(中国から援助によって建設されたAU会議センターの落成式 “中国から援助”ということを大々的に掲げるところが中国式で、日本的“奥ゆかしさ”とは異なるところでもあります。また、中国の援助は、こうした“目に見えやすい”箱物に集中しているとの指摘も聞かれます。 “flickr”より By The Presidency of the Republic of South Africa http://www.flickr.com/photos/presidencyza/6788254899/)
【「中国人を敵視しての犯行ではない」】
アフリカへの進出を加速する中国ですが、その中国人の拉致事件が立て続けに2件発生しています。
1件目は1月28日、中国との友好関係にあるスーダンの南部、南スーダン国境沿いの南コルドファン州で発生しています。この地域は、南スーダンとの関係で反政府勢力と政府軍の衝突が続いている不安定なエリアです。
中国人作業員29名が反政府勢力に拉致されましたが、すでに安全な場所に移動し、健康状態は良好だとのことです。
****世界で多発する中国人拉致事件、スーダンにも救助隊派遣―米メディア****
2012年1月31日、スーダンの反政府武装勢力により中国人作業員らが拉致された事件で、中国側はスーダン政府に対し正式な抗議を申し立て、作業員救出のために救助隊をスーダンに派遣した。米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ(中国語版)が伝えた。
中国外交部の謝杭生(シエ・ハンション)副部長は31日、スーダン駐中国代理大使と面会。スーダンの反政府組織が28日、スーダンの南コルドファン州にある中国企業を襲撃し、29人を拉致したことに抗議を表明した。
中国国営通信・新華社は、謝副部長がスーダン代理大使・アハマド氏に対し、作業員らの安全の確保を要求し、中国政府が在外邦人の安全確保を最重要視していることを申し入れたと報道。謝副部長はまた、スーダン政府に対し、他の中国人作業員や中国企業への安全対策を要求した。
また、31日には中国からの救助隊がスーダンの首都・ハルツームに到着したことを明かしている。犯行に及んだスーダン人民解放軍(SPLA)の広報担当がケニアのナイロビで新華社の電話取材に応じ、中国人作業員はすでに安全な場所に移動し、健康状態は良好だという。
スーダン国内の報道によれば、拉致された中国人作業員のうち18人はすでに安全な場所に避難しており、首都ハルツームに向かっているという。だが、逃げ出した作業員のうち、1人の行方はわかっていない。今回の人質拉致事件はスーダンと強力な友好関係にある中国との間に大きな亀裂をもたらした。中国はスーダンにとって、最大の石油輸出国である。(後略)【2月2日 Record China】
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南コルドファン州知事は、拉致事件は中国企業が進めている、地元住民にとって“数十年来の夢”である道路建設阻止を狙った犯行だと指摘しています。
一方、犯行グループとされる「スーダン人民解放運動・北部(SPLM-N)」幹部は、「SPLM-Nは中国や中国人に反対しているのでは決してない。中国人労働者の安全を保証し、解放する」と述べ、中国人を敵視しての犯行ではないとしています。【1月31日 JP.EASTDAY.COMより】
「政府軍との激烈な戦闘を行った。中国人作業員の安全を考え移送した。拉致したのではない」との説明もされているようです。
2件目は、1月31日、エジプト・シナイ半島のセメント工場で起きています。
国営新華社通信は1日、在エジプト中国大使館の話として、全員が解放されたと伝えています。
****ベドウィンが中国人技術者25人を拉致、エジプト****
エジプト治安当局者によると、同国シナイ半島で31日、セメント工場で働く中国人技術者25人がエジプトのベドウィン(遊牧民)に拉致された。25人は同半島中部のレーフェン地区にあるセメント工場に向かう途中で拉致された。
ベドウィンらによると、25人を現在レーフェンのテント内で拘束し、周囲の道路も封鎖している。イスラム武装勢力「Al-Tawhid Wal-Jihad」が2004年から06年の間に行った一連の爆弾攻撃のうち、04年のリゾート地タバでの攻撃に関連して拘束された親族5人の釈放を要求している。(後略)【2月1日 AFP】
