孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  ロシア対応には各国で独自の事情・・・ハンガリー、リトアニア、スウェーデン

2015-03-06 22:13:11 | 欧州情勢

(リトアニアのグリバウスカイテ大統領(左)を迎えるウクライナのポロシェンコ大統領=2014年11月24日、キエフ(AP=共同)【014年11月24日 産経ニュース】)

けん制しあう欧米・ロシア
ウクライナ東部の情勢は一応の停戦合意のもとにはありますが、依然として先行き不透明な緊張状態にあるとも言えます。

****<ウクライナ停戦合意>欧米首脳、露に追加制裁を警告****
オバマ米大統領と独仏英伊、欧州連合(EU)の首脳が3日、電話協議し、ウクライナ東部での停戦合意が破られた場合、ロシアに追加制裁を導入することで一致した。

欧米首脳が停戦合意と制裁を結びつけ、共同でロシアに警告するのは初めて。

欧米はロシアの支援を受けた親露派武装勢力が、停戦合意を無視してウクライナ南部の港湾都市マリウポリを攻撃する可能性があると見ており、強い警告で停戦合意順守を要求した。(後略)【3月4日 毎日】
******************

ロシア・プーチン大統領も、ウクライナ政府を支援する欧米側へ軍事的圧力をかける形で、軟化の兆しは見せていません。

****ウクライナ情勢】露軍がクリミア半島で軍事演習 2千人超動員 NATOを牽制か****
ロシア国防省は5日、同国が昨年3月に併合したウクライナ南部クリミア半島や、グルジアの親露分離派地域、ロシア南部などで、計2千人以上を動員した軍事演習を開始したと発表した。4月10日まで実施する。

ロシア軍はまた、欧州内の飛び地であるカリーニングラード州でも5日、演習を開始した。

クリミア半島が面する黒海では、北大西洋条約機構(NATO)軍が4日、対空、対潜水艦の演習を始めており、ロシアの一連の動きはNATOを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

インタファクス通信によると、ロシアのアントノフ国防次官は5日、NATOが「ウクライナ東部情勢を口実に、ロシア国境に接近している」と述べるなど、NATOの活動に強い警戒を示していた。

ウクライナ東部をめぐっては、停戦合意に基づき前線からの重火器撤去が進められているにもかかわらず、戦闘による死者が連日のように発生している。

米欧州軍のホッジス司令官は3日、ウクライナ領内にロシア軍兵士約1万2千人が展開し、クリミア半島には2万9千人が駐留していると指摘した。【3月5日 産経】
*******************

ロシアは2月25日から27日にかけても、バルト3国のエストニアとラトビアに国境を接し、ウクライナにも比較的近い北西部プスコフ州で精鋭部隊の空挺軍が大規模な演習を行い、欧米側をけん制しています。

ロシアを範とする「非リベラル国家」を目指すハンガリー・オルバン首相
“停戦合意が破られた場合、ロシアに追加制裁を導入することで一致した”という欧米側ですが、欧州内部は決して一枚岩ではありません。

オルバン首相のハンガリーのように、明確にロシア支持の姿勢を見せている国もあります。

****欧州の足並みを乱す4か国****
■ハンガリー
ハンガリーの現政権もロシアと友好関係にある。先月プーチンは首都ブダペストを訪れて大歓迎された。

EU加盟28力国はロシアからの燃料輸入への依存を減らそうとしているが、長期に安価で供給するとのプーチンからのおいしい話をオルバンービクトル首相は断れるわけもない。

「ロシアからの経済協力なしに欧州経済の競争力が保てるなどと考えるならそれは幻想だ」と、オルバンは述べた。

オルバン政権は国内の司法、報道、市民社会に対する激しい締め付けで、EU内から批判を受けている。オルバ
ンは昨年、「新しい非リベラル国家」を築くという目標を語り、その模範としてプーチンの名を挙げた。(後略)【3月10日号 Newsweek日本版】
******************

ハンガリー・オルバン首相の話や、ロシアにガス供給を依存する中東欧の事情については、2014年12月7日ブログ「ロシア 天然ガスパイプライン「サウスストリーム」の計画を中止 揺れる中東欧諸国」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141207)でも取り上げたところです。

EUからの支援を巡って厳しい状況が続くギリシャ・チプラス首相も、EUに代えてロシアに頼るような姿勢も見せることでEUをけん制しています。

ロシアも、こうしたギリシャ側の要請に応える姿勢を見せることで、EU・NATO内部の対ロシア政策に関する温度差を明らかして、揺さぶりをかけています。

また、フランス・国民戦線(マリーヌ・ルペン党首)に代表される、欧州各国の反EUを掲げる右翼勢力もロシアには融和的な姿勢をとっており、こうした勢力の台頭に各国政権は神経をとがらせています。

対ロシア政策を牽引するドイツ・メルケル首相にしても、経済的にも、軍事的にも、ロシアとの決定的な対立は避けたいところで、経済悪化も、軍事力行使もいとわない(ようにも見える)プーチン大統領に対してどこまで踏み込んだ施策がとれるかは疑問があります。

