孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区を巡るイスラエル・ハマスの停戦合意、その背景・思惑と危うさ

2012-11-22 23:45:42 | パレスチナ

(停戦を喜ぶガザ地区の人々 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/8207324388/

瀬戸際での地上戦回避
パレスチナ・ガザ地区を巡り、イスラエル軍の空爆とイスラム武装勢力側のロケット弾攻撃の応酬が続き、犠牲者が格段に増大することが想定されるイスラエル軍による地上戦・ガザ侵攻が懸念されていた事態は、エジプトの仲介によりイスラエルとハマスの停戦合意が成立したことで、瀬戸際で地上侵攻という最悪事態は回避されました。
8日間に及んだ一連の戦闘による死者は、ガザ側が子供37人を含む162人、イスラエル側は5人でした。

****ガザ停戦成立、エジプト仲介 地上戦回避、経済封鎖緩和****
パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐり、停戦交渉を主導していたエジプトのアムル外相は21日、クリントン米国務長官との会談後にカイロ市内で共同会見し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの停戦が成立したと発表した。停戦の覚書には、物流の封鎖で「巨大な監獄」となっていたガザの境界開放も盛り込まれた。

アムル氏は「停戦は、同日午後9時(日本時間22日午前4時)に発効する」と語った。ガザ攻撃は同時刻以降停止され、停戦は発効した。その後まもなくガザからイスラエル領内にロケット弾が散発的に着弾したが、イスラエル軍が地上戦への準備を進めているなか、2008~09年に約1400人が死亡したガザ侵攻の再来という最悪の事態は土壇場で回避された。

エジプト政府が公表した「ガザ地区の停戦に関する覚書」によると、主な合意内容は(1)イスラエルによるガザ攻撃、暗殺作戦の停止(2)パレスチナの全勢力による対イスラエル・ロケット攻撃の停止(3)発効から24時間後にガザ境界を開放、通行と物資移動の容認――の3点。エジプト政府が双方から合意履行の保証を取り付けることも明記した。【11月22日 朝日】
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ガザの境界開放?停戦の先行きは不透明
“イスラエルのバラク国防相は「目標は全て達成した」と強調。これに対し、ハマス指導者のメシャール氏は「(イスラエルは作戦に)失敗した」と指摘し、双方が「勝利」を宣言した”【11月22日 毎日】とのことですが、停戦合意の“ガザ境界を開放、通行と物資移動の容認”【朝日】の意味するものがよく理解できません。

“24時間の経過期間の後、ガザ境界の封鎖解除に向け、人の移動や物流を促進する措置の履行手続きに着手する”【毎日】
“停戦発効から24時間後に、イスラエルが実施しているガザ封鎖の緩和などについて協議”【読売】
“停戦入りから24時間後にイスラエルによるガザの経済封鎖緩和の進め方を調整する”【時事】
“停戦が成立した場合、イスラエルは24時間以内に、ガザ地区との境界に設けた複数の検問所の封鎖を解除し、人や物資の移動を可能にする手続きを開始する必要がある”【AFP】
と、メディアによって表現が異なりますが、“容認”“着手”と“協議”“調整”ではニュアンスがかなり異なります。

この停戦合意をもって“物流の封鎖で「巨大な監獄」となっていたガザの境界開放”【朝日】が実現するのか・・・ということについては、非常に疑問です。
むしろ、“イスラエルがガザ境界の検問所を「正常化」する可能性は皆無で、ハマスが反発する可能性もある”【毎日】というのが常識的な見方でしょう。

少なくとも、ガザ地区内への武器持ち込みは認められていません。ガザへの武器密輸対策については、アメリカが支援を強化することを表明しています。
ガザ地区の復興を妨げている建築資材などはどうなるのでしょうか?
検問所の“正常化”ではなく、極めて限定的な移動容認にとどまるのでしょう。
エジプトはラファ検問所の扱いをどうするのでしょうか?

“早くもイスラエルは封鎖を解除しないとの情報が流れており、停戦の先行きは不透明な部分もある”【時事】とも指摘さています。
特に懸念されるのは、ガザ地区の武装勢力はハマスだけでなく、より強硬な姿勢の組織もあり、境界開放がパレスチナ側の意に沿うものでなかった場合、そうした武装勢力のロケット弾攻撃再開をハマスがコントロールできるのか?・・・という点です。

“(ガザ地区では)停戦を喜ぶ祝砲や花火の音が半月の夜空にはじけた。「神は偉大なり。勝者は我らだ」。モスク(イスラム礼拝所)のスピーカーからハマス支持者の絶叫が響き渡る。緑のハマス旗やパレスチナ旗を掲げた車の群れが、クラクションを鳴らしながら深夜のガザ市中心部を走り回る。圧倒的な軍事力を誇るイスラエルが停戦に応じたのは、ハマスの長距離ロケット弾を恐れたからだと信じられているからだ。”【11月22日 毎日】
期待が大きすぎると、「巨大な監獄」状態が依然として改善しないことへの不満も強まります。