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【「事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いため」】
中国人作業員拉致事件が頻発することについて、中国・環球時報は、“事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いため”と解説しており、スーダンの拉致事件についても“内政不干渉の立場を取る中国は大多数のスーダン人に支持されている”としています。
****中国人29人がスーダンで拉致=海外で襲撃事件が多発、原因は不安定地域への進出―中国紙****
・・・・事件の絶対数こそ増加しているものの、中国からの年間5000万人という出国者数から見れば、中国人が事件に巻き込まれる割合が高まっているわけではない。専門家は、事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いためだと分析する。
中国は発展途上国との協力プロジェクトを重視しているが、社会制度が整わない国では、動揺が起こった際に中国人が被害者になる可能性がある。同地域では昨年の南スーダン独立により、石油などを巡って南北の問題が複雑化しているという背景がある。
中国企業は現地でインフラやエネルギー分野の協力に従事するケースが多い。西側諸国がスーダンに対し長期的制裁を行う一方で、内政不干渉の立場を取る中国は大多数のスーダン人に支持されているが、国内には意見の異なる政治集団も存在する。身代金目的の可能性も排除できないが、今回の拉致事件はスーダン政府あるいは中国政府に対し、何らかの政治的要求をする目的で行われた可能性が高い。
中国政府は海外での中国人保護体制の拡充を進めるとともに、進出企業に対しては普段から現地政府、国民と良好な関係を構築するよう呼びかけている。【1月31日 Record China】
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【「中国はアフリカとの新型戦略パートナー関係を推し進めていく」】
資源確保・関係強化を狙った中国のアフリカ進出が急ピッチで進んでいることは周知のところで、今回の連続した拉致事件は、紛争地域をも厭わない中国進出の現状を明らかにしています。
そうした努力の成果で、中国はアフリカ最大の貿易パートナーになっています。
****中国、2011年のアフリカ最大の貿易パートナーに―中国メディア****
2012年1月30日、中国とアフリカの2011年の貿易総額は1600億ドル(約12兆2000億円)を超え、中国はアフリカにとって最大の貿易パートナーとなった。人民日報(電子版)が伝えた。
中国の孫海潮(スン・ハイチャオ)駐中央アフリカ大使が27日、中国・アフリカ関係説明会および新春記者招待会で明らかにした。アフリカに投資する中国企業も2000社を超えたという。
また、賈慶林(ジア・チンリン)全国政協主席が29日、エチオピアで開幕した第18回アフリカ連合(AU)首脳会議に出席したことを挙げ、「中国の指導者が辰年最初の訪問先にアフリカを選び、AU首脳会議に出席しことは、中国とアフリカの『新型戦略パートナー関係』の深化と発展途上国の団結・協力に重要な意義を持つ」と指摘した。 (中略)
孫大使は「2011年は中国とアフリカにとって大きな発展の年となった」とし、「国際情勢がどのように変わっても、中国はアフリカとの新型戦略パートナー関係を推し進めていく」と強調した。【1月30日 Record China】
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上記記事にもある、AU首脳会議に出席した賈慶林全国政協主席は、過去にAU首脳会議に参加した中国高官の中で最高位です。
また、中国はAU会議センター建設に2億ドル(約153億円)を援助し、更に、AUへの今後3年間で6億元(72億円)の追加無償援助を表明するといった力の入れようです。
