孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

尖閣諸島・竹島を巡って高まる日本・中国・韓国の緊張 周辺国へも影響

2012-08-18 23:07:02 | 東アジア

(2010年5月29日 韓国・済州島で開かれた日中韓首脳会談 “flickr”より By GreenDominee http://www.flickr.com/photos/green_leader/4651411607/

反日行動に抑制的な中国の対応
尖閣諸島の香港活動家上陸問題については、上陸を徹底的に阻止すれば、器物損壊や公務執行妨害容疑による逮捕に発展しかねないため、野田政権は早期決着の道を選択しました。
2010年の菅政権当時、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕。これに中国側が反発し、政権は処分保留で釈放、菅政権は「弱腰外交」の批判を浴びる・・・という悪夢の二の舞を避けたということでしょう。

中国側も秋の党大会での指導部交代を控えて非常に「敏感」な時期にあり、反日行動が反政府行動に火をつけるような事態は避けたいという思惑から抑制気味の対応となり、早期決着で日中双方の利害が一致したようです。

もちろん中国国内のネット世論には過激な反日の意見が溢れています。(恐らく日本国内のネットも同様でしょう)中国政府はこうした反日感情の暴走を警戒しています。

****中国、反日デモ抑制の構え ネット呼びかけ次々削除****
尖閣諸島に上陸して逮捕された活動家ら14人が強制送還される見通しになったことで、中国政府は「事態の複雑化は避けられる」(日中外交筋)と判断し、高まりつつあった市民の反日感情が暴走しないよう引き締めを図る構えだ。

北京の日本大使館前には16日朝から10~30人前後のグループが断続的に現れ、日本に対する抗議の声を上げた。上海や山東省青島の日本総領事館でもそれぞれ20人余りが抗議に集まったが、いずれも多数の警察官が取り囲み、過激な動きを抑えた。

中国のネット上では2010年の一連の反日デモの皮切りとなった四川省成都市など各地で抗議集会や反日デモの呼びかけが広がっているが、これも次々と書き込みが削除されている。【8月17日 朝日】
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****尖閣問題>日本と全面戦争なんて馬鹿げている、今はそんな時代ではない―中国紙****
2012年8月17日、中国共産党機関紙・人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題をめぐり、中国と日本が全面戦争で解決を図ろうとするのは馬鹿げていると論じた。以下はその概要。

大国間が戦争という手段で領土紛争を解決する時代は終わった。中国と日本が全面戦争で釣魚島(尖閣諸島)問題を解決しようとするのは馬鹿げている。両国のネット上では「開戦しろ」といった過激な意見も出ているが、ほとんどの国民はそんなことは望んでいない。もちろん、両国政府の選択肢に戦争が入るわけがないだろう。

だからといって、中国が日本に妥協するという意味ではない。むしろ全く反対である。今日の「保釣」(尖閣防衛)の局面は我々が懸命に作り上げてきたものだ。日本側に逮捕された14人を救い出すために今できることは、日本に厳正な態度で圧力をかけることである。衝突を激化させない姿勢がかえって問題解決を早め、この局面を救うことになる。

中国の釣魚島(尖閣諸島)に対する戦略は今のところ、成功だといえる。我々は現実とよく向き合うべきだ。理想主義のスローガンに流されて、何も進展していないと勘違いすべきではない。力強く釣魚島(尖閣諸島)の領有権保護という方向に向かって進んでいこう。どんな時も決して後退はしない。国民よ、どうか自らの立ち位置と環境をよく見極め、「前進」と「後退」の違いを理解してほしい。【8月18日 Record China】
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西安では18日、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の中国領有などを主張する若者ら数百人が反日デモを行っています。“公安当局は若者らの間で高まる愛国感情に配慮し、過激化しない範囲で反日デモを容認した形”【8月18日 時事】とのことですが、このデモも“夕方までには警官隊が出動し、沈静化した。大きな混乱は伝えられていない”【同上】とのことです。

