孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・ネタニヤフ首相の「2国家共存」否定にアメリカが強い不快感 アラブ系政党が第3党へ

2015-03-20 23:03:41 | 中東情勢

(18日 勝利宣言するネタニヤフ首相 ただ、アメリカ・オバマ政権との軋轢はかつてないほどに大きくなっています。 “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/16664045409/in/photolist-rn6dBV-rpkMMd-rFoAJT-rGBzVR-rFD8Lp-rFoAvB-rFynQh-rFynHU-rnXTCm-rDERNA-ro8yrp-rFAerj-rERPUr-rENREy-rmxF34-rEkvz1-rocy2t-ro6Prw-roxA8K-rESesA)

与党勝利 危機感を煽る形で右派層の支持を固める
周知のように、注目されていたイスラエル総選挙は、ネタニヤフ首相率いる右派リクードが予想以上に大勝しました。

ネタニヤフ首相はリクードを中心に右派・宗教勢力を取り込んだ、解散前の政権よりもさらに右寄りの右派連立政権樹立に向けて動いていると報じられています。
その場合、ネタニヤフ首相は連続3期目、通算4期目の首相就任となります。

****右派リクードの第1党確定=イスラエル総選挙****
イスラエル選挙管理委員会は19日、17日に投票が行われた総選挙(国会定数120)の最終的な開票結果を発表した。第1党は30議席を獲得した右派リクードで、中道左派・労働党が主導する「シオニスト連合」(24議席)、アラブ統一会派(13議席)、中道「イエシュアティド」(11議席)、中道右派「クラヌ」(10議席)と続いている。

ネタニヤフ首相率いるリクードを中心とする右派・宗教勢力は、過半数の67議席を確保。首相は安定政権を築くため、同勢力内で連立を組みたい考えだ。【3月19日 時事】
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任期を2年以上残した前倒し選挙に入ったときは、安全保障を前面に出すネタニヤフ首相・リクードの一人勝ちとも見られていましたが、家賃や物価の高騰、格差是正など経済問題を争点した中道左派・労働党が主導する「シオニスト連合」の追い上げにあい、選挙戦終盤では逆転を許したとも報じられていました。

しかし最終的には、危機感を煽る形で右派層の支持を固め、右翼バネで勝利をものにしています。

****左派政権誕生」と危機感=強硬姿勢で右派固め―イスラエル首相****
・・・・首相は選挙戦終盤で「アラブ人が支持する左派政権が誕生する」などと危機感をあおった上、パレスチナ問題で強硬姿勢を改めて示して右派層の支持を固めたことが奏功した。

選挙戦では、中道左派の伸長を許して苦戦を強いられた。首相は、得意の安全保障を争点に掲げ、イランの核開発やイスラム過激派の脅威から国を守れるのは「自分しかいない」と訴えた。(後略)【3月18日 時事】
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今後の連立交渉に関しては
“エルサレム・ポスト紙(電子版)によれば、首相は極右「ユダヤの家」、極右「わが家イスラエル」、宗教政党2党、そして中道右派の新党「クラヌ」の各党首に対し、連立を要請する予定と語った。10議席獲得を見込む「クラヌ」の党首で、かつてリクード党員だったカハロン元通信相が連立交渉の鍵を握るとみられる。首相は選挙戦中、首相を支持すれば、財務相のポストを約束するとカハロン氏に持ち掛けていた。”【3月18日 時事】とのことです。

なお、極右政党「わが家イスラエル」の党首で、ウルトラナショナリストとして知られるリーベルマン外相は、選挙戦終盤の9日、「われわれの側につく者たちにはすべてを与えよう。だが、われわれに逆らう者たちに相応しいのは斧で首を斬る刑だ」と、イスラエル国家に忠誠を誓わないアラブ系イスラエル人は「斬首の刑」に処すべきだという趣旨の発言をしています。【3月12日 Newsweekより】

極右の聴衆はこれを聞いて熱狂したそうですが、外相の発言はイスラエルの刑法で禁じられた扇動に当たるとの指摘もあります。しかし、連立与党となれば、そういう話もなくなるでしょう。

【「首相でいる限りパレスチナ国家を樹立させない」】
問題はネタニヤフ首相自身の発言です。

****<イスラエル>「首相でいる限りパレスチナ国家樹立認めず****
・・・・ネタニヤフ首相は16日、占領地・東エルサレムのユダヤ人入植地を訪問。同日、極右系地元メディアに「イスラエルが支配するヨルダン川西岸からの撤退を主張する指導者は、イスラム過激派にイスラエルを攻撃するための土地を提供することになる」と発言。「首相でいる限りパレスチナ国家を樹立させないということか」との問いに「そうだ」と答えた。