“賈氏は(AU会議センター)落成式で「センターは新世紀の中ア関係が発展を深める象徴だ」と述べ、AU議長のヌゲマ赤道ギニア大統領は「アフリカには『建物は愛の表現』という言葉がある」と応じた。”【1月30日 朝日】
【「嫌われる理由」:経済分野におけるルール無視や生活面での悪い習慣】
ただ、こうした中国のアフリカ進出に対し、人権問題や民主化を無視した、みさかいのない資源目当ての進出といった批判的な論調が欧米側にはあります。
また、中国からのモノ・人・カネの流入が、地元住民の生活向上に繋がっていない、地元民・地元社会を無視している・・・との、アフリカ現地での批判もあります。
この「嫌われる中国人」のイメージについて、09年末に中国側からのリポートが公表されています。
****欧州でアフリカで「ひどく嫌われる中国人」…祖国の政府「なぜだ」****
中国政府・僑務弁公室はこのほど、国外における中国系住民のイメージを扱ったリポート「海外同胞の文明的イメージを樹立するための調査研究」をまとめた。経済分野におけるルール無視や生活面での悪い習慣が中国系住民のイメージを損ねているなど、「嫌われる理由」を分析した。
中国系住民のイメージが特に悪いのはイタリア、スペイン、フランス、英国、南アフリカなど比較的発達した国で、最近になり中国系住民が増えたという共通点があるという。
同リポートは、「中国系住民はグループ同士での“内輪もめ”を激化させている」、「現地社会に溶け込むことも不十分」とも指摘。「少数の人間の犯罪行為が、中国系住民全体のイメージを著しく傷つけることになる」と論じた。
リポートは一方で、「かつて生きるために海外に渡った中国系住民は、みずからの忍耐強い努力を続けた。現地に根づき、生業では絶え間なく発展を続け、素質そのものを向上させてきた。法律概念も高め、現地社会にも貢献するようになった」と指摘した。
世界全体での中国系住民について、「中国の発展と国際的な影響力の向上にともない、急速に地位が向上」、「経済的実力を強め、素養も高い新たな中国系住民のイメージが形成されつつある」と楽観的な見方を示した上で、「一部の国と地域で、中国系住民のイメージは再び、危機的状況になっている」と警戒した。
中国外交部領事局の魏葦局長は7月、「国外で中国系住民に絡むトラブルが発生した場合、かなりの案件が、中国系住民自身が招いた問題だ。否定できない」と述べた。主な問題点は「個人また中国系企業には法律意識が欠けており、商業道徳に違反する。現地社会ときちんとした関係を構築することができず、現地の風俗習慣にも無頓着。管理が粗暴で現地人従業員をないがしろにする中国系企業もある」ことなどという。【09年12月17日 Seachina】
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【「アフリカにとって中国は敵ではない」】
ただ、植民地支配の過去がありながら人権問題や民主化を振りかざすフランスなどに比べたら“まだまし”との地元評価もあるようです。
****敵か味方か――アフリカと中国は真のパートナーになれるか*****
アフリカで急増する中国人の“お行儀の悪さ”が問題になっている。(中略)
先日もアフリカ南東部にあるマラウイ共和国で起きた、現地の中国人に矛先を向けた暴動が話題になった。
「マラウイの中心街では中国人資本の店が襲撃された。みんな中国人にはいい感情を持ってない。ローカルの商売がどんどん潰され、地元民は我慢の限界に来ている」
一方、それはアフリカの西にあるマリ共和国にも共通していた。上海在住のマリ人はこう話す。
「街を走るのは中国製の安いバイク。中国人の商売人がやってきて、ありとあらゆる中国製の工業製品を売りつける。安い中国製に地元資本は利益が取れなくなっている」(中略)
「彼らのやり方は“オール・バイ・チャイニーズ”、中国政府が中国企業を進出させ、そこに中国人をも派遣させる。我々ローカル市民の出る幕がない」――アフリカ人の不満はこんなところでも高まっている。
ビジネス以外に「非道徳的行為」も流入
一方、中国資本がアフリカに持ち込むのは「中国式ビジネス」だけではない。これまで地元にはあり得なかった「非道徳的行為」まで持ち込んで、社会問題を引き起こしている。