それぞれの思惑
イスラエル軍は20日午後には、ガザ北部一帯の上空から避難勧告をばらまみ、地上侵攻の予兆とみた地元民は恐れをなし、直ちに避難を始めるという事態もありました。
また、合意直前の21日昼には、イスラエルの最大商業都市テルアビブ中心部にある軍本部の前の路上で、路線バス内で爆発が起き、警察当局によると乗客17人が負傷する爆弾テロがありました。ハマスは関与を否定しましたが攻撃自体は称賛しており、当然に停戦交渉への影響が懸念されていました。

そうした中で今回停戦合意が成立した背景には、イスラエル、ハマス、そして仲介にあたるエジプトそれぞれの思惑があります。

イスラエルでは、空爆によりロケット弾攻撃能力を破壊する作戦は国民の支持を得ています。来年1月22日に総選挙を控えたネタニヤフ首相にとっては追い風となっていますが、このまま地上戦に突入してイスラエル軍に犠牲者が出て、国際的孤立が強まる事態となると世論の風向きも変わります。そうした計算が地上戦突入を思いとどまらせた大きな要因でしょう。

ハマスは、テルアビブへのロケット弾着弾などで、一定にパレスチナ内部の士気を高めることには成功しましたが、地上戦となると犠牲は甚大なものになります。
ハマスがガザ地区に有する権益・資産にも被害が拡大しますし、幹部への攻撃も激しくなります。また、一般人の大きな犠牲に対するパレスチナ内部からの批判も出てきます。

エジプトは、このまま地上戦に突入した場合、パレスチナ支援のためにこれまで以上の関与を求める世論が高まることが予想されます。パレスチナの混乱に巻き込まれることはエジプトとしても望むところではありませんし、アメリカからの援助を背景にした圧力との板挟みにもなります。

それぞれの立場での“このあたりで停戦した方が・・・”という思惑が、瀬戸際の地上戦回避・停戦合意につながたものと思われます。

****ガザ:イスラエルは「抑止力」、ハマスは「外交得点」獲得****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが8日間の激しい戦闘の末に停戦合意した背景には、主導権を握るイスラエル軍が「抑止力の回復」という作戦目標の大半を攻撃初日の14日に達成していたことがある。一方のハマスはエジプトやトルコなどの政府高官がガザ入りして連帯を示したことで、外交的な得点を稼いだと判断し、停戦に応じた。

イスラエルのネタニヤフ首相が21日夜の会見で語ったように、軍の作戦目標はハマスのロケット弾攻撃能力をたたき、「抑止力」を回復することにあった。前回の地上侵攻(09年1月)も同じ目標で、ハマスはここ数カ月でイスラエル南部へのロケット弾攻撃を強化。テルアビブやエルサレムまで届く射程70キロ以上のロケット弾も入手し攻撃能力を高めていた。軍は14日、ハマスの軍事部門「カッサム旅団」トップのジャバリ司令官を暗殺し、発射装置や貯蔵庫など数十カ所を破壊し、目標を達した。

しかし政権はハマスの崩壊を望んでいない。ハマスはガザで、国際テロ組織アルカイダの流れをくむ、ハマス以上に過激な武装組織などを抑え込む役割を担っているからだ。イスラエルの周囲では、平和条約を結ぶエジプトとヨルダンで、穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が台頭し、シリアは内戦状態にある。安全保障の不安が増す中でガザ情勢が流動化する事態は避けたかった。
来年1月に総選挙を控えるネタニヤフ首相は、空爆で9割近い国民の支持を得た。しかし地上侵攻は自国兵士の死者を出した時に批判されるとの読みもあった。米欧も地上戦には反対し、「出口」を探していたといえる。

ハマスも14日の暗殺などは大きな痛手だった。さらにガザ側での死者が160人に達し、停戦を求めざるを得ない状況に追い込まれていた。
しかしテルアビブにもロケットを着弾させるなど「戦うポーズ」をパレスチナ人同胞に誇示できた。また16日のエジプトのカンディール首相に続き、20日にはアラブ連盟の加盟国外相やアラビ事務局長、トルコのダウトオール外相がガザに入り連帯を示した。長い目で見て外交的成果を得たのを機に停戦に応じた。【11月22日 毎日】
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自治政府の求心力は更に低下か
外交的に“認知”される形で得るもが大きかったハマスは、イスラエルへの強硬姿勢でパレスチナ内部での存在感も高めました。
内外ともに存在感を高めたハマスに対し、全く出る幕のなかったパレスチナ自治政府・アッバス議長の求心力は更に低下するように思われます。
パレスチナ内部の統一が進まなければ、和平交渉も進まないということにもなります。
コメント
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