
(2008年11月にウガンダでエボラ出血熱が発生したときの治療の様子 “flickr”より By lakareutangranser http://www.flickr.com/photos/25296175@N04/2386488195/ )
【致死率が50~89%、有効な治療法なし】
ウイルス感染によって引き起こされるエボラ出血熱は、感染したときの致死率が50~89%と非常に高いこと、現在のところ治療法が確立していないこと、自然界における宿主も定かでないこと、全身の内外出血というショッキングな症状を呈すること・・・などから、映画や小説のアウトブレイクものを連想されるところがあります。
実際、“エボラ出血熱が発生した際に軍隊が出動した事もある。これは治療支援ではなく、感染者が発生地域外へ出ないようにし、発生地帯をその地域のみに「封じ込めるため」である。無断で指定区域外へ出ようとする者はその場で射殺せよと言う大統領命令が下った例もある”【ウィキペディア】とのことです。
1976年6月にスーダンで発症したのが知られている最初の事例で、以後アフリカで突発的な発生・流行を繰り返しています。
感染力が強いうえに致死率が非常に高く、治療法もないエボラ出血熱ですが、インフルエンザなどとは異なり感染が広がる前に患者が死亡するため、感染拡大がある程度の範囲に抑えられてはいます。
【犠牲者のひとりは首都カンパラに移動して死亡】
そのエボラ出血熱がアフリカ・ウガンダで7月に発生し、これまでに14名が死亡しています。
そのひとりが、感染してから首都カンパラまで移動しており、移動途中及び首都での感染拡大も懸念されています。
****ウガンダのエボラ出血熱、首都カンパラでも死者****
ウガンダ西部で発生したエボラ出血熱で、同国のヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領は30日、首都カンパラで初の死者が出たと発表した。
ムセベニ大統領は全国放送で行った演説で、西部でエボラウイルスに感染した女性が首都カンパラのムラゴ病院で死亡したと発表するとともに、同国西部で3週間前に発生したエボラ出血熱でこれまでに14人が死亡し、保健省は、死亡した人と接触した全ての人の特定作業を進めていると述べた。
大統領によれば、ムラゴ病院は死亡した1人を含む「少なくとも1~2人」を受け入れ、医師7人と医療従事者13人が隔離された。
クリスティン・オンドア保健相の発表によれば、死亡したのは同国西部キバレ地域の都市キガディの病院で犠牲者を看護していた医療従事者の女性。生後3か月だった女性の子どもが死亡した後、1人で首都カンパラまで移動したとみられている。その際、公共交通機関を使用した可能性もあるという。
世界保健機関(WHO)のタリク・ヤシャレヴィチ報道官もカンパラで死者が出たことを確認したが、「今のところ(他の人への)感染は起きていない」と語った。
■身体的接触を避ける
大統領は国民に、エボラウイルスの感染拡大を防ぐために握手などの身体的接触を避けるよう呼び掛けた。「エボラ(ウイルス)への感染はお互いの体に触れ合うことによって拡大する(…)握手は汗を通じた接触を生み、問題となるので避けるように」
「エボラ出血熱と思われる症状により死亡した人の埋葬を引き受けてはいけない。正しい対処方法を知る医療当局者を呼ぶこと(…)この病気は性交渉によっても感染する可能性があるので、不特定多数との性交渉は避けること」
専門家によれば、エボラウイルスの感染力は非常に強いが、感染が広がる前に患者が死亡するため、感染拡大を食い止めることは可能だという。
WHOによれば、エボラ出血熱を発症すると突然の発熱や極度の疲労、筋肉痛、頭痛や喉の痛みなどに襲われる。患者の多くに嘔吐や下痢の症状が出るのに加え、内出血や外出血を起こす場合もある。エボラウイルスは、感染患者の血液などの体液や身体に直接触れることによって感染する。
ムセベニ大統領は国民に対し、「皆さんの幸運を願うとともに、亡くなった方々の魂が永遠の安らぎを得られるよう祈ります」と述べた。【7月31日 AFP】
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ムセベニ大統領の「握手は汗を通じた接触を生み、問題となるので避けるように」という発言については、事実誤認との指摘があります。
