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(バスラでの駐留米軍による無反動砲カールグスタフの発射訓練 さすがプロの写真はロケット弾まで写し出します。
戦闘機やミサイルなど兵器の写真は、マニア以外が見ても、ときに魅力的だったりします。
この無反動砲もリングが出来るなんて面白いですが、狙われる身、肉体が飛び散る身にとってはどうでもいいことです。“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3524513138/)
【6月末 米軍、都市部から撤退】
オバマ大統領は2月、現在14万人強のイラク駐留米軍のうち、戦闘部隊が来年の10年8月末までに、残りの部隊も11年末までに撤退する方針を発表しています。
それに先立ち、米イラク地位協定では米戦闘部隊は今年6月末まで都市部から撤収することにもなっています。
(ただし、アルカイダ系武装勢力の根拠地で今なお治安が改善していない北部主要都市モスルについては、イラク・米軍双方とも、6月以降の米軍残留の可能性について言及しています。)
なお、イギリスは、主にイラク軍の訓練を目的に残留していた英軍4100人の任務を6月までに終了し、7月末には完全撤退する協定をイラク政府と結んでいましたが、4月30日に予定よりも1か月前倒しで、正式にイラクから完全撤退しています。
こうした米軍撤退のスケジュールが進むなかで、このところ爆弾テロが増加しており、改善していたイラク治安について不安視する見方も出てきています。
****バグダッドで爆弾テロ、35人死亡、72人負傷
イラクの首都バグダッドで20日夜(日本時間21日未明)、路上に止められていた車が爆発し、ロイター通信によると、少なくとも35人が死亡、72人が負傷した。現場はバグダッド北西部のシーア派住民が多い地区の繁華街で、事件当時、買い物やレストランでの夕食に訪れていた市民で込み合っていた。
イラク駐留米軍は6月30日を期限に都市部の治安権限をイラク側に全面的に移譲するが、4月29日にバグダッド最大のシーア派地区サドル・シティーでの連続爆弾テロで51人が死亡するなど、4月にはテロが急増し、フランス通信(AFP)によると、昨年9月以降最悪となる死者355人、負傷者700人を記録した。
5月になっても主にシーア派住民を狙ったテロが頻発しており、米軍の都市部撤退完了後に宗派抗争が再燃したり、治安が再び悪化したりすることを懸念する声が出ている。
マリキ首相は一連のテロについて、国際テロ組織アルカーイダ系のイスラム教スンニ派過激派武装組織の指導者、アブオマル・バグダーディー容疑者が4月にイラク治安部隊に拘束されたことに対する報復であり、好転した治安を根底から脅かすものではないと強気の姿勢を示している。
バグダーディー容疑者は、アルカーイダ系組織が中心となって樹立を宣言した「イラク・イスラム国」の指導者とされるが、武装組織側は、同容疑者のものと主張する音声テープをネットで流すなど、拘束したとする政府の発表を否定。これに対し、政府は18日、同容疑者の取り調べの様子とする映像を公表し、拘束は事実であると改めて強調していた。【5月21日 産経】
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上記テロ以外にも、21日午前にはバグダッドと北部キルクークで自爆テロがあり、計19人が死亡しています。
また、6日には、バグダッドのドーラ地区にあるラシード市場で自動車爆弾による攻撃があり、少なくとも10人が死亡し、女性を含む37人が負傷しています。
バグダッドではここ数週間、このような多くの市民が集まる場所を狙った爆弾攻撃が相次いでいます。
特に、シーア派が狙われる例が多く、かつて反米武装闘争をしていたアルカイダ系のスンニ派武装組織が活発化しているとみられています。米軍の都市部からの撤退スケジュールを睨んで揺さぶりをかけているとも。
【強気のマリキ首相】
治安に再び影が忍び寄るなか、イラク最高裁は18日、次の国民議会選挙の投票日を来年1月30日とする裁定を下しました。
今年1月には地方選挙が大きな混乱なく行われましたが、次の総選挙が平和的に実施され、安定した政権ができるかどうかは、米国が来年8月までに予定する戦闘部隊の撤退日程にも影響します。【5月19日 朝日より】
その総選挙で勝利を狙っているのが、地方選挙でも大勝したマリキ現首相です。
マリキ首相はもともと国内の有力派閥と深い繋がりがないため、各派からの反発も少なく、アメリカも操りやすいということで、首相に就任できたと言われています。
その就任当初は「弱い」政治家と言われていたマリキ首相ですが、最近では「強気になってきた」とも言われ、その強権体質が批判されることもあります。
米軍撤退によって更に巨大な権力を手にすることにもなります。
アメリカとの関係では、必ずしも“操られる”関係だけではなくなっています。
昨年11月のアメリカとの地位協定交渉においては、完全撤退の期限を「11年末まで」と明示することに当初アメリカは抵抗していましたが、結局、「米軍をイラクから追い出した強い指導者」とのイメージを打ち出したいマリキ首相の思惑もあって、アメリカ側が譲歩したかたちとなっています。
マリキ首相は“国連決議の期限切れ”を背景にアメリカ側との交渉に“粘り腰”で臨み、撤退期限の規定以外にも、米軍の軍用車をイラク側が調べる権限、非番の米兵・民間軍事会社社員らによる犯罪を調査する特別委員会の設置、米軍による家宅捜索にはイラク当局の許可が必要など、一定の譲歩をアメリカ側から引き出すことに成功しました。
最近では、4月26日、駐留米軍による作戦でイラク人2人が死亡したのは「すべての軍事作戦はイラク政府の合意に基づき実施する」と定めた地位協定に違反するとして、米軍に責任者の身柄を司法当局に引き渡すよう求める声明を出しています。
マリキ首相は声明で米軍側を「犯罪」だと非難しています。
イラク駐留米軍の地位協定で、違反の指摘は今回が初めてです。
米軍側は、作戦はイラク側の事前承認を得ており、協定違反はないと反論しています。【4月27日 読売】
(なお、この件に関しては、“イラク国防省の広報官は、米軍の作戦を政府の承認なしに認めた疑いがあるとしてイラク軍の高官2人を逮捕したと述べており、イラク政府と米軍との間で情報の行き違いがあった可能性もある。”【4月27日 共同】という報道もあります。)
【国内和解進展に懸念】
マリキ首相の「強気」は国内にも向けられており、“総選挙に向けてライバルつぶしにいそしんでいる”【4月22日 Newsweek 日本語版】とか、“少数派をますます顧みなくなっている”【5月27日 Newsweek 日本語版】とか言われています。
先述の地位協定交渉においても、少数派のスンニ派勢力の賛成を取り付けるため、スンニ派部族らでつくる自警組織「覚醒評議会」メンバーのイラク治安部隊への編入――などの要求を認めた経緯がありますが、その実行は進んでいないようです。
石油収入配分にいてもクルド人勢力との問題があります。
(今月10日にイラク政府は、クルド人自治区の油田から原油の輸出を開始することを発表していますが、これがイラク政府とクルド側の間のなんらかの妥協成立を意味するのかどうかはよくわかりません。)
アメリカも米軍撤退後のイラク国内諸派の抗争再燃は懸念しており、4月7日バグダッドを訪問してマリキ首相と会談したオバマ大統領は、共同会見で「イラク諸派が政治的手段で意見の食い違いを解決するのを強く支持する」と発言し、和解を求めています。
首相は「民主化を含め、たくさんのことを達成した。治安の改善が継続することを大統領に確約した」と述べていますが、どうでしょうか・・・。