(天安門事件から25年となる4日、香港で行われた、ろうそくに火をともして事件の犠牲者を悼ぶ追悼集会 【6月4日 AFP】)
【「1国2制度」のもとでの天安門事件批判】
中国においては天安門事件は、その名前を口することさえ許されないタブーですが(まるで“ヴォルデモート卿”みたい)、いわゆる「1国2制度」のもと、中国本土とは異なる高度な自治が認められている香港では、天安門事件から25年を迎える今年、事件の再評価を求めるデモも例年どおり行われ、4日には10万人規模の追悼集会が開催されています。また、事件の「記念館」もオープンしたとか。
****天安門事件から25年 香港でデモ行進****
中国で民主化を求める学生たちの運動が、武力で鎮圧された1989年の天安門事件から今月4日で25年になるのを前に、香港で1日、当時の学生などがデモ行進し、中国政府に対して、事件の評価を見直すよう求めました。
これは当時、中国の民主化運動を香港で支援した元学生などが、毎年行っているもので、ことしは、およそ1000人が参加しました。
参加者は「民主的な中国を建設しよう」と書かれた横断幕などを掲げながら、中国政府は、一部の学生による「暴乱」とした事件の評価を見直すべきだなどとシュプレヒコールを上げ、香港の中心部を4キロにわたって行進しました。(後略)【6月1日 NHK】
****************
****天安門事件25年 犠牲者追悼 初の「記念館」****
■本土から学生続々、情報拡散狙う
香港・九竜地区の一角に4月、天安門事件の犠牲者を追悼する「六四記念館」がオープンし、中国本土から観光や留学目的で入境した大学生らが詰めかけている。
香港の民主派団体が開設したもので、事件に関する常設の記念館としては世界初という。数十平方メートルのこぢんまりとしたスペースながら、資料や画像などがまとめられている。(後略)【6月2日 産経】
****************
****香港で天安門事件25周年の追悼集会、参加者は主催者発表で18万人に****
2014年6月4日、英BBC中国語版ウェブサイトによると、天安門事件から25年となった同日夜、香港で大規模な追悼キャンドル集会が開かれた。
集会は午後8時に、香港の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)の主催で開かれた。
今年のスローガンは「天安門事件の再評価を、徹底的に闘おう」。参加者は主催者発表で過去最多となる18万人、香港警察の発表はおよそ10万人だった。(後略)【6月5日 Record China】
****************
【強まる中国の“締め付け”】
“香港は、英国が1997年に香港を中国に返還する前に小平とマーガレット・サッチャーが合意した「一国二制度」の取り決めの下で統治されている中国の特別行政区だ。香港は同制度の下、北京中央政府の領域である外交・防衛政策を除き、行政区を自ら治める自由を持つ。”【6月11日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
香港からすれば天安門事件批判は当然の権利なのでしょうか、外部の目から見ると、「1国2制度」とは言いつつも、どこまで中国が許容するのだろうか・・・とやや不安な感もあります。
実際、“香港出版界では昨年10月、習近平国家主席を批判した本の出版を準備していた香港の出版社の経営者が深センで中国当局に拘束され、今年5月に懲役10年の有罪判決を受けた。”【6月2日 毎日】など、香港ジャーナリストが拘束されたり、襲撃にあったりする“締め付け”が目立つようになっています。
また、北京・習近平政権にあっては、現地の「自治」よりも中央の「統制」を重視する姿勢が強まっています。
(3月8日ブログ“香港 「一国二制度」の幻想”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140308)
【決定権を持つのは北京】
こうしたなか、1997年の返還の記念日である7月1日を前にした6月10日、中国政府は“香港は中国政府の管轄下にあり、「完全な自治権」を持っているわけではない”旨を強調する白書を発表しました。
****中国が香港に対する権限確認の白書、民主化の動き牽制****
中国政府が香港に対して「包括的な権限」を持つことを確認する内容の白書を発表した。
香港では10万人以上が集まって権利の拡大を求める集会が開かれたばかり。民主化の推進を望む住民は白書に対し、一層反感を募らせている。
今回の白書は、香港で次期行政長官を選ぶ選挙制度の改革や、「1国2制度」を巡る論議が活発化する中で、中国国務院新聞弁公室が発表した。
香港が1997年に英国から中国に返還されて以来、こうした白書が発表されるのは初めて。
白書では香港が中国政府の管轄下にあり、「完全な自治権」を持っているわけではないと強調。1国2制度に関連して「香港では現在、多くの誤った見方がはびこっている」と述べ、住民の同制度に対する理解には「混乱や片寄りがある」とした。
さらに「香港特別行政区の高度な自治は、完全な自治ではなく、分権でもない」「中央の指導部によって承認された地方業務を運営する権限だ」と述べている。
これに対して香港で民主主義を訴える公民党の梁家傑党首は背筋が寒くなったと話し、「1国2制度に関する我々の認識が根本から覆えされた」と指摘した。
関係者は白書について、選挙制度改革に関連して民主化を推進しようとする動きを牽制する狙いがあるとみている。【6月12日 CNN】
