(昨年12月12日のプーチン支持派の集会 手にした紙には“In Putin we trust”“Russian democracy is not a fake”“I hate oranges”のメッセージが。“orange”とは、04年にウクライナの大統領選挙で不正があったとして選挙結果に抗議して起きた野党主導による民主化運動「オレンジ革命」のことでしょう。プーチン支持派は、反プーチン派が「オレンジ革命」を標榜しプーチン政権の打倒をもくろんでいると批判しています。“flickr”より By hegtor http://www.flickr.com/photos/yuri_timofeyev/6499162275/ )
【静かで固いプーチン支持層も街頭に】
2月4日のモスクワでは、3月4日のロシア大統領選挙まで残り1カ月ということで、反政権側、プーチン支持派それぞれが大規模な集会を開催しています。
****親プーチン対反プーチン、集会合戦*****
「プーチンは退任せよ。政権は我々の声を無視している」。反政権デモの主催者の一人、リベラル派「国民自由党」のルイシコフ氏は集会でこう繰り返した。
「公正な選挙を」と書いたプラカード。シンボルカラーの白いリボン。参加者らは都心を約1.5キロ、大統領府クレムリンの方向へと行進した。目指したのは、下院選の不正疑惑に怒り、ソ連崩壊後で最大規模の反政権集会の会場となった昨年12月と同じボロトナヤ広場だ。
警察発表で3万6千人と過去2回の集会を超える人たちが集まった。主催者側は「12万人」としている。
声を上げる都市中流層を引っ張るのは政治家ばかりではない。ロシアを代表するブロガーや作家、音楽家たちも奔走している。反プーチン集会には、こうしたリベラル派だけでなく、国家主義者や過激なマルクス主義者など右派から左派まで合流している。
「今の政治状況は退屈。とにかく新しく変わってほしい。プーチン支持の集会も開かれているけど、いろんな主張があるのはいいことです」。会社員のマリア・クズネツォワさん(21)は、こう話した。
「台風の目」はプーチン支持派の集会だった。会場の戦勝公園に13万8千人(警察発表)が集まった。「カオスはいらない」などのスローガンで強調したのは「安定」。2000年に大統領に就いたプーチン氏がもたらした実績だ。
「ロシアの愛国者」のコルネエワ副代表は、主催者の狙いを代弁するかのように「我々は(ソ連崩壊で混乱した)1990年代に戻りたくない」とイタル・タス通信に語った。
静かで固いプーチン支持層が街頭に出た形だが、教師や労働者に動員がかかったとも伝えられていた。選挙まで、あと1カ月。政権側が「数」を見せつける手を打った可能性が高い。【2月5日 朝日】
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【政権の「正当性」確保が課題】
昨年12月の下院選での不正疑惑から、成長する中流層を中心に、反プーチンの声がこれまでになく高まってはいますが、有力な対抗馬もいないことからプーチン首相の逃げ切り・大統領復帰が確実視されています。
****露大統領選:政権の正当性焦点 逃げ切り図るプーチン氏****
ロシア大統領選(3月4日投票)を1カ月後に控え、プーチン首相は反政府デモのうねりにさらされながらも「逃げ切り」で大統領復帰を果たす構えをみせている。だが昨年12月の下院選で浮上した不正疑惑は解消されないままで、プーチン氏にとっては大統領選で政権の「正当性」を確保できるかが大きな課題となっている。
プーチン首相は1日、選挙監視員候補との会合で「決選投票の準備はできている。恐れることはない」と話し、第1回投票で過半数に届かない可能性に初めて言及した。一方で「(決選投票は)政局の不安定化につながる」と指摘し、あくまで“一発当選”を目指す考えを示した。4日にモスクワ中心部で行われたプーチン支持派の集会では参加者が「ロシアの安定を守れるのはプーチン氏だけだ」と気勢を上げた。
