孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  メイド問題で高まる反マレーシア感情 パプア独立問題への暴力的対応

2012-11-09 23:47:19 | 東南アジア

(09年 マレーシア人の雇い主に虐待を受けたとして保護されたインドネシア人メイドの手 “flickr”より By 萃攸 http://www.flickr.com/photos/38722415@N07/4197112636/

インドネシア政府にはメイド派遣の再凍結を求める脅しが殺到
インドネシア語は、もともとはマラッカ海峡周辺で使用されていたマレー語が母体となっているため、言語的に非常に近く、インドネシア・マレーシア両国民は互いの言葉が理解できると言われています。
宗教的にも共にイスラム教を主体とする国家(マレーシアの場合は、華人、インド人などを含む多民族・多宗教国家の側面もありますが)です。

言語・文化・宗教に近い関係がある隣接する両国ですが、その関係は良好とは言い難い面があり、09年には、マレーシアに出稼ぎに出ているインドネシア人メイドへの肉体的・性的虐待でインドネシア側の不満が噴出したことがあります。
その影響でインドネシア人メイドのマレーシアへの派遣は凍結されていたのですが、4か月ほど前に解禁されたようです。しかし、1枚のチラシの文言で、再びインドネシア側の怒りが高まっているそうです。

****マレーシアとインドネシアのメイド戦争****
マレーシアに張り出された「インドネシア人メイド大売り出し!」のチラシでインドネシアの積年の恨みが炎上

東南アジアの経済力格差を考えれば、インドネシア女性がマレーシアに出稼ぎに向かうのは自然なことだ。
1万以上の島々に2億人の国民が暮らすインドネシアは、10人に1人以上が貧困状態にある途上国。
一方、マレーシアはアジア経済をけん引する国の1つで、住み込み家政婦を雇う経済的余裕のある上流家庭も多い。

だが、裕福なマレーシア人家庭に住み込んで料理や掃除、子供の世話などを担うインドネシア人女性が雇用主から虐待を受けるケースは少なくない。虐待によってメイドが命を落とす事件まで発生し、インドネシア世論の怒りが頂点に達した09年6月、インドネシア政府はマレーシアへのメイド派遣を凍結した。

これに対し、マレーシア当局はメイド不足に不満を募らせる富裕層の圧力に押されて待遇改善に尽力。4カ月ほど前にようやくメイドの派遣が再開されたのだが、1枚の品のないチラシをきっかけにインドネシア国民の間に再びマレーシアへの怒りが渦巻いている。

首都クアラルンプールの街路樹に張られた問題のチラシには、「インドネシア人メイド、大売り出し! 家事や料理の手間がなくなります!」といった露骨な言葉が並んでいる。活動家のアニス・ハディヤがツイッターでこのチラシを紹介すると、インドネシア人を「商品」扱いすることへの批判が一気に広がった。

チラシ作製が「安全保障」を脅かした罪に?
インドネシアの世論がメイド虐待問題に神経をとがらせているタイミングを考えれば、確かにあまりに攻撃的で、恥ずべき内容だ。
インドネシア国内の反マレーシア感情は、異様なレベルにまでエスカレートしている。インドネシア政府にはメイド派遣の再凍結を求める脅しが殺到。インドネシア人出稼ぎ労働者を斡旋する会社の社長は、マレーシアへのメイド派遣を「永久的に」停止すると発言している。

一方、マレーシア政府もこの問題に過剰反応を示している。社会の不安定化を恐れる当局は、チラシをデザインした女性を2週間に渡って取り調べ、マレーシアの「国家安全保障」を脅かした罪に当たるかどうか調査しているという。女性が身柄を拘留されているか確認するため、記者はチラシに記載された3つの電話番号に連絡したが、応答はなかった。

それにしても、この女性の行為のどこに法的な問題があるのか。ホッチキスでチラシを木に貼りつけたこと? こんな1枚の紙切れに、マレーシアの安全保障を脅かす力があるとは思えないのだが。【11月6日 Newsweek】
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09年6月の騒動については、09年6月13日ブログ「インドネシアとマレーシア 領海問題で対立 “近い”両国の微妙な感情」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090613)でも取り上げました。

09年6月ブログでも触れたように、インドネシア側の不満が高まりやすい背景には、経済的に優位にあるマレーシアに対するインドネシア側の反感があります。
2010年の一人当たりGDPでみると、マレーシア8423ドルに対し、インドネシアは2974ドル(IMF, World Economic Outlook Database)と3倍近い格差があります

この格差のために、09年当時で30万人とも言われていたメイド・その他労働者のインドネシアからマレーシアへの流入があります。
インドネシア人メイドへの虐待はマレーシアだけでなく、サウジアラビアでも問題化したことがあります。
2011年7月4日ブログ「サウジアラビア インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110704

インドネシア人メイドの虐待問題は、政治的には地域大国の立場にあるインドネシアとしてはプライドが傷つけられる敏感な問題となっています。
今回の配慮を欠いたチラシ文言は、このインドネシアのプライドをいたく傷つけたようです。

警官隊がデモ隊へ発砲、特殊部隊が運動指導者を殺害
インドネシア関連で最近目にする話題に、パプアで高まっている独立問題、それに対するインドネシア側の弾圧があります。
この問題については、10月1日ブログ「インドネシア パプアの分離独立運動 広がる宗教的不寛容」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121001)でも取り上げました。

****インドネシア:独立派デモで衝突…東部パプア****
独立派住民と治安当局の対立が続くインドネシア東部パプアで23日、独立の是非を問う住民投票を求める抗議デモが行われた。西パプア州の州都マノクワリで警官がデモ隊に発砲。複数の負傷者が出ている。
デモは独立派組織「西パプア国家委員会」(KNPB)が主催。マノクワリの他、パプア州の州都ジャヤプラなど計4都市で行われた。

マノクワリのデモを取材した地元メディア「スアラ・パプア」のオクトビアヌス・ポガウ編集長によると、同日朝、市内の大学前に学生など独立派住民数百人が集まり、道路を封鎖。警察による解散要求を拒否し、投石を始めたため、強制排除に乗り出した警官の一部がデモ隊に向けて発砲したという。9人が負傷し、うち住民2人が背中などに銃弾を受けて重傷という。実弾かゴム弾かは不明。地元テレビの現場映像には、射撃する複数の警官が映っている。

一方、パプア州警察のティト長官は毎日新聞の電話取材に対し、マノクワリでの衝突では住民5人、警官1人が負傷したと話し、空砲のみで実弾は使用していないと主張した。【10月24日 毎日】
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****インドネシア:西パプア指導者、国家警察が殺害****
インドネシア東部パプアの分離・独立を求める独立派組織「西パプア国家委員会」(KNPB)は6日、同委員会の地元指導者と活動家が国家警察の特殊部隊に殺害されたと発表した。

西パプア国家委員会によると、西パプア州ファクファクで4日未明、同委員会の地元指導者(22)と、活動家(22)が死亡した。2人はバイクで移動中で道路脇で倒れていた。検視した医師は、指導者の頭部には大きな穴が開いていたことから他殺と判定した。

西パプア国家委員会は2人は以前から警察に監視されていたとして、検視結果と現場に残されていたバイクが無傷だったことなどを理由に、特殊部隊に襲われたと断定した。一方、地元警察署長は毎日新聞の電話取材に「酒に酔ってバイクを運転中に起きた事故」と否定した。

国家警察は西パプア国家委員会が警察署や国軍施設などへのテロ攻撃を計画しているとして弾圧を強め、活動家の殺害や逮捕が続いている。【11月6日 毎日】
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自分のプライドが傷つけられることには敏感でも、他人を踏みつけることには鈍感になる・・・・まあ、人間というのはそういうものでしょう。
コメント
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