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(ミャンマー・ラカイン州の州都シットウェは、ベンガル湾に注ぐカラダン川の河口にひらけた港湾都市。
写真はのどかな美しい風景ですが、中国の援助で港湾の整備が進んでいます。
中国のインド洋進出の橋頭堡のひとつとも見られています。
また、シットウェから中国・雲南省までミャンマーを斜めに縦断するパイプライン工事と天然ガスの採掘も07年に始まっています。
“flickr”より By jmhullot
http://www.flickr.com/photos/jmhullot/3337729364/)
ミャンマーの民主化運動の象徴であるスー・チーさんの裁判は、5月20日ブログ「スー・チーさんの公判、来週にも結審か 来年総選挙に向けて」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090520)でも取り上げたように、軍事政権のペースで進められています。
【「内政干渉」と批判 タイも反論】
この事態にASEAN議長国のタイは19日、ASEANとして“強い関心(あるいは懸念)”を示す声明を発表し、合わせて、「ミャンマー政府の名誉と信用が揺らいでいる」と指摘し、暗に軍事政権に自制を求めました。
ただ、“タイのチャワノン外務次官は同日までに「ミャンマーへの制裁は問題解決に結びつかない」と述べ、タイとして制裁措置などに踏み切る考えのないことを強調した。”【5月19日 毎日】というように、強く軍事政権を非難するEUなどに比べ、内政不干渉を原則とするASEAN・タイの対応に温度差がある点のほうが強調される報道でした。
ミャンマー軍事政権は、このASEANの“強い懸念”も気に入らなかったようで、タイを名指し非難していますが、タイも“異例の強い調子で”反論しているとか。
制裁を否定する“内政不干渉”の枠組みの中での発言ですから、ミャンマー軍事政権に大した影響を与えるものではありませんが、ASEAN議長国として、タイには言うべきことはしっかり言ってもらいたいものです。
****ミャンマー:スー・チーさん裁判へのASEANの批判に反発*****
ミャンマー軍事政権は25日、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(63)の裁判に「強い懸念」を表明した東南アジア諸国連合(ASEAN)の声明に対し、「内政干渉だ」と強く反発する声明を発表した。
「ミャンマー政府の名誉と信用が揺らいでいる」と指摘し、暗に自制を求めた19日のASEANの声明に対し、軍事政権は「事実に反し、ミャンマーと、発表した(ASEAN議長国の)タイの名誉を損なう」と、タイを名指しで批判した。
これに対しタイのカシット外相は記者団に「国際社会はタイの政情不安にも懸念を示した。声明は内政干渉ではない」と反論。「タイもフィリピンもインドネシアも軍事政権を経験してきた。ミャンマー政府は(ASEAN各国と同様に)、民主化しなければならない」と異例の強い調子で求めた。 【5月25日 毎日】
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【「あと半年延長することができる」】
スー・チーさんの自宅軟禁期限は明日27日で切れますが、当然のごとく、軍事政権側は延長の考えを示しています。
****ミャンマー軍政、スー・チーさんの軟禁期限延長の法的権利を主張******
ミャンマーの軍事政権は26日、同国の民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁期限が27日に終わることをめぐり、期限をさらに6か月延長する法的権利があると述べた。
米国人を自宅に許可なく入れ自宅軟禁の条件に違反したとして、ミャンマーの軍事政権に起訴されたスー・チーさんの審理で、軍政側は外交官や報道陣に向けて声明を発表。スー・チーさんは4年半自宅軟禁下にあり、「法律によると、(関係当局は)軍政の許可を得て、合計5年となる、あと半年延長することができる」と主張した。
スー・チーさんの弁護団は5年間の軟禁期限は27日に切れると主張している。自宅軟禁とは別で、裁判で有罪となれば、最長5年の禁固刑が科される可能性がある。【5月26日 AFP】
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進められている裁判で、“最長5年の禁固刑が科される可能性”が強い状況では、自宅軟禁期限の問題はあまり実質的意味合いはないようにも思えます。
【“スー・チー”カード】
