孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

武器輸出  買い手を選ぶ国、選ばない国

2015-03-19 21:58:52 | 国際情勢

(2011年3月 国内少数派であるシーア派住民の反政府デモが起きているバーレーンに進駐したサウジアラビア治安部隊は、現地当局とともにデモ隊の鎮圧にあたりました。 
こうした装備も欧米からの輸入によるものではないでしょうか。
写真は“flickr”より By Sniper Photo Agency http://www.flickr.com/photos/sniperphotocouk/5540592500/)

防衛装備移転三原則
日本政府は昨年4月1日、従来の武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、従来からの武器の全面禁輸方針を転換しました。

新原則は安倍首相が提唱する「積極的平和主義」に沿う内容で、“従来の禁輸方針のもとで「例外化措置」としてなし崩し的に輸出を認めてきた個別の事例を整理し、ルールを明確にするとともに、将来の輸出拡大に備えるため枠組みに「柔軟性」を持たせている。政府の運用次第では、日本が掲げる「平和国家」の意味合いが変化することになりそうだ。”【2014年4月1日 毎日】とも。

****防衛装備移転三原則(骨子*****
<原則1>次に掲げる場合は、防衛装備の海外移転を認めない。
 (1)わが国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合
 (2)国連安全保障理事会の決議に基づく義務に違反する場合
 (3)紛争当事国への移転となる場合

<原則2>移転を認め得る場合を次の場合に限定する。重要案件は国家安全保障会議で審議し、情報の公開を図る。
 (1)平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合
 (2)米国をはじめわが国と安全保障面での協力関係がある諸国との国際共同開発・生産
 (3)同盟国等との安全保障・防衛分野の協力強化
 (4)装備品の維持を含む自衛隊の活動及び邦人の安全確保

<原則3>移転の際に、原則として目的外使用と第三国移転についてわが国の事前同意を相手国政府に義務付ける。 【2014年4月1日 毎日】
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スェーデン:武器輸出よりも人権を重視する外交姿勢
世界には紛争当事国や明確な国際協約違反国でなくても、日本の価値観に照らした場合いかがなものか・・・と思われるような国も多く存在します。

中東の地域大国、サウジアラビアもそのひとつではないでしょうか。
サウジアラビアは女性の地位・権利が十分に保証されていないことでしばしば話題にもなりますが、女性問題に限らず、人権全般について日本とは価値観が大きく異なるようです。

そのあたりについては、1月18日ブログ「サウジアラビア その異様なまでに厳しい社会管理体制 むち打ち1000回、路上での斬首刑」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150118などでも取り上げていますので、今回は省略します。

ただ、アメリカの中東における最大の同盟国であり、日本にとっても原油輸入の30%を占める最大原油供給国ですから、当然に防衛装備海外移転の対象になるのでしょう。

****スウェーデン>サウジと女性人権問題で対立 武器輸出停止****
女性の地位向上などを柱にしたスウェーデンの「人権外交」にサウジアラビアが内政干渉と反発し、対立が深まっている。

スウェーデンはサウジに武器を輸出しない方針を決め、サウジが11日、大使を召還する事態に発展した。

スウェーデンのマルゴット・バルストロム外相が先月、サウジを独裁国家と呼んだうえ、同国の女性に対する扱いを非難した。

これに対しサウジは9日、アラブ連盟(本部・カイロ)で予定されていた同外相の演説を禁止した。演説で女性の地位向上を求めることが事前にわかり、特定の国を名指しはしていないものの、サウジ政府は自国への内政干渉と受け止めたようだ。

これにスウェーデンが反発し、今年5月に期限切れとなるサウジとの防衛協力協定を延長しないと10日に発表した。

同協定は2005年に締結されて10年に延長された。協定が延長されないことでサウジへの武器提供は終了する。サウジは昨年、スウェーデンから3900万ドル(約47億円)、11年以降では計5億6700万ドル(約688億円)分の武器を購入している。

サウジは女性に車の運転を認めないなど、女性の社会的地位が極めて低いことで知られている。
ただ、サウジは世界最大の武器輸入国でもあり、米英などは人権問題に目をつぶり武器輸出を優先させている。

