
【4月25日 AFP】
【対ISで利害が一致】
中東パレスチナの情勢については、4月22日ブログ“イスラエル 自爆テロで高まる報復空爆の懸念 パレスチナ人の生活を分断する「壁」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160422で取り上げたように、エルサレム南部で4月18日、路線バスがハマスメンバーによる自爆テロで爆破され20名以上が負傷するテロ攻撃があって、イスラエルによるガザ地区への報復攻撃が懸念されていましたが、イスラエルも報復は踏みとどまったようで、この件に関する情報はその後目にしていません。
また、4月22日ブログでは、ガザ地区においてハマスより更に過激な攻撃を主張するIS支持勢力が台頭していることも取り上げました。
ハマスとISの関係については、3月13日ブログ“イスラエル ガザ地区ハマスのIS接近を警戒 更なる混乱の可能性も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160313では、両者の“接近”をイスラエルが警戒していることを取り上げました。
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パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、シナイ半島のイスラム国(IS)負傷兵をガザ地区内の病院で治療し、見返りにISから武器や資金を得ていると、イスラエルが告発した。
同地区とエジプトを結ぶ数百の秘密トンネルから運び込まれている模様で、米国はエジプト政府に「トンネル撲滅」を改めて求めている。【選択 3月号】
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ただ、このあたりの関係は微妙で、ガザ地区でIS支持勢力が拡大するということになると、ガザ地区を実効支配してきたハマスにとっては、IS支持勢力はハマス支配を危うくする競合勢力ともなります。
そうした観点から、やはりISを警戒するイスラエルとハマスの利害は一致する、更に、シナイ半島でのIS支持勢力に手を焼くエジプトとも対ISで利害が一致するということにもなり、宿敵イスラエルとハマス、それにエジプトを加えた三者が一致して対ISの共同作戦を行っているそうです。
****ハマスが不倶戴天の敵と同盟を組んだワケ****
パレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義組織ハマスが不倶戴天の敵であるイスラエルとの間で、過激派組織「イスラム国」(IS)の浸透を食い止めるため“あり得ない同盟”を組んでいる。エジプトの圧力に応じたものだが、「敵の敵は味方」という中東独特の論理が浮き彫りになった格好だ。
300人以上を配備
ベイルート筋や米有力紙などによると、ハマスは先週、エジプトとの境界沿いに精鋭の治安部隊300人以上を配備した。1部隊は海岸地帯を厳戒、他の2部隊はエジプトとの2カ所の境界検問所一帯に展開している。
とりわけ、エジプトとガザの境界下に掘られている無数の密輸トンネルの出入り口はエジプトのIS分派「シナイ州」の工作員の侵入を阻むため、戦闘態勢が取られているという。
このハマスの動きは、イスラエルの求めを受けたエジプトのシシ政権からの要求に応じたものだとされる。ハマス、イスラエル、エジプトの3者がたとえ短期間であっても“同盟”を組むなど中東の専門家からすれば、想定できないような事態だ。「何が起きても不思議ではない」中東世界の複雑怪奇な政治ゲームを垣間見る気がする。
このハマス治安部隊が配備される数日前、イスラエルのネタニヤフ首相はエジプトとの国境沿いに新たな防護壁を建設するという決定を称賛。「この防護壁がなければ、シナイ半島から数千人に上るIS戦闘員が侵入してきただろう」と述べたが、防護壁とはハマスの治安部隊展開を指したものだ。
イスラエルの生存権を認めない
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府と一線を画す武闘派のハマスはイスラエルの生存権を認めず、敵対関係を続けてきた。イスラエルは09年と14年にハマス攻撃のためガザに地上侵攻し、パレスチナ人3500人以上を殺害、イスラエル側にも約80人の死者が出た。
ハマスはイランの支援を受け、エルサレムなどにも届く長距離のロケット弾を開発、イスラエル側の懸念が深まる大きな要因になっている。特に昨年9月以降、ヨルダン川西岸などでパレスチナ人によるイスラエル人襲撃、それに対するイスラエル治安部隊の攻撃が続発。ハマスとイスラエルの緊張も次第に高まっていた。
ハマスとエジプトのシシ政権との関係も悪い。ハマスは元々、シシ大統領が軍事クーデターで倒したモルシ前大統領の出身組織「モスレム同胞団」のガザ支部。
このため親組織を倒したシシ政権とは関係が悪化し、武器や補給物資の外部との唯一の搬入口であるエジプトとの境界検問所も閉鎖されたままだ。密輸トンネルも大半がエジプト軍の管理下に置かれている。
3者の思惑と実利が合致
この3者が“同盟”を組むことになったのは、それぞれの思惑と実利が合致したからに他ならない。3者にとって共通の敵であるIS勢力に対抗する必要に迫られているからだ。