ネタニヤフ首相は2009年の選挙で勝利した後、パレスチナ国家を樹立しイスラエルとの「2国家共存」を目指す考えを初めて公式に示した。今回の発言は極右票の取り込みを意識したものと見られるが、中東和平を必要視する中道右派議員の反発を招くなど、今後の連立協議に影響を及ぼす可能性もある。(後略)【3月17日 毎日】
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“極右票の取り込みを意識したもの”でしょうが、保守強硬派として知られるネタニヤフ首相の本音でもあるでしょう。

しかし、これまでのパレスチナ和平交渉を根底から否定するものでもあります。

****ネタニヤフ首相、「脅威」を前面に巻き返し 和平協議再開さらに困難に****
イスラエル総選挙で一時、劣勢が伝えられたネタニヤフ首相は、パレスチナ問題やイラン核問題など安全保障面の「脅威」に争点を絞り、国民の恐怖心を最大限にかき立てる戦術を取った。

投票直前には事実上、パレスチナとの「2国家共存」を目指す枠組みを否定。和平協議再開はいっそう困難となった。(中略)

労働党とハトヌアで作る中道左派連合が、物価や家賃高騰への国民の不満を背景に支持を拡大。リクードは投票数日前に支持率でリードを許した。

そんな中で飛び出したのが、地元メディアとの会見で、在任中はパレスチナ国家の樹立を認めないというネタニヤフ氏の発言だ。

同氏は「パレスチナ国家を認めれば、イスラム過激派に攻撃拠点を与えることになる」とも主張。
イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスとの間では昨年夏、大規模な軍事衝突が発生しているだけに、一連の発言は有権者に一定の恐怖感と説得力を与えた可能性がある。

しかし、こうした強硬姿勢は、国際社会が求めてきた「2国家共存」による和平の枠組みを真っ向から否定するものだ

同氏は元来、和平に消極的だとみられてきたが、それを自ら鮮明にしたことで、和平協議再開を目指す米国との関係はさらに冷え込みそうだ。

一方、パレスチナ側はネタニヤフ氏の強硬路線継続は織り込み済みだ。自治政府高官は17日、イスラエル訴追を目的とした国際刑事裁判所(ICC)加盟をめぐる外交努力を加速させる考えを示した。

これに対してもイスラエルが反発を強めるのは必至で、和平問題は出口のない状況に陥っている。【3月19日 産経】
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アメリカ・オバマ政権 イスラエルへの対処方針の見直しを進める意向を表明
国際社会が求めてきた「2国家共存」による和平の枠組みは、アメリカ・オバマ政権が(国際的には、“今は無理じゃないか・・・”と思われるなかにあっても)執拗に求めてきたものでもあります。

****<米大統領>「パレスチナ国家樹立支持」イスラエルに伝える****
オバマ米大統領は19日、イスラエル総選挙で勝利したネタニヤフ首相に祝福の電話をかけたが、この中でネタニヤフ氏が選挙戦中に拒否したパレスチナ国家樹立について、米国の支持方針に変わりはないことを伝えた。ホワイトハウスが発表した。

アーネスト大統領報道官は同日の定例会見で、ネタニヤフ氏の発言を受け、米国が国連などで反イスラエル的な決議に反対してきた方針を見直す意向を表明。ホワイトハウス当局者によると、オバマ氏はこの点もネタニヤフ氏に伝達した。

米国と中東随一の親米国であるイスラエルの関係は、頓挫している中東和平交渉やイラン核問題への対処方針の違いなどから悪化の一途をたどってきた。

今回のネタニヤフ発言に対するオバマ政権の対応は異例の厳しさで、大統領や政権幹部の激しいらだちを示していると言えそうだ。

オバマ大統領は電話で、ネタニヤフ氏が3日の米上下両院合同会議での演説で批判したイランの核開発を巡る国際交渉についても「核兵器保有を防ぐためイランとの包括的合意を目指す」と明言、批判をはねつけた。

ネタニヤフ氏はイスラエル総選挙の投票日前日の16日、首相を続投することになればパレスチナ国家の樹立は承認しないと発言していた。

これについてアーネスト報道官は19日、中東和平交渉を仲介してきた米国政府の長年の方針は、イスラエルと将来のパレスチナ国家が並立する「2国家共存」だと説明。さらに、ネタニヤフ氏が選挙期間中、アラブ系有権者の選挙参加を疎外する発言をしたと厳しく批判した。

