孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  波紋を広げるテディベア 強権姿勢を強める「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領

2012-08-09 23:14:12 | 欧州情勢

(“flickr”より By Canadian Bear http://www.flickr.com/photos/gkjakobs/7727369610/

【「クマ爆弾」でスウェーデンとベラルーシの関係が急速に悪化
「欧州最後の独裁者」と呼ばれルカシェンコ大統領が厳しい国家管理体制を敷くベラルーシで、領空を侵犯したスウェーデン人活動家がテディベアを空から大量にばら撒くという「クマ爆弾」事件の波紋が広がっています。
小さなパラシュートを背負ったテディベアには、言論の自由や人権の改善を訴えるビラが付けられていました。

****ベラルーシ:空からテディベア800個 人権改善訴え****
旧ソ連・ベラルーシで先月、隣国リトアニアから無許可で飛来した軽飛行機が、人権改善を訴えるメッセージ付きのぬいぐるみ「テディベア」を約800個投下する“事件”があった。

「欧州最後の独裁者」と呼ばれ厳しい国家管理体制を敷くルカシェンコ大統領は、“大失態”の責任を取らせる形で国境警備委員長と空軍の防空司令官を7月31日に解任。今月2日に任命した新たな国境警備委員長に対し、武器使用を含むあらゆる手段で国境侵犯の再発を防ぐよう指示した。

現地からの報道によると、先月4日、スウェーデンの広告会社に勤める2人が搭乗した軽飛行機が、リトアニア南部の飛行場を離陸。ベラルーシ領空を1時間半にわたって飛行した。同国の人権活動家支援のほか、ルカシェンコ体制の面目をつぶすのが目的だったという。

政権側は投下されたテディベアの写真をネットで公開した地元学生を逮捕するなど国内の締め付けを強化している。【8月5日 毎日】
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ベラルーシとスウェーデンは、互いに大使の国外追放、外交官の国外退去といった対抗措置をとり、関係が急速に悪化しています。

****テディベア投下」で外交関係が悪化、ベラルーシとスウェーデン****
スウェーデンの人権活動家が無許可でベラルーシ領空を飛行し、テディベア数百個を投下して言論の自由や人権を訴える抗議行動を行ったことをきっかけに、スウェーデンとベラルーシの関係が急速に悪化している。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は国境警備責任者と空軍司令官を解任。3日には両国関係の「破壊」を試みたとして、スウェーデンのステファン・エリクソン大使を国外追放した。

これに対しスウェーデン政府も、エリクソン大使の後任としてベラルーシ側が指名した新大使の承認を拒否するとともに、ベラルーシ人外交官2人の在住許可を取り消し国外退去を求めた。

ベラルーシ側はさらに8日、スウェーデン外交官全員に8月30日までの国外退去を通告し、スウェーデンとの交渉窓口を閉じると発表した。

マイクロブログのツイッターで外交官の退去通告について明らかにしたスウェーデンのカール・ビルト外相は、ルカシェンコ大統領の「人権に対する恐れはエスカレートしている」と述べている。
ベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)筋によると、事態の悪化を受けてEUは10日、EU大使らによる緊急会合を開き打開策を協議するという。(後略)【8月9日 AFP】
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経済危機、ロシアの圧力、EUの民主化弾圧批判で苦境のルカシェンコ大統領
ルカシェンコ大統領は、政治的には強権支配、経済的にはソ連型社会主義体制を維持する路線をとっています。
ルカシェンコ大統領はもともとロシアとの統合を主張し、統合を目指すロシア・ベラルーシ連邦国家創設条約にも調印しています。
しかし、ベラルーシを実質的に吸収合併しようとするロシア・プーチン大統領(前期)に対し、対等の関係をアピールするルカシェンコ大統領の対立もあって、統合は進展していません。【ウィキペディアより】

メドベージェフ前大統領も「外交的規範どころか人間としての基本的礼儀すらわきまえていない」と、厳しいルカシェンコ批判を行っており、ロシア側はルカシェンコ大統領をベラルーシ“併合”の最大の障害と見なしています。

