孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  天然ガスパイプライン、羅先(ラソン)経済特区などで、北朝鮮へ接近

2011-09-08 20:49:15 | ロシア

(8月24日 ロシア・ウラジストク 金正日(キム・ジョンイル)総書記は24日、ロシアのメドベージェフ大統領と会談 “flickr”より By IonP2010 http://www.flickr.com/photos/49033115@N03/6076007639/

9年ぶりのロ朝首脳会談 「率直で、中身が濃く、多方面にわたった」】
最近、ロシアの北朝鮮接近の報道が目につきます。
先月24日には、金正日総書記が訪ロし、東シベリアのウランウデ近郊にある軍施設でメドベージェフ露大統領と9年ぶりの首脳会談を行っています。

この会談で、金総書記は、6カ国協議への無条件復帰と、協議の中で核・ミサイル実験凍結に応じる用意があると表明しています。また、ロシアから北朝鮮経由で韓国に至る天然ガスパイプラインの建設についても協議されています。北朝鮮にソ連時代から残される110億ドルの対露累積債務についても、協議が再開される可能性が出てきたと報じられています。

****露朝首脳会談:金総書記「核実験凍結の用意ある*****
ロシア訪問中の北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は24日、東シベリアのウランウデ近郊にある軍施設でメドベージェフ露大統領と会談した。

チマコワ大統領報道官によると、金総書記は核問題をめぐる6カ国協議への無条件復帰と、協議の中で核・ミサイル実験凍結に応じる用意があると表明した。北朝鮮はこれまでも外務省報道官などが協議への無条件復帰を表明してきたが、最高指導者が自ら核実験凍結と合わせてロシア側に伝え、協議復帰に向けた強い意志を明確にした形だ。
ただ、大統領報道官の説明には、日米韓が6カ国協議再開の条件として要求している「ウラン濃縮活動の中断」に関する金総書記の発言はなかった。

また両者は、ロシアから北朝鮮経由で韓国に至る天然ガスパイプラインの建設に向け、協力内容を決める「特別委員会」の設置で基本合意した。首脳会談に先立ち開かれた両国実務者の協議では貿易経済・科学技術協力の政府間委員会の設置を決め、25、26両日に平壌で初会合を開くことになった。

露朝首脳会談は02年8月以来9年ぶり。メドベージェフ氏が大統領として金総書記と会談するのは初めて。(後略)【8月24日 毎日】
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核問題に関する北朝鮮側の対応は、ロシア側に会談の成果で花を持たせることで自らの立場への理解を求め、6カ国協議再開に向けた対米協議を有利に運ぶ狙いがあるとのこと。
また、ロシアによる北朝鮮の経済特区・羅先(ラソン)へのインフラ投資の計画の進展など、経済面でも成果を上げることを狙ったと報じられています。【8月24日 毎日より】

一方のロシア側については、北朝鮮の核問題をめぐる対話を率先して行い、6カ国協議再開に向けた立役者として東アジア地域での存在感を高める思惑・・・とも指摘されています。【8月25日 産経より】

両国軍首脳も会談 「関係の再構築と発展を話し合った」】
いずれにしても、この首脳会談後、ロシアと北朝鮮の関係強化の動きが進んでいるようです。
****ロシア:北朝鮮と急接近…首脳会談後 軍事、エネ実務協議****
ロシアのメドべージェフ大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記による先月24日の首脳会談を受け、両国間で関係強化の動きが活発化している。ソ連崩壊後に疎遠になっていた軍事面ではロシア軍高官が訪朝して朝鮮人民軍高官と協力関係を再確認。農業やエネルギー分野でも実務レベルの協議が本格化しており、中国に続きロシアも北朝鮮との多面的な関係構築に乗り出している。

