孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン 公認された米無人機攻撃と国軍タリバン支援 ザルダリ大統領の不思議な長期政権

2012-02-03 21:50:51 | アフガン・パキスタン


(パキスタンの支援で、米軍のアフガニスタン撤退後の復権を狙うタリバン “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6806132149/in/photostream

【「パキスタン軍が拘束することは不可能だろう」】
アフガニスタン及びパキスタンに関することで、今まで事実としては広く知られていたものの、公式には明らかにされていなかったふたつの事柄が改めて公表・公認されました。

ひとつは、パキスタン北西部の部族地域に潜伏するアルカイダに対し、アメリカが無人機を使った攻撃を行っていることです。
オバマ大統領がネット中継のインタビューに参加したユーザーの質問に答える形で認め、「使用には細心の注意を払っている」と説明したそうです。【1月31日 時事より】

****オバマ米大統領、パキスタン領内での無人機攻撃を認める****
バラク・オバマ米大統領は30日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの戦闘員掃討を目的に、米国の無人機がパキスタン領内で攻撃を行っていたことを認めた。
オバマ大統領がグーグルプラスやユーチューブのチャットで、ユーザーから米軍無人機について尋ねられて答えたもので、米政権がパキスタン国内での無人機攻撃を正式に認めたのは初めて。

ユーザーの質問に対し、オバマ大統領は「多くの攻撃がFATA(パキスタンの連邦直轄部族地域)で行われている」と答え、「アルカイダの工作員らはパキスタン軍の手が届かない場所に点在しており、パキスタン軍が拘束することは不可能だろう」と説明し、ほぼ無法地帯化している部族地域が対象となっていることを認めた。

■無人機攻撃で反米感情高まる
米政府関係者らは、10年におよぶアフガニスタンでの戦闘で、パキスタンの部族地域がタリバンや欧米攻撃を画策するアルカイダなどの潜伏地になっていると主張している。

米政府はこれまで無人機による攻撃の事実を公式に認めてこなかったが、オバマ政権がアフガニスタンに駐留する外国軍の2014年末までの完全撤退を目指す中、無人機による攻撃は急増している。
一方のパキスタン政府も、国内での反発をよそに米軍の無人機攻撃に同意してきたと理解されている。実際、2004年以降、アルカイダやタリバンの工作員や戦闘員ら多数が無人機攻撃で死亡した。

だが、無人機攻撃に反発するパキスタン国民の間で反米機運が高まり、ことに前年11月に米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍による誤爆でパキスタン軍兵士24人が死亡したことで、反米感情はさらに高まった。
米軍とNATOは、この誤爆の原因はNATOとパキスタン軍側双方の不十分なコミュニケーションと、過失が重なったことだったと結論づけた。しかし、誤爆は意図的なものだったと主張しているパキスタン側はこの調査結果を受け入れていない。

パキスタン政府は米国との同盟関係を見直しているほか、アフガニスタンに通じるNATO軍の補給路を2か月前から閉鎖している。さらに、米中央情報局(CIA)による無人機の攻撃拠点とみられていたバルチスタン州シャムシ空軍基地からの米部隊の撤退を要求した。パキスタンは補給路の再開にあたって、輸送物資に特別税を課すことを条件にするとみられている。【1月31日 AFP】
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無人機攻撃自体は周知の事実ですが、NATO軍誤爆事件で補給路が閉鎖されているように、パキスタンとの関係が極めて悪化しているこの時期に公表された理由はわかりません。
それにしても、ネット中継、チャットの質問への答えで・・・というのが、いかにもアメリカ的です。入念な下準備があっての問答でしょうか?

これまでは、国民の強い反米感情や主権侵害に絡むパキスタン軍の面子もあって公にはされてきませんでしたが、軍部との対立で窮地に立たされているザルダリ政権にとってはプラスにはなる話ではないでしょう。
アメリカへの抗議姿勢も見せないといけないでしょう。これまでの黙認についての国民世論からの批判もあるでしょう。

補給路遮断で代替ルート輸送費急増
NATO軍補給路閉鎖問題について、上記記事では、輸送物資に特別税を課すことを条件に再開の可能性が報じられていますが、代替ルートで輸送コストが急増しているNATO、アメリカ側としては、多少の特別税なら・・・というところでしょうか。

****アフガン米軍、輸送費急増 パキスタンが補給路遮断****
アフガニスタンに展開する米軍の物資輸送費が急増している。最大の補給ルートが通るパキスタンが、国際治安支援部隊(ISAF)による越境攻撃で自軍兵士に犠牲が出たことに抗議して、輸送を遮断。遠回りの補給路を使わざるを得ないためだ。この状態が続けば、アフガンでの作戦に影響が出るおそれもある。

パキスタンは2001年、米国主導の対テロ戦争への協力を表明して以来、隣国アフガンに展開する米軍やISAFへの補給路を提供してきた。南部カラチ港を起点に、北西部のカイバル峠を越えてアフガンのカブールへ入るルートと、パキスタン南西部からアフガン南部カンダハルへ向かう二つのルートがあった。

いずれも、外国軍部隊を敵視するタリバーンなど武装勢力の活動が活発な地域を通るため、08年には北西部ペシャワル近郊でトラックターミナルが襲われ、160台以上が焼き打ちに遭うなど、攻撃にさらされてきた。
米軍などは代わりに、ロシアなどからウズベキスタンを通ってアフガン北部へ入るルートの整備を急いだが、なお3割がパキスタン経由だった。

パキスタン側が協力姿勢を一転させたのは昨年11月末。ISAFの越境攻撃で同国の兵士24人が死亡した事件の報復措置として、物資輸送を遮断。武装勢力掃討作戦に携わる米軍無人偵察機の出撃拠点となっていた南西部の空軍基地に駐在する米政府要員の撤収を要求した。米国側は昨年12月、要員撤収に応じたが、無人機攻撃は今月上旬に再開した。

代替ルートとなるウズベキスタン経由は輸送距離が長く、米軍は空輸も増やしたとされる。AP通信は19日、米国防総省から得た情報として、1カ月間で約1700万ドル(約13億円)だった輸送費が、約1億400万ドル(約80億円)と約6倍に跳ね上がった、と報じた。

パキスタンが再び通過を認めるかどうかは不透明な情勢だ。越境攻撃について、米側が昨年12月に出した調査報告書で、「パキスタン軍が先に仕掛けた」「適切な自衛行為」と結論づけたことに、パキスタン側は強く反発。仮に通行を認める場合でも、輸送路の維持管理に多額の費用がかかっているとして、通行料を求めることも検討している。

米国防総省は公式には軍事作戦に影響はないとの立場だ。カービー副報道官は「補給路が恒久的に閉鎖された場合、輸送費は2.5倍になるとの試算があるが、現時点では大幅なコスト上昇は関知していない」と指摘した。パキスタン政府が3月に補給路を再開するとの報道もあるが、カービー氏は「まだ最終決定は聞いていない」とし、閉鎖の長期化に懸念をにじませた。
一方、輸送路通行止めのあおりで、アフガンへ食料品を運ぶ民間トラックにも影響が出始め、アフガン側の市場で鶏肉の価格が上がるなど、庶民の生活にもしわ寄せが出ているという。【1月29日 朝日】
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内陸国アフガニスタンにとって、パキスタン経由の輸送は物流の大動脈であり、“アフガンへ食料品を運ぶ民間トラックにも影響”というのが懸念されます。

【「パキスタンはタリバン幹部の居場所を把握し、絶えず操っている」】
最近明らかにされたもうひとつは、パキスタンによるタリバン支援です。
こちらもかねてより広く指摘されていたところではありますが、今回、NATOの内部報告書という文書の形で報告されたそうです。
ただ、NATO軍スポークスマンによれば、NATOとしての分析報告ではなく、拘束されたタリバン兵士の供述報告だとのことです。
パキスタン軍としては、公には認められないことですので、当然否定しています。

ただ、いつも思うのですが、アフガニスタンでの戦闘のパートナーであるべきパキスタンが、闘っているタリバンを支援している最大スポンサー・黒幕であるということを、当のアメリカはどう考えているのでしょうか?
パキスタン軍としては、先の無人機攻撃にしても、このタリバン支援しても、公にはしたくない問題でしょう。

****パキスタン今もタリバーン支援」 NATO報告書指摘****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンが今もパキスタンから支援を受けている、と北大西洋条約機構(NATO)の内部報告書で指摘されていた。英BBCなどが1月31日伝えた。パキスタン側はこの報道内容を否定した。

パキスタンの情報機関、軍統合情報局(ISI)がタリバーンを支援しているとの指摘はこれまでも繰り返されてきた。ただBBCは、両者の関係が文書で明らかになったのは初めてとしている。
報告書は、拘束した4千人以上のタリバーン兵らに尋問して作られた。パキスタンはタリバーン幹部の居場所を把握し、絶えず操っていると記している。【2月1日 朝日】
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パキスタンのタリバン支援は、米軍撤退後のアフガニスタンにおいて、インドに対抗する形で自国の影響力を行使するため・・・というのが大きな理由とされています。
パネッタ米国防長官は1日、アフガニスタン駐留米軍の戦闘任務を13年半ばから後半までに終了させ、アフガニスタン治安当局の訓練や支援に任務を切り替える考えを明らかにしていますが、パキスタンのタリバン支援が変わらない限り、アフガニスタンの安定は難しいように思われます。

ザルダリ大統領の政権維持の秘訣
安定しないのはアフガニスタンだけでなく、パキスタンのザルダリ政権が軍部・司法によって追い込まれていることは、これまでも取り上げたとこです。
ザルダリ大統領の汚職疑惑をめぐり、最高裁は2日、大統領を訴追しない姿勢を示しているギラニ首相を法廷侮辱罪で13日に起訴すると決定したとのことで、いよいよ“正念場”を迎えています。

