孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  カンボジア労働者国外脱出騒動  “こわもて”イメージ払拭に励む軍政

2014-06-19 22:17:35 | 東南アジア

(15日、タイのカンボジア国境付近で、帰国を待つカンボジア人労働者たち(ロイター=共同)【6月16日 共同】)

アメリカ:“奴隷労働”に制裁も検討
6月15日ブログ「タイ養殖エビの“奴隷労働” カンボジアでは農地が収奪されサトウキビ農園に その消費者は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140615)で取り上げた、タイにおける養殖エビ餌漁業での外国人労働者“奴隷労働”に関して、アメリカが経済制裁に乗り出す可能性が出てきたそうです。

****タイの水産業にはびこる奴隷労働と「屑魚****
世界最大のエビの輸出国であるタイの水産業界には長年、公然の秘密があった。悲惨な奴隷労働と暴力が横行しているという秘密だ。

だが最近、タイの漁港や漁船で働く多くの外国人労働者が、無給で過酷な労働に従事させられている実態が白日のもとにさらされつつある。

タイの水産業界では、人身売買組織に騙されたり、仕事を求めて不法入国してきたミャンマーやカンボジアの貧しい人々が大勢働いている。

彼らは長期間に渡って船上で働かされ、地上に上がることも仕事を辞めることも許されない。タイ人の雇用主に反抗すれば暴行を受け、命を奪われることもある。

外国人労働者はもちろん、タイ側の関係者でさえ、タイの漁業業界では殺人行為は日常茶飯事だと証言している。「外国人乗組員が全員射殺されるのを見た」と、あるタイ人は言う。「雇用主は賃金を支払いたくないから、全員を並ばせて一人づつ撃っていった」   悲惨な実態が広く報道されたのを受けて、長年見て見ぬふりをしてきたアメリカがついに、タイへの経済制裁に乗り出す可能性が浮上している。

制裁が科されれば、70億ドル規模のタイの水産業にとっては大打撃だ。

アメリカの食卓では、タイ産の安価なエビやフィッシュスティック(細長く切った魚のフライ)の需要が非常に高い。さらに、一見そうとはわからない形で大量に出回っているタイ産海産物もある。「屑魚(トラッシュ・フィッシュ)」だ。

屑魚とは単一の品種ではなく、2種類の海産物の総称だ。1つは人間の食用に適さない魚、もう1つは成魚に育てば美味だが、十分成長する前に網にかかってしまって売り物にならない魚である。屑魚はすりつぶされ、家畜飼料やペットの餌、魚油や安物の加工食品にされる。

屑魚と強制労働の関係は明白だ。逃げ出した元奴隷労働者らの証言によれば、彼らはタイ人が所有するトロール漁船や小型船に乗せられ、屑魚を大量に獲るため遠海に運ばれる。

東南アジアの海域では乱獲が進み、高値で売れる魚が急激に減りつつある。そこで船長らはやむを得ず、屑魚をたくさん獲ろうと乗組員に過酷な作業を強いるわけだ。(後略)【6月19日 Newsweek】
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タイ産の屑魚が使用されているのは、エビ養殖の餌、魚醤、魚油サプリなどだそうです。

ペットフードもでしょう。
格安のキャットフード缶詰を買うときに生産国を見ると、ほとんどがタイ産です。
タイの屋台(人間用ですが)などを考えれば、「タイで猫用の缶詰を作る際に、衛生面への配慮がなされとはとても思えない・・・一体何が入っているのだろう・・・」という不安があり、しばしば購入を躊躇しました。

衛生面はともかく、労働環境面で大いに問題があったようです。

さすがにアメリカは人権に敏感なだけあって、反応も早いようです。日本では殆ど話題になることすらありません。

EU:軍政に外交関係の一部停止など制裁を実施
もっとも、アメリカでの経済制裁論議(詳細は知りませんが)の背景には、外国人労働者“奴隷労働”だけでなく、タイの軍事クーデターへの批判もあるのかも。