ロシアの世論調査機関「世論基金」が1月28、29日に実施した調査によると、大統領選でのプーチン氏の支持率は46%。下院選直後の42%から持ち直している。これとは別の「全ロシア世論調査センター」の最新調査では、プーチン氏の支持率は52%と過半数に。政権側が下院選後、地方首長の公選制復活や政党登録条件緩和など一定の政治改革の道筋を示したことがプラスに影響しているようだ。
大統領候補5人のうち「政権を担えるのはプーチン氏以外にない」という消極的支持もある。ジュガーノフ、ジリノフスキー、ミロノフの3氏は「万年野党の古い政治家」とみなされており、唯一の新顔、プロホロフ氏も新興財閥として国民の拒否反応が強い。民間世論調査機関「レバダセンター」の1月下旬の調査によるとプーチン氏の支持率は37%だが、「大統領になるのはプーチン氏」と考える人は78%に上った。
プーチン首相は1日の会合で、「大統領選は公正かつオープンに行われ、結果は客観的なものになる」と強調した。投票所へのウェブカメラ設置や透明な投票箱の導入を打ち出し、下院選の不正疑惑が大統領選に波及しないよう配慮している。下院選では特に地方で与党「統一ロシア」を利するための露骨な選挙違反が目立ったが、ボロージン大統領府副長官は今回、地方首長に不正を戒める通達を出したとされる。
しかし、政権側が下院選で批判を浴びたチューロフ中央選管委員長を留任させたことで、国民の多くが選管への信頼を失っている。リベラル系野党ヤブロコのヤブリンスキー前代表が有権者200万人の署名を集めたにもかかわらず、選管が名簿の不備を理由に大統領選への立候補を却下したことへの反発も根強い。レバダセンターの世論調査によると、大統領選が「公正に行われる」と答えた人は49%にとどまった。大統領選で不正行為が相次ぐ事態になれば、プーチン氏が当選しても「正当性」が揺らぐのは避けられない。【2月5日 毎日】
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【“勝ち方”によっては不正疑惑再燃も】
政権の「正当性」確保が最重要課題ということで、プーチン首相の“勝ち方”が注目されています。
第1回投票での“一発当選”を目指すとは言いつつも、ぎりぎり過半数での辛勝は不正疑惑批判を再燃させかねず、それぐらいなら決選投票で圧勝した方がまし・・・との見方もあるようです。
ただ、第1回投票での数字次第では、その力の陰りを云々されることになりますので、痛し痒しというところです。
****プーチン氏、「勝ち方」焦点 避けたい「1回目で辛勝」****
・・・・・プーチン氏に対抗する有力候補がいない大統領選。焦点は「勝ち方」だ。
3月4日の投票で過半数に届かなければ、上位2人が25日の決選投票に臨む。
全ロシア世論調査センターが3日に発表した調査では、プーチン氏に投票するとした人は52%。ジュガーノフ共産党委員長、ジリノフスキー自民党党首を大きく引き離し、一発当選の可能性がある。
とはいえ、50%をギリギリ超えるのはプーチン氏にとって最悪のシナリオでもある。12月の下院選と同様に選挙の不正を問われ、内外から再登板の正統性に疑問符を付けられかねないからだ。
2000年代のプーチン政権時に、旧ソ連のグルジアやウクライナで政権交代が起きた「カラー革命」も、もとはといえば開票結果に市民が反発したのが引き金だった。野党勢力はすでに、3月4日の投票後の大規模集会を計画している。
このため、「反プーチン集会」が求める「公正な選挙」はプーチン氏にも重みを増す。政権は、ロシア全土で約9万4千カ所ある投票所の大半にウェブカメラを設け、インターネットで見られるようにする計画だ。署名の不備があるとして立候補を拒まれたリベラル政党「ヤブロコ」のヤブリンスキー氏陣営や、知識人らによる「有権者連盟」からも選挙監視に参加させる方針も示した。
さらに、「双頭体制」を組むメドベージェフ大統領が選挙改革法案を相次ぎ提出し、プーチン氏は経済の選挙綱領で「国家の課題は、育ちつつある中流層の資金を枯らさないことだ」とも明記。集会の軸となっている都市部の中流層を意識する姿勢を見せた。