********************
香港の自治の自由は北京の中央政府の支配下にあり、香港を統治するのは中国である・・・ことをはっきりさせた白書でした。
香港では現在、行政長官は中国の影響力が強い政財界のエリートを中心とする約1200人の委員会によって選ばれていますが、次期行政長官選(2017年)は「普通選挙」が実施されることになってはいます。
しかし、中国政府と香港民主派の間では「普通選挙」の実態についての対立があります。
****「反中央の人物」任命しない=次期香港長官選で中国高官****
中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)香港基本法委員会の李飛主任が香港入りし、「普通選挙」が導入される見通しの次期香港行政長官選(2017年)について「中央(政府)に対抗する人物」が当選しても任命しない方針を示した。22日に開かれた香港政府主催の昼食会と基本法に関する座談会で語った。
中国共産党の一党独裁を否定する民主派の長官就任は、容認しない立場を明確にした形だ。【2013年11月23日 時事】
****************
****香港民主派が大規模デモ=「真の普通選挙」求める****
香港民主派は1日、行政長官の選挙制度改革で「真の普通選挙」導入を求める大規模なデモを行った。参加者数は主催者発表で約3万人、警察発表で約1万1000人だった。【2014年1月1日 時事】
****************
10日の白書は、改めて香港民主派を牽制する内容となっています。
“中国は白書で、香港の指導者は「愛国者」でなければならないと述べた。「国を愛することは香港の行政官に求められる政治的要件だ」と述べ、もし指導者が愛国者でなければ、香港は「正しい方向から逸れてしまう」と説明した。
さらに中国は、「外部勢力が香港を利用し、中国の内政に干渉しようとする試みに対して警戒を怠らない」ことが必要だと述べ、暗に米国と英国の干渉を批判した。”【6月11日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
「セントラル占拠」という名の集団は今夏、指導者を自由に選ぶ権利を香港市民に与える普通選挙制度を求め、中心部のオフィス街でデモを行う計画とされていますが、“返還交渉に携わった中国の元政府高官は先週、抗議デモが暴動を引き起こすようなら、中国政府が香港に戒厳令を敷く可能性があると述べた。”【同上】とのことです。
****香港を統治するのは中国だ―国務院が異例の「白書」****
北京政府は過去において、中国指導者の演説や国営メディアからの「一般的な指令」を通じて同様のメッセージを出したことがある。
しかし、こうした宣言を白書、つまり特定問題に関する政府のポジションペーパーの中で打ち出すのは異例だ。白書は軍、行政、立法、司法が香港を全体的に管理していることを詳述している。
親民主派の立法会議員で弁護士の梁家傑 (Alan Leong)氏は、北京のメッセージによって香港の人々がたじろぐことはないと述べ、「心配ご無用。香港の人々は脅しには慣れている」と語った。
一方、親北京系の新聞の元記者でベテラン政治評論家のジョニー・ラウ(Johnny Lau)氏は「これは、政府が向こう数日以内に香港の管理を厳しくする口実を与えるものだ」 と述べた。
同氏は、この白書が国務院の新聞弁公室(広報担当部局)によって出されていると指摘、これは北京の中央政府が香港の人々だけでなく世界全体に向けて情報を発信しようとしていることを示していると述べた。
ラウ氏は「中国政府は、香港における反対運動の高まりにいら立ちを募らせており、それが香港をめぐる自らの主権を宣言するというより強硬な路線をとらせた」と述べた。【6月11日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
****************
【自由を求める覚悟のほどは?】
香港および中国の民主化がどうあるべきか・・・という話とは別に、現実政治の観点から言えば、中国政府の姿勢は当然のものであり、いくら「1国2制度」とは言っても、中国共産党の意向に反するような自由が認められると考えるの幻想にすぎないでしょう。
別に中国だけでなく、自治に寛大な国であっても同様でしょう。
例えば、アメリカのある州がイスラム・シャリーアに基づく統治を求めたとしても、連邦政府は容認しないでしょう。ましてや、相手は中国です。
もし、中国本土で行われているような政治制度は受け入れられない、欧米的な自由・人権を維持したい・・・ということであれば、本来は1997年の返還前に行動するべきであった、中国の主権のもとに入った今になっては遅すぎるという感がします。
「1国2制度に関する我々の認識が根本から覆えされた」(香港で民主主義を訴える公民党の梁家傑党首)・・・それは認識が甘かったとしか言いようがありません。
返還当時は金融センターとしての香港の価値は中国政府にとっても重要なものでしたが、上海が成長した今はその価値も大きく変わったのではないでしょうか。
今や、香港経済は中国本土に依存して成立している状況です。一方で、中国の経済的・政治的影響力は97年当時とは別物です。
中国政府もそうそう香港に気を遣う必要もなくなっています。
それでも政治的自由が欲しい・・・ということであれば、第2の“天安門事件”を覚悟するぐらいの決意が必要でしょう。
香港民主派にその覚悟は?