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実際、ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領が30日に国民に向けて行った演説にも、理解不足が表れていた。大統領は、握手などを控えるよう呼びかけたが、エボラ出血熱が握手で、つまり汗で伝染するというのは根拠のない作り話だと、メタバイオータの副社長ジョゼフ・フェア氏は指摘する。メタバイオータは、サンフランシスコに拠点を置き、エボラウイルスなどの病原体を研究している企業だ。
「エボラが汗で伝染することは現在知られていないし、考えられてもいない。エボラは体液で伝染する。(一般論として)発生地域に暮らしている人に対しては、周囲の状況への意識を高め、接触に気をつけることは常に推奨される」とフェア氏は話す。 【8月1日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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【原因特定に遅れ】
今回、エボラウイルス感染との原因特定までに時間を要し、発生当時、地元の人々は病気の原因が悪霊に取りつかれたことにあると考えたため、患者らをキリスト教の礼拝施設に連れて行ったとのことです。
また、エボラウイルスにはいくつかの型があり致死率も異なりますが、今回のものは比較的致死率の低いタイプだそうです。それでも致死率は約50%です。
****エボラ出血熱で14人が死亡-ウガンダ****
東アフリカのウガンダ中西部キバレ地区でエボラ出血熱が発生し、感染した20人のうち少なくとも14人が死亡していることが明らかになった。世界でエボラ出血熱の発生が確認されたのは2009年以降で初めて。
エボラ出血熱は7月初めに発生したが、原因が致死率の高いエボラウイルスだと確認されたのは27日になってから。そのため、原因特定前に感染がかなり拡大している恐れもあり、現在世界保健機関(WHO)など国際的な保健当局者が対応に動いている。
ウガンダ政府、WHO、それに米疾病対策センター(CDC)の要員で構成される対策チームが27日、キバレ地区に派遣された。同地区は首都カンパラから西に約125マイル(200キロメートル)離れた、コンゴ民主共和国(旧ザイール)との国境に近い場所にある。
ウガンダ保健省の広報担当者によると、同病は当初1家族から発生、感染が始まった。地元の人々は病気の原因がエボラウイルスなどではなく、悪霊に取りつかれたことにあると考えたため、患者らをキリスト教の礼拝施設に連れて行ったが、そこで2人が死亡したという。
同担当者は「一部の犠牲者は、教会に通う人々を含む多くの人々と接触した」と話した。
エボラ出血熱の感染の疑いが生じたため、患者のサンプルがウガンダ・ウイルス研究所と米CDCが最近設立し、維持している特別の研究所に送られた。この特別の研究所はエボラウイルスや中央アフリカで発生するその他の致死率の高いウイルス性出血熱の発生確認や調査を行っている。CDCのスティーブン・モンロー博士によると、この研究所が26日にこのサンプルを受けたのに続いて、他の3人のサンプルも受け取り、27日にエボラ出血熱であることを確認した。
ウガンダ保健省によると、これまでに死亡が確認された人の中には、1家族の9人、最初の感染者の治療にあたった医療関係者のクレア・ムフムザさんとその娘(4カ月)が含まれている。
ムフムザさんの看病をした姉妹も同病に感染した。現在高熱、下痢、嘔吐(おうと)の症状があるものの、容体は「かなり安定している」という。最初に感染した家族の一員(女性)の容体も安定しているが、同じような症状を示している。
ウガンダ保健省によると、同病の発生が確認された地域ではパニックが生じ、多くの住民が自宅から逃げ出す事態が生じているという。
キバレ地区は首都カンパラから遠く離れているが、ムフムザさんはカンパラの病院で治療を受けた。カンパラには少なくとも400万人が暮らしている。ウガンダとWHO当局者は、同病の感染がカンパラに到達しているかもしれないことが不安の種になっていると指摘する。保健省の広報担当者によると、ムフムザさんの治療にあたった医療関係者は、病気の原因が特定されていなかったため、治療時に感染予防策を講じていなかった。
CDCのモンロー博士は、病気が「かなりへき地で発生したため、感染拡大の可能性は大きくない」と指摘した一方で、感染がカンパラにまで到達するかもしれない点については「常に懸念事項だ」と述べた。