アメリカ以上に人権に敏感な欧州は、タイの軍事政権に対し、外交関係の一部停止など制裁を実施する方針を固めています。

****EU:タイ軍政に制裁 外交関係を一部停止へ****
欧州連合(EU)は、先月のクーデターでタクシン元首相派政権を崩壊させ全権を掌握したタイの軍事政権に対し、外交関係の一部停止など制裁を実施する方針を固めた。近く大筋合意し、23日の外相会議で承認する。EU外交筋が毎日新聞に明らかにした。

EUは軍事政権に対し、早期の民政回復を求めており、EU外相会議の宣言案ではタイへの「関与見直し」を決める。外相会議の日程上の理由で制裁合意が遅れていた。

宣言案では全権を掌握した「国家平和秩序評議会」のプラユット議長(陸軍司令官)など、タイの軍事政権からEUへの公式訪問を停止する。

また、政治経済分野の協力強化を目指して2006年から交渉している「友好協力協定」について「民主的な選挙で選ばれた政府ができるまで調印しない」と、事実上の交渉停止を宣言した。また軍事協力も中止する。

EUはタクシン元首相を失脚させた06年のクーデターでも外交関係停止の制裁を取っており、08年に正常化していた。【6月19日 毎日】
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日本外交はしばしば“追従外交”とも揶揄されますが、かつてのミャンマー軍事政権や内戦時のスリランカなど、アジアの人権侵害国との関係については、人権侵害を重視する欧米とは一線を画して、従来の深い関係性に配慮した対応をしばしばとっています。

カンボジア人就労者は逮捕されて虐待されるといううわさで、脱出騒動
一方、軍事政権下のタイでは、軍政が不法就労者の摘発に乗り出すといううわさが広まり、カンボジア人労働者が国外に脱出する騒ぎとなっています。
もちろん脱出できるのは“奴隷労働”ではない、違法移民を含む普通の労働者です。

****カンボジア人20万人がタイを「脱出」、摘発の噂広まり****
タイで働くカンボジア人労働者の間に、クーデターで実権を握った軍政が不法就労者の摘発に乗り出すといううわさが広まり、出国しようとするカンボジア人が国境沿いの町に押し寄せている。

国際移住機関(IOM)によると、この1週間ほどで18万人あまりのカンボジア人が、摘発を恐れてタイを出国した。毎日約1万人が出国する状況が続いているといい、車などで出国した人も含めると、合計は20万人近くに上る可能性もあるという。

国境の町には3000~4000人が押し寄せるなど状況は深刻化しており、カンボジアとタイの当局者が17日に会談して対応を協議した。

タイの国境に面したアランヤプラテートに集まっていたカンボジア人就労者の多くは、逮捕されて虐待されるといううわさを聞いたと話していた。

これに対してタイ軍の報道官は、「広く伝わっているような形で逮捕する方針はもってない」「パニックにならないでほしい。当初は柔軟な姿勢で臨む。移民労働者は普段通りに働き続けられると請け合いたい」と語る一方、「ただし必要があれば当局が調べられるよう、雇用主には従業員名簿の作成を求める」とした。

タイで合法的に就労している220万人は、ミャンマー人が170万人、カンボジア人は43万8000人を占める。タイは失業率が0.9%と低く、低賃労働の多くは外国人労働者が担っている。【6月19日 CNN】
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タイでは多くのミャンマー人・カンボジア人労働者が主要産業を支えていますが、正規の労働許可を取得していない不法就労者も少なくありません。

“クーデター後、各分野の政策の見直しを進めている軍政は10日、外国人労働者政策に関する小委員会を設置。担当のタナサック国軍最高司令官が優先課題として児童労働や人身売買の取り締まりを指示した。
これがタイのカンボジア人コミュニティーやカンボジア国内で「カンボジア人が標的になる」とのうわさになって一気に広がった。「カンボジア人が軍に射殺された」といううわさも流れ、パニックになったという。”【6月17日 朝日】

タイの経済界からは、今回の大量出国で労働力不足を懸念する声が上がっており、当局も噂を否定してはいます。

しかし、「広く伝わっているような形で逮捕する方針はもってない」「当初は柔軟な姿勢で臨む」「ただし必要があれば当局が調べられるよう、雇用主には従業員名簿の作成を求める」・・・・・というのは、やはり、「何らかの規制を行う」「将来は厳しく対応する」「管理を厳重にして、いつでも調査できるようにする」ということであり、あまり不安の解消にはなっていないように思えます。