昨年10月に発足したスウェーデンの中道左派政権は、武器輸出よりも人権を重視する外交姿勢を鮮明にしたと言えそうだ。【3月14日 毎日】
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人権尊重のイメージが強いスウェーデンですが、主要な武器輸出国でもあります。

なお、人権に対する考え方は様々で、3月17日、サウジアラビアは国連の人権委員会に対して、ミャンマーのムスリムである少数派民族「ロヒンギャ」への制度的な暴力が継続していることへの遺憾の意を表明しています。

武器輸出よりも人権を重視する外交姿勢・・・今の日本には無縁なものですが、ことあるごとに人権を盾にイラン、北朝鮮、ロシア、中国などを批判するアメリカなどが“人権問題に目をつぶり武器輸出を優先させている”現状、その二重基準について、本来は問題にされてしかるべきところでしょう。

【「中国は、買い手を政治的な観点で差別しない」】
一方、相手かまわず武器輸出している・・・とも言われる中国が、武器輸出実績を大きく伸ばしています。

****中国、ドイツを抜いて世界第3位の武器供給国に****
中国は過去5年間で武器・装備品の輸出を143%増やし、ドイツを抜いて世界第3位の武器取引国になった。

このデータはスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)がまとめたもので、中国の軍事面での影響力に対する諸外国の恐怖心を強め、隣国インドとの摩擦を激化させる公算が大きい。

過去5年間における最大の輸出先は、インドの南アジアのライバルに当たるパキスタンで、中国からの輸出品の41%を購入した。

買い手を選ばない中国、最大の輸出先はパキスタン
SIPRIによれば、中国からの武器輸出の大半は近隣のアジア諸国向けで、世界の武器市場における中国の輸出のシェアは2005~09年の3%から2010~14年の5%に拡大したという。

中国人民解放軍の退役大佐、岳剛氏は次のように話している。「パキスタンは何十年も前から中国と武器取引をしている。その理由の1つは、インドの怒りを買うことを恐れた多くの西側諸国がパキスタンへの武器輸出を拒んでいることにある。(パキスタンの)選択肢は限られており、必要に迫られて中国から買っているのだ」

また、中国には政治的な「しがらみ」がライバルの国々に比べて少なく、どの国にも武器を販売できると岳剛氏は指摘。「中国は、買い手を政治的な観点で差別しない」と言う。

中国の武器輸出は、上位の2カ国にまだ大きく水をあけられている。2010~14年に行われた世界の武器取引において米国の輸出が占めるシェアは31%に達しており、旧ソビエト連邦が冷戦時代に築いた巨大な武器産業を引き継いだロシアも27%を占めている。

しかし、中国は軍事予算を近年急増させており、先進的な技術も採り入れていることから、中国製の武器の競争力は高まっている。そのため、武器の輸出を増やして輸入を減らすこともできるようになっている。2010~14年の輸入は、それ以前の5年間より42%も減少している。(後略)【3月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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中国の輸出先は3分の2以上をパキスタン、バングラデシュ、ミャンマーの3か国が占めていますが、内戦・紛争も多いアフリカの18か国が10~14年に中国から武器を輸入しています。

欧米の二重基準
もっとも、先述のように“買い手を選ばない”のは別に中国だけの話ではなく、欧米の武器輸出も相当に怪しいものがあり、その意味では“目くそ、鼻くそ”の類でもあります。

****イギリス後援の展示会で独裁国家が武器を入手****
イギリス政府が後援する武器展示会で売買された武器が、テロリストの手に渡る恐れもある・・・・ロンドンを拠点とするNGOの武器貿易反対キャンペーン(CAAT)が警鐘を鳴らした。

「武器の寿命は政府の寿命より長い。ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は、大昔にイラク政府に販売された武器を確保している。いったん独裁政権に売られたら、その武器の終着点は分からない」と、CAATの広報アンドルー・スミスは指摘した。「今日の友は明日の敵ということもあり得る」