****最高裁、ギラニ首相起訴へ=ザルダリ政権、正念場―パキスタン****
パキスタン最高裁は2日、ギラニ首相が最高裁の命令に反し、ザルダリ大統領の過去の汚職疑惑に対する捜査再開を拒否しているとして、同首相を13日に法廷侮辱罪で起訴する方針を明らかにした。ギラニ首相が今後、有罪を宣告されて失職する事態も現実味を帯びており、ザルダリ政権は正念場に立たされた。

最高裁はギラニ首相の起訴によって、ザルダリ政権と対立を続けている軍部を事実上、側面支援し、本格的な政治介入に乗り出したことになる。ザルダリ大統領は支持率低迷にあえぎながらも、政権を維持しているが、今後は野党の早期辞任要求など圧力が強まると予想される。【2月2日 時事】
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もっとも、党内基盤も弱く、軍部の支持もない、国民的人気が高いとも言えないザルダリ大統領がここまで持ちこたえていることの方が不思議です。その思いは私だけではなかったようです。

****ピンチ連続一転 長期政権 パキスタン・ザルダリ大統領の謎****
軍や最高裁との対立が絶えず、国民からの支持も低いといわれるパキスタンのザルダリ政権が、発足当初の多くの予測に反して長期政権になる可能性が出てきた。ザルダリ大統領の政権維持の秘訣(ひけつ)は何か。

 ◆下院をがっちり確保
「2008年9月の大統領就任時、3カ月はもたないと思われていたのに。彼は強運だ」と、政治・軍事アナリストのタラト・マスード氏は驚きを隠さない。
同国の文民政権は1970年代のズルフィカル・アリ・ブット政権以来、任期を満了したことがない。ときには軍事クーデターの前に倒れ、多くが短命に終わってきた。ザルダリ大統領-ギラニ首相のコンビは政権発足から4年目に突入し、同国では長期政権の域に入っている。

ザルダリ氏は、2007年12月に暗殺されたベナジル・ブット元首相の夫で、「偶発的に大統領になった」と揶揄(やゆ)される人物だ。ブット首相時代には、夫の立場を利用して賄賂を手にしたとして「ミスター10%」の悪名で呼ばれた。1996年にブット氏が失政や腐敗を追及されて首相の座を追われる直前に汚職容疑などで逮捕され、8年間収監された。

「ザルダリ氏の強さのカギは現在の下院の勢力にある」と語るのは、主要英字紙ドーンのコラムニスト、シリル・アルメイダ氏。下院は大統領を罷免できるが、ザルダリ氏が長男のビラワル・ブット氏とともに共同総裁を務めるパキスタン人民党(PPP)を中心とする与党勢力は強く、罷免に必要な下院3分の2以上の賛成は得られない状況にある。

 ◆冷静さと敵への嗅覚
ザルダリ氏は政治的なサバイバル能力も備えている。アルメイダ氏によると、野党の攻撃にも冷静さを崩さず水面下で対応し、同国で繰り返されてきた“恩讐政治”もやらない。アルメイダ氏は、「これらは誰もが知らなかったザルダリ氏の能力」と表現し、その結果、「ザルダリ氏は物事を動かすのに必要な51%の支持を獲得することができる」と話す。

一方、マスード氏は、「ザルダリ氏は敵の強みと弱みを見抜き、相手に先んじて動くことができる」と分析する。例えば、軍についてザルダリ氏は(1)国際社会は軍政を受け入れない(2)軍は武装勢力との戦いで手いっぱい(3)最大野党は軍による政権転覆を支持しない-という“弱み”を把握している。その上で、軍を試す挑発的な発言を行い、軍が反発すれば一歩退き、また挑発を繰り返して、「軍とうまく対峙(たいじ)してきた」(マスード氏)という。

 ◆現在の敵は最高裁
そんなザルダリ氏がいま最も気をもんでいるのが、最高裁がザルダリ氏の過去の汚職事件の審理再開手続きを進めるよう政権に要請していることだ。「現職大統領には免責特権がある」と、これを拒否するギラニ首相が有罪判決を受け、失職する可能性もある。だが、マスード氏は「どう転がっても政権が倒れることはないだろう」とみる。

「初の政権の任期全うと、次期総選挙での再勝利を目指している」(アルメイダ氏)とされるザルダリ氏。3月の上院選はPPPの勝利が有力視されており、勝利すれば、仮に年内の実施が噂される解散・総選挙があっても政権にとって追い風となる。
ただ、「パキスタンは不可解なことが起きる国」(アルメイダ氏)。長期政権の見通しを覆す事態が起こる可能性も排除できない。ザルダリ氏の「強運」が引き続き試されることになりそうだ。【1月30日 産経】
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“3月の上院選はPPPの勝利が有力視”というのも、日頃の不人気ぶりからすれば意外なことです。
ザルダリ大統領の打たれ強さ・粘り腰は、超短期政権が続く日本は見習うべきかも。

いずれにしても、パキスタン国軍のタリバン支援など、奇々怪々なパキスタン情勢ですが、国内政局も同様です。
ザルダリ大統領がギラニ首相起訴をどのように凌ぐのか・・・注目されます。

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