ネタニヤフ氏は19日放映の米NBCのインタビューでこうした発言を事実上取り消していたが、アーネスト氏はこれを受け入れず、「発言には責任が伴う」として、イスラエルへの対処方針の見直しを進めると強調した。【3月20日 毎日】
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“ネタニヤフ氏が選挙期間中、アラブ系有権者の選挙参加を疎外する発言”というのは、ネタニヤフ首相がフェイスブックに「右派政権は危機にある。アラブ系有権者が大量に投票する。左派組織がバスで輸送している」などと書き込んだもので、アーネスト米大統領報道官はアラブ系有権者を疎外しようとする発言だとして、「米国とイスラエルを結びつける価値と民主的理想を危うくするものだ」と批判しています。

ネタニヤフ首相は今月3日は、オバマ大統領の頭越しに、野党・共和党に招かれる形で訪米し、議会でオバマ政権が進めるイラン核開発交渉を「悪い取引だ」と批判、何も取引しないことの方が“悪い取引”よりましだとも話しています。

これまでも、リベラルな傾向のあるオバマ大統領と保守強硬派のネタニヤフ首相のそりが合わないことは知られていました。

パレスチナ問題やイラン核開発交渉の今後に向けて、オバマ政権はネタニヤフ首相の敗北・退陣を望んでいたとも言われていますが、予想外の勝利で逆にパレスチナ問題もイラン核開発交渉もますます困難な情勢となっています。

そうした事情もあって、さすがにオバマ政権もいささか“マジ切れ”したかのようにも見えます。
ネタニヤフ首相も、選挙終了後になって発言を事実上取り消すというのも姑息です。

アメリカは、パレスチナが2011年に国連加盟を申請した際、国連安全保障理事会での拒否権行使を示唆するなどしてこれを阻止したように、長くイスラエルの後ろ盾となってきました。

パレスチナ自治政府は国際刑事裁判所(ICC)に正式加盟する見通しの4月1日に、イスラエルを「戦争犯罪」で提訴する考えを明らかにしています。

ネタニヤフ首相続投、「2国家共存」否定発言で出口を失ったかのように思えるパレスチナ問題ですが、アメリカが本当に“イスラエルへの対処方針の見直しを進める”ならば、また別の展開もありえます。

アメリカ・オバマ政権の怒りがどこまで本気か・・・ということもありますし、共和党と厳しく対立する国内事情、更にはアメリカ政界で強い影響力を持つと言われるユダヤ人ロビーもありますので、どうでしょうか?

イラン核開発問題でも交渉の足かせに
なお、ネタニヤフ首相勝利は、イラン問題でもオバマ政権にとって足かせとなりそうです。

****イスラエル現政権継続 イラン核協議でオバマ政権の障害に****
米欧など6カ国とイランによる核協議の合意を目指すオバマ米大統領にとり、イスラエルのネタニヤフ首相が続投することになれば、残り2年を切った任期でレガシー(政治的遺産)を作る上で大きな障害となる。
核協議に反対するネタニヤフ氏が頼みとする米国の野党・共和党が勢いづき、制裁圧力を強めるのは確実だからだ。

ネタニヤフ氏の右派リクードが第1党の座を確実にするのに先立ち、アーネスト米大統領報道官は17日の記者会見で「イスラエル国民が誰を選ぼうとも、大統領は緊密に連携できると確信している」と述べた。

ただ、イラン核協議や、米国がイスラエルとパレスチナの和平協議の仲介で目指す「2国家共存」に異を唱えるネタニヤフ氏は、オバマ氏を阻む存在だ。

ネタニヤフ氏は今月3日、オバマ氏の頭越しに訪米し、米議会の上下両院合同会議で演説。イランとの核協議の危険性を訴えた。ホワイトハウスとの対立は極限に達しており、オバマ政権はリクードの敗北によるネタニヤフ氏の退陣を望んでいたとされる。(後略)【3月18日 産経】
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ネタニヤフ首相は、何も取引しないことは悪い取引よりましだと語っていますが、“何も取引しないこと”はイラン核開発の加速、それに対するイスラエルの核施設空爆、更にはイランの反撃・・・・という戦争のシナリオでもあります。それこそがネタニヤフ首相や共和党強硬派の望んでいることでしょうが。