スミスが警告した翌日、イギリスで内務省主催の武器展示会が聞かれた。出展企業には大型兵器や監視装置を扱う350社以上が名を連ねた。

ケムリング・テクノロジーソリューションズは、弾薬や催涙ガスの製造、対IED(即席爆発装置)技術の開発企業。世界3位の武器メーカーであるBAEシステムズは、バーレーンでデモ参加者の弾圧に使われた戦車を製造する。

この国内最大の展示会は秘密のベールに包まれている。マスコミと一般人の参加は不可。参加者名簿も非公開だ。ただしCAATが人手した昨年の名簿にはバーレーン、エジプト、サウジアラビア、ナイジェリア、イラクなどの国々が含まれていた。

英政府の外交政策の偽善を物語るイベントだと、スミスは訴える。「独裁者との絆を深め」、人権揉蹟に加担しているも同然なのだから。【3月24日号 Newsweek日本版】
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NATO加盟国トルコが中国からミサイル防衛システムを購入
一方、武器・兵器については、どこへ売るかだけでなく、どこから買うのかも問題になります。

****ミサイル装備をトルコに売却へ 中国、決定と報道****
中国共産党機関紙・人民日報(電子版)などは18日、中国製ミサイル防衛システム「紅旗9」がトルコ政府に売却されることが決まったと報じた。

トルコ側は2013年に購入する方針を発表したが、米国や北大西洋条約機構(NATO)の反発を受け、いったん見送っていた。

報道によると、「紅旗9」を生産している「中国精密機械進出口総公司(CPMIEC)」の関係者が中国メディアの取材に対し、購入が決まったことを明らかにした。

中国製ミサイル防衛システムをNATO加盟国が購入するのは初めてとみられる。

具体的な契約内容は明らかになっていないが、実際に導入されればトルコ軍に中国人技術者が関与する可能性もあり、NATO軍に関わる情報流出の懸念も出てきそうだ。

中国人研究者の間では、トルコ政府が購入を決断した背景には、安全保障面での協力を通じて中国との連携を深め、中東地域での米国の影響力に対抗する狙いがあるとの見方も出ている。【3月19日 朝日】
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NATO加盟国が中国からミサイル防衛システムを購入・・・なかなか奇妙な話ではあります。
エルドアン大統領のもとで、トルコは欧米にとって厄介な存在になりつつあります。

【「人権侵害者や独裁者の手に武器を委ねることがようやく国際法違反となる」】
最後に、日本企業の兵器売上の現状に関する記事

****兵器売上高、上位100社に日本企業4社も****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は15日、2013年の兵器売上高上位100社を発表した。

ロシア企業が10社ランク入りし、売上高が前年比で約2割増えるなど、ロシアの国防産業拡大を示す内容となった。日本企業は、三菱重工業(27位)、三菱電機(68位)、川崎重工業(75位)、NEC(93位)の4社がランク入りした。(後略)【2014年12月16日 読売】
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なお、世界で850億ドル(約10兆2000億円)相当の規模を持つ武器取引に関する国際ルールを定めた武器貿易条約(ATT)が昨年12月24日に発効しており、日本も批准しています。

****武器貿易条約、(2014年12月)24日に発効****
・・・・武器の規制を求める非政府組織(NGO)による国際キャンペーン「コントロール・アームズ」のアンナ・マクドナルド代表は「あまりにも長い間、武器や弾薬はそれが誰の生活を破壊するのか、ほとんど問われないまま取引されてきた。今週発効される武器貿易条約によってそうした状態に終止符が打たれるだろう。人権侵害者や独裁者の手に武器を委ねることがようやく国際法違反となる」と述べている。

1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)以来の大規模な武器協定となるATTは、戦車や戦闘機からミサイル、小火器まであらゆる武器の国際取引を対象としており、これまでに計130か国が署名、60か国が批准している。

世界最大の武器生産国であり輸出国でもある米国は、署名はしているものの批准していない。

一方、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、世界の武器輸出国上位10か国のうちの5か国、フランス、ドイツ、英国、イタリア、スペインは同条約を批准済みで、人権侵害の当事者に対する武器供給の削減を目指す厳密な基準に準拠することを誓っている。

またイスラエルは発効直前の今月に入って署名したが、中国とロシアは署名していない。【2014年12月23日 AFP】
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