エボラ出血熱は中央アフリカ全域で発生する病気。ワクチンや治療法はなく、感染源もはっきりと特定されていないが、同博士によると、エボラウイルスの保有宿主がコウモリだという仮説は存在する。
同病の発生が最初に報告されたのは1976年。発生が最初に確認されたコンゴ民主共和国の川から名付けられた。同病は発生がまれだが、致死率が非常に高い。最も致死率が高いウイルス株では感染した人のうち最大89%が死亡しているが、致死率はその発生時によってばらつきがある。
今回の流行は、それほど致死率が高くないとされる「エボラ・スーダン」と呼ばれるウイルス株によるものと確認された。それでも、2000年と01年にウガンダで発生した過去最大規模の流行時には同株により、感染した425人のうち224人、つまり53%が死亡した。
前回の流行は08年終わりから09年初めにかけてコンゴ民主共和国で発生し、32人が感染、15人が死亡した。昨年には、ウガンダで12歳の少女が同病で死亡したが、感染は拡大しなかった。【7月30日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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また、前出【8月1日 NATIONAL GEOGRAPHIC】によれば、原因特定が遅れた理由は“今回の感染はウガンダ西部のキバレ県で3週間前に発生したが、7月27日になってようやくエボラ出血熱であることが確認された。ウガンダ政府によると、患者が出血などエボラ出血熱の典型的な症状を示さず、マラリアなどのほかの病気を伴っていたために診断が難しくなり、最初の段階で感染が見逃されていたという。”とのことです。
【バイオテロ警戒からアメリカでも研究が進む】
エボラウイルスの由来やワクチン開発については、以下のように報じられています。
****ウガンダでエボラ発生、原因と対策は?****
◆謎に包まれたウイルスの由来
一部の科学者は、自然界におけるエボラウイルスの宿主はコウモリではないかと示唆する。この仮説を支持する証拠もいくつか存在する。たとえばコウモリにエボラウイルスを実験的に注射しても、コウモリは生き延びた。
しかし、エボラウイルスのタンパク質の構造は、鳥類が持つレトロウイルスと奇妙なほど類似しているため、このウイルスは鳥類に起源を持つのではないかと考える科学者もいる。
インディアナ州にあるパデュー大学のエボラ研究者デイビッド・サンダーズ(David Sanders)氏は、遠い昔に鳥類の体内で進化したエボラウイルスがコウモリに感染し、現在ではコウモリから人類や霊長類に感染するようになったというシナリオも考えられると話す。
また、エボラウイルスがコウモリと鳥の両方に潜伏している可能性もある。
◆エボラワクチンの開発は近いか?
エボラ出血熱が最初に報告されてから40年近く経つが、いまだに治療法は1つも存在しない。
理由の1つは、エボラウイルスが1種類ではなく、5つの株(種)が存在するということだ。インフルエンザウイルスやHIV(エイズウイルス)と同じく、エボラウイルスも種類により、人間の免疫系が標的にする表面のタンパク質が異なる。
エボラワクチンがまだ存在しないもう1つの理由は、感染の広がりが限られていることだとサンダーズ氏は考えている。「エボラ出血熱でこれまで何人のアメリカ人が死亡しただろうか。答えはゼロだ。私たちは、影響の大きな病気に集中しがちだ」。
しかし、エボラワクチンが近く開発される可能性は高まっている。アメリカ軍が、エボラウイルスがバイオテロに使用されるのではと懸念しているためだ。
9.11テロの後、アメリカの農務省や国立衛生研究所(NIH)、国土安全保障省もバイオテロに対する防衛予算を増やしている。欧州連合(EU)や日本をはじめとする国々も同様だ。【8月1日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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先進国で犠牲者が出ない疾患についての治療研究が進まないというのは、マラリアなど他の熱帯地域特有の疾患に共通して言える現実です。
ただ、エボラウイルスについては、バイオテロの懸念から研究が動き出しているというのも現金な現実です。