孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  難航する暫定政府発足  懸念される内部対立

2011-09-19 21:52:51 | 北アフリカ

(9月19日 トリポリの病院で負傷者を見舞うフランス・サルコジ大統領(中央)、イギリス・キャメロン首相(右端)、アブドルジャリル国民評議会議長(右から2人目) 「リビア介入は将来への投資でもあった」(ジュベ外相)と明言するフランスのサルコジ大統領は、今後の新生リビアに大きな影響力を行使しそうです。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6161982441/

反カダフィ派内部で「政治的ゲーム」】
リビアの暫定政府発足が内部対立による人選のもつれなどで難航していることが報じられています。

暫定政府が発足した後、正式政府の成立までのスケジュールとしては、まず、抵抗を続けるカダフィ派の掃討作戦が終わり全土を制圧するか、逃走中のカダフィ氏が拘束された時点で、「リビア全土の解放」を宣言。
その後30日以内に本拠をトリポリに移し、「第2次暫定政府」を発足させる。
第2次暫定政府は、8カ月以内に国民議会選挙を実施。
新議会が「移行政府」を設立し、憲法を制定。そして移行政府は1年以内に選挙を行う。
こうした手続きを経て、早ければ2013年春にも正式政府が発足する予定となっています。【9月19日 朝日より】

かなり長い道のりですが、そのスタートにあたる暫定政府樹立で現在もめているという状況です。

****リビア、暫定政権の発足を無期限延期 人選難航か*****
リビアの反カダフィ勢力の連合体「国民評議会(NTC)」は18日、同日中に発足する予定だった暫定政権の樹立を無期限に延期すると発表した。

NTCのナンバー2、マハムード・ジブリル氏は記者会見で、新政権ポストの最終的な調整が終わっていないと述べたが、調整の主要部分は18日の段階でほぼ終了しており、残りのポストの調整も長くはかからない見込みだと強気の姿勢を見せた。NTCは、暫定政権で女性や若手を副大臣や各省高官などの重要ポストに登用する考えだという。

リビアの最高指導者だったムアマル・カダフィ大佐の政権で要職を務めていたジブリル氏に対しては、NTC内部から、ムスリム同砲団など反カダフィ派の草の根運動グループとの協議不足が指摘されていた。

ジブリル氏自身は暫定政権の首相になるとみられている他、経済問題を担当する副大統領にはアリ・タルフニ氏が就任するとの見方が強い。このほか、国防相にはウサマ・アルジュウィリ氏、石油相にはアブデル・ラーマン・ビン・イェッザ氏の名前が取りざたされている。

同国の最高指導者だったカダフィ大佐の故郷シルトやオアシスの町バニワリドでは、依然としてカダフィ軍が投降を拒否しており、NTC軍とカダフィ軍との戦況は行き詰まっている。【9月19日 AFP】
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西部のカダフィ派拠点バニワリードやカダフィ氏の出身地シルトでのカダフィ派の抵抗は、時間をかければいずれ終息するでしょうが、内部対立は時間とともに拡大激化する危険もあります。

危うい対立軸:イスラム
暫定政府樹立協議の後、ジブリル暫定首相は「大半のポストで合意したが、いくつかのポストで、なお議論の必要がある」と述べており、外相や国防相など主要ポストの人選で意見対立があったことが推測されています。
暫定政府の発足時には、暫定大統領にあたる評議会議長にはアブドルジャリル現議長、首相にはジブリル暫定首相がいずれも引き続き就任するものと見られていますが、カダフィ政権で要職を務めた経済専門家のジブリル氏の首相就任にイスラム勢力が強く反対しているとも報じられています。

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国民の大半がイスラム教スンニ派のリビアに宗派問題はないとされるが、宗教と政治の関係は対立軸になりかねない。ジブリル暫定首相は米国留学を経験した宗教色の薄い世俗派。
一方、トリポリ軍事評議会の最高司令官ベルハジ氏は、カダフィ政権時代にイスラム過激派との関連を疑われ、米中央情報局(CIA)に拘束されたことがある。
「2人の間には、路線対立がある。背後には介入した各国勢力の存在もある」と評議会関係者は指摘する。こうした状況が、暫定政府の発足持ち越しに影響したとみられる。【9月19日 朝日】
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新生リビアにおけるイスラム勢力と台頭と、世俗主義的な国民評議会現指導部との対立の懸念については、9月1日ブログ「リビア カダフィ後の新体制 「国民統合」への険しい道 イスラム勢力の台頭」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110901)でも取り上げたところです。

イスラム勢力の中心的存在が、「トリポリ旅団」司令官で、反カダフィ派部隊の軍事的最高指揮官に等しい存在とも言われるアブドルハキーム・ベルハジ氏です。

****リビア首都制圧から1週間 国軍創設 イスラム勢力の影*****
・・・・「新しいリビアは、よりイスラム的であるべきだよ」。表情も変えずこう話すサイフッラー氏やその仲間が「シャイフ(長)」と尊称で呼び、新政権で主導的な役割を果たすと信じて疑わない人物が、同旅団の司令官アブドルハキーム・ベルハジ氏だ。

66年生まれのベルハジ氏はアフガンでの対ソ連戦を経て、90年代にリビアのイスラム国家化を目指す武装勢力「リビア・イスラム戦闘集団(LIFG)」を指導した。LIFGは、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘される組織だ。

2004年に逮捕され、09年には獄中で武装闘争路線放棄を宣言、翌年、恩赦を受けメンバー数十人とともに釈放された。LIFGに「転向」を促し、政治改革の一環としてメンバーの大量釈放を主導したのが、カダフィ氏の次男で最有力後継候補といわれたサイフルイスラム氏だった。