対ロシア強硬派のリトアニア「鉄の女」】
一方、ロシアの脅威に強く反応している国もあります。
旧ソ連から独立し、もともとロシアへの警戒感が強いバルト三国のひとつ、リトアニアのグリバウスカイテ大統領はその代表例です。

グリバウスカイテ大統領は、その強硬な姿勢から「鉄の女」の異名をとりますが、ロシア・プーチン政権を「テロ国家」と呼び、「彼らは隣人を脅威に陥れている」と対ロシア強硬路線をリードしています。
(彼女は空手の黒帯ということで、その点でも柔道家プーチン大統領とはいい勝負かも)

リトアニアは“1940年、独ソ不可侵条約の秘密議定書によりソ連に併合された。ゴルバチョフ政権下の90年3月に独立を宣言、91年にソ連軍の介入で市民に死者が出た。”(血の日曜日事件)という経緯から、ロシアに強い警戒感を有しています。

バルト海沿岸の小国で人口300万人のリトアニアは、欧州で最も急成長を遂げている経済国の1つですが、今年1月から19番目のユーロ圏加盟国となっています。

景気後退とデフレの瀬戸際に立たされているユーロ圏に今加盟するメリットは?との疑問もありますが、経済的な理由のほかに、ロシアに地理的に近く、ロシア語を話す住民が5~8%ほど存在する国情から、安全保障的な見地でユーロ圏・EUとの関係強化を図っているとも思えます。

なお。リトアニアは独立回復後、エストニアやラトビアとは異なり、残留ロシア人に対しほぼ無条件でリトアニア国籍を与えており、エストニアやラトビアのようなロシア系無国籍者の問題はありません。

バルト三国は緊張する欧州・ロシア関係の最前線にあって、昨年来「ウクライナの次は・・・」との危機感が高まっています。

****バルト諸国を揺るがすロシアの領空侵犯****
バルト諸国でロシアによる軍事的挑発が急増し、ロシアが地域大国として力を振るおうとする中で、この地域がウクライナに続く次の開拓地になるのではないかと懸念している人々の神経を逆なでしている。

バルト諸国の領空警戒任務にあたる北大西洋条約機構(NATO)の戦闘機は今年に入り、リトアニアの国境沿いで68回緊急発進(スクランブル)した。過去十数年間で圧倒的に多い回数だ。

ラトビアは、ロシアの航空機の領空接近が確認され、危険な行動がないか監視された「きわどい事案」を150回記録した。エストニアは、今年5回、ロシアの航空機に領空を侵害されたと述べており、その数は昨年までの8年間の合計数7回に迫っている。

フィンランドは、過去10年間の年間平均が1~2回だったのに対し、今年は5回、領空を侵害された。一方、スウェーデンは先週、カール・ビルト外相が8年間の外相在任中で「最も深刻な領空侵犯」と呼んだ一件に見舞われた。(後略)【2014年9月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
********************

こうした緊張・危機感から、リトアニアでは「戦時サバイバル・マニュアル」が配布されたそうです。

****リトアニアで戦争を生き残る「マニュアル」配布、ロシアに懸念か****
バルト3国リトアニアの国防省は28日、ウクライナ危機を受け、全国の学校に「戦時サバイバル・マニュアル」の配布を開始した。

全98ページのマニュアルは、地下シェルターを設置することや、人質となった際の対処法、交戦地帯から脱出する方法など、緊急時や戦時における実践的なアドバイスを紹介している。

「避難し損ねた場合は、銃を手に入れなさい。無法者から身を守る助けになるでしょう」などと助言している。

マニュアルはロシアに直接言及してはいないが、ユオザス・オレカス国防相はAFPの取材に対し、ロシア政府がウクライナ東部の分離独立派を支援していることへの懸念から作成されたものだと説明している。【1月29日 AFP】
*****************

また、ドイツに対し対ロシア戦用の戦車の輸出を求めましたが、過度に緊張感を高める危険があるとするドイツ・メルケル首相から拒否されています。

****<ドイツ>対リトアニア、戦車輸出を拒否…露刺激を回避か****
ドイツ政府は、旧ソ連・バルト3国のリトアニアに対する戦車の輸出を拒否した。独紙ウェルト日曜版が伝えた。ドイツ国防省も22日、報道内容を認めた。

ウクライナ情勢緊迫化を受け、ロシアの脅威を訴えるリトアニアは、北大西洋条約機構(NATO)主要同盟国のドイツに武装車両を要請していた。

だが、ウクライナ問題で仲介・交渉役を務めるメルケル政権が、過度にロシアを刺激する事態を避けたとみられる。(後略)【2月23日 毎日】
*****************

実際にロシアとの武力衝突という事態になれば、多少の戦車があっても何の役にも立ちませんが、それでもリトアニア・グリバウスカイテ大統領は防衛強化路線をまい進しています。

なお、こうしたバルト三国からの要請もあって、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアの脅威に対抗して新たに5000人規模の緊急対応部隊を創設することを決めており、バルト三国にもその司令部が置かれることになっています。

