
(8月6日 戦闘により破壊されたアレッポ市街 “flickr”より By مشروع ذاكرة الثورة السورية http://www.flickr.com/photos/chroniclesyrianuprising/7729102962/)
【難しい情報の見極め】
オリンピックが開催されているロンドンの経済状態について、開幕前に地下鉄や車が大混雑する恐れがさんざん報じられたせいで、都心の繁華街は人影がまばらだ・・・とする記事と、イギリスのメダルラッシュが人出の増加を呼び、ここ1週間ほどは小売売上は前年比で大幅な増加を記録している・・・という、相反するような記事がありました。
****五輪の街、観光地ひっそり ホテル代暴騰で客足遠のく****
五輪でにぎわうロンドンだが、都心の繁華街は人影がまばらだ。開幕前に地下鉄や車が大混雑する恐れがさんざん報じられたせいだ。「五輪特需」をあてこんだ商店主らは悲鳴を上げている。
「一番のかき入れ時なのに、売り上げが去年より4割減った」
ロンドン都心のショッピング街、オックスフォードストリートで、果物とアイスクリームの露店を30年営むポール・スタインさん(51)はため息をついた。
夏休みシーズンは例年、すれ違うのも大変なほど大勢の買い物客でにぎわう。五輪会場がある市東部ストラットフォードから地下鉄で20分。乗り換えなしで来られるが、「日曜の朝みたいな客足が続いている」とスタインさん。レストランにも空席が目立つ。
土産店店員のリッキーさん(21)は「五輪めあての客はホテルやチケット代がかさむから、全然金を落とさない」とこぼす。
開幕前、ロンドン交通局は地下鉄の利用者が最大で100万人増えるとして「夕方は乗らないで」と呼びかけた。車道には五輪専用レーンが登場し、一般車の渋滞が懸念された。
だが、ふたを開けてみると朝夕の通勤ラッシュはむしろ緩和され、ひどい渋滞もない。自宅勤務や休暇を取る人、都心への外出を控える人が増えたためだ。
ロンドンを訪れる外国人観光客も、例年の半分の1日15万人ほどに減る見通しだ。ホテル代が数倍に暴騰したことなどが響いた。英調査会社エクスペリアンの調べでは、五輪開幕翌日の7月28日、百貨店や劇場が集まる市中西部ウエストエンド地区の客足は前年比で11.6%減った。
観光名所からは行列が消えた。観光促進団体ALVAによると、大英博物館やセントポール大聖堂など加盟施設の7月第3週の入場者数は、昨年より3割以上落ち込んだ。空き室を抱え、値下げに踏み切るホテルも続出した。英各紙は「ロンドンがゴーストタウンになった」と報じた。
今回の五輪開催費は約93億ポンド(約1兆1400億円)。キャメロン首相は今後4年で、英国に130億ポンドの経済効果をもたらすと強調してきた。予想外の五輪不況に、「ロンドンは大丈夫。買い物や外食にきて」とPRに必死だ。
ロンドン五輪組織委のポール・デイトン最高経営責任者(CEO)は1日の会見で、「五輪はロンドンの良さを(世界に)紹介している。長期的な経済的利益をもたらすことは間違いない」と訴えた。(ロンドン=伊東和貴) 【8月7日 朝日】
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****ロンドン五輪:小売業の売り上げ16.2%増****
ロンドン市は6日、先週の市中心部小売業の売り上げが昨年比で16.2%伸びたと発表した。「期待したほどの五輪経済効果はなさそう」との観測が強まる中、ジョンソン市長は「英国チームの活躍で経済効果も上がっている」と強気だ。
五輪開会(7月27日夜)後、最初の平日となった7月30日から8月2日までの売り上げは前週に比べ11.6%、昨年の同じ週より16.2%伸びた。地下鉄の乗客は金曜日(3日)に440万人を記録し史上最高。
キャメロン首相は五輪の経済効果を130億ポンド(約1兆5860億円)と試算。しかし、欧州経済危機などの影響で欧州からの観光客が落ち込んだことに加え、6月から7月初めの天候不順が売り上げに響いたためか7月の英国の小売業は前年同月比で2.9%落ち込んだ。
