孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  昨年5月のイスラエル軍によるガザ支援船団急襲事件への対応をエスカレート

2011-09-10 20:53:52 | 中東情勢

(8月28日 国内宗教指導者を招いたラマダン明けの晩餐会 公の場での着用が禁止されているスカーフを常に着用しているエミネ夫人(左端)の隣男性がエルドアン首相 “flickr”より By patriarchate http://www.flickr.com/photos/patriarchate/6093790394/

謝罪を求めるトルコ、これを拒否するイスラエル
昨年5月31日、イスラエルが封鎖を続けるパレスチナ・ガザ地区への支援物資を積んだ国際支援船団が、これを阻止しようとするイスラエル軍の急襲を受け、当時のイスラエル軍発表で、活動家9人が死亡、イスラエル軍兵士7人を含む数十人が負傷、船団6隻(乗船者は計679人)が拿捕される衝撃的な事件がありました。
急襲は公海上で、ヘリコプターからイスラエル軍兵士が船に乗り移る形で行われました。

支援船団はトルコの人道支援団体を中心に組織されており、乗船者のほぼ半数がトルコ国民で、死亡した9名もトルコ人8人と、トルコ国籍と米国籍の二重国籍者1人でした。

トルコのエルドアン首相は事件翌日の10年6月1日、事件を「虐殺」としたうえで、友好国とされてきたイスラエルについて「関係は二度と修復できない」と議会で厳しく糾弾しています。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は6月2日、イスラエル軍の武力行使で船団側に9人(軍発表)の死者がでたことについて、兵士が乗員に集団暴行されたことに対する正当防衛との見解を示し、「我々は自分たちを守るために決して謝罪しない」と断言しています。
こうした、謝罪を求めるトルコ、これを拒否するイスラエルという構図はその後も続いています。

従来、トルコはイスラエルと国交を持ち、定期的に合同軍事演習を行うような関係でしたが、08年末のイスラエル軍ガザ侵攻で関係は悪化しつつありました。

****友好国トルコとの関係悪化 イスラエル、支援船拿捕****
・・・・国民の99%がイスラム教徒ながら、宗教と政治を分ける「世俗主義」が国是のトルコは、アラブ諸国とは一線を画し、イスラエルが建国した2年後の50年に国交を樹立、96年には軍事協定を締結した。トルコはイスラエルから購入した最新鋭兵器を武装組織クルド労働者党(PKK)の掃討作戦に使用。イスラエルも空軍パイロットの訓練をトルコ空域で行うなど軍事関係を築いてきた。

しかし、08年末から3週間続いたイスラエルのガザ大規模攻撃を機に関係は冷却化。イスラエル政府筋によると、同国とシリアの和平交渉を仲介していたトルコにガザ攻撃開始を事前に伝えておらず、トルコは面目をつぶされた形になったという。
09年1月末、イスラエルのペレス大統領が国際会議の場でガザ攻撃の正当性を主張すると、同席していたエルドアン首相は「あなたは人の殺し方を知っている」と激しい言葉を浴びせ議場を退席、両国の関係悪化を印象付けた。(後略)【10年6月5日 朝日】
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国連報告書:イスラエル軍の武力行使は「過剰」、ガザ封鎖は「合法」】
10年5月のガザ支援船団急襲事件は、こうした両国の関係を更に悪化させることになりました。
ただ、事件から1年以上の月日が経過するなかで、個人的にはいささか“過去のニュース”的な感を持っていました。
しかし、国連の調査委員会が、イスラエル軍の武力行使を「過剰」としながらも、ガザ封鎖については「合法」と判断する報告書を出したことで、トルコ政府がイスラエルの駐トルコ大使に国外退去を要求するなど、再び両国の緊張が高まっています。

****支援船急襲:イスラエル軍は「過剰」…国連調査委報告書*****
パレスチナ自治区ガザ地区へ向かった支援船団をイスラエル軍が急襲し、トルコ人活動家ら9人が殺害された昨年5月の事件について、国連の調査委員会はイスラエル軍の武力行使を「過剰」と判断、適切な遺憾表明と遺族への賠償金支払いを勧告する報告書をまとめた。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が1日報じた。

