![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/21/ecf75244e786a6188c89bbe5ca2c9414.jpg?random=4498fa704df470694d1c6276aae085ee)
(ハリケーン「サンディ」の被害者を抱きしめるオバマ大統領 こうしたシーンはオバマ大統領はよく似合います。逆に言えば、こうしたシーンが馴染まないロムニー氏には“人間味”でやや欠ける面があります。あくまでも個人的印象ですが。“flickr”より By El Mundo, Economía y Negocios http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/8143289244/)
【雇用が安定する兆し】
11月6日に投開票されるアメリカ大統領選挙は、どちらに転んでもおかしくない接戦となっていますが、大統領選挙に大きな影響を与える可能性があるとして注目されていた10月の雇用統計が先ほど発表されました。
数字は概ねアメリカ経済の回復基調を裏付けるもので、オバマ大統領にとってはハードルを“一応”クリアした形となったようです。
****米雇用増、10月17.1万人 4カ月連続10万人超 ****
米労働省が2日発表した10月の雇用統計は、雇用の動向を敏感に反映する非農業部門の雇用者数が前月に比べ17万1000人増えた。9月の改定値よりもプラス幅を広げ、4カ月連続で改善の節目である10万人増を越えた。製造業やサービス業全般に雇用が安定する兆しを示しているが、企業の雇用意欲冷え込みなど先行きには不安も横たわる。
足元の雇用が上向いたことで、6日に控えた米大統領選では再選を目指すオバマ大統領には追い風になるとの見方も出ている。
10月の雇用者数は市場の事前予測平均である12万人程度を上回った。この日の改定では9月は11万4000人増から14万8000人増に、8月も14万2000人から19万2000人増にそれぞれ引き上げられた。
労働者人口が増える米では失業率を安定して引き下げるには月15万人程度の新規雇用が必要とされる。7月以降はこのラインをおおむね上回って推移している。失業率は7.9%と9月から0.1ポイント上昇した。
民間部門では建設や製造業を中心に雇用が好転したほか、サービスでも雇用のプラス幅が拡大した。金融、情報などは低調だが、小売りやヘルスケア、ビジネス関連の一時雇用の伸びが高まった。政府部門は雇用者数がマイナスになった。主要企業の間では投資・雇用を手控える動きも出ており回復の持続性が課題になりそう。雇用統計はブレが大きく出やすいことがある。【11月2日 日経】
*******************
“非農業部門雇用者数”は、非農業部門に属する事業所(対象事業所:約40万社、従業員4,700万人:全米の約1/3を網羅)の給与支払い帳簿をもとに集計したものです。
“失業率”は、労働力人口(16歳以上の働く意志を持つ人)のうち失業者(調査期間中に労働に従事していないが働くことは可能で、過去4週間以内に求職活動を行った人)の占める割合です。
市場の予想では、“非農業部門雇用者数”が12.5万人増加、“失業率”は7.9%といった数字が出されていましたので、記事にあるように、雇用者数は市場予測を上回る増加となっています。
そうしたこともあって、数字が発表されるとドル買いが進み、ドル円は発表前の80.2円から80.6円にドル高に振れています。
失業率は0.1ポイント悪化ですが、市場予測の数字であり、何とか7%台をキープしています。
それにしても、アメリカの統計制度については全く知りませんが、労働省が発表する数値をホワイトハウスはどの段階で知るのでしょうか? もし、大統領選挙に支障が出るような数値になりそうなとき、“干渉”みたいなものはないのでしょうか? まあ、これだけ注目されていると“干渉”のしようもありませんが。
【「これまでの大統領の働きは素晴らしい」】
オバマ大統領にとって、選挙直前に降ってわいたようなもう一つのハードルが、東海岸を直撃して、死者が15州で少なくとも92人に達するという大きな被害を出したハリケーン「サンディ」対策でした。
こちらについても、評価は概ね良好で、ハードルをクリアしたようです。