しかも五輪開会直後には、混雑を予想した人が外出を控えたことなどから中心部の観光客が激減していると報道されていた。しかし、1日にボート女子かじなしペアで英国選手が今大会初の金メダルを獲得して以来、英国五輪チームはメダルラッシュに沸き、それが人出の増加につながっているようだ。【8月6日 毎日】
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後者の毎日記事は、ここ1週間に絞った好調ぶりを伝えるものですが、現在の足元がそういう活況を呈しているなら、ほぼ同時期に掲載された前者朝日記事の悲観的なトーンはいかがなものか・・・という話にもなります。
あるいは、後者毎日記事は特殊な面だけをクローズアップしただけなのか・・・。
現地情報が完全にオープンにされており、誰でも現地を訪れることができるロンドンの情報ですら、このように錯綜したものがあるぐらいですから、ジャーナリストさえ足を踏み入れることが困難なシリア情勢を伝えるものになると、その真偽の見極めはかなり難しいものとなります。
【反体制派の一部が暴徒化している可能性】
かねてより、殆んどのシリア情勢にかんする情報は、反体制派側から流されたものであり、「アサド政権=悪、反体制派=善」という図式を意図的に作り出そうとしている側面もある・・・ということは指摘されていました。
ただ、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争におけるセルビアを持ち出すまでもなく、戦闘状態においては戦う双方がかなりきわどい行為に及んでいると見た方が実態に近いでしょう。
反体制派による「公開処刑」に関する映像は、「アサド政権=悪、反体制派=善」といった単純な見方を見直す必要があることを示唆しています。
****シリア:反体制派が政府派民兵を処刑か…ネットに動画****
激しい戦闘が続くシリア北部の中心都市アレッポで、反体制派「自由シリア軍」の兵士らが政府を支持する地元民兵らを「公開処刑」する模様が先月31日、インターネットの動画サイト上で流れた。反体制派の一部が暴徒化している可能性を示すもので、捕虜に対する非人道的処遇を禁じたジュネーブ条約(国際人道法)に反する疑いがある。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「(動画を見る限り)捕虜の処刑のように見える。戦争犯罪ではないか」と批判した。
動画には、拘束された4人の男性が集められ、反体制派とみられる男たちが銃撃する様子が映っている。英BBC放送によると、4人の中には政府寄りの民兵組織のリーダーも含まれ、この組織は先月31日の「休戦」中に自由シリア軍の兵士ら15人を殺害したとの情報があるという。
しかし動画の内容は無抵抗の「捕虜」に対する「処刑」の可能性を強くうかがわせるもので、在英の反体制派組織「シリア人権観測所」も「犯罪行為であり、国際法上もイスラム法でも許されない」と非難した。
戦闘が長期化する中、反体制派にはシリア国内だけでなく、周辺のイスラム諸国からもさまざまな勢力が加わり、統制の取れない状況になっている。AP通信によると、反体制派にはイエメンやリビア、イラク、アフガニスタンなどの民兵らも合流しているという。
アレッポでは先月21日から政府軍と反体制派の戦闘が激化。反体制派は武器不足で決定力を欠き、一進一退の攻防が続いている。このため、周辺アラブ諸国を中心に反体制派への武装支援が必要だとの声も強まっている。【8月2日 毎日】
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もちろん、程度の問題はありますので、どっちもどっちと突き放すのも間違いでしょう。
ただ、そのあたりの判断は限られた情報のなかでは慎重を期する必要があります。
【反体制派の戦力強化、行動の過激化やイスラム原理主義勢力の拡大も】
目下の焦点となっているアレッポでは、戦車・ヘリ・戦闘機を含む重火器による政府軍の攻撃に対し、反体制派は政府軍から奪い取った重火器や戦車で反撃していることが報じられていますが、地対空ミサイルがトルコ経由で反体制派に渡ったとの報道もあるようです。
