孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ケニア  ソマリア難民キャンプの閉鎖を改めて表明 居場所を失う難民60万人

2016-05-08 23:21:53 | 難民・移民

(ソマリア難民など約35万人が生活するケニアのダダーブ難民キャンプ “flickr”より By Lola Hierro)

ソマリア国内の拠点を失いながらもテロを続ける「アル・シャバブ」】
アルカイダとも強く連携するアフリカ東部のソマリアで活動するイスラム過激派「アル・シャバブ」は、多くの過激派組織が活動するアフリカにあってもナイジェリアの「ボコ・ハラム」と並んで大きな組織であり、一時は首都モガディシオのアフリカ連合派遣部隊が守備する大統領官邸周辺以外の大部分の国土を支配する勢いでしたが、周辺国ケニア・エチオピアの軍事介入などの国際包囲網、リビア・カダフィ政権崩壊による支援途絶、飢餓対応で住民の支持を失うなど事情もあって、2011年7月から8月にかけて首都モガディシオ市内からの撤退を余儀なくされました。

その後も、2012年9月には拠点キスマユを、2014年10月にはブラバを政府軍に奪還されたことで、都市部からはほぼ追い払われた形にはなっています。

一方、過去の介入失敗からソマリア紛争には及び腰だったアメリカですが、最近では無人機を使った「アル・シャバブ」攻撃を強めているようです。

****ソマリア空爆、150人殺害=「自衛」で過激派施設破壊―米軍****
米政府は7日、ソマリアで米東部時間の5日、有人機、無人機双方による空爆を行い、イスラム過激派アルシャバーブの訓練施設を破壊したと発表した。国防総省のデービス報道部長によると、この攻撃でアルシャバーブの戦闘員150人以上を殺害したという。
 
デービス氏は施設にいた戦闘員について、大規模攻撃のための訓練を終えるところで、ソマリア駐留のアフリカ連合平和維持部隊(AMISOM)や同部隊との連絡役を務める米軍要員に「差し迫った危険」があったと説明。米政府は、空爆は「自衛のためだ」と強調している。【3月8日 時事】 
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****米軍、ソマリア過激派幹部を無人機空爆 米国人への攻撃計画か****
米国防総省は1日、ソマリアの首都モガディシオで米国人を狙った攻撃を計画したとして、国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織アルシャバーブの幹部、ハサン・アリ・ドーレ容疑者を標的とした無人機攻撃を行ったと発表した。
 
ピーター・クック国防総省報道官の声明によると、米軍がソマリア政府の協力を得て3月31日に無人機による空爆を実施した。同容疑者の生死については現在、情報を確認中だという。
 
匿名で取材に応じた国防総省の当局者は無人機攻撃について、ドーレ容疑者とアルシャバーブのメンバー2人が同乗した車を標的にしたと説明。「われわれは長い間、彼(ドーレ容疑者)を見張っていた」「今回の攻撃は、ソマリア政府の提供した情報に基づいて実行された」と述べた。(中略)

ドーレ容疑者はまた、モガディシオ在住の米国人を襲撃する計画も練っていたという。
 
米軍は先月5日にもアルシャバーブの訓練施設を空爆し、アルシャバーブ戦闘員150人を殺害した。米国務省は、この施設では「大規模な」攻撃の演習中だったとしている。【4月2日 AFP】
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しかし、依然として「アル・シャバブ」のテロ活動は続いています。

****ソマリア首都で爆弾攻撃、子ども含む3人死亡****
ソマリアの首都モガディシオにあるレストラン前で9日、自動車爆弾による爆発が起き、子どもを含む少なくとも3人が死亡した。

犯行声明は出ていないが、同国では、国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織アルシャバーブが、政府を標的とした自動車爆弾による攻撃や暗殺を行っている。