アラブ系統一会派が第3党へ
今回イスラエル総選挙では、アラブ系統一会派が第3党に躍進しています。
こうした動きが、先述のネタニヤフ首相の“アラブ系有権者を疎外しようとする発言”にもつながっています。

****イスラエル総選挙でアラブ系統一会派が歴史的躍進****
イスラエルのアラブ系政党や極左政党などが加わった前例のない統一会派が、総選挙後の第3の政治勢力に躍進する勢いだ。

17日に投開票が実施されたイスラエル総選挙では、アラブ系、ユダヤ系双方の左派運動家、パレスチナ民族主義者などが初めて手を組んだアラブ系主体の「ジョイントリスト」が、出口調査の結果、13議席を獲得する見通しとなった。(中略)

ジョイントリストは、仮にシオニストユニオンが選挙に勝利したとしても、連立政権には加わらないと主張している。

ジョイントリストが結成された理由は、総選挙で最低3.25%を得票しないと議席が得られないよう規定が改訂されたことが大きい。アラブ系や極左の小政党は、規定の得票率に達せず1議席も得られないおそれがあった。

「人種差別、ファシズム、右派に対抗する連立だ」と、テルアビブ大学の学生でジョイントリスト支持者のタレク・アワドはアルジャジーラに答えている。「アラブ系とユダヤ系の平等を求め、女性の権利を促進させる。平和と民主主義の政党だ」

ジョイントリスト躍進の背景には、アラブ系住民が多数を占める地域で投票率が上昇したことがある。

与党リクードはこれに対抗し、アラブ系への恐怖を煽るキャンペーンを展開していた。投票前日にフェイスブックに投稿した動画では、「われわれの支配が危機に直面している。アラブ系が大挙して投票所に向かっている」

投票後、ジョイントリストのリーダー、アイマン・オデは「歴史的瞬間」を祝福し、「ネタニヤフの連立政権樹立を阻止する」と約束した。【3月18日 Newsweek】
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これまでイスラエル国会においては、ハダッシュ(イスラエル共産党主体のアラブ系政党)やタール、バラドというアラブ系政党があり、その議席数合計は11議席です。

今回のアラブ系主体の「ジョイントリスト」はハダッシュなど4党が統一会派を組んだものですが、従前アラブ系政党をどこまでカバーしたものかは知りません。

2013年のイスラエル中央統計局のデータでは、総人口は802万人で、そのうちユダヤ人が604万人(75.3%)、アラブ人が166万人(20.7%)、その他32万人(4.0%)となっています。【ウィキペディアより】

アラブ系住民は選挙権は有していますが「ユダヤ人国家」を標榜するイスラエル社会にあっては多くの制約を受ける「二等市民」的な立場にもあります。

政治における影響力も限定的なものでした。

****アラブ系市民の声を国政に届けるため、イスラエルのアラブ系諸政党は団結を****
イスラエル国会[クネセット]におけるアラブ系諸政党と、同国選挙におけるアラブ票 は、常に論争の的になってきた。

多くの人が、アラブ票は幻想にすぎないイスラエルの民主主義というイメージを見せつけるための幻想の覆いであるとみなしており、国内のアラブ系住民 に立候補や投票の権利を認めることは、彼らの平等を主張するイスラエルのためになっている と考えている。

イスラエルはアラブ系に選挙権を認めてはいるが、それと同時に、尊厳ある生にとって最低限求められるものを彼らから奪っている。投票の権利を与えはするが、彼らに対しあらゆる種類の人種差別を行っているのである。

辛い真実であるが、イスラエル国会におけるアラブ系議員は、これまで常に見せかけだけの存在 にすぎず、イスラエル国会でのパワーゲームに参与することができなかった。

アラブ系議員には政府を倒す力はまるでなく、政府の一員でも野党の一員でもない彼らには、政治的な力などないのだということを、国会内での彼らの立場が示している。

さらに辛い事実をいえば、アラブ系議員は彼らを選んだアラブ系住民たちに奉仕することもできない。彼らの立場は、イスラエルが民主主義国家であるとのイメージを見せつけるのを補完する、看板 にすぎないからだ。(後略)【2009年02月10日付アル・アハラーム紙(エジプト)】
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今回はアラブ系諸政党が分裂を乗り越えて統一会派を結成し、第3党の地位を得ました。
アラブ系住民は約2割存在しますので、数字のうえではもっと上積みも可能です。
“イスラエルが民主主義国家であるとのイメージを見せつけるのを補完する看板 ”を脱することも可能です。

ただ、そうした動きはイスラエル社会のなかで激しい反発を惹起することも予想されます。
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