災害救助は大統領としての存在感・リーダーシップをアピールする絶好の機会ともなりますが、かつてブッシュ大統領が「カトリーナ」で著しく国民の信頼を失った例もあります。
****オバマ氏、「サンディ」危機乗り切る****
米大統領選を6日に控え、再選を目指す民主党のオバマ大統領は、東海岸を直撃した強い嵐「サンディ」への対応を、党派を超えたリーダーシップを示して乗り切りつつある。共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事は、被災者を気遣いながら票固めを急ぐ。
オバマ氏は10月31日、最も被害が大きい米東部ニュージャージー州を訪ねた。大統領専用機「エアフォースワン」を出迎えたのは、同州のクリスティー知事。将来の大統領候補とも言われる共和党の有力者だ。
ふだんはオバマ氏を厳しく批判しているクリスティー氏だが、がっちりと握手し、オバマ氏とともにテレビカメラの前に立った。「大統領が我々の州民に示した心遣いと思いやりに、感謝してもし切れない」。
米メディアのインタビューにも「これまでの大統領の働きは素晴らしい」などと繰り返した。大統領選を控え、真意を聞こうと質問が集中したが、「大統領選より被災者の救済が大切だ」と受け流した。
オバマ氏も、クリスティー氏を「たぐいまれなリーダーシップと協力に感謝したい」と持ち上げ、災害対応での党派を超えた連携を強調した。
現職のオバマ氏にとって、市民に大きなダメージを与えた災害への対応は危機管理の重要案件。ひとつ間違えば激戦での致命傷になりかねない。
オバマ氏は、被害が広がりつつあった29日、フロリダ州での選挙集会を切り上げてワシントンに戻ると、ホワイトハウスで災害対応に専念した。被災した13州知事と7市長に次々に電話し、被害の状況や必要な支援を直接聞きとった。
初動も含め、批判される局面は今のところない。CNNテレビに出たロムニー陣営の幹部に対し、キャスターが「災害への対応で、勢いはオバマ氏に行ったのではないか」と聞いたほどだ。
ただしオバマ陣営は、選挙運動が滞ったのは気がかりのようで、1日には「接戦州」に入って選挙キャンペーンを再開する。
■ロムニー氏、集会は支援名目
これに対しロムニー氏は31日、接戦になっているフロリダ州で集会を開いた。東部に「サンディ」の余波が残っていた30日も、接戦のオハイオ州で「災害救助のイベント」と銘打って集会を持ち、義援金や支援物資を集めた。
有権者が災害で苦しんでいる時に表だって選挙集会を開けば、批判されかねない。でも票固めは必要だ。そうした苦心が、集会の名目に表れた。
ロムニー氏は、今回の災害救助に活躍した米連邦緊急事態管理局(FEMA)について、予算カットや民営化を示唆したことがある。オハイオでの集会で、この点を記者団に聞かれたものの、無言だった。 【11月2日 朝日】
********************
ロムニー氏は昨年、共和党の大統領候補を決める予備選の討論会で、財政赤字の削減に注力すべき時期に、連邦政府が災害時の支援に公的資金を投入するのは「不道徳」だと発言したことがあります。
****ロムニーにとって災害支援は「不道徳」****
・・・・討論会でロムニーはまずこう切り出した。「連邦政府の手を離れて州政府に戻せるものがあれば常にそうするのが、正しい方向性だ。その方針をさらに進めて民間部門に戻せれば、なおいい。連邦予算の支出項目の中から『何を削減すべきか』ではなく、反対に『何を残すべきか』を考えるべきだ」
「でも、災害支援は残しますよね」と、司会役のジョン・キングが尋ねると、ロムニーはこう答えた。
「残せない。子供たちの未来を危険にさらすことなく、災害支援をする財政的余裕はない。債務を返済し終わる前に自分たちは死ぬとわかっていながら、債務を増やし続け、それを子供の世代に押しつけ続けるのは不道徳だと思う。まったく理解できない」(後略)【10月30日 Newsweek】
*******************
今回の「サンディ」による被害に対し、“連邦政府による災害支援は不道徳”とはロムニー氏も言い難いところでしょう。もっとも、オバマ大統領が“記憶喪失”と揶揄するように、主張をころころ変えるのはロムニー氏の本領ですから、あまり気にもしていないのかも。
それにしても、共和党のニュージャージー州知事がオバマ大統領を絶賛したのは、どういう事情でしょうか?