ここ数か月でモガディシオで発生した、レストランや高級ホテルを標的とした攻撃でも、アルシャバーブが犯行声明を出している【4月10日 AFP】
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隣国ケニアでのテロ活動活発化とケニア政府の対応のまずさ
ソマリアの活動拠点を失った「アル・シャバブ」は、軍事介入した隣国ケニアでの報復テロ活動も活発化させており、2013年9月にケニアの首都ナイロビのショッピングモールを襲撃して67人を殺害、2015年4月には東部ガリッサの大学を襲撃し、その死者は148人にものぼっています。

特に、大学襲撃事件はケニア政府の治安対策の不備をあらわにし、国内の安全をアピールして観光や投資の回復を目指していたケニヤッタ大統領にとっては面目を完全につぶされる痛打となりました。

****ケニア大学襲撃、特殊部隊の到着は7時間後 記者らより遅いと批判****
ケニア北東地域ガリッサで大学が襲撃され学生ら148人が殺害された事件で、ケニア当局の特殊部隊が現場に到着したのは事件発生から既に7時間が経過した後だったと、地元各紙が5日報じた。政府は対応に問題はなかったと主張している。

主要紙デーリー・ネーションによると、首都ナイロビにある精鋭治安部隊「レキ中隊」の本部では、2日未明にガリッサ大学が襲撃されたとの一報が入ると同時に警報が鳴っていた。

ところが、主要部隊がガリッサ大学に到着したのは間もなく午後2時になろうとする頃だった。報道によれば、ナイロビからガリッサへ向かう飛行機の第一便には、ジョゼフ・ヌカイセリ内相と警察幹部が搭乗していたという。

一方、事件一報を聞いてナイロビから365キロの道のりを車でガリッサまで移動したジャーナリストたちの中には、空路を使った特殊部隊より先に現地に到着した記者が何人もいた。

「もはや犯罪レベルの怠慢だ」とデーリー・ネーション紙は5日の社説で指摘。「襲撃犯らは、ゆっくり時間をかけて明らかに楽しみながら大勢の学生たちを射殺していた」との生存者たちの証言を紹介した。

また、英字紙スタンダードは、特殊部隊の隊員が任務中に居眠りしている風刺画を掲載した。風刺画では、いびきをかいて寝ている隊員が「テロの脅威」と書かれたヘビに噛みつかれて飛び起き、その傍らで犬が「(助ける努力が)少なすぎるし、遅すぎる」とほえる様子が描かれている。

アミナ・モハメド外相は4日、AFPの取材に「テロとの戦いはゴールキーパーのようなものだ。100回シュートを防いでも誰も覚えていないが、たった1回の失敗は忘れない」と述べ、政府の対応を擁護した。【2015年4月6日 AFP】
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難民キャンプ閉鎖を打ち出したケニア政府と国連の対立
対応のまずさを批判されたケニア政府の苛立ちと、ケニア国内の「アル・シャバブ」批判の声は、約35万人のソマリア難民らを受け入れる世界最大の「ダダーブ難民キャンプ」など、ケニア国内に暮らすソマリア難民に向けられれることにもなっています。

ケニア政府は難民キャンプがテロの温床となっているとして、キャンプを閉鎖する意向を表明しました。
(2015年4月14日ブログ「ケニア 大学襲撃事件後も残る緊張・不安 杜撰な治安態勢 ソマリア難民の本国送還の動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150414

ケニア政府の難民キャンプ閉鎖方針に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「ソマリア国内の多くの地域では大規模な(難民)帰還は依然不可能」として反対してきました。

****<ケニア>「テロ温床で閉鎖」難民キャンプめぐり国連と対立****
ソマリア難民を収容するケニア東部の「ダダーブ難民キャンプ」を巡りケニア政府と国連などが対立している。

約35万人が暮らす世界最大級の難民キャンプだが、ソマリアのイスラム過激派アルシャバブによる大学襲撃事件を受け、ケニア政府がキャンプをテロの温床として閉鎖する意向を表明したからだ。国連はケニア政府に再考を促し、国際人権団体は「難民を(テロリストの)身代わりにするな」と批判している。
 