そうした状況で、ルカシェンコ大統領はロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出すしたたかな外交を展開してきました。
しかし、2010年以降は経済状態の悪化が進行、代金未払いに対し天然ガスや電力供給をストップさせるという強い圧力をかけるロシアに依存せざるを得ない状況に追い込まれています。

そういうロシア依存の腹をくくったせいか、2010年12月の大統領選挙で4選を果たした後は、野党指導者ら600人以上を拘束するという、EUが嫌う強権姿勢を強めています。
これに対し、EU側は制裁を発動しています。

****ベラルーシ大統領らを渡航禁止 EUが制裁****
欧州連合(EU)は1月31日の外相理事会で、昨年12月のベラルーシ大統領選挙後に野党勢力を弾圧したとして、ルカシェンコ大統領と家族、側近ら158人に対し、EU域内への渡航を禁止する制裁措置を決めた。

外相理事会は「昨年12月の大統領選挙は不正に実施され、選挙直後に民主的な野党勢力が暴力で弾圧された」と批判、いまだに拘束されている人々の即時釈放を要求した。
ベラルーシに対する経済制裁は「国民に苦痛をもたらす」として見送られた。

EUはルカシェンコ政権が「民主化を弾圧した」として1999年に政府高官らのEU域内への渡航禁止、資産凍結などの制裁を実施したが、「民主化の兆候がある」として08年10月にルカシェンコ氏らの渡航禁止措置を緩和していた。【11年2月1日 共同】
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その後もベラルーシの経済危機は進行し、EUの制裁強化によって、ロシアを頼らざるを得ない状況が深まっています。

****欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領窮地 ベラルーシ経済危機****
露、統合路線を加速
ロシアの隣国、ベラルーシが深刻な経済危機に瀕(ひん)し、「欧州最後の独裁者」と称されてきたルカシェンコ大統領がいよいよ窮地に陥っている。旧ソ連型の経済運営を続けてきた同国だが、ここにきてロシア産石油・天然ガスの価格引き上げとバラマキ財政に耐えられず、外貨が底をついた状況だ。ロシアはベラルーシに国家資産の売却を迫り、同国の吸収・統合路線を加速させる思惑だ。

外貨準備急減
ベラルーシは24日、自国通貨(ベラルーシ・ルーブル)を米ドル、ユーロ、ロシア・ルーブルの3外貨に対して54%切り下げる措置をとり、公定レートを1ドル=4930ベラルーシルーブルに設定。これに先立ち、ロシアを中心とするユーラシア経済共同体から3年間で30億ドル(約2460億円)の融資を得ることで基本合意した。

ただ、今年の貿易赤字が120億ドルにのぼるとみられていた状況で外貨準備は30億ドル以下まで急減しており、通貨切り下げなどは弥縫(びほう)策にもならないと受け止められている。各地の両替所では外貨を求める人々の長蛇の列ができ、物価高騰を恐れる庶民は商品買い占めに走っている状況だ。

バラマキ財政
ベラルーシはソ連崩壊後も経済改革を先送りしてきたことで知られ、安価なロシア産原油の精製と欧州諸国への転売で利益を得てきた。ロシアが近年、ルカシェンコ政権との複雑な関係も背景に石油・天然ガス価格の引き上げに動いたことが経済危機の第1要因だ。
ロシアが昨年、ベラルーシ向け石油に関税を導入したのを受けてベラルーシの石油製品輸出量は前年から27%減少。逆にロシアからの天然ガス輸入額は前年比で55%も増えた。

第2の要因は、2008年の世界金融危機以降、政権が財政出動で国内消費を刺激し続けたことだ。特に昨年12月には大統領選が行われたために政権のバラマキが度を強め、消費と貿易赤字の急拡大を招いた。

過去のルカシェンコ氏はロシアと欧州連合(EU)の間で風見鶏のごとく振る舞い、双方からの融資を得て経済的苦境をしのいだ。
ただ、EUは昨年12月の大統領選での反政権派弾圧を非難し、ベラルーシ高官の入域禁止など制裁を強めている。国際通貨基金(IMF)からも融資を受けながら構造改革の約束をほごにしてきた経緯があり、頼みの綱はロシアしかない。