ロシア極東を管轄する東部軍管区のシデンコ司令官は先月25日、朝鮮人民軍の李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長と会談した。ソ連崩壊後に途絶えていた艦船の相互寄港や、公海上で遭難した船舶の捜索・救援や人道目的の海上演習の実施について意見を交換し、「関係の再構築と発展を話し合った」(同軍管区)とされる。

ロシア軍は、武器供与などを禁じた国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議を尊重し、当面は決議に抵触しない範囲で関係拡大を進めていく構えだ。国営ラジオ局「ロシアの声」は、ロシアが北朝鮮との軍事交流を進める理由に「北朝鮮の政策が予見可能となることを望んでいる」ことを挙げている。(中略)

農業分野では、慢性的な食糧不足が続く北朝鮮側がロシア極東の耕作地を賃借し、野菜や穀物を栽培する構想が浮上している。アムール州内の中国国境地帯には、20万ヘクタールの未使用耕作地があるといい、州政府と北朝鮮農業省は今月1日、この問題に関する協議を始めた。

エネルギーでは、首脳会談でロシア極東から朝鮮半島に延びる天然ガスパイプラインの建設が議題となった。タス通信によると、両国は先月26日に平壌で貿易経済・科学技術協力の政府間委員会を開き、北朝鮮の崔永林(チェ・ヨンリム)首相がバサルギン露地域発展相に対し、パイプライン計画に参加する意向を伝えたという。【9月6日 毎日】
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パイプライン 「北朝鮮が前向きな反応を見せている」】
朝鮮半島を縦断する天然ガス・パイプラインの建設計画が実現すれば、北朝鮮には年間1億ドル(約76億5千万円)のガス通過料収入が見込め、韓国は安価な天然ガスを調達できるというメリットがありますが、韓国には、北朝鮮が途中でガスを抜き取ったり、ガス輸送を停止したりする不安もあります。

“実現するにしても相当な時間がかかるとされる。ロシア側には、建設構想に関する協議を進めることで朝鮮半島情勢の安定化に貢献し、北東アジアにおける存在感を高める狙いがあるようだ。”【8月24日 毎日】という状況ですが、北朝鮮側は前向きの反応を見せているとも報じられています。

****露ガス:韓国パイプライン輸入、経由の北朝鮮が前向き反応****
韓国の金星煥(キム・ソンファン)外交通商相は12日の会見で、モスクワで8日に会談したロシアのラブロフ外相が、北朝鮮を経由するパイプラインを通じてロシア産ガスを韓国が輸入する計画について「北朝鮮が前向きな反応を見せている」と述べたことを明らかにした。ラブロフ外相は「ロシアと韓国、北朝鮮による今後の協力にも(明るい)展望を持っている」と話したという。(後略)【8月12日 毎日】
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韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領とメドベージェフ大統領が共に参加する多国間会議が11月中に3回(20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、東アジアサミット(EAS))予定されており、そのなかでパイプライン問題が協議されるものと見られています。

もし実現すれば、単に資源問題だけでなく、北朝鮮と韓国を結ぶ重要ラインとして、朝鮮半島情勢に大きく影響することが予想されます。

羅先 北と中ロの思惑が一致
中国・ロシア双方に隣接するという特殊な位置にある羅先(ラソン)経済特区の方も、中ロ双方の協力によるインフラ整備が進展しています。

****北朝鮮特区・羅先、インフラ整備加速 中ロがテコ入れ****
北朝鮮が中国・ロシア両国との国境に近い経済特区、羅先(ラソン)特別市(羅先経済貿易地帯)で両国の協力を得たインフラ整備を加速させている。経済発展を求めて海外の投資を求める北朝鮮と、羅先にある羅津港を利用した物流活性化を狙う中ロの思惑が一致した。(中略)
 
中国側の狙いは、羅津港に注がれている。この道は、海に面していない中国吉林省から日本海に出る「出海通道(海に出る道)」になる。遼寧省から黄海に出るよりも時間を短縮できる大きな利点がある。