今月2日、ケニア東部ガリッサで起きた襲撃事件では、キリスト教徒の学生がアルシャバブの戦闘員に標的とされ、計148人が死亡した。
 
「ダダーブ難民キャンプ」は、1991年に勃発したソマリア内戦による難民のために設置された。

ケニアのルト副大統領は11日、声明で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、3カ月以内にソマリア難民を別の場所に移住させることを要求。国連が応じない場合、ケニア政府が移住させると表明した。
 
ケニア当局が神経質になるのは、キャンプがアルシャバブの潜伏先とみられるからだ。

だが、アルシャバブは既にケニア国内で勢力を拡大。ケニア北東部を中心に約250万人が暮らすソマリ系ケニア人社会やインド洋沿岸のイスラム教徒コミュニティーにも入り込んで活動していると言われている。
 
また、首都ナイロビのスラム地域からも多数の若者がソマリアに渡航し、アルシャバブに参加した可能性も出ている。襲撃事件でも実行犯とされる4人はソマリ系を含むケニア人で構成されていたとみられている。
 
一方、ケニア政府の方針に対しUNHCRは14日、「急なキャンプ閉鎖と強制的な難民の帰還は人道的、実務的に極端な結果を招く」「ソマリア国内の多くの地域では大規模な(難民)帰還は依然不可能」との見方を示し、再考を促した。
 
英BBCなどによると、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のアフリカ地域幹部は「難民を身代わりにするのでなく、ケニア政府はガリッサ事件の容疑者を特定し訴追すべきだ」と述べた。また、ロイター通信は、キャンプ閉鎖が「絶望し何もすることがない若者を戦闘員としてアルシャバブに差し出すことになる」というケニアの人権グループ関係者の懸念を伝えた。【2015年4月17日 毎日】
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難民キャンプに過激派組織が浸透し、これを拠点とすることは各地でも見られることではありますが、難民らの安全が確保できる移送先などを明らかにしないままに強制送還というのでは、難民保護を放棄したあまりに一方的な措置です。

ケニア政府、改めて閉鎖を表明 居場所を失う難民は?】
この問題は、1年ほど宙に浮いていましたが、ケニア政府は改めて難民キャンプ閉鎖を明らかにしています。

****ケニア、難民キャンプの閉鎖発表 60万人が居場所失う****
アフリカ東部のケニア政府は6日、同国内にある世界最大規模のダダーブ難民キャンプを含む複数の難民収容施設を閉鎖させる方針を明らかにした。

実行に移した場合、大半が隣国ソマリアから流入した60万人以上の難民らが居場所を失うことになる。ソマリアとの国境線近くにあるダダーブ難民キャンプには30万人以上が収容されている。

ケニア内務省高官は声明で、閉鎖措置について経済、治安維持や環境の各方面でケニアが強いられている重い負担が理由と指摘。特に国家安全保障上の利益を考慮したとし、ソマリアに拠点があるイスラム過激派「シャバブ」などの脅威に言及した。ただ、難民の移送先については触れなかった。

ケニア政府は昨年もこれらキャンプ閉鎖を発表していたが、国際社会からの圧力もあり棚上げにしていた経緯がある。同国政府当局者は当時、キャンプから締め出された難民の新たな収容先についてはケニアから出国し、ソマリア内のどこかになるとの判断しか示していなかった。

ケニア政府は今回のキャンプ閉鎖に伴い、国際社会が団結し数十万人規模の難民の人道対策の負担に責任を負うよう要請した。

これに対し国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはケニア政府の無謀な決定を非難。アフリカ東部などを担当する同団体責任者は今回の決定は弱者保護の義務の放棄であり、多数の人々の生命を危険にさらすものと弾劾した。また、順守すべき国際法の違反でもあると主張した。【5月7日 CNN】
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キャンプから締め出された難民については、国際社会で面倒を見てくれ・・・という話のようでもあります。

****ダダーブ難民キャンプ****
ダダーブの周辺には国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)による難民キャンプが5つ設けられている。(中略)それぞれのキャンプと従来の町とはそれぞれ数キロメートル離して設置されている。

