
(2009年4月5日、プラハで「核なき世界」の実現を訴える演説を行なったオバマ大統領 【5月11日 THE PAGE】)
【「謝罪」ととられない静かな訪問にしたいとの政権の意向】
4月11日、広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合に参加した、原爆投下国であるアメリカのケリー国務長官のほか、核保有国である英仏外相などG7外相らは岸田外相ともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観、原爆死没者慰霊碑に献花したことについては、4月12日ブログ“G7外相会合 広島で資料館訪問・慰霊碑献花 「謝罪」にナーバスなアメリカ ケリー長官は感銘も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160412で取り上げたところです。
この流れを受けて、アメリカ国内事情でどうだろうか・・・とも思われていたオバマ大統領の広島訪問も、大統領の強い意向もあって実現する運びとなっています。
核廃絶、「核なき世界」に関して、世界の現状、唯一の被爆国でありながらも、現実的には安全保障をアメリカの核の傘に依存している日本の微妙な立ち位置については、前回4月12日ブログで触れましたので、今回はパスします。
オバマ大統領の決定に対し、アメリカ国内には、広島訪問が「謝罪」とみなされることへの警戒感、あるいは、中国や韓国には、日本が「被害者」としての立場を印象づけようとしている・・・といった声があることは、メディア各紙が報じているところです。
そうした事情、特にアメリカ国内における「謝罪」に関する抵抗を考慮して、オバマ大統領は今回訪問を「静かな訪問」にしたい意向です。
****オバマ氏、広島で「演説」せず 長崎も念頭に所見発表へ*****
アーネスト米大統領報道官は11日の定例会見で、オバマ大統領が27日に広島を訪れた際、多くの聴衆を集めての大々的な演説は予定していないことを明らかにした。代わりに初の広島訪問を踏まえた大統領の所見を発表するといい、核軍縮の重要性や強固な日米関係を作り上げた成果などを強調するとみられる。
オバマ氏は広島の平和記念公園を訪れて所見を出すにあたり、広島だけでなくもう一つの被爆地・長崎も念頭に置いた内容になる見込みだ。アーネスト氏は発信するメッセージについて「大統領は(広島の)訪問を振り返ることになるだろう」と語った。
広島市民や被爆者らを集めての大々的な演説をしないのは、原爆投下を正当化する意見が依然として根強い米国内の世論への配慮とみられる。
演説で原爆投下の是非や謝罪にも踏み込めないうえ、哀悼の意を示しただけでも米国内では「謝罪」と受け止められるリスクもある。今回は慰霊碑への献花などにとどめ、静かな訪問にしたいとの政権の意向がにじむ。
アーネスト氏は「先遣隊が数日内に日本に到着する」と説明。その調査を踏まえたうえで、オバマ氏の広島での日程を固める。【5月12日 朝日】
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【核の恐ろしさを言葉だけでなく実感できる機会に】
オバマ大統領が得意の弁舌をふるったところで核廃絶が現実世界で進むものでもありませんので、「静かな訪問」は、それはそれでかまわないのではないかと考えます。
「水に流す」国民性とも言われる日本国民にあって、過去の「謝罪」を重視する人々もそう多くはないように思います。
「被害者」の立場を印象付けようとしている云々も、多くの日本国民は関係のない話でしょう。
ただ、今回訪問に日本が求めるのは、“過去”の“日本”に関する話ではなく、“将来”の“世界のすべての人々”が再び同じような悲惨な経験をすることのないように、世界最大の核保有国の指導者に核兵器の悲惨さを直視してもらいたいということです。
トランプ氏の発言にみられるような、核を軽く考える風潮へ一石を投じるものとなってほしいと期待します。
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核のボタンを押すということがどういうことを意味しているかを訴える日本からアピールが、「イスラム国」(IS)の掃討作戦について「核兵器が最後の手段だ」と述べ、大統領に就任すれば戦術核兵器の使用も否定するつもりはないと語り、また、「どんな状況であろうと、必要と有れば、たとえ攻撃する場所が欧州であったとしても核を使用する積りだ」と発言、更に、日本・韓国の核保有も容認するような発言を行うアメリカ大統領候補トランプ氏(正直と言えば、正直ですが)に見られるような、核兵器をあまりに軽々に扱うような昨今の風潮へのひとつの歯止めになることは期待されます。【4月12日ブログより再録】