野田政権の、上陸を許したうえでの強制送還という対応には、国家主権侵害を許したとして、また、今後同様の行動が頻発することになるとして、与野党から批判も強いようですが、尖閣諸島は日本側が実効支配しており、中国側も公式見解は別として、実態としてはことさらに尖閣を問題化させようという姿勢ではない現状からすれば、問題が大きくなることを避けるのは現実的な対処と思われます。

李明博大統領の言動には韓国内にも懸念・異論も
韓国の李明博大統領の竹島上陸や、天皇への謝罪要求などの対日批判発言については、野田政権は国際司法裁判所(ICJ)への提訴、日韓の通貨交換(スワップ)協定の見直しの検討、韓国の国連非常任理事国立候補を支持しない・・・といった具体的対抗策を講じる動きを見せています。
韓国側には、尖閣諸島問題では中国に柔軟な対応を行いながら、韓国に対しては強硬な姿勢をとる・・・といった不満もあるようです。

韓国の国民世論はともかく、政治・経済面では、日本との対立が深まることへの懸念もあるように報じられています。

****韓日中の外交緊張 経済面でも大きなマイナスに****
独島問題をめぐり韓日関係が急速に冷え込んでいる。また、人権活動家の韓国人が中国で拷問されたとする問題で、中国との関係も悪化の兆しが見える。日本と中国も領土問題で緊張感が増している。
外交上のあつれきが深刻な水準に達していることから、経済への影響を懸念する声が高まっている。状況がさらに悪化すれば、実体経済や金融部門の損失にとどまらず、韓国への反発が2次被害を引き起こす恐れもある。

◇日中への経済依存度高い韓国
日本経済新聞が読者を対象に意識調査を実施したところ、90%が李明博(イ・ミョンバク)大統領の独島上陸を許せないと回答し、33%は関税など経済分野で対抗措置が必要とした。
日本や中国が韓国に経済的な報復措置を取れば、韓国経済には致命的な打撃となる。韓国の輸出は、日本から先端技術・部品を持ち込み、中国で組み立て、米国などに販売するという構造のためだ。(中略)

現代経済研究院のイム・ヒジョン研究委員は「日本が露骨に輸出を減らすことはできなくても、新製品や追加分の輸出などで非協力的になる可能性もある」と指摘した。

一方、中国は韓国にとって最大の輸出先であると同時に生産拠点でもある。1~6月の対中輸出は全体の23.2%にあたる594億ドルだった。韓国経済の成長を支える輸出の相当部分が、中国の影響力下にある。韓中のあつれきが強まれば、中国が「実力行使」に乗り出すこともあり得る。
LG経済研究院のイ・グンテ研究委員は「貿易報復の可能性は日本より中国のほうが大きい」と指摘。しかし、サムスン経済研究所のパン・テソプ主席研究員は「現在は韓日中とも経済が良くないため、貿易報復などには慎重だろう」と話した。

◇金融分野に心理的な動揺
3カ国の外交面の摩擦で、金融分野にも混乱が予想される。代表的な例が、韓日が緊急時に外貨を融通し合う通貨スワップ協定だ。日本の読売新聞は、李大統領の独島訪問と天皇に関連する発言への対応として、日本政府が通貨スワップ協定の見直しを考慮していると伝えた。ただ韓国政府は、通貨スワップは日本にも利益があるため、協定を解除する可能性は小さいと見ている。

それでも協定解除の可能性による不安心理は、市場に悪影響を与えているもようだ。金融研究院のキム・ヨンド研究委員は「協定締結が外為市場に安定心理をもたらした。逆に、日本が協定を解除する可能性が示されれば、市場の不安心理を刺激することになる」と指摘した。(中略)

◇韓流輸出、観光収入にも影響
外交問題は国民感情を悪化させ、2次被害も引き起こすと予想される。まず、韓流文化輸出への逆風が考えられる。(中略)

しかし韓国への反発が強まれば、これら韓流輸出は減少せざるを得ない。実際に日本の衛星放送局は、独島まで泳いで渡る行事に参加した韓国俳優ソン・イルグクさんが主演した韓国ドラマの放送を無期限延期した。(中略)