イスラエルはトルコへの謝罪を拒否しており、トルコ政府は2日、イスラエルの駐トルコ大使に国外退去を要求、両国関係の悪化は決定的となった。
民主化要求「アラブの春」で地域情勢が激変する中、中東最大の友好国だったトルコを失えば、イスラエルはますます孤立を深めることになる。

報告書は全105ページ。イスラエル軍による急襲を「最終警告もなく過剰で不合理」と指弾し、複数回にわたり撃たれた犠牲者もいたと指摘した。ただ、イスラエルによるガザ周辺海域の封鎖については、武装勢力への武器密輸を防ぐ「合法的な警備手段」と理解を示した。
一方、船団側にも「無謀に封鎖を突破しようとして不必要に事態の悪化を招いた」と指摘した。

報告書は「中東の安定に向け関係修復すべきだ」とイスラエル、トルコに和解勧告し、イスラエルにはガザ封鎖のさらなる緩和などを求めている。2日にも公表される見通し。

報告書が明らかにされたのを受けてトルコのダウトオール外相は2日、アンカラで記者会見し、イスラエルの駐トルコ大使に国外退去を求めたと発表。双方の大使館代表も2等書記官級に格下げとなる見通し。
トルコは昨年の急襲事件後、すでに駐イスラエル大使をトルコに帰国させている。軍事的な協力関係も全て停止するという。

国連は昨年8月、ニュージーランドのパーマー元首相を委員長とする調査委を設置。イスラエル、トルコ双方の調査を受けて関係者から聞き取りなどを実施した。【9月2日 毎日】
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国内世論向けに妥協できず
イスラエル・トルコ双方、強硬な国内世論を背景に、引くに引けない事情があります。
世の中の戦争・危機は、いつもこうした引くに引けない事情”から、次第にお互いに対応をエスカレートする展開から発生します。

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イスラエル紙ハーレツによると、ネタニヤフ首相は6月、総選挙に勝利したトルコのエルドアン首相に祝福の私信を送り、「関係修復」を模索。これとは別に、両国幹部が米国の協力で極秘に会談もしていた。
親イスラエルだったエジプトのムバラク政権が「アラブの春」で倒れ、レバノンではイスラエルを敵視するイスラム教シーア派組織ヒズボラが政権を主導するなど、「四面楚歌(そか)」のイスラエルはトルコと関係修復したいのが本音だ。しかし、国内世論向けに妥協できず、最終的に謝罪しないことを決定した模様だ。

一方、トルコにも周辺イスラム諸国との関係強化を外交の柱にする立場上、イスラム民衆の怒りを買った事件で軟化できない事情がある。このためトルコは対抗措置として、パレスチナが9月に国連で目指す国家承認決議への全面支援なども検討しているという。【同上】
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【「(イスラエルは)常に、甘やかされた子供のように振る舞ってきた」】
トルコのエルドアン首相は6日、イスラエルとの軍事・通商関係を全面的に凍結することを発表しています。
****トルコ首相、対イスラエル通商・軍事関係の全面凍結を発表****
前年5月にパレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた国際支援船団をイスラエル軍が急襲したことをめぐりトルコとイスラエルが対立している中、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン首相は6日、イスラエルとの軍事・通商関係を全面的に凍結すると発表した。

トルコのアナトリア通信によると、エルドアン首相は「われわれは通商・軍事・国防産業の関係を全面的に一時停止する」と述べ、イスラエルに対する「更なる制裁」も続くだろうと述べた。さらにイスラエルはパレスチナ問題について「常に、甘やかされた子供のように振る舞ってきた」と厳しく批判した。

エルドアン首相は更に、最終的には未定であるものの、来週予定されているエジプト訪問時に、エジプト側の境界からガザ地区に入ることについてもエジプト当局と協議中だと明らかにした。エルドアン首相のガザ地区訪問が実現すればイスラエルが猛反発するのは確実だ。

トルコは2日、トルコに駐在するイスラエルの外交官らに帰国するよう求めていた。これについてイスラエルの国防当局高官は6日、エルドアン首相による発表のわずか数時間前に、トルコの首都アンカラの大使館に駐在する国防担当大使館員を残すとともに、領事館業務は継続するとイスラエルの公共ラジオで語ってトルコの出方を探っていたが、エルドアン首相がイスラエルを厳しく批判したことで両国関係が一層悪化する恐れも出てきた。【9月6日 AFP】
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エルドアン首相は、イスラエル牽制を目的とした東地中海での海軍力増派も示唆しています。