「見返り」戦略
一方、ロシアはベラルーシとの「連合国家」や「関税同盟」を形成しながら、ルカシェンコ氏の抵抗で国家統合の動きが停滞していたことに不満を抱く。
このため、経済支援には国営企業の売却など「見返り」を求め、これを機にベラルーシの石油精製企業やパイプライン網、通信インフラを握る戦略だ。露ルーブル通貨の導入を迫るべきだとの意見も出ている。

ベラルーシでは通貨切り下げによるインフレ圧力が高まっている上、危機脱却には痛みを伴う急進的改革が必要とみられている。「安定」を喧伝(けんでん)してきたルカシェンコ大統領への反発も予想され、独裁政権は土壇場に立たされている。【11年5月31日 産経】
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国内弾圧強化、EUは制裁強化
国民の間には経済悪化、強権支配への不満も広まっており、11年夏には「拍手デモ」も報じられていますが、政権側は強権でこれを抑え込んでいます。

****ベラルーシの「拍手デモ」を警官隊が鎮圧、「蜂起を夢想するな」と大統領***
ベラルーシの首都ミンスクで3日、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領の独裁的政治に抗議して「拍手をし続ける」デモを行っていた人びとに対し、警官隊が催涙弾などで鎮圧にあたり、多数の参加者が身柄を拘束された。

ベラルーシの独立記念日にあたる3日、ソーシャル・ネットワーキング・サイトの呼びかけに応じてミンスク駅前の広場に集まった人々は、拍手を続けることでルカシェンコ大統領への不満を示した。
現場で取材していたAFP特派員によると、警官隊は集会を解散させようと催涙弾を発射。広場周辺の脇道へ逃げながら拍手を続ける人びとを追いかけ、老若男女を問わず、拍手し続ける人びとに殴る蹴るの暴行を加えた上、身柄を拘束した。報道カメラマンらを含む数十人が警察車両で連行されたという。

17年にわたってベラルーシを統治するルカシェンコ大統領は、独立記念日の演説で、蜂起など夢想するなと述べて反対派をけん制していた。
ルカシェンコ大統領は、前年12月に再選された直後に大規模な抗議デモが起きたことを受け、野党に対する過去にない大規模な取り締まりを展開。大統領選の対立候補を含め、野党活動家の多くが身柄を拘束された。

政情不安に加え、同国は経済的にも困窮しており、前週にはインフレ防止対策として全ての消費財に上限価格を設けたほか、料金未払いを理由にロシアから一時エネルギー供給を止められている。【11年7月4日 AFP】
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批判勢力を力で抑え込もうとするルカシェンコ政権に対し、EU側は制裁を更に強化、今年2月にはバラルーシ駐在大使の本国召還を決めています。

****駐ベラルーシ大使、一斉召還=制裁反発に対抗措置―EU****
欧州連合(EU)は28日、ベラルーシに駐在するEU各国の大使を本国に一斉召還することで合意した。EUの制裁強化に反発したベラルーシが取った「敵対行為」(シュルツ欧州議会議長)への対抗措置。

EUは同日、野党弾圧を続けるルカシェンコ政権への圧力を強めるため、当局者21人を対象とした渡航禁止と資産凍結を決定。これに反発したベラルーシは、ブリュッセルのEU代表部大使を召還するとともに、ベラルーシ駐在のEU代表部大使らに国外退去するよう伝えた。【2月29日 時事】
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EUの制裁強化に対しルカシェンコ大統領は3月、制裁強化を推進したドイツ外相が同性愛を公言していることを念頭に置いて、「同性愛者になるくらいなら独裁者のほうがましだ」とも発言しています。

今回の「クマ爆弾」は予想外の出来事でしたが、EU各国との関係悪化はここ2年ほどの流れでもあり、起きるべくして起きた状況とも言えます。
ただ、頼りとせざるを得ないロシアもルカシェンコ大統領にはうんざりしており、ルカシェンコ政権生き残りの道は険しそうです。
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