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****<オバマ氏広島訪問>核軍縮を阻む「核兵器の非人道性」への無理解 美根慶樹氏****
オバマ米大統領の広島訪問が正式決定されました。5月末に伊勢志摩で開かれるG7サミット閉幕後に被爆地である広島を訪れます。
オバマ大統領は2009年4月にチェコのプラハで「核なき世界」の実現を訴えました。しかし、それ以降で核軍縮はけっして進んだとはいえません。
核軍縮の歩みが遅いのは、安全保障的な観点もありますが、それ以外にも大きな要素があると元外交官で国連軍縮大使を務めた美根慶樹氏は指摘します。それは何なのか。美根氏に寄稿してもらいました。
「毒ガス」や「地雷」は禁止条約ができたが
核兵器(以下単に「核」)の廃絶がなかなか実現しないのは、現在の国際情勢下では核の抑止力が必要で完全に手放すわけにはいかないと考えられていることもさることながら、「核の非人道性に対する理解が十分でない」からだと思います。
こう言うと、「いや、核が非人道的であることは明らかであり、理解されている」という反論が出てくるかもしれませんが、どういうことか以下に説明していきましょう。
兵器は本来非人道的ですが、一部の兵器はあまりにひどい結果をもたらすので19世紀の終わりころから使用を禁止しようとする動きが起こり、国連では、「非人道性」とは何かを研究するとともに、一定の兵器を禁止する条約が作られてきました。
その結果、「非人道性」とは、「過度に」あるいは「無差別に」人を殺傷することだということが明確になってきました。
核については、さらに「多数の市民を殺傷する」という問題があります。
そして、具体的には、毒ガスや対人地雷は条約ですでに禁止されていますが、核を禁止する条約はできていません。
核不拡散条約(NPT)や国連では、核の「廃絶」や「使用禁止」について議論をしていますが、核保有国と非保有国との間の考えの相違はまだ大きく、「核の使用禁止」が成立するのは「核の廃絶」と同じくらい困難なようです。
国際的な同意が得られていない「非人道性」
そこで、数年前からまず「核の非人道性」を確立しようとする運動が国際的に展開されてきました。この問題については1996年、国際司法裁判所は「核の使用は原則として国際人道法に反する」という判断をしましたが、これは「勧告」であり、各国に対して拘束力はありませんでした。
新たに展開されている運動は、核の廃絶が実現するまでの間、中間的な方策として「核の非人道性」について各国の合意を形成しようとするものです。
しかしこの運動においても、核は抑止力のために必要だという考えが影響を及ぼしており、「核の非人道性」は国際的なコンセンサスとして確立するに至っていません。
日本はこの運動に参加する一方、世界の指導者に対し被爆地を訪問し、被爆の実態をじかに感じ取ってもらうことを勧めています。
「核の非人道性」を確立する国際運動は、いわば、「言葉で」目的を達成しようとしているのに対し、被爆地訪問は「体験により」核の非人道性を会得するものであり、4月に広島で開催されたG7外相会合は非常に効果的でした。
被爆地を訪れた外国要人の「驚き」
特筆すべきは、「核の非人道性」は言葉では分かっていたようでも、被爆地で体験することはそれと大きく違っていることが分かったことです。ケリー米国務長官は率直に驚いたと表明しました。
わたくしは軍縮大使であった関係上、広島や長崎で欧米諸国の人と一緒に被爆状況を展示している資料館を訪問したことがあり、彼らが想像を絶する強い衝撃を受けたのをこの目で見ました。ある人は、訪問が終わると、どんなにひどく叱責されるか、おびえるまなざしでわたくしを見ていました。
「核の非人道性」は理屈や頭では分かっているつもりでも、実はその理解は浅いのです。その恐ろしさが言葉だけでなく、体で本当に分かってくると、核に対しての取り組みがより真剣になるのではないでしょうか。
「核の非人道性」を知って取り組むのと、理解しないで取り組むのでは「核の廃絶」を推進する力も違ってきます。核爆発の実態を正しく知ることは核問題に取り組むのに絶対的に必要なことなのです。
被爆地を訪問すると謝罪を求められると危惧する意見を始め、さまざまな消極的意見を克服してオバマ大統領が被爆地、広島を訪問することを決意されたことは、核軍縮にとっても、日米関係にとっても、さらには世界の平和にとっても言葉では言い尽くせない意義があると思います。
今回実現しなかった長崎訪問も積極的に検討されることを希望しつつ、広島訪問がつつがなく完了することを願っています。【5月12日 THE PAGE】
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できることなら、任期も残りわずかとなったオバマ大統領だけでなく、これからのクリントン氏やトランプ氏にも、また、アメリカ同様に核のボタンを押せる立場にある中国やロシア、更には北朝鮮指導者にも訪問してもらいたいところです。