反体制派を支援するカタールかサウジアラビアあたりからでしょうか。また、リビア・カダフィ政権の崩壊で多くの携帯式ミサイルが紛失した・・・との情報もあるようです。
アフガニスタンからソ連を撤退させた大きな要因が、アメリカからムジャヒディンに供与されたスティンガーミサイルでした。
****シリア:反体制派も過激化 重火器や戦車を入手****
シリア北部の主要都市アレッポなどで続く政府軍と反体制派の戦闘が激しさを増し、情勢の泥沼化に拍車がかかっている。戦闘機を投入して攻撃の手を強める政府軍に対し、反体制派は政府軍から奪い取った重火器や戦車で反撃している模様だ。
政府支持派の民兵を反体制派が「処刑」しているとみられる映像が明るみに出るなど、暴走ぶりも目立つ。反体制派への批判が高まれば、国際社会による武器供与などの支援も難しくなるとみられ、混乱長期化の恐れがある。
在英反体制派組織「シリア人権観測所」によると、反体制派は2日、政府軍から奪った戦車でアレッポ近郊の空軍基地を攻撃した。国連シリア停戦監視団も反体制派が重火器や戦車を入手していることを確認している。
地対空ミサイルがトルコ経由で反体制派に渡ったとの報道もあり、装備面で反体制派が圧倒的に劣勢だった戦力状況は変わりつつある。一部の反体制派は警察署を襲撃して警察官40人を殺害するなど、行動が過激化する傾向も見受けられる。
一方、シリア人権観測所によると、政府側の治安部隊も1日、ダマスカス南西部で43人を殺害し、一部は拷問、処刑されたという。
国連停戦監視団報道官は1日、「暴力の程度が高まっている」と懸念を表明。欧州連合(EU)のゲオルギエワ欧州委員(国際協力・人道援助・危機対応担当)は現在のシリア情勢について「ユーゴスラビア紛争(90年代)やスペイン内戦(30年代)に近い」との認識を示し、政府軍と反体制派の双方に国際人道法の尊重を求めた。
ロイター通信は1日、オバマ大統領が今年初め、米中央情報局(CIA)を通じたシリア反体制派の支援を極秘に許可していたと報じた。同通信によると、トルコはサウジアラビア、カタールと協力してトルコ領内のシリア国境近くに秘密司令部を設置。軍事、通信面で反体制派を支援し、米政府も協力しているという。
複数の組織が乱立する反体制派には外国勢力も加わっているとみられ、統制が取れていない。国連は3日、アサド政権を非難する総会決議案を採決する見通しだが、「アサド後」の受け皿が描けない中、国際社会の手詰まり感が目立っている。【8月2日 毎日】
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“複数の組織が乱立する反体制派には外国勢力も加わっている”というなかには、アルカイダ系などのイスラム過激派も含まれており、かつ、その存在感が次第に増していることが、アメリカの反体制派への武器供与をためらわせる背景ともなっています。
【アサド政権を支えるイラン】
政府軍側にも、イランやレバノンのヒズボラなどの関与が報じられています。
下記記事の、“7月下旬、アサド政権は「退陣を検討する」との意向をイラン側に伝えたが、イラン指導部はこれに反対し、アサド政権を支え続ける意向を示したという”という話は興味深いところですが、真相はわかりません。
****イラン:シリア体制崩壊防止に躍起****
混乱が続くシリア情勢に、同盟国のイランが強い危機感を示している。今月4日にダマスカスで反体制派がイラン人48人を拉致する事件があり、反体制派側は「イラン革命防衛隊の関係者が含まれていた」と主張。イラン政府は関与を否定するが、シリアの体制崩壊を防ごうとシリア国内外で必死の工作を続けている模様だ。
「我々の軍隊はシリア国内に一切いない。シリア自身が強い軍事力を持っているからだ」。イランのバヒディ国防軍需相は4日、シリアへの関与を否定した。その直後、反体制派「アルバラー」によるイラン人拉致事件が浮上。中東の衛星テレビ局アルアラビーヤによると、反体制派は拉致した48人の動画を公開。一部は偵察活動中の革命防衛隊関係者だと主張し「シリアで活動するすべてのイラン人の運命は彼らのようになる」と脅した。イラン政府は「拉致されたのは巡礼者」とし、トルコやカタールを通じ、解放に向けた交渉を続けている。
シリアのアサド政権中枢とイランは、ともにイスラム教シーア派に近い宗派同士。対する反体制派は主にスンニ派で、サウジアラビアやトルコなどが支援。シリア国内の対立は、周辺国を巻き込んだシーア派、スンニ派の宗派間抗争の色が濃くなっている。
地域での孤立が進むイランにとって、シリアの体制崩壊は避けたいシナリオだ。現役の革命防衛隊関係者によると7月下旬、アサド政権は「退陣を検討する」との意向をイラン側に伝えたが、イラン指導部はこれに反対し、アサド政権を支え続ける意向を示したという。
イランは、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラとも連携を強める。イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は6日にレバノンを訪問。ヒズボラ指導者のナスララ師らと会談し、シリア支援について話し合うとみられる。【8月6日 毎日】
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【反体制派を支援するカタールの思惑】
昨日・今日は、6月にアサド大統領によって首相に任命されたシリアのヒジャブ首相が6日、アサド政権を離反し、反体制派に加わることを明らかにし件が大きく報じられています。ヒジャブ首相は東部デリゾール出身で、反体制派の大半を占めるイスラム教スンニ派教徒です。
首相就任当時、アサド大統領から「任を受けるか、死を選ぶかのどちらかだ」と迫られたということですが、このあたりの真相もよくわかりません。
ヒジャブ首相を受け入れたのは、アサド批判の急先鋒に立つカタールですが、カタールには、核開発を継続するシーア派イランに対する警戒や国内民主化への警戒などの思惑もあるようです。
****シリア:離反の前首相、カタールへ****
シリアのアサド政権から6日離反したリヤド・ヒジャブ前首相は近く、ペルシャ湾岸の産油国カタールに向かうとみられている。カタールはシリア反体制派を政治・資金両面で支援する反アサド政権の急先鋒(せんぽう)だ。アサド政権を支えるイランがイスラム教シーア派なのに対し、カタールはスンニ派で、シリア情勢による中東地域の宗派分断が激しくなっている。
ヒジャブ氏の側近は6日、隣国ヨルダンに出国後、中東の衛星テレビ・アルジャジーラでヒジャブ氏の声明を発表。アサド政権を「テロリスト政権」と痛烈に非難し、反体制側への転身を明確にした。
ヒジャブ氏は激しい戦闘が続くシリア東部デリゾール出身で、先に離反した政権幹部らと同じイスラム教スンニ派。アサド大統領の出身母体で国内少数派のイスラム教アラウィ派が牛耳る政権内で、スンニ派の最高職だったとみられる。
AP通信によると、ヒジャブ氏は数カ月前から離反を計画し、反体制派と接触していた。農業・農業改革相だったヒジャブ氏は、「政治改革」を掲げた5月の人民議会選を受けて、首相に任命されたばかりだったが、この際、アサド大統領から「任を受けるか、死を選ぶかのどちらかだ」と迫られたという。
ヒジャブ氏は近日中にヨルダンからカタールに向かう見通しだ。カタールは湾岸の小国ながら、潤沢なオイルマネーで発言力を拡大。とりわけシリア情勢を巡ってはサウジアラビア、トルコとの「スンニ派連合」を構成し、これまでにもシリア反体制派の離反者を受け入れている。
カタールが積極的に関与する背景には、核開発を継続するシーア派イランに対する警戒とともに、首長が全権力を掌握する自国の政治体制に「アラブの春」が波及するのを恐れているとの見方がある。
カタールの議会は立法権のない首長指名の諮問機関で、初の国政選挙が来年後半に実施予定とされている。他国の民主化闘争を積極支援することで「民主化」に前向きな姿勢を演出し、国内での要求拡大をそらす狙いもあるといわれている。【8月7日 毎日】
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