単なる正直な感想であり、あれこれ詮索するのは下衆の勘繰りというものでしょうか?
両候補から支持を求められていたニューヨークのブルームバーグ市長も、「サンディ」に見られるような気候変動に対する姿勢から、オバマ支持を表明しています。
****NY市長、オバマ氏支持を表明 「サンディで明確に」****
ニューヨークのブルームバーグ市長は1日、オバマ大統領の再選を支持すると表明した。4年間の実績には「失望した」としつつ、「サンディ」によって、気候変動に取り組む大統領の必要性が明らかになったと主張した。
自ら創業したブルームバーグニュースへの寄稿で、ブルームバーグ氏は「一方の候補は気候変動を喫緊の問題ととらえ、もう一方は異なる。大統領には、選挙での票獲得よりも、科学的証拠や危機管理を重視してほしい」と述べた。女性の妊娠中絶の権利や同性婚容認でも、オバマ氏の立場を支持した。
一方、ロムニー前マサチューセッツ州知事については「過去に気候変動や移民、銃規制などで常識的な立場をとりながらも、現在はすべて覆している」と批判した。
元々民主党員だったブルームバーグ氏は2001年に共和党員として市長に初当選したが、現在は無党派。04年の大統領選ではブッシュ前大統領を支持し、08年はどちらの候補も推さなかった。【11月2日 朝日】
**********************
【戦術変更 「大統領らしさ」を前面に】
オバマ大統領は、「サンディ」対策への高評価に乗る形で、これまでの“ロムニー批判”から、超党派協力の重要性を訴えるなど「大統領らしさ」を前面に掲げた姿勢に変更したようです。
****米大統領選:オバマ氏一変、災害対応で超党派協力訴え****
ハリケーン「サンディ」への対応で米大統領選(6日投開票)の活動を3日間中断していた民主党のバラク・オバマ大統領(51)が1日、選挙戦を再開した。被害への対応で高い評価を得ていることを受け、演説スタイルを一変。共和党の大統領候補、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)をあざけるような演説を封印し、超党派協力の重要性を訴えるなど「大統領らしさ」を前面に掲げた。
ハリケーン被害の陣頭指揮を執って以降、初めての遊説先となった中西部ウィスコンシン州グリーンベイ。空港に到着した大統領専用機から降り立ったオバマ大統領は、胸に「コマンダー・イン・チーフ」(最高指揮官)と記された米軍の革ジャン姿で登場した。
「災害に直面した時に米国はすばらしい姿を見せる。平時に気を煩わすささいな違いがすべて消えてしまう」
演説をハリケーンの話から始めた大統領は「災害には民主党も共和党もない。ただ、あるのは米国人だけだ」と語り、共和党のクリスティー・ニュージャージー州知事らと協力して対応にあたっていることを強調した。
ロムニー氏批判もあったが、政策を頻繁に変えるロムニー氏を「記憶喪失」などとからかうような調子は消えた。第1回テレビ討論会(10月3日)でロムニー氏が高評価を得た後、オバマ大統領はなりふり構わず、ロムニー氏を激しく批判してきた。その結果、世論調査では好感度が徐々に低下。ハリケーン対応をきっかけに再びイメージチェンジを狙い、最終盤での支持の上積みを狙う考えだ。
一方、ロムニー氏も南部バージニア州の3カ所で演説。前日は大統領が被災地入りしていたため、名指しでの批判は控えたが、1日は「オバマ大統領の選挙スローガンはフォワード(前へ)だが、フォアウォーンド(警告を受けた)の方がいいんじゃないか。過去4年でたくさんの人が傷ついており、これ以上はたくさんだ」などと批判を展開した。【11月2日 毎日】
***********************
【火がついた「ロムニー人気」】
雇用統計や「サンディ」対策への評価などを並べると、オバマ大統領が有利になったかのように見えますが、必ずしもそうも言えず、最近のロムニー氏の勢いは相当なものがあるようです。
****土壇場ロムニーにまさかの上昇気流****
ついに「ロムニー人気」に火が付いた?勝負の読めない大接戦を制するのは