1993年に、ハガデラ、イフォ、ダガハレが設けられ、当時の収容人数はそれぞれ4万3千、4万6千、4万5千である。

その後、難民の増加に伴ってイフォ2およびカンビオスが増設され、2011年までに現在の形になった。キャンプはUNHCRを中心とする国連機関と30以上ものNGOを中心に運営されている。町の経済も、難民に関するものが大きい。

難民には、ソマリ族の他、ソマリアに住んでいたバントゥー系民族などの少数民族もいる。移住元は激戦地区のジュバ川流域が多く、上流のゲド州の他、南部の都市キスマヨ、モガディシュ、バルデラなどが含まれる。少数ではあるが、ソマリア以外からの難民も暮らす。

キャンプの合計面積は50平方キロメートルほどであり、ダダーブの町から18キロメートル圏内にある。ダダーブのキャンプは設置当時9万人を想定して作られたが、2009年時点で26万人、2013年時点で45万人に達した。
ケニアが受入制限を始めたため、新たな移民は減っている。

なお、難民キャンプ外への移動にはケニア政府の許可証が必要で、難民は自由にはキャンプに出入りできない。【ウィキペディア】
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創設当時から20年以上が経過し、仮設のキャンプというには長すぎる時間です。
難民キャンプでの生活しか知らない若者・子供も多数存在します。

仕事もなく、キャンプに閉じ込められた状態の若者たちに不満が鬱積し、一部が過激派に流れることは想像できます。

ただ、「いまキャンプを撤去すれば、行き場のない若者たちがシャバブに勧誘されて戦闘員になるだけだ」(ソマリア人難民会議のアブダビ・イブラヒム議長)との主張もよく理解できます。

後先考えずに難民を送還しても、多くの難民若者の恨みを買い、また、約250万人が暮らすソマリ系ケニア人社会における過激派浸透の理由を提供するだけのようにも思えます。

難民キャンプの環境の劣悪さについては、以前から問題も指摘されています。

****大規模難民キャンプでコレラ流行、7人死亡 ケニア****
東アフリカ・ケニアで流行するコレラが、世界最大規模とされる北部ダダアブの難民キャンプに達し、先月以降7人の患者が死亡した。医師らはさらなる感染拡大を懸念している。

国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」の発表によると、ソマリア国境に近い同キャンプでは過去3週間に300人以上の患者が治療センターに収容された。このうち3割が12歳未満の子どもだという。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は19日、CNNとのインタビューで「感染拡大を抑えるための努力を続けている」と語った。

同報道官によると、キャンプの衛生状態や難民らの知識不足が大きな課題となっている。33万人以上とされる難民の数に対し、トイレは必要な数の5割しか設置できていない。

感染は水や食べ物を通して広がるが、子どもたちが泥や水たまりで遊んでいても注意する大人はいない。

MSFケニア支部の責任者は「キャンプの生活条件がいかに劣悪で、衛生事業への長期的な投資がいかに不足しているかという問題が浮き彫りになった」と指摘する。現地は雨季を迎え、衛生状態がさらに悪化しているという。

同責任者は「当面の対策は取られているものの、難民の生活条件を改善し、将来にわたって流行を防ぐための適切な投資が不可欠だ」と話している。【2015年12月20日 CNN】
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責任の押し付け合いではなく、難民らの生命・生活保護を第一に、ケニア政府及び国連・ソマリアなど関係国の真摯な対応・協調が望まれます。

なお、ケニアにはソマリア難民だけでなく、紛争が続く南スーダンからの難民も多く暮らしています。

“ケニア北西部、南スーダンとの国境沿いに位置するカクマ難民キャンプ。ここでは15を超える国々から集まった185,000人以上の難民が生活をしています。その内の約半数、93,000人は南スーダンから辿り着いた人々です。”【5月3日 ピースウィンズ・ジャパン】

多くの紛争地域に隣接する経済的にも恵まれ、比較的安定したケニアは、難民が集中する地域ともなっています。
その豊かさと安定が難民らによって脅かされるという不安・不満は、欧州などと同じものがあります。
コメント (1)
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