必要」と政治的解決の重要性を強調しています。【5月13日 毎日】

【日本 一時戦闘停止に否定的】
スリランカの最大支援国でもある日本に対しては、スリランカ問題を安保理で取り上げることに後ろ向きだとの批判もあるようです。

****高須大使、一時戦闘停止に否定的****
高須幸雄国連大使は14日、民間人に多数の死者が出ているスリランカ内戦に関し、人道支援のための一時戦闘停止という考えには同意できないと表明した。また、この問題を安保理で取り上げることに後ろ向きだとする対日批判について「勝手に日本(の姿勢)はこうだと思っており、まったく不正確」と反論した。
同大使は会見で、民間人を「人間の盾」に取る反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」を「最も残虐な集団」と非難。戦闘を停止しても民間人解放の保証はないとして、「政府もLTTEも両方悪いのだから撃ち方をやめろというアプローチは現実を見ていない」と語った。【5月15日 時事】
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日本国内では、湾内に迷い込んだクジラをどうやって助けるかは大きな関心を呼んでも、こうした政府方針が国民レベルで議論されたことは全くありません。
自爆テロを厭わないLTTEの延命をはかることは現実的ではないでしょうが、ではどうすれば民間人犠牲者を出さずにすむのか・・・と考えている間にも、政府軍による力での決着がつきそうな状況です。

コメント
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