【「アラブの春」で変わる中東の勢力図
近年、全方位外交によって地域での存在感を増してきたトルコですが、中東・北アフリカの民主化などの状況変化を受けて、その外交姿勢を修正しつつあるとの指摘もあります。

****トルコ、協調外交転換 アラブの春 立ち位置模索、断交も辞せず****
近隣諸国と全方位的に友好関係を築き、中東の地域大国として存在感を高めてきたトルコが、中東・北アフリカで相次いだ政変を受けて軌道修正に動き始めている。

リビアのカダフィ政権崩壊後、米MD(ミサイル防衛)関連施設の自国受け入れを決定、軍事面で準同盟関係にあったイスラエルには断交に近い強硬策を突きつけた。「アラブの春」と呼ばれる一連の政変で中東の勢力図が塗り変わる中、トルコは次の「立ち位置」を現実的に模索しているようだ。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)の古参加盟国として欧米との協調を重視する一方、イスラム色の強い与党「公正発展党」を基盤に2003年発足したエルドアン政権は、周辺国との「ゼロ・プロブレム(懸案ゼロ)外交」を旗印にイランやシリアとの関係拡大にも力を入れてきた。

政権が、かつてオスマン帝国の支配下にあった中東地域の国々との関係緊密化を図ったことから「新オスマン主義」ともささやかれる全方位外交を続けたのは、政治的にも経済的にも自国の立場を強化する上で得策だったからにほかならない。

トルコはイラン核問題で欧米とイラン、中東和平ではイスラエルとシリアやイランの間を取り持つなど影響力を発揮。友好関係にあったリビアをめぐっては、エルドアン首相が2月、NATOの軍事介入を「問題外だ」と批判していた。だが、カダフィ政権が崩壊、反政権運動の弾圧が続くシリアにも欧米の制裁が強まる状況で、全方位外交の限界を察したように見える。

まず、リビアの反カダフィ派代表組織「国民評議会」に3億ドル(約230億円)相当を支援。今月2日には、イランを念頭にした米MDの早期警戒用レーダーを自国に設置すると表明した。米MDの展開にはロシアも反発しており、イランとその友好国のシリア、さらにはロシアまで牽制(けんせい)した形だ。

他方、トルコは困惑する米国をよそにイスラエルにも強い態度に出ている。
2日、イスラエルとの外交関係を2等書記官の水準まで引き下げるとして同国駐トルコ大使らに国外退去を求め、両国間の軍事協力も停止すると発表。6日には武器売買の停止を含む追加制裁の方針も示し、東地中海での海軍力強化も示唆した。
これはパレスチナ自治区ガザへの支援船が昨年5月、イスラエル軍の急襲を受けてトルコ人船員9人が死亡した事件に絡み、イスラエルがトルコに謝罪を拒否したことに伴う抗議措置だ。

背景にはしかし、イスラエルにとって数少ない友好国だったエジプトで2月にムバラク政権が倒壊、両国関係が悪化していた地域情勢の変化もある。
ダウトオール・トルコ外相は制裁措置を発表した際に、イスラエルが「中東地域での巨大な変化」を把握していないと批判し、孤立化するイスラエルの立場を見越して行動していることをうかがわせた。エルドアン首相は13日にエジプトを訪問する予定で、この後ガザ地区へ足を延ばす可能性も指摘される。

汎アラブ紙のアルハヤートは、「アラブの春」によって中東地域での合従連衡が進んでおり、「ゼロ・プロブレム外交」はもはや実体のないスローガンになったとする論評を掲載した。【9月8日 産経】
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もし、エルドアン首相がエジプトからガザ地区へ入るようなことになれば、中東でのイスラエルの孤立を印象付ける大きなイベントとなります。イスラエル側の反発も大きなものが予想されます。

また、エルドアン首相は8日、カタールの衛星テレビ「アル・ジャジーラ」とのインタビューで、今後、パレスチナ自治区ガザへの支援船をトルコ海軍の艦船が護衛すると語っています。
イスラエル軍による封鎖線をトルコ海軍が護衛して突破・・・という事態は、もはや「戦争」です。
ざすがに、そんなことにはならないとは思いますが。
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