羅津港では、中ロの力を借りた開発が始まっていた。1号埠頭(ふとう)は中国が、3号埠頭はロシアが租借契約を結んだとされ、大型倉庫や建設機械があった。地元当局者は租借契約は否定したが、共同開発の事実は認めた。ロシアへの鉄路の軌道改良工事も10月までに完成するという。(中略)

北朝鮮は中ロなどに援助を求めつつも、国内のインフラ整備を任せるような経済協力には消極的だった。中国などの影響力の過度の高まりを懸念したためだ。ところが、羅先ではこうした姿勢を転換した。地元当局幹部は、「強盛大国の大門を開く」とした2012年が迫っていることが背景にあると指摘する。(後略)
 
ただ、電力不足などの問題は解決されていないようだ。宿泊した市内の「高級ホテル」(旅行業関係者)は夜中に3度、停電した。電気が十分に来ていない家も多いようで、民家からは早朝、火をおこしたかまどの煙が一斉に上がった。
同市の黄哲男副委員長は「投資をして欲しい。我々もインフラ整備をきちんと進める。やらなければならないことが多いことは分かっている」と強調した。【9月7日 朝日】
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“ロシアへの鉄路の軌道改良工事”は、羅先とロシア国境を結ぶ鉄道線路の幅をロシア側と統一する工事で、これにより、ロシアからの貨物をスムーズに羅先へ運ぶことができるようになります。
また、ロシア極東のウラジオストクと中国吉林省延吉への定期便の運航を目的とするヘリポート2か所が整備されとのことです。【9月7日 読売より】

また、羅先経済特区で働く労働者の1か月の最低賃金が80ドル(約6190円)になることが報じられています。
“月額最低賃金80ドルは、開城工業団地の63.81ドルより25%高いが、中国企業の最低賃金の半分に満たない。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、現在の中国の月額最低賃金は167ドル。中国企業は最近の人件費の高まりを受け、ベトナムやインドネシアに工場を移転する動きをみせていたが、羅先特区の低賃金は魅力的な投資要因になりそうだ。”【9月8日 聯合ニュース】とのことで、中国側のメリットも大きいようです。

パイプラインや羅先(ラソン)経済特区の他、ロシアは北朝鮮への食糧支援も活発化させています。
****ロシアが北朝鮮に穀物支援、1か月で1万8千トン****
ロシアが北朝鮮に対し、8月の1か月間で穀物1万8000トンを送ったと、米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)が7日に報じた。RFAは世界食糧計画(WFP)の報告を引用し報道した。(中略)
ロシア政府は8月初め、食糧難に陥っている北朝鮮に食糧5万トンを支援すると発表し、同19日に初の支援物資を載せた船が咸鏡南道の興南港に到着した。
一方、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、「(ロシアから)9月に、2万2000トンの小麦と小麦粉が北朝鮮に到着する予定」とWFPが明かしたと伝えた。【9月7日 聯合ニュース】
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中ロの競い合いで、双方から最大限の支援を引き出す狙い
金総書記は先月の訪ロの帰途、中国にも立ち寄っていますが、“後継体制の安定に向け、ロシアとの関係強化で中国一辺倒の対外関係を改善すると共に、中国も引き続き重視、双方から最大限の支援を引き出す狙い”【8月27日 読売】とのことです。

ただ、戴秉国国務委員との会談だけで、“金総書記は、胡錦濤国家主席など中国の最高指導部と会見せずに帰国” “将来的には、中朝が緊密なつながりは維持しつつも、普通の隣国関係に向けて変化するとの見方も出ている。”【8月28日 毎日】ということで、中国側の対応は、これまでの北朝鮮を特別扱いする扱いから変化が見られたとも。

“中露のバランスを取り、北朝鮮に対する影響力を確保したい両国を競い合わせることで、双方からより多くの経済的支援を引き出す” 【8月27日 読売】という北朝鮮の狙いがうまくいくかどうか注目されます。
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