ガザ地区やイスラエルに接するシナイ半島はISのエジプト分派組織「シナイ州」の拠点だ。「シナイ州」は2014年11月に反政府過激派がISに忠誠を誓い、設立された。それ以降、シナイ半島の町や村落、エジプト政府軍の陣地、検問所などへの奇襲攻撃を続け、政府軍との戦闘を繰り返してきた。
特に昨年10月末、シナイ半島の世界的な保養地シャルムエルシェイクから離陸したロシア旅客機に爆弾を仕掛けて空中爆破、240人を殺害したテロ事件を起こし、政府軍への攻撃をさらに激化させている。
クーデターで政権を奪取したエジプトのシシ政権の看板は治安の安定である。ところが「シナイ州」を壊滅できないどころか、首都カイロでもテロが頻発する事態に国民の信頼は低下しつつある。
シシ政権はとりわけ、「シナイ州」とガザのIS勢力が合体することを懸念している。「シナイ州」のこれ以上の勢力拡大は治安の悪化に拍車を掛けることになるからだ。治安の回復ができなければ、どん底にある観光産業の復活は期待できない。早急に「シナイ州」の壊滅が必要なのだ。
イスラエルにしてもISのテロの矛先がイスラエルに向けられるのは「時間の問題」という脅威に直面している。ガザに「シナイ州」の戦闘員が入ることになれば、イスラエルの安全保障が重大な危険にさらされてしまう。そうした思惑がシシ政権を通じてハマスを動かしたと言えるだろう。
ガザへのIS侵入は容認できない
ISから不信心者の集団とレッテルを張られているハマスにしても「シナイ州」のガザ浸透は容認できない。それでなくてもガザ地区内にISシンパである「イスラム国の支持者たち」という過激組織が急速に台頭、対応を迫られている。エジプトから「シナイ州」が入り込んでくることはハマスの存亡にもかかわってくるからだ。
しかも、東京23区の6割という狭い面積に180万人のパレスチナ人が居住するガザはイスラエルとは高い塀によって隔離された“巨大な監獄”。イスラエル側の検問所が閉鎖されている状況では、エジプト側の検問所に物資の補給を依存せざるを得ない。しかしシシ政権が検問所を閉鎖しているため、経済的な困窮に追い込まれているのが実状だ。
ハマス側には、ガザの境界の警備強化というシシ政権の要求を受け入れ、その見返りに検問所を再開させたいとの切羽詰まった事情があるのだ。ISの恐怖が生んだあり得ない“同盟”である。【5月6日 WEDGE】
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敵味方入り乱れての戦闘が続く中東らしい話ではありますが、この“あり得ない同盟”によって、イスラエルとハマスの関係がこれまでの“宿敵”“不倶戴天の敵”から変化するのかどうか・・・はわかりません。
両者の緊張関係が和らげば、パレスチナ側のファタハとハマスの統一政府、更には、パレスチナ統一政府とイスラエルの共存体制という道筋も開けてきますが、そうはうまくいかないのでしょう。
【収監されたパレスチナ人女性の中で最年少の12歳少女釈放】
パレスチナ・イスラエル関係で最近印象に残った記事は、パレスチナ人12歳少女に関するものでした。
****イスラエル刑務所に2か月超 パレスチナ人12歳少女、釈放される****
イスラエルは24日、刃物で襲撃を企てたとして2か月以上にわたり刑務所に収監していたパレスチナ人少女、ディマ・ワウィさん(12)を釈放した。弁護士によると、イスラエルで収監されたパレスチナ人女性の中で最年少という。
パレスチナ人自治区ヨルダン川西岸北部のトルカレムの検問所で自治政府側に引き渡されたワウィさんは、車で南部ヘブロン郊外の自宅に帰還。市長や多くの住民らに温かく迎えられた。
ワウィさんは2月9日、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地の入り口で刃物を所持しているのが見つかり、学校の制服姿のまま逮捕された。その後、イスラエル軍検察との司法取引で殺人未遂と刃物所持の罪を認め、禁錮4月の実刑と執行猶予6週の追加刑の判決を受けた。
ワウィさんの弁護団はイスラエルの軍事法廷に早期釈放を求めていたが、このほどイスラエル側が釈放に合意したという。
イスラエルの軍事法廷では、未成年でも12歳から起訴できると定めている。国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、世界でもこうした例は他にないという。イスラエルは現在約450人の未成年パレスチナ人の身柄を拘束しており、うち100人ほどが16歳未満だ。
イスラエルやパレスチナ人自治区のユダヤ人入植地では昨年10月以降、パレスチナ人がナイフや銃、車で突っ込むなどの方法でイスラエル人を襲撃する事件が多発しており、これまでにイスラエル人28人、パレスチナ人201人が死亡している。【4月25日 AFP】
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12歳少女でも、危険と見なせば収監するということで、テロを警戒するイスラエル側の緊張状態が窺える事件ではあります。
写真で見ると、12歳少女のあどけなさとはまた異なった印象も受けますが、いずれにせよ、12歳少女を収監しても、パレスチナ人側の反感を強めるだけで、イスラエルにとって利益にはならないでしょう。