しかし今年3月以降、反カダフィ派と政権軍との内戦が激化すると、ベルハジ氏は銃を取り、反カダフィ派部隊とともに西部地域を転戦。8月にはトリポリ旅団を率いて最初に首都へ攻め込み、カダフィ氏の居住区があったバーブ・アジジヤ攻略戦でも「一番槍(やり)」をつけた。

26日にはいち早くトリポリで会見を開き、各部隊の指揮系統の一元化を発表。7月の軍司令官オベイディ氏の暗殺以来、分裂も指摘されてきた反カダフィ派部隊の、最高指揮官に等しい存在にのし上がった。
汎アラブ紙アッシャルクルアウサトなどによると、反カダフィ派には、戦闘経験豊富な元ムジャヒディンやLIFGメンバーが少なくとも800人参加しているとされる。その中心にいるのがベルハジ氏だ。

判事出身のアブドルジャリル議長や経済専門家のジブリル暫定首相ら文民中心の国民評議会は、新政権について、「人民主権」「市民社会の確立」といった理念を表明している。
これに対しベルハジ氏は、目指す政権像を明確にしてはいない。ただ、サイフッラー氏は「ベルハジ氏を含め、仲間の多くは親欧米的な国民評議会に失望している」と説明、イスラム色の濃い政権となるのは「当然」だと強調する。

リビアに軍事介入した欧米諸国は、イスラム勢力の台頭を警戒し、穏健な国民評議会への支援を強化してきた。だが、バーブ・アジジヤ攻略で勢いに乗るトリポリ旅団には最近、入隊希望者が急増、その人数は2千人規模に達するという。

「軍事的なバックグラウンドがなく指導力の弱いアブドルジャリル氏では、軍を統制できない」。国民評議会の下部組織、ザーウィヤ地方評議会の評議員サッディーク・アッラーブ氏(50)は産経新聞の取材にこう述べ、今後、創設される軍と、国民評議会の関係がぎくしゃくする可能性に懸念を示した。【8月30日 産経】
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イスラム民主主義
イスラムと政治の関係として、ひとつのモデルとされるのが、国民のほとんどがイスラム教徒であると同時に、世俗主義を国是とするトルコです。
最近何かと動きが活発なトルコのアルドアン首相はリビアを訪問して、自国モデルをアピールしたようです。

****イスラム民主圏へ一歩****
・・・・一方で、新生リビアの暫定政府が目指す民主化は欧米流のものとは異なる。8月に定めた暫定憲法第1条でこう寫一目する。「イスラムは国家の宗教であり、立法の源泉はイスラム法(シャリア)」に基づく」(中略)
暫定憲法は別の条文で「信教、人種、言語、富、血縁に起因する差別のない法の下の平等」もうたう。

イスラムと民主主義の両立を試み、地域外交で自信を深めるトルコのエルドアン首相は16日、リビアを訪れ、こう述べた。「国家はあらゆる宗教と等しく距離をとるべきだ。この考えはイスラムには反しない」
暫定政府が目指す「国のかたち」はエルドアン氏の助言と重なる。

トルコに加え、隣国のエジプト、チュニジアとともに地中海を囲むイスラム民主主義圈を築くことができれば「アラブの春」はさらに大きなうねりとなる。部族や地域を超えた「国民意識」を革命後も持続できるかがカギになるだろう。(後略)【9月19日 朝日】
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しかしながら、選挙で勝利を重ね、軍部を抑え込み、意気軒昂といったエルドアン首相ですが、モデルとされるトルコ内部でも、イスラムに偏重しているのではないかとの批判、今後更にイスラム化が進むのではないかとの不安が世俗主義重視派から強く出されており、イスラムと政治の関係が整理されているとは言い難い状況です。

西部ミスラタでは戦車の引き渡しを拒否
イスラムを軸とする対立以外にも、部族間・地域間の対立があります。
****リビア国造り、前途多難 部族・宗教・武器拡散…*****
・・・カダフィ政権は首都トリポリや出身地シルトを優遇するなど、国民を地域や部族などで分断し、相互監視させながら統治する手法を取った。このため、部族や地域間の対立構造を抱えているとされる。これらが今後、顕在化した場合、統合の妨げとなる可能性が出てくる。

カダフィ派軍が立てこもる西部バニワリードは、最大の部族ワルファッラの本拠だ。ワルファッラは人口の6分の1を占めるとされる。中部シルトを本拠とする少数部族カッダーファ出身のカダフィ氏は、ワルファッラの有力者らを取り込んで権力基盤としてきた。
反カダフィ派部隊はバニワリードに対し、投降猶予の期限を再三延長、さらに住民の脱出期間を設けるなど、慎重な対応を続けている。ただ、電気や水道が止まって、住民は苦境に追い込まれており、制圧後に反カダフィ派への不満が噴き出す可能性もある。

激しい戦闘が続いた西部ミスラタでは、国民評議会で東部ベンガジ出身者と首都トリポリ出身者が幅をきかせているとして、反発が高まり、評議会への戦車の引き渡しを拒否する騒動が発生。アブドルジャリル議長が10日、トリポリに向かう途中でミスラタに立ち寄り、地元有力者らに「団結」を求める一幕もあった。(後略)【9月19日 朝日】
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もちろん、カダフィ派住民や傭兵に使用されたアフリカ系住民への報復の問題もあります。
様々な内部対立に、石油利権獲得を目指す各国の思惑も絡み・・・となると、今後の舵取りは相当に難しいものがあります。
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