ラブホテル経営や風俗もそのひとつだ。中心街の高級マンションの空き室をフロアごと借り上げ、こぎれいに内装して時間貸しする。その新手のビジネスは妻帯者を含めた富裕層や若者がターゲット。昔はなかったこのモラルハザードに、信仰ある人々や社会全体が批判の矛先を向けている。
また、不動産の賃貸をめぐっては、中国人は「群租」という独特の賃貸のやり方をアフリカに持ち込んだ。群租というのは、ひとつの大きな部屋を借りてそれを賃借人がさらに複数名に転貸するやり方で、中国では経営者が外省出身の従業員の宿舎などに使うためによく使う手でもある。
「中国人を相手に契約をしたら、なんとその家に20人の中国人を詰め込んできた」と慌てふためくアフリカの不動産オーナー。ケアが行き届かないどころか、家の劣化が早くなってしまうと、これもまた地元から顰蹙を買っている。
地元経済を崩壊させてしまうどころか、法律も道徳もまったく意に介さない、そんな中国人の経済活動に対し、現地では強い不満の声が高まっているのだ。
しかしその中国との関係をばっさりと切ってしまうわけにはいかない。なぜならアフリカにとって中国は、真の敵ではないからだ。
アフリカの複雑な対中感情
「アフリカにとって中国は敵ではない。なぜなら、アジアの国は我々を奴隷にしたことも植民したこともないからだ。中国はアフリカになくてはならないパートナーだと思っている」(中略)
彼のように中国の存在を好意的に受け止めるアフリカ人は少なくない。いまだ西欧による植民地支配が実質的に残存しているアフリカでは、どの国民も西欧の影響からの脱却を切望すると同時に、「誰が本当のパートナーか」を思考しないではいられないのだ。
人権問題や民主化を振りかざしながらも、その実資源ほしさに戦争をしかけてくるフランスなどは論外のようだ。今回のリビアへの空爆に向けるアフリカ人の怒りは強く、ポストカダフィのリビアは、再びフランスの経済植民かと懸念もされている。
他方、昨今資源外交をたくましく展開させ、国際メディアから「資源略奪」として叩かれている中国だが、むしろアフリカ人たちはこの中国に対してはまったく別な感情を抱いているのだ。
(中略)
「タダでやってくれる」有り難い存在
さて、2000年代に入ると、中国の対アフリカ経済進出はいよいよ加速をつける。中国企業のアフリカ進出は土木建設プロジェクトの請負という形での進出が大きな割合を占め、その進出は07年以降本格化し、受注するプロジェクトは大型化するようになっていた。(中略)
だが、アフリカ人たちはその中国を「資源の略奪だ!」と頭ごなしに批判してはいない。
上海在住のアフリカ人ビジネスマンは次のように話している。
「貿易自由化や人権問題を振りかざしながら借款を提供しようとする西欧とは異なり、中国はなんでもタダでやってくれる」。
なんら交換条件を求めないこの“中国方式”が歓迎される一方で、中国国家主導のフリカ進出が持っている“利益度外視の経営”という側面も歓迎されている。厳しく利益を追求する西欧のやり方とは決定的に異なるのだ。アフリカ人たちは中国を、アフリカの経済力をカバーして発展につなげてくれる存在とも受け止めている。
また何より、奴隷貿易、植民地支配をした歴史がないというだけで、もはや中国は真の敵ではないといえるだろう。反帝国主義、反植民地主義、民族自決は共通の思いだ。
“中国の経済進出”による民間経済の浸食とモラルハザード、それに片目をつぶってでも中国をパートナーに選ばざるを得ないアフリカの複雑な事情が浮き彫りになる。
前出のアドゴニー氏は次のように続ける。
「我々には金やレアメタルがある、だがトランスファーする技術がない。その需要と供給をうまく満たすためにも、アフリカはアジアと手を握るべきだと思っている」
中国・上海のアフリカ人コミュニティからは、「アフリカのカギはアジアにある」という強いメッセージが発信されている。そこには「地元資本との共存共栄をもたらせるのは日本だ」という期待も垣間見られる。日本はアフリカとどんなパートナーシップを結ぶのか。単にアフリカ=貧困と見るのではない、新しい向き合い方が求められている。【11年9月23日 DIAMONDonline】
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かつて周恩来は「日本には戦略がない」と批判したそうですが、そのあたりは今も同様です。