通常の民政ならともかく、こわもての軍政ですから。拘束されたら、どんな扱いを受けるか・・・・。“奴隷労働”が公然の秘密として存在するような国ですからなおさらです。

プラユット議長作詞『舞い戻れ幸福よ、タイに』】
一方、軍政を率いるプラユット議長(陸軍司令官)は、“こわもて”イメージの払しょくに努めているようです。

****タイ、クーデター主導の司令官が作詞「幸福」のバラード****
タイのクーデターを主導した軍司令官が作詞した「幸福を取り戻す誓い」を歌ったバラードが、動画共有サイト「ユーチューブ」で再生20万回を超えるヒットとなっている。

普段は険しい表情のプラユット・チャンオチャ陸軍司令官による歌詞の題は『舞い戻れ幸福よ、タイに』。

「われわれは心から皆を守る」「もう少しだけ時間が欲しい」といった一節が並ぶ。
タイ王国陸軍軍楽隊が曲を付け、同ウェブサイトで前週6日に発表した。投稿されたユーチューブ上では週明けの9日までに再生15万回を記録した。

楽隊の隊長クリサダ・サリカ大佐は「司令官から直接1時間ほど会えないかと呼び出しを受けた。司令官が自分で作詞した。(司令官は)タイ国民に自分の思いを伝える曲、タイの人々が聞き、再び互いを愛せるようになる曲を求めていた」と述べた。

タイ軍は今回のクーデターの印象を良くしようと、コンサートを開いて兵士が踊ったり、見物人に無料で食べ物を配布したりするなど懸命に努めている。

プラユット司令官は週に一度の定例のテレビ演説で、数か月にわたって抗議行動が続いて政治が行き詰まり、また政治的暴力で30人近くが死亡している事態を受け、やむなくクーデターを起こしたと語った。【6月10日 AFP】
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いささか厚化粧の下に・・・という感もあって、ひいてしまいます。
歓心を買う国民サービスにも取り組んでいます。

****幸福のため」W杯無料放送=タイ軍政の意向で****
タイ国家放送通信委員会(NBTC)は12日、国内でサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会の全試合が地上波テレビで無料放送されると発表した。
「国民に幸福を取り戻すため」として、軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)の意向で決まった。(後略)【6月12日 時事】 
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随分と「国民の幸福」を大切に考えておられるようですが、中立的な立場で混乱を収め、速やかな民政復帰を目指すことが最大「幸福」につながることは言わずもがなでしょう。

国民和解を進めた後、憲法起草と政治改革
軍事政権は民政復帰は急がず、時間をかけてタクシン派の勢力を抑える対策を進める方針のようです。

****暫定政権発足「9月中には」…タイ陸軍司令官****
タイのクーデターで全権を掌握した国家平和秩序評議会のプラユット議長(陸軍司令官)は13日夜、テレビ演説し、「9月中には暫定政権が発足する」との見通しを示した。
暫定首相には議長自身の就任が有力視されている。

議長は、憲法起草を行う立法評議会も暫定政権とほぼ同時に発足するだろうと語った。5月末に発表された民政移管までの3段階の行程表では、第1段階(2~3か月)で国民和解を進めた後、憲法起草と政治改革を行う第2段階に入るとしている。(後略)【6月13日 読売】
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成り行きによっては軍政との衝突も懸念されるタクシン派ですが、タクシン氏本人との関係では、以下のようにも報じられています。その真意はよくわかりません。

****政治に干渉するな」=軍政がタクシン氏に―タイ紙****
15日付のタイ英字紙バンコク・ポストは、タクシン元首相に近い筋の話として、軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)が元首相に対し、政治への干渉をやめるよう伝えたと報じた。支持者がタクシン氏を訪れるのをやめさせることも求めたという。

タクシン氏はNCPOの要請に同意し、支持者にNCPOに協力するよう伝えた。また、NCPOのプラユット議長(陸軍司令官)にメッセージを送り、「全ての人に正義と公正が確保されること」を要請した。

タクシン派政党・タイ貢献党筋の話では、同党の政治家らがタクシン氏と面会するのは難しくなっているが、ソーシャルメディアを使ってタクシン氏との連絡を保っているという。【6月15日 時事】
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