孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム過激派への取り組み 拘束・「脱過激思想」・“強制失踪者”

2011-09-07 22:08:43 | アフガン・パキスタン

(米軍によるウサマ・ビンラディン容疑者殺害を非難する、パキスタンの親タリバン的なイスラム政党のメンバー パキスタンの「テロとの戦い」は、国内に根強い反米・親タリバン勢力の反応を考慮しながら行われることになります。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5711022342/

パキスタン・バングラデシュに拠点を置くイスラム過激派組織が犯行声明
インドの首都ニューデリー中心部の高等裁判所で爆弾テロがあり、パキスタンやバングラデシュに拠点を置くイスラム過激派組織が犯行声明を出しています。

****インド:高裁入り口で爆弾テロ 10人死亡47人負傷****
インドの首都ニューデリー中心部の高等裁判所の入り口付近で7日午前10時(日本時間午後1時半)ごろ、爆発があり、ロイター通信によると少なくとも10人が死亡、47人が負傷した。爆弾テロとみられる。

パキスタンやバングラデシュに拠点を置くイスラム過激派組織「ハルカトゥル・ジハード・イスラミ(HUJI)」が犯行声明を出しており、捜査当局が事件の背景を調べている。この高裁では5月25日にも小規模な爆発事件があり、爆弾攻撃の標的となったのは今年2回目。

民放NDTVによると、爆弾は入り口の検問所近くにあったブリーフケースに入っていた可能性があるという。この日は、多数の民事裁判が予定され、最大200人の傍聴人ら関係者が入り口付近で列をなしていた。「世界最大の民主国家」と呼ばれるインドの司法機関を狙ったテロが相次ぎ、法曹界は大きな衝撃を受けている。(後略)【9月7日 毎日】
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08年11月のムンバイ同時多発テロでもそうですが、インド側には、テロ活動を行うイスラム過激派組織をパキスタンが十分に抑止していないという強い不満があります。

ともに核保有国であるインドとパキスタンの関係は、これまで3回の戦火を交えた“宿敵”といったところです。今年2月に和平協議再開に合意した両国ですが、数日前にはカシミール地方で停戦ラインを挟んで両軍の銃撃戦も起きており、緊張関係は相変わらずです。

****パキスタン:カシミールでインドと交戦 兵士3人死亡****
パキスタン陸軍スポークスマンのアッバス少将は1日、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で8月31日、停戦ラインをまたいで両国軍部隊が交戦し、パキスタン兵士3人が死亡したことを明らかにした。カシミール地方ではこれまでにも偶発的な銃撃戦が散発的に起きているが、一度に3人の兵士が死亡したのは過去数年では極めてまれ。

アッバス少将によると、パキスタン側の部隊が移動中にインド側から一方的な銃撃を受け、応戦したという。一方、ロイター通信によると、インド軍側は、パキスタン側の銃撃に応戦したといい、説明に食い違いを見せた。

両国は今年2月に和平協議再開に合意し、7月の外相会談で関係改善を印象付けたばかり。今後の協議への影響が懸念されるが、両国の関係改善は、アフガニスタンの安定を求める米国からも強い圧力をかけられており、双方とも自制した行動に努めるとみられる。【9月1日 毎日】
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今回の爆弾テロを受けて、インド側からはパキスタンに対し、国内イスラム過激派組織に対して、より厳しい対応をとるように圧力が強まることも予想されます。

一方で掃討、他方で支援
イスラム過激派組織に対する厳しい対応は、アフガニスタンで苦しむアメリカもパキスタンに強く要求しているところですが、パキスタンの軍情報機関であるISIはタリバンの生みの親でもあり、国軍、特にISIとタリバン等のイスラム過激派組織との関係は依然として強いものがあると見られています。
アルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン容疑者も、パキスタンの軍事都市に居住していました。
タリバンを武器・資金で支援しているパキスタン側の意図としては、米軍撤退後のアフガニスタンで、インド寄りの勢力を排して、親パキスタン的な政権をつくることを目論んでいると言われています。

パキスタンのイスラム過激派組織への対応がわかりにくいのは、上記のようなイスラム過激派組織との繋がりが公然と言われている一方で、ムシャラフ前大統領時代から、アメリカの要請を受け入れる形で、イスラム過激派組織掃討作戦も実際に展開しているということがあります。
そのため、イスラム過激派組織からは“裏切り行為”として、激しいテロ攻撃を受けていることも事実です。
一方で掃討作戦を行いながら、他方で支援するという、非常に理解に苦しむところがあります。

きのう、きょう、そのパキスタンのイスラム過激派組織への対応に関して、掃討・弾圧・抑制の側面に関する記事が3つほど見られました。

拘束作戦には米国とパキスタンの情報機関も参加
一つ目は、アルカイダ幹部の拘束作戦に関するものです。
前述のように、アメリカに協力してテロとの戦いを進めるというのがパキスタンの公式な立場ですので、アルカイダ幹部拘束はしごく当然のところでしょう。

****パキスタン軍、アルカイダ幹部3人を拘束****
パキスタン軍は5日、国際テロ組織アルカイダのユニス・アル・モーリタニ容疑者ら幹部3人を南西部のクエッタ郊外で拘束したと発表した。拘束作戦には米国とパキスタンの情報機関も参加したという。
クエッタの治安当局者によると、作戦は前週初めの深夜に行われ、パキスタン人2人も拘束された。

パキスタン軍によると、モーリタニ容疑者は、ウサマ・ビンラディン容疑者から米国、欧州、オーストラリアの経済拠点を攻撃するよう指示され、攻撃計画を練っていたという。【9月6日 AFP】
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【「脱過激思想」の教育プログラム
二つ目は、「脱過激思想」の教育プログラムに関するもので、そのまっとうな取り組みには、少し意外な感もありました。どれほどの規模で行っているのか・・・という点はありますが。

****自爆で天国」なんてウソ…パキスタン元過激派****
パキスタンは2001年の米同時テロを受け、米国の「対テロ戦争」協力へとカジを切ったが、その決断はイスラム原理主義勢力の猛反発と国内テロ急増を招いた。
伸長する過激派対策に腐心する同国は、元過激派メンバーの若者らの更生と社会復帰のため、軍を中心に「脱過激思想」の教育プログラムを進めている。

「イスラム教は、信じる宗教のいかんにかかわらず、人類の平等を重んじる宗教なのです」
スワート地区の「更生施設」をのぞくと、こぢんまりとした教室に約20人が座り、宗教学者が語る「イスラム教における人権」に熱心に耳を傾けていた。
別の教室ではパソコンのキーボードの操作を教えていた。アイロンの使い方など家庭電化製品に関する授業や、心理学者らによるカウンセリング、地元で盛んな養蜂に関する職業訓練教育もあった。

生徒はイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の元メンバーが主体だ。重罪者を除き、「更生可能」とされた若者らを対象に、計12週間で社会復帰させることを目指している。
生徒の一人、シャキール・アフマドさん(19)は08年12月、TTPから同州の宗教施設に送り込まれた。学生だったが、友人の誘いでTTPの訓練に参加するようになり、ロケット砲や手投げ弾の使い方をたたき込まれた。TTPや自爆犯をたたえるビデオを連日のように見せられていたという。

当日は宗教施設で大量の爆薬を身につけ、あとは左手の発火ボタンを押すばかりだった。
「ふと我に返ったんです。見渡すと、無実の人ばかりだと……。ボタンを押すのを思いとどまりました」
警察に逮捕されたアフマドさんは、今年7月から更生施設で170人の仲間と泊まり込みの集団生活を送る。「『自爆したら天国に行ける』など、TTPで教わったことはウソばかり。ここでは本当のことが学べる。もっと勉強したい」と穏やかな口調で語った。【9月6日 読売】
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パキスタン当局が「テロリスト」として住民を拘束
最後は、アメリカに「テロとの戦い」への協力姿勢を示すに取られている、“強制失踪者”という“闇”の部分に関するものです。

****パキスタン、頻発する“強制失踪” 当局、賞金目的で連行か****
「何かが変」闘う家族
2001年9月11日の米中枢同時テロ後、パキスタンでは数千人以上といわれる住民が突然、家族の前から姿を消した。その多くは、パキスタン当局が、米国の「テロとの戦い」への協力姿勢を示すため、連れ去った可能性が高いとされる。身柄を米側に引き渡され、キューバやアフガニスタンの米軍基地内に収容されていることが確認されたケースもある。
愛する人を突如失った家族は「9・11さえなければ、こんな経験をすることはなかった」と怒りをこらえ、帰りを待っている。
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「夫がいつ帰ってきてもいいように、家の玄関の鍵はかけていません」
アムナ・ジャンジュアさん(47)は、大きな目を潤ませた。当時45歳の夫マスードさんがいつものように家を出て、そのまま姿を消したのは05年7月30日。知人とバスで北西部ペシャワルに向かう途中、治安当局者とみられる男たちにバスから降ろされて以降、音信不通となっている。

マスードさんは、IT(情報技術)学校の運営も手掛ける旅行代理店の経営者にすぎない。治安当局に拘束される心当たりはない。警察や軍事情報部(MI)、三軍統合情報部(ISI)などあらゆる機関に問い合わせたが、なしのつぶてだ。

国際社会には、国の機関などが人の自由を剥奪し、失踪者の所在を隠蔽(いんぺい)、法の保護の外に置くことなどを「強制失踪」と定義して処罰を目指す条約もある。
「何かが変。闘うしかない」。06年9月、アムナさんは3人の子供を連れ、首都イスラマバードの国会前で失踪の解明を求める抗議行動を始めた。すると、同じ境遇の人々が集まり始め、3カ月後には約100家族が活動をともにするようになった。07年には支援団体「パキスタン人権擁護(DHRP)」を設立、現在は1015家族が登録する。

国内外で拘束・拷問
米中枢同時テロ後、米国に「敵か、味方か」と迫られたムシャラフ大統領(当時)は、国内の反米感情を顧みず米国との協調にかじをきり、「テロとの戦い」に加わった。以降、“強制失踪者”が増えていく。

国内外の人権団体は、パキスタン当局が「テロリスト」として住民を拘束していると指摘する。米国はテロリストに懸賞金をかけ、治安当局者が金稼ぎのために、住民を米側に引き渡しているともいわれる。拘束者は国内のほか、キューバのグアンタナモやアフガニスタンのバグラムにある米軍施設内の刑務所などで拷問を受けているとされる。

失踪者は医者やエンジニア、IT技術者のほか、パキスタンからの独立志向の強い南西部バルチスタン州の男性が中心。9歳の少年の失踪も報告されている。そのうち、どれだけが実際にテロ組織と関係があるのかは不明だ。
「疑惑があるというなら、正式な手続きを取って訴追すべきで、強制的に連れ去るなんて論外だ」とアムナさんらは主張する。

頼みの綱は最高裁
米国に協力し、自国民への人権侵害を手伝うような政府は信用できない-とする家族にとっての望みは、最高裁だけだ。政府の影響下に置かれず、時の政権と緊張関係にある最高裁はこの件で332件について審問を行った。政府や関係当局に行方不明者の調査を指示したケースもある。

しかし治安当局は非協力的で、失踪者の追跡活動は困難を極め、しかも強制失踪は9・11から10年たった今でも続いている。それでも最高裁やDHRPの活動によって、この5年間で約400人が戻ってきた。そのほとんどが拷問による肉体的、精神的なダメージを受けているという。【9月7日 産経】
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“強制失踪者”は、「テロとの戦い」云々以前の、軍が実権を握るパキスタンの強権支配体質を表しているものでしょう。
もし、これらの“強制失踪者”の行先がアメリカなら、そのことに対するアメリカ側の説明も必要でしょう。
また、そのうちの一部について、アメリカから拷問を厭わない国へ、尋問が“外注”されていることは、9月4日ブログ「アメリカ・CIA テロ容疑者をリビア等に移送して“尋問”を依頼」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110904)で取り上げたところです。

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