また、国内総生産(GDP)の5.2%を占める観光産業の被害も避けられない。昨年訪韓した日本人観光客は329万人、中国人観光客は222万人で、その合計は訪韓観光客の56.3%を占める。特に中国人観光客は韓国で1日平均254ドル、日本人は234ドルを使っており、米国やフランスの2倍となっている。

締結を目指し現在推進中の韓日自由貿易協定(FTA)=日本側名称:日韓経済連携協定(EPA)=、韓日中FTAの交渉にも赤信号がともりそうだ。韓国に対する国民感情が悪化すれば、国民的な同意が必要なFTA締結をつまずかせることになりかねない。【8月17日 聯合ニュース】
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次期大統領選挙に向けて動き出している韓国政治にあっては「死に体」とも評されるように求心力を失っている李明博大統領の言動に対しては、次期政権に大きな負担を残すとして、冷やかな見方も一部にあるようです。

****大統領言動「行き過ぎ」批判も=対日関係悪化に懸念―韓国****
韓国の李明博大統領の竹島(韓国名・独島)訪問への対抗措置として、日本政府は近く国際司法裁判所(ICJ)への提訴手続きに入る。日韓関係は緊迫局面を迎えており、韓国内では李大統領の行き過ぎた言動を批判する声も上がっている。

18日付の京郷新聞は「日本政府はこれまで『竹島は日本の領土』と主張しながらも、特別に強い挑発はしなかったが、大統領の独島訪問以後、日本のやり方は根本的に変わった」との見方を紹介。「独島問題は未知の領域に入った」として、「政府は内心では緊張しながら対策準備に腐心している」と伝えた。

韓国でも波紋を呼んだのが14日に行った、天皇陛下の訪韓には死亡した独立運動家への謝罪が必要との発言だ。京郷新聞は「日本社会の特殊性などを勘案すると、度を超えた感がある」との専門家の意見や「過ぎたるは及ばざるがごとしだ」との与党議員の声を伝えた。【8月18日 時事】 
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困惑する台湾
日中韓以外にも今回の問題は波紋を広げています。

尖閣諸島については台湾も領有権を主張しますが、香港の活動家が上陸した際、台湾の旗である「青天白日満地紅旗」を中国国旗「五星紅旗」と一緒に掲げたことで、馬英九政権は難しい立場に置かれています。
尖閣諸島の領有権問題では、台湾は再三、「中国と協力して解決しない」と日本側に伝えてきたことから、台湾側は日本側への釈明に追われているとも報じられています。

“台湾外交部の董国猷(とう・こくゆう)政務次長は16日、日本の対台湾窓口機関、交流協会の樽井澄夫台北事務所代表(大使に相当)と会談し、旗が尖閣に立てられたことについて「我が政府の主張と合っている」と原則的立場を述べながらも、旗がともに掲げられた事実は「全く知らなかった」と釈明した。台湾側としては、日本に“台湾が中国と通じている”と疑われることも避けたかったようだ”【8月17日 毎日】

****尖閣上陸 「国旗」掲げられ困惑 台湾、外交と民意の板挟み****
香港の活動家らによる沖縄県・尖閣諸島上陸は、周辺海域の「平和と安定のため」として、台湾の抗議船出港を差し止め、香港の抗議船の寄港を断った台湾当局を困惑させている。台湾は同諸島の主権を主張する一方、この問題では「大陸(中国)と連携しない」との方針を打ち出しているが、活動家が中国国旗を掲げ、台湾の旗も並べたことで「連携している」との印象を持たれるなどしたためだ。

また、ネット上では「中華民国(台湾)の領土の釣魚台(尖閣の台湾での呼称)に、香港人が上陸し、五星紅旗(中国国旗)が掲げられたのに抗議しないのか」などとする批判も噴出している。
これに対し、台湾の外交部(外務省)報道官は16日、香港の団体のメンバーの速やかな釈放を日本に求める一方、上陸については「中華民国政府の許可を得ていないが、台湾も香港も自由な社会だ」として旗を掲げた行為を問題視しない考えを示した。

