孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イランとアメリカ 互いの牽制のなかで、緊張緩和の兆しも

2012-02-11 21:38:57 | イラン


(1月26日 EUの原油輸入停止を牽制して、新型中距離ミサイルの発射実験をホルムズ海峡で行うイラン艦艇 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6764819401/in/photostream 

【「今春にも(イスラエルが)イランの核関連施設を攻撃する可能性が高い」】
核兵器開発疑惑で緊張が高まっているイランとアメリカなどの関係は、基本的には相変わらずです。
経済制裁を続けるアメリカがイラン産原油を輸入する国の金融機関を対象とした制裁措置を昨年末に導入し、イラン側の資金源を断とうとするのに対し、イラン側はホルムズ海峡封鎖や一部EU加盟国への原油輸出の停止をちらつかせる形で、互いに相手が折れるのを待つチキンレースの様相です。

そうした中で、イスラエルのイラン攻撃の時期も話題となっています。
米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、イグネイシアス氏は、「イスラエルは4月か5月、または6月にイランを攻撃する可能性が高い」とパネッタ米国防長官が考えているとの記事を発表。
パネッタ長官は詳細は述べていませんが、記事内容を否定せず、イスラエルの行動をめぐる憶測は深まっています。

当のイスラエルは、イランからの報復ミサイル攻撃への防御を想定した実験を行うなど、イランを牽制する動きも見せています。

****ミサイル迎撃システム試験成功=イランをけん制か―イスラエル****
イスラエル国防省は10日、弾道ミサイル迎撃システム「アロー」の標的捕捉試験を地中海上で米国と共同で行い、成功したと発表した。同システムはイランからのミサイル攻撃への防御を想定しているとされ、実験はイランをけん制する狙いがあるとみられる。
国防省は声明で「今回の実験は、増大する弾道ミサイルの脅威を打ち破るイスラエルの能力に信頼性を与えるものだ」と主張した。【2月11日 時事】
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イラクやシリアでの“実績”があるイスラエルですが、全土に点在し、地下化が進んでいるイラン核施設攻撃は、イスラエルの軍関係者らも含めて「空爆は極めて困難」との見方が多いようです。

****イスラエル、イラン単独攻撃論再燃 制裁強化狙う****
イスラエルの対イラン攻撃論が再燃している。パネッタ米国防長官の分析とされる「今春にもイランの核関連施設を攻撃する可能性が高い」との情報を、米国メディアが流したのがきっかけだ。イラクやシリアの施設を攻撃した「実績」もあり、欧米との対立を深めるイランの情勢が、さらに複雑化しかねない。

「イランは核爆弾4発を製造するのに十分な量のウランを持っている」。イスラエルの軍情報部門トップ、アビブ・コハビ氏は2日、地元イスラエルのヘルツェリアで開かれた国際会議で、こんな見方を示した。イランの最高指導者ハメネイ師が指示さえすれば1、2年で核爆弾を準備できると見ている。

これにヤアロン首相代理兼戦略担当相の発言が重なる。「すべての核施設は攻撃可能だ」。強調したのはイランのあらゆる核関連施設を破壊する能力だ。
実際イスラエルは1981年6月、イラクの首都バグダッド近郊のアルツワイサで、核開発が疑われていたオシラク原子炉を戦闘機で攻撃して破壊。2007年9月には、シリア北部のデリゾール地方にあった核関連とされる施設を秘密裏に空爆している。

イランの核関連施設は全土に点在し、地下化も進んでいるとされる。イスラエルの軍関係者らも含めて「空爆は極めて困難」との見方が多いものの、バラク国防相は2日、「制裁で核開発を止められないなら行動を検討する必要がある」と指摘した。
単独攻撃の可能性をちらつかせて国際社会からの制裁を強めるほか、対イスラエルの武装闘争を続けるイスラム組織ヒズボラやハマスへのイランの支援を絶つ狙いがあるとみられる。(後略)【2月6日 朝日】
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【「イスラエルは決断していないと考えている」】
一方、イスラエルの後ろ盾となるアメリカも、同盟国8か国と共に、米東海岸で軍艦25隻を動員し、イランを仮想敵国に見立てたとみられる大規模な揚陸演習を実施しています。
この演習には、米軍約2万人の他、英、仏、オランダ軍から数百人、伊、スペイン、ニュージーランド、オーストラリアから連絡将校が参加し、米海兵隊員のホバークラフトでの上陸なども実施されています。

****米東海岸で9か国大規模揚陸演習、対イラン戦を想定*****
・・・・演習シナリオは、架空の神政国家「ガーネット」に侵略された北側の隣国「アンバーランド」が反撃するために国際支援を求めているという設定。沿岸地域の「トレジャーコースト」が舞台で、港湾には機雷が仕掛けられ、沿岸には対艦ミサイルが配備されているという状況下での上陸を想定している。

沿岸域の機雷に対艦ミサイル、小型艇配備といえばイラン海軍を想起させるが、ハービー司令官ら演習司令部は、特定の国を想定したシナリオではないと否定している。【2月9日 AFP】
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また、イランの地下核施設攻撃を想定した、超大型地下貫通型爆弾(MOP)の貫通力増強のための費用を国防総省が求め、これを上院が承認しています。【2月11日 時事】

こうしたイラン牽制の一方で、オバマ政権としては、実際にペルシャ湾で軍事行動が起こり原油価格が高騰するような事態は極力避けたいのが本音で、イスラエルに自制を促す動きも見られます。

****対イラン、武力行使疑問視 米大統領「イスラエルの決断ない****
オバマ米大統領は5日、NBCテレビのインタビューで、イスラエルはイランの核施設への攻撃を「決断していないと考えている」と述べ、イランの核兵器開発の阻止に向けて、問題を「できる限り外交的」に解決するためにイスラエルと歩調を合わせていると強調した。

米国とイスラエルは表面上「強固な関係」を誇示しているが、中東和平交渉で足並みが乱れるなど、最近は関係のきしみが目立つ。ネタニヤフ首相の3月訪米も決まり、オバマ政権がどこまで、イスラエルに自制を促せるかが注目される。
大統領はインタビューで軍事行動も排除しない姿勢に改めて言及したが、ペルシャ湾での軍事行動は原油価格に「破壊的」な影響をもたらすと指摘し、現時点での効果を疑問視した。
(中略)
米国は原油高騰による世界経済の混乱などを懸念してイラン攻撃を自制するよう促しているが、イスラエル側は攻撃の事前通知の有無も含め、曖昧な回答を繰り返しているとされる。
背景には、オバマ大統領とネタニヤフ首相の「そもそもそりが合わない」(中東外交筋)とされる関係も指摘されている。ロイター通信によると、今秋に大統領選を控えるオバマ氏が米国内の親イスラエル団体の離反を恐れ、ネタニヤフ首相の強硬姿勢に対抗できないとの見方も強まっている。

一方、イスラエル政府は5日、3月上旬にネタニヤフ首相が親イスラエル団体の総会に出席するため訪米すると発表。首脳会談も行われる見通しで、双方の温度差をどこまで解消できるかが、今後のイラン情勢の大きなカギとなりそうだ。【2月7日 産経】
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緊張が緩和の兆しも
イラン側の状況としては、食料品の価格高騰、輸入医薬品の高騰・不足など、欧米の経済制裁による国内経済への影響が深刻になっていることが報じられています。
ただ、イラン国内では核開発はイラン固有の権利というのが国民・政治家を含めた一般的コンセサスでもあり、“「欧米は『イラン国民を敵視するわけではない』というが、うそだ」。主婦は怒りの矛先を自国の政府ではなく、制裁を強める欧米諸国に向けた。”【2月8日 朝日】といった、制裁を強める欧米への反発も強まっています。

もっとも、イランとしても、最新鋭の武器を持つイスラエルやアメリカとの軍事衝突となって敗れれば、イスラム体制の崩壊につながりかねませんので、“イラン指導部は、最悪の事態を回避する「落としどころ」を探っている模様だ。”【2月6日 朝日】といったところです。

アメリカ・オバマ大統領の「イスラエルは(イラン攻撃を)まだ決断していない」との発言に呼応して、イラン側も「ホルムズ海峡封鎖」などの警告を控え、イラン国会の強硬派議員が提案していた「欧州連合(EU)諸国への原油輸出禁止措置」も決定を先送りしているというように、暴発を避けたい“緊張が緩和の兆し”も見られています。

【「大統領が将来的に体制変革をもくろんでいるのでは」】
そうした一方で、最高指導者ハメネイ師との不仲が伝えられるアフマディネジャド大統領と、ハメネイ師やラリジャニ国会議長を中心とする反大統領派との権力闘争が伝えられています。

****イラン:権力闘争激化 反大統領派、体制変革を警戒****
イランと米国の極度の緊張が緩和の兆しを見せる中、3月の国会議員選挙を前に、イラン政界で主導権争いが激しさを増してきた。アフマディネジャド大統領に対し、イスラム体制の最高指導者ハメネイ師やラリジャニ国会議長を中心とする反大統領派は「大統領が将来的に体制変革をもくろんでいるのでは」と勢力伸長を警戒しており、利権争いも絡み、生き残りをかけた政争の様相を示している。

昨年末から高まった両国の緊張に対し、オバマ米大統領が5日、米メディアに「イスラエルは(イラン攻撃を)まだ決断していない」と述べ、外交による問題解決の重要性を強調した。今年11月の大統領選で再選を目指すオバマ氏はイランとの軍事衝突を望んでおらず、今後もイスラエルに自制を求めていくとみられる。
こうした動きに呼応し、イラン側も「ホルムズ海峡封鎖」などの警告を控え、イラン国会の強硬派議員が提案していた「欧州連合(EU)諸国への原油輸出禁止措置」も決定を先送りしている。

緊張緩和の動きと並行するように、イラン内政は混迷を深める。国営放送によると、反大統領派は今月7日、近く大統領を呼び、経済政策などの「不正」を問うことを決めた。反大統領派の先頭に立つラリジャニ議長は「大統領は国会を軽視している」と再三批判。大統領への喚問が実現すればイスラム革命(79年)以来初めてで、国会選挙を控えた大統領派のイメージダウンが狙いだ。

イラン政界は、改革派が力を失う中、保守派内が大統領派と反大統領派に分裂。反大統領派はさらにラリジャニ議長らのグループや、革命防衛隊のレザイ元最高司令官らのグループに分かれ、綱引きを展開する。
石油や天然ガスが豊富なこの国で、政界の関心は対外関係より莫大(ばくだい)な利権に向く。利権確保は政界の主導権と裏表の関係だ。

アフマディネジャド大統領は来年8月で任期が切れるため、側近のマシャイ元大統領府長官に後継させる意向で、2人はともに非聖職者。
マシャイ氏は10年12月に、文化規制を強める聖職者を念頭に「音楽を理解せずに、反イスラム的だと言う人たちがいる」と批判して物議をかもし、聖職者が嫌う在外イラン人との交流にも積極的だ。多くの聖職者や周辺の政治家らはこうした動きを「(聖職者が握る)現体制への挑戦」ととらえ警戒する。
近づく国会議員選挙は、次期大統領候補の支持基盤固めとしても重視され、各派閥の争いが過熱している。【2月11日 毎日】
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アフマディネジャド大統領は、そのエキセンントリックな反米的言動の一方で、現実主義者というか有権者の意向を重視したポピュリストでもあります。
少なくとも、宗教的権威や血筋・家柄ではなく“選挙”という民主主義に権力の基盤を置いている点では、イランのアフマディネジャド大統領の立場は、アメリカのオバマ大統領とそう大きくは違いません。
妥協できる点はあると思いますが、問題は両国の国内政治事情がそうした“弱腰”“譲歩”を認められるか・・・というところです。

市場、日本政府の動向
万一、ホルムズ海峡封鎖といった有事になれば、原油価格は150~200ドルにも達するのでは・・・とも見られていますが、ここ3カ月ほどはWTI原油先物は100ドルを挟んだ展開が続いています。
イラン危機は以前からの言及されている要素で、すでに織り込んだ価格水準でしょうが、素人考えでは、“ホルムズ海峡封鎖”云々という割には落ち着いているようにも思えるのですが・・・。

当然、原油価格が150~200ドルなんてことになれば日本経済は危機的状況にもなりますので、政府もその点については十分に検討・準備していますから、国民としては安心していられます。

****イラン問題「戦闘想定した議論必要」 首相が答弁****
野田佳彦首相は10日の衆院予算委員会で、イランと欧米諸国の緊張が続いていることについて「戦闘状態の時は(日本には)限界があるかもしれない。その前や後に何ができるかの議論は当然しておかなければいけない」と述べた。イランへの経済制裁が軍事制裁に発展した場合も想定し、日本の対処方針を検討する考えを示したものだ。

イランがホルムズ海峡封鎖の可能性に言及していることについて、首相は「外交的、平和的な解決が基本だが、ホルムズ海峡は日本にとって非常に重要なところだ。エネルギー源(の輸入)を頼っている。何か起こった時の想定はしなければいけない」と語った。自民党の西村康稔氏に答えた。【2月11日 朝日】
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