総選挙を前に、国民的人気の高いスー・チーさんを解放することは考えにくいところですが、更に、国際的な“駆け引き”の道具としても、厳しい状況です。
今世界を騒がせている北朝鮮の“核”カードと同様に、ミャンマー軍事政権はこれまで国際的非難が高まると、スー・チーさんの軟禁について緩和をにおわせるような形でその批判をかわすといった“スー・チー”カードを行使してきました。
今後とも、この“スー・チー”カードを容易に放棄するとは思えません。
【ミャンマーと中国】
こうしたミャンマーをめぐる枠組みを大きく変えることができる要素としては、国際的非難の渦中にあるミャンマーを実質的に政治・経済的に支えている中国の方針転換ぐらいではないでしょうか。
中国とミャンマーの関係は必ずしも一様ではなく、時代によって変化しています。
かつて中国は反政府勢力のビルマ共産党を支援しており、文化大革命の頃は、ミャンマーで反中国人暴動が起きたのを口実に、中国軍がミャンマー北部に侵攻し、ミャンマー軍と戦闘になったこともあります。
その後も、中国式の改革解放路線を勧める中国と親密になったり、疎遠になったりと、変遷はありましたが、最近では、アメリカが軍事政権非難を強めながら、一方で、北朝鮮問題と同様に、アジアのことについては中国に「責任ある大国」としての指導力を求める流れのなかで、中国とミャンマーの関係は深いものなっています。
中国にとっては、ミャンマーは歴史的にも自国勢力圏という意識もあるでしょうが、より具体的にはミャンマーの抱える石油・ガスなどの資源獲得という要素があります。
【「真珠の首飾り」】
更に、地政学的にも、海軍力を強化し国際的な軍事影響力を強めたい中国にとって、インド洋に面したミャンマーは重要な意味合いを持っています。
先日、TVのNHKスペシャルで、インドの軍事力増強・インド洋への進出について放映していましたが、同じ問題を中国側からとらえたのが次の記事です。
****中国、インド洋に勢力拡大 周辺国の港湾整備、橋頭堡か****
中国がインド洋で影響圏の拡大を進めていることが、24日までに明らかになった。ミャンマーからパキスタンまで、ライバルのインドを包囲する形で港湾施設を建設し、将来的には中国海軍の“橋頭堡(きょうとうほ)”とする海洋戦略の一環とみられる。しかし、インドをにらむ中国の「真珠の首飾り」(西側外交筋)構築は、南アジアを自国の勢力圏とみなしてきたインドを刺激しかねない。
≪真珠の首飾り≫
中国は2007年からスリランカ南岸ハンバントタの港湾整備に十数億ドルを融資している。軍事的協力関係の深いパキスタンでも、南西部グワダルの港湾建設費の7割以上を負担したとされる。バングラデシュ・チッタゴン、ミャンマー・シットウェの港湾やミャンマーから雲南省に抜ける交通網の整備も支援。ベンガル湾に位置するミャンマー領のココ諸島、西部のラムリー島などに海上交通を監視できる通信施設があるとのうわさは根強い。
これらの港湾施設について、中国側は一貫して「商業目的」と主張している。しかし、22年に完成予定のハンバントタ港は、軍艦艇も燃料補給や修理に利用できる。ホルムズ海峡まで約400キロに位置するグワダル港は水深も深く、「(ここを押さえれば)戦略的に中国の利となる」(中国紙)という。
20日付の英紙デーリー・テレグラフ(電子版)は「公式には民間船舶だけを扱うことになっているが、将来、海軍基地として利用するというオプションを中国政府に与えている」「これらの施設は中国の海軍力を従来の沿海地域からインド洋に拡大させるかもしれない」と指摘している。
インド洋で「真珠の首飾り」のように連なる港湾施設は、海洋戦略を本格化させつつある中国にとって石油輸送路の確保というエネルギー安全保障の目的に加えて、「インド軍などの通信傍受や艦艇の動きを把握できるという軍事的側面を持つ」と米外交関係者は指摘した。中国が海賊対策のための艦艇をソマリア沖に派遣した目的も、「戦略的利益を持つインド洋にある」(香港誌)。(後略)【5月25日 産経】
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中国の「真珠の首飾り」にとって、ミャンマーのシットウェの港湾やミャンマーから雲南省に抜ける交通網、ココ諸島、西部のラムリー島などの海上交通を監視できる通信施設・・・など、ミャンマーの存在は不可欠の要素です。
こうしたことを考えると、中国がミャンマーに対して強い圧力をかけるという構図は、現時点ではあまり可能性が少ないように思えます。
ただ、中国の影響拡大に伴い反中感情も強まっているようです。
中国としても、反中感情と軍事政権への不満が結びついた社会不安は望まないところでしょうから、ミャンマー社会の安定化に向けた対応はあろうかと思います。