一方、台湾の有力紙、中国時報は同日付で、活動家の上陸について、「政府高官も唖然(あぜん)」などとして報じ、上陸が台湾当局にとって想定外だったことを明かした。
記事によると、総統直轄機関の国家安全会議に設けられた特別班では、活動家らの上陸はシナリオになく、関係各部署は衝撃を受けたという。【8月17日 産経】
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【「対岸の火事」ではないベトナム・フィリピン
一方、南シナ海問題で中国と対立するベトナム・フィリピンには、日本と韓国が対立することが中国を利する結果になることへの警戒感もあるようです。また、日本の国際司法裁判所(ICJ)への提訴の動きに注目しています。

****東南ア諸国、対中結束を強調 「韓国は中国のわなにはまっている****
沖縄県・尖閣諸島と、島根県・竹島をめぐる情勢は、南シナ海の領有権を中国と争う東南アジア諸国にとり「対岸の火事」ではなく、国際司法裁判所(ICJ)への日本の提訴の動きなどを注視している。元外交官らは、韓国が「中国のわな」にはまっており、東・南シナ海を問わず、中国と領有権を争う関係当事国が、結束し対処することが必要だ、と指摘している。

「韓国は日本との争いを過熱させていることで、中国のわなにはまっている。韓国は中国と黄海の入り口にある離於島(中国名・蘇岩礁)をめぐり係争していることを想起すべきだ」。こう語るのは、ベトナムの元駐広州(中国)総領事のズオン・ザイン・ジ氏だ。

つまり「中国は今は、韓国との係争を見ぬふりをし、中国とともに韓国を日本との争いに集中させている」という。だが「中国は日本との問題が小康状態になれば、矛先を韓国へ向けるだろう。そのことに韓国も早晩、気づき、日本との関係維持に動く」とみる。
個別の領有権問題は関係当事国以外、介入しがたい。同氏はしかし「日本とベトナムは中国を相手に似た状況に直面しており情報の交換、共有など協力すべきだ」と提起する。

フィリピン政府筋も「南シナ海の関係当事国と日本などが結束、協力し中国に対処すれば、中国の海洋覇権拡大を阻止する『鉄拳』になり得る」としている。
領有権問題をめぐる国際環境について、フィリピン政治暴力テロ研究所のロンメル・バンロイ所長は「領有権問題を規定、統制する包括・絶対的な裁定権限は欠如し、無政府主義的な状況下にある」と憂慮する。

フィリピンの元駐マレーシア大使で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の元事務局長、ロドルフォ・セベリーノ氏も「領有権問題は、ICJなどで直ちに解決されない。法律上の権利を超えた、国益に関する問題だからだ」と指摘する。それでもフィリピン政府筋は「日本の提訴方針は理解できる」と評価する。フィリピンも中国を提訴することを検討してきており、「日本の動きに後押しされる可能性もある」と言う。【8月18日 産経】
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北方領土問題を抱えるロシアは、ウラジオストクで9月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に東アジアの主要国間の摩擦をあおりたくない事情があって、今は静観の構えのようです。
アメリカは、深入りを避けたいという姿勢です。

領土については言うべきことをきちんと主張するのは当然のことですが、感情的なものが入り込むと確執が深まるだけで、解決からは遠ざかります。中国・韓国にある反日感情と同様に、日本側にも両国に対する差別的な嫌悪感が充満しています。
自己満足的にそうした感情をぶつけあっても、いたずらに過激化するだけで、問題は何百年かかっても一歩も動きません。

自国に主張があるように、相手の立場に立てば別の主張もあります。双方が出来るだけ感情的なものを排し、互いの利益につながる妥協の道を模索する努力が、問題の解決には必要とされます。その際、長年の実効支配の現状への一定の配慮はやむを得ないところがあるとも思われます。

領土は国家主権そのものといった議論や、地下・漁業資源や戦略的重要性の問題もありますが、隣接する国が信頼関係を回復するのはそれら以上に重要な問題に思われます。

コメント (3)
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