大統領候補が「もしも私か大統領になったとしたら」と言いかけて「私が大統領になった暁には」と言い直す。大歓声が上がる。候補者は演説を続ける。米大統領選の「お約束」だ。しかし10月25目は様子が違った。共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事が遊説先のオハイオ州シンシナティで同じことをしたところ、投票日の夜の勝利宣言を思わせる大歓声が巻き起こり、30秒問やまなかった。
選挙戦もいよいよラストスパート。両陣営とも満場の支持者が候補者に熱い声援を送る様子をアピールし続けるはずだ。オハイオ州デファイアンスの高校で行われたロムニー陣営の支持集会では、大観衆を撮影するための無人機まで登場した。今回の大統領選では当初はさまざまな事実が、続いて支持率が、さらに現在は勢いが争点となっている。どちらの陣営により多くの聴衆が集まるか。どちらがより熱いのか。
有権者の心を読むのは至難の業だ。08年大統領選のウィスコンシン州で聞かれた共和党のマケイン陣営の支持集会は大盛況たった。にもかかわらず同州ではマケインは14ポイント差でオバマに敗れている。
それでもロムニー人気は願ってもないタイミングでピークに達している。これまでロムニーは反オバマ感情の受け皿にすぎず、予備選では忠実な共和党支持者の心に火を付けられずじまい。
それが今では支持集会の会場周辺に長い行列ができ、みんな声をからして声援を送る。ロムニーが口にするオバマ批判にではなく、ロムニー本人に対して歓声が上がる。(後略)【11月7日号 Newsweek日本版】
***************************
【支持率で人種間で差】
今回の大統領選挙では、人種間の差が大きくなっています。
高い失業率にもかかわらず、黒人層が「オバマ支持」でまとまっているのに対し、白人層ではオバマ支持が激減しています。
****白人の支持が激減=黒人は圧倒的にオバマ氏―人種間の緊張反映か・米大統領選****
6日投票の米大統領選に関する各種世論調査で、オバマ大統領に対する白人の支持が2009年の就任時から激減していることが浮き彫りになっている。白人層より経済状態が悪い黒人層は、圧倒的にオバマ氏支持。同氏が多様な米国を代表する大統領であり続けようと努める中、人種間の緊張が複雑に反映していると言えそうだ。
ギャラップ社の最新調査(10月22~28日、回答者3682人)によると、白人でオバマ氏を支持すると答えた人は38%で、就任時の調査(09年1月19~25日、回答者2631人)の63%から大幅に減少。黒人は91%がオバマ氏支持と回答した。
一部の米メディアは、こうした傾向を「人種間の緊張」(ワシントン・ポスト紙)と表現する。雇用問題が最大の争点となる中、黒人層は失業率が13.4%(9月時点)と、白人層の2倍近くに達しているにもかかわらず、黒人初の米大統領であるオバマ氏の再選を求めているからだ。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のキャロリン・ボウマン上級研究員(世論・メディア)は「黒人層は一枚岩となって1960年代から圧倒的に民主党候補を支持している。肌の色は関係ない。多くの白人層は大統領の実績で判断している」と指摘する。
オバマ氏自身は最近のラジオのインタビューで、なぜ黒人層が支持するのかという質問に、「皆が妻のミシェルにファーストレディーを続けてほしいと思っているから」とかわした上で、「全ての米国民のために全霊をささげている」と強調した。
ワシントン・ポスト紙の最新の調査によれば、白人有権者の支持率で共和党のロムニー候補がオバマ氏を23ポイント上回った。08年の大統領選前調査では、共和党のマケイン候補のリードは8ポイントしかなかった。【11月1日 時事】
*********************
支持率に、女性でオバマ支持が高く、男性でロムニー支持が高いという、男女差があることも指摘されています。
このあたりは、6日の投開票後、いろいろと分析されるところかと思います。
今後アメリカでは、黒人層、ヒスパニックがますます割合を高め、社会・政治におけるウェイトが高くなっていきます。
高失業率という現職に逆風の選挙でもロムニー氏が勝てないということになると、これから経済が回復していくなかで、白人層に特化したような現在の共和党の姿勢では、共和党が大統領を奪還するのは更に難しくなります。
まあ、6日の結果を見ないと・・・・。