政治学者のパブロフスキー氏は、プーチン氏の第1回投票での当選は政治的なリスクが高いと見る。「政権の正統性を得られず、国のコントロールができなくなる。決選投票で55~60%を得て勝つ方が国際的な認知も得やすい」
プーチン氏は1日、選挙監視を希望する若手の法律家らとの対話の席で、「決選投票になれば、政治的に不安定になることが避けられない」としつつ、決選投票にはっきりと言及した。「その準備はできている」【2月5日 朝日】
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【「国のトップを目指す人間が討論で代理人を立てるなんて世界中どこにもない」】
選挙で圧勝して政権の正当性を誇示したいプーチン首相ですが、本人はテレビ討論会に出ず代理人が参加するそうで、プーチン首相の“選挙”や“有権者”に対する基本的考え方が窺えます。
****プーチン氏、静かな戦い=TV討論拒否、政策寄稿―ロ大統領選****
3月4日のロシア大統領選まで1カ月を切った。復帰を目指す前大統領のプーチン首相は、昨年12月の下院選の不正疑惑に抗議するデモの活発化とは対照的に、静かな選挙戦を展開。各候補者とのテレビ討論会を拒絶した上で、新聞に「政権公約」を次々と寄稿し、持ち直した支持率を失点なく維持したい考えだ。(中略)
政権与党「統一ロシア」は下院選で議席を大幅に失ったものの、選挙戦を率いたのはメドベージェフ大統領で、プーチン氏の責任は限定的。さらに、対抗馬に強敵がいないと見るや、年明け早々「本人はテレビ討論会に出ず、代理人が参加する」(側近)方針を打ち出し、各候補からは「有権者軽視だ」(ミロノフ前上院議長)などの声が上がった。
その一方で、プーチン氏は1月16日、23日、30日と新聞各紙上に論文を掲載。「今後10年で貧困問題を解決する」「不法移民対策を強化する」などと、有権者受けする政策を発表している。【2月5日 時事】
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6日の討論収録にプーチン首相は代理として女性政治学者をよこしたそうで、これにジリノフスキー候補は「プーチンの脳みそが政治学者の頭の中に入っているとでもいうのか」と怒ったとか。もっともな怒りです。
****プーチン氏、TV討論に代打 他候補激怒「コメディー」*****
3月4日が投票日のロシア大統領選に向け、候補者同士のテレビ討論が始まった。だが、返り咲きを目指すプーチン首相は公務を理由に出演を拒否。専門家を代理出席させる。
「これは討論じゃなくてコメディーだ」。民族右派「自由民主党」党首として立候補しているジリノフスキー氏は地元メディアに怒りをぶちまけた。2月6日夜、同氏はプーチン氏とテレビ討論を行う予定だったが、収録に現れたのは女性の政治学者。「プーチンの脳みそが政治学者の頭の中に入っているとでもいうのか。滑稽だ。国のトップを目指す人間が討論で代理人を立てるなんて世界中どこにもない」と同氏は話す。
首相の報道官は、首相は公務を空けてまでテレビ討論に出席することはないとし、「その分の時間を有権者のために自身の選挙公約を仕上げることに使う」と説明している。過去の大統領選でも、プーチン氏やメドベージェフ大統領は討論への参加を拒否してきた。【2月7日 朝日】
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日本にも国民の前に出たがらず、もっぱら裏で策を弄することを好む有力政治家がいますが、国民に自分の言葉で訴えようとしない政治家は、その一点で“民主主義における政治家”とは言い難いと考えます。
プーチン首相は選挙戦多忙のため、次期首相と目されている中国の李克強(リー・カーチアン)副首相のロシア初訪問を断ったそうです。
“李副首相は今月、初めてロシアを訪問し、プーチン首相、メドベージェフ大統領と会談する予定だったが、ロシア側から「大統領選を控えたプーチン首相が多忙で時間が取れない」と伝えられたため、訪問を取りやめたという”【2月2日 Record China】
まあ、忙しいのは間違いないようです。