****リトアニア、徴兵制再開を計画=ロシアの脅威受け****
バルト3国のリトアニアからの報道によると、グリバウスカイテ大統領は24日、記者団に対し、ロシアの脅威への懸念が高まっていることを受け、今秋からの徴兵制再開を計画していることを明らかにした。

大統領は「われわれは一時的に兵役を再開しなければならない。目下の地政学的状況を踏まえれば、兵員の確保を加速する必要がある」と強調した。

5年間、男子3500人程度を毎年集める計画で、実施には議会の承認が必要。

リトアニアは2008年に徴兵制を廃止していた。【2月25日 時事】 
***********************

リトアニアと同じバルト三国のひとつエストニアでは3月1日に議会選挙が行われました。
選挙では国境を接するロシアの脅威への対応が主要争点となり、対ロ強硬姿勢をとるロイバス首相の中道右派与党・改革党が30議席を確保し、第1党を維持しています。

ただ、“中道左派野党・中道党はロシアとの関係改善を通じた地域情勢の安定化を訴え、ロシア系住民の票を集めたが、27議席にとどまった。”【3月2日 時事】とのことですが、与党との議席数差があまり大きくなく、国論が二分されているように見えます。

周辺諸国との集団安全保障を強化するスウェーデン
ロシアの脅威増大を感じているの点では、北欧諸国も同様です。

昨年10月、スウェーデン領海内で国籍不明の潜水艦とされる不審船の目撃情報があり、スウェーデン海軍は、冷戦終結後、最大規模の動員態勢で捜索に当たりました。この件に関しては、ロシア側は関与を否定しています。

****ロシアの挑発で国防強化する北欧諸国****
NATO非加盟のスウェーデンはフィンランド、デンマークなど周辺諸国との集団安全保障を強化中だ

北欧諸国でロシアの攻撃に対する警戒感が高まるなか、2月にフィンランドと軍事協定を結んだスウェーデンは、今月に入ってNATO(北大西洋条約機構)加盟国のデンマークとも同様の協定を結んだ。

スウェーデンのペーター・フルトクビスト国防相は、この協定をNATO加盟に向けた一歩とみるのは誤りだと強調した。

「北欧諸国が2国間及び複数の国家間の協力体制を深化することで、国防を強化し、周辺地域とより広範な領域で有効な作戦行動を実施できる」と、フルトクビストは3日、首都ストックホルムのメディアに語った。

「デンマークとの協力の深化は、北欧の近隣諸国との密接な協力体制構築の一環であり、地域の安全保障の強化を目的としたものだ」

NATO非加盟国のフィンランドとスウェーデンが協定を結んだ背景には、昨年3月のクリミア編入以降のロシアの動きがあると見ていい。昨年4月に始まったウクライナ東部の戦闘は今も収まらず、ロシアの軍用機が西側諸国の領空に接近するトラブルが相次いでいる。

スウェーデンは非同盟中立の立場をとってきたが、ロシア空軍は13年4月、バルト海上空でスウェーデンを標的にした模擬演習を実施。

昨年10月にはストックホルム群島近くのスウェーデンの領海で不審な海中活動が報告され、ロシアの潜水艦が侵入した疑いが持たれている。

バルト諸国はいずれも昨年、領空近くを飛行するロシアの航空機を確認している。領空侵犯には至っていないが、挑発的とも見える危険な飛行に、スウェーデンとデンマークは強く抗議している。(中略)

デンマークのニコライ・ワメン国防相は2日、国内メディアの取材に対し、「(スウェーデンとの軍事)協力の拡大を検討するに至った理由」として、ウクライナ東部の最近の情勢を挙げた。

スウェーデンはかつては中立政策を堅持していたが、ここ数年NATOとの協力拡大の動きが活発になっている。世論調査でもNATO加盟を支持する人が増えているが、今も中立支持が過半数を占める。今年1月の調査では、NATO加盟支持は33%で、1年前に比べて5%増えた。

昨年10月に発足したスウェーデンの新政権は中道左派の社会民主労働党と緑の党の連立政権で、両党とも伝統的にNATO加盟に反対してきた。

「スウェーデンはNATOと密接な関係を持ちながら、非加盟国であるため発言権はない。これは奇妙な状況だ」と、スウェーデンの軍事専門家ヨハン・ヒルデブラントは言う。「何度プロポーズされても結婚を断って、愛人の立場に留まっているようなものだ。結婚すれば、いろんなメリットがあるのに」【3月5日 Newsweek】
*******************

まあ、愛人にも結婚にないメリットがいろいろありますので・・・・。

なお、フィンランドのストゥッブ首相は“当面はロシアが「普通の西側の国になることはない」との現実を受け入れつつ、忍耐強くロシアとの共存を目指すべきだとの考えを示した。”【2014年10月27日 毎日】とのことで、ロシアに前向きな変化が訪れることを「辛抱強く待つ」重要性を訴えています。

“ベルリンの壁崩壊で東西冷戦が終結に向かってから25年がたつが、「個人としては長くても歴史的には短い」”とも。

各国それぞれの事情による、それぞれの対ロシア対応です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする