(「死に体」とも評されるアフマディネジャド大統領(左)と、失脚したものの復権も報じられるラフサンジャニ元大統領(右) 今年4月頃の写真のようです。もちろん互いの腹のうちは笑顔とは別物でしょう。国営イラン労働通信より)
【「この国はレバノン(のヒズボラ)は助けても国民は助けない」】
(「死に体」とも評されるアフマディネジャド大統領(左)と、失脚したものの復権も報じられるラフサンジャニ元大統領(右) 今年4月頃の写真のようです。もちろん互いの腹のうちは笑顔とは別物でしょう。国営イラン労働通信より)
イランのマルジェ・バヒドダストジェルディ保健相は13日、イラン北西部で11日に発生した2回の地震で、306人が死亡、3037人が負傷したと発表、死者の大半は女性と子どもでした。
この地震翌日に早々に捜索を打ち切り、状況を正確に伝えることもなく、海外からの援助も断るイラン政府の対応に、住民の不満が高まっています。
****イラン地震:捜索打ち切りに怒り…被災者「救助足りない」****
イラン北西部タブリーズ近郊で発生した大地震で、イラン政府の救援対応の遅れや事態を正確に伝えない国内メディアに不満が高まっている。
犠牲者は13日夕時点で306人に上るが、政府は地震翌日の12日夜、早々に「捜索活動完了」を宣言。実際には多くの村で救助の手が足りず、住民はがれきの中を手作業で捜索に当たっていた。救援物資も行き届かず、被災者たちは政府の対応に怒りの声をあげている。
タブリーズ近郊の山間にあるバジェバジ村(人口約500人)では、住民38人が死亡した。農業を営むアフマディさん(40)は倒壊した住宅を数時間かけて素手で掘り起こし親戚の少女(15)を救出したが、既に死亡していた。
村人たちは夜通し総出で捜索活動を続け、ほぼ丸1日たった12日午後、1歳の子供を抱えた女性や高齢の男性を救出した。だが全員、絶命していたという。「早く救助隊が来ていれば助かったはずなのに」。口々に憤る住民たち。12日に国軍や民兵組織バシジの兵士ら約60人が来たが、視察しただけで何もしなかったという。ある男性住民は「この国はレバノン(のシーア派民兵組織ヒズボラ)は助けても国民は助けない」と皮肉を込めて怒った。(中略)
イランのナッジャル内相は地震翌日の12日夜の国営放送で「捜索救助活動は終了し、避難所や食糧確保に当たっている」と発表。海外からの支援の打診も拒否した。一般に、災害発生から72時間以内であれば生存可能性は一定程度認められる。海外の一部メディアなどは、発生翌日の「捜索終了」は早すぎると疑問を投げかけている。
一方、国内のメディアは地震の実態を伝えない。体制に近い保守系紙は地震発生翌日の朝刊も、地震の記事を1面に掲載しなかった。被災地の状況を伝えるテレビ報道は少なく、国営ラジオは「救助隊が発生1時間後に助けに来た」などと、好意的な住民の声を中心に伝えている。
イランは核開発問題で米欧諸国から相次ぐ経済制裁を受け、国民の不満が次高まっている。地震がさらなる不満要素にならないよう被害を最小限に見せる意図がありそうだ。【8月13日 毎日】
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こうした政府の姿勢への批判が高まったことで、海外支援を受け入れる受け入れることへ方針を変更しましたが、敵対するアメリカからの支援は断っています。
****イラン、地震で米国支援を拒否 国内では政府批判強まる****
イラン北西部で300人以上が死亡した地震への対応をめぐり、イラン内務省のガダミ次官は15日、米国からの支援の申し出を断ったことを明らかにした。イランのファルス通信が伝えた。当局は、人命救助をはじめとする対応に批判を浴びて外国の支援受け入れに転じたが、核開発問題で対立する米国にはかたくなな姿勢を貫いた。
米ホワイトハウスは地震発生翌日の12日、「支援を提供する用意がある」との声明を発表していた。だが、ガダミ氏は「米国の申し出は善意に基づいていない。本当に助けたいのならば、(核開発に対する)制裁を解除すべきだ」と指摘し、「そうすれば我々は医薬品が買える」と語った。
イランは当初、「自力で対処できる」(赤新月社のファギヒ総裁)として外国の支援を断ったが、批判が噴出し、14日に一転して受け入れを表明していた。【8月16日 朝日】
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また、イラン核開発に対する欧米の制裁によって国内では食料品などの価格が高騰を続けており、「制裁と無能な政府がこんな状況にしたんだ」といった政権批判が強まっています。
【「ハメネイ師はアフマディネジャド氏を信頼していない」】
一方、アフマディネジャド大統領は、最高指導者ハメネイ師の信頼を失い、議会内でも同じ保守派の反大統領派が多数を占める状況で、「死に体」とも言われるように求心力を失いつつあります。
来年6月には大統領選挙が予定されていますが、保守派内部の反大統領派からアフマディネジャド大統領を牽制する声が強まり、更には大統領制廃止も議論されています。
****イラン国会「選挙任せぬ」 政府の不正を懸念****
大統領選を来年6月に控えたイランの国会(定数290)で、政府に選挙管理を任せられないとする声が噴き出した。大統領派と反大統領派の「権力闘争」が背景にある。国会は大統領制の廃止も検討する予定で、任期1年を切ったアフマディネジャド大統領の「死に体」ぶりを印象づけている。
イランでは内務省が選挙実務を仕切る。憲法で大統領の3選は禁止されており、アフマディネジャド氏は立候補できないが、反大統領派は、同氏の後継候補が有利になるよう内務省が結果を改ざんしかねないと懸念する。2009年の大統領選では、不正を訴える大規模暴動が起きた。
国会が8日に公表した議事録によると、反大統領派の筆頭格、ラリジャニ国会議長は「内務省とは別組織を設けて選挙を担わせるか、その組織が内務省を監視する方法がある」と発言。大統領派のタジェディニ議員は「政府とイスラム体制を弱めようとするものだ」と猛反発した。
選挙結果は、イスラム法学者らで組織する護憲評議会がチェックするが、その評議会も「選挙管理を別組織に任せることはできる」(キャドホダイ報道官)という姿勢だ。
アフマディネジャド氏は05年の初当選後、中断していた核開発を再開。米国やイスラエルを挑発する発言を繰り返し、国際社会で孤立した。昨年は情報相人事をめぐり最高指導者ハメネイ師とも対立し、国内で「(体制からの)逸脱勢力」と非難された。今年3月の国会議員選では、インフレを抑制できない政府を批判した反大統領派が7割以上の議席を占めた。
約300人が犠牲になった11日の地震への対応をめぐっても、被災地選出の議員は「政府の危機管理は最悪だ」とこき下ろした。発生翌日、内務省が生存者の救出作業を打ち切ると発表したことなどへの反発とみられる。
元政府高官は「ハメネイ師はアフマディネジャド氏を信頼していない」と言い切る。ハメネイ師は昨年10月、大統領制廃止の可能性を示唆した。国会はすでに1989年まで続いた議院内閣制の導入を検討する委員会を設置。10月から本格的に議論を始めると伝えられている。【8月16日 朝日】
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記事にもあるように、アフマディネジャド大統領自身の出馬はありませんが、大統領選挙後の政界引退の意向も報じられています。
****イラン大統領:今期で引退「学問の世界に戻る」****
イランのアフマディネジャド大統領は独メディアに対し、「13年の大統領選後は、学問の世界に戻る」と語り、政界を引退する意向を明らかにした。イランでは法律上3選が禁止され、現在2期目の大統領は次期出馬が不可能だが、政界から距離を置くことを明言したのは初めて。
イラン政界では、大統領に反発する宗教的、対外強硬的な勢力が拡大しており、大統領が政界から退けば、そうした流れがさらに加速する可能性がある。
独紙フランクフルター・アルゲマイネ日曜版(17日付)の取材に対し、大統領は来年8月の任期満了以降は「大学で政治にかかわるかもしれないが、政治グループに所属したり、新設することはない」と語った。また、ロシアのプーチン大統領のように一時的に退いた後に復帰する可能性については「(2期)8年間で十分だ」として否定した。
アフマディネジャド氏は05年に初当選して09年に再選。当選前はテヘラン市長と同時に大学教授だった。米国やイスラエルに対する過激な発言から、欧米は「保守強硬派」として敵視してきたが、実際には欧米への譲歩も模索しているとされる。【6月17日 毎日】
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【「制裁を招いたアフマディネジャド氏に代わり、ラフサンジャニ師に期待するハメネイ師の意思を代弁したもの」】
欧米から嫌われているアフマディネジャド大統領ですが、現在議会の多数を制している保守派・反大統領派の強硬姿勢に比べると、欧米との妥協も可能な現実主義的な側面もある政治家でもあります。
アフマディネジャド大統領より更に現実主義で経済重視の立場に立つのが、前回大統領選挙で改革派のムサビ元首相を支持して失脚したラフサンジャニ元大統領です。
そのラフサンジャニ元大統領が最近復権しつつある・・・との報道がありました。
****失脚のイラン元大統領、復権? 危機下に待望論****
失脚が伝えられたイランのラフサンジャニ元大統領が、国内メディアに相次いで登場するようになった。米国と欧州連合(EU)の追加制裁で経済の危機が懸念される。現実路線で知られるラフサンジャニ師が、事態打開に向けて復権したとの見方もある。
国連安全保障理事会常任理事国などとの核協議が不調に終わった直後の6月22日、メヘル通信は「我々は団結する必要がある」というラフサンジャニ師の発言を報道。国営テレビも5月末、新国会の宣誓式でアフマディネジャド大統領と隣り合って座る姿を伝えた。
保守穏健派のラフサンジャニ師は、2009年の大統領選で改革派のムサビ元首相を支持。最高指導者ハメネイ師の不興を買い、イスラム教金曜礼拝の導師として人前に立つことはなくなった。昨年3月には最高指導者の任免権を持つ専門家会議の議長を退任。別の公的ポストは維持しているが、政界での力を失ったとみられていた。
最近のメディアの変化について、イラン政府元高官は「制裁を招いたアフマディネジャド氏に代わり、ラフサンジャニ師に期待するハメネイ師の意思を代弁したもの」と分析する。ラフサンジャニ師は1989~97年の大統領在任中、欧米との対話を志向する現実路線を敷いた。
ラフサンジャニ師が指導部内で影響力を強めれば、「ウラン濃縮の一時停止に応じるなど核協議で柔軟になる可能性はある」(地元記者)との見方もあり、今後のイランの変化が注目される。【7月3日 朝日】
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制裁で経済運営が行き詰っていることから、経済に明るく現実主義的なラフサンジャニ元大統領への期待・・・ということですが、どうでしょうか?対欧米ではアフマディネジャド大統領以上に強硬な反大統領派が中心的な現在のイラン政界で、本当にラフサンジャニ元大統領復権があるのでしょうか?
まあ、復権のためなら、改革派とでも、保守強硬派とでも、誰とでも手を結ぶような現実主義的なイメージがあるラフサンジャニ元大統領ではありますが。
【「男性のネクタイまで規制するとはうんざりだ」】
最近のイラン国内の状況を伝える記事が2本。
****イラン:「西洋文化の象徴」ネクタイ販売 取り締まり強化****
イランの警察当局が、ネクタイを販売する洋服店の徹底的な取り締まりを強めている。イラン政府はこれまでも、ネクタイは「西洋文化の象徴」として敵視してきたが、販売は容認していた。宗教界の影響力の高まりを受け服装規制を厳格化する当局に対し、市民や商店主から反発の声が上がっている。
イスラム革命(79年)以降、反欧米を掲げるイランでは、官僚や政治家らは一切ネクタイを着用しないのが慣習。それでも私的なパーティーでは好んで着用する市民もおり、販売は許されてきた。
当局は今年5月末以降、ネクタイを販売する洋服店の一斉取り締まりを開始。テヘラン中心部の洋服店店主の男性(30)によると、販売すれば罰金や3〜6カ月の営業停止処分にするとの通達があり、店頭から自主的にネクタイを撤去したという。
男性店主は「当局は、女性の服装にもうるさいが、男性のネクタイまで規制するとはうんざりだ。これがイスラム共和国(イラン)のやり方だ」と不満をぶちまけた。【6月25日 毎日】
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****イラン裁判所、飲酒の2人に死刑判決 人権団体は反発****
イラン北東部ホラサンラザビ州の裁判所が、酒を飲んだとされるイラン人2人に死刑を言い渡した。イラン学生通信が24日伝えた。飲酒を理由とした死刑がイランで執行されたケースはないが、最高裁が支持すれば刑は確定する。人権団体は反発している。
イスラム教国のイランでは、飲酒は厳禁。法律は3度目に逮捕されれば死刑もあり得ると定める。ただ、国際社会の批判を考慮してか、罰金刑やむち打ち刑にとどめているのが現実だ。
死刑判決について、ホラサンラザビ州の司法当局者は「2人は飲酒を繰り返し、逮捕は3度目となる」と正当化した。2人の性別や名前、逮捕日、一審判決日などはいっさい明らかにしていない。【6月26日 朝日】
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