孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港で強まる中国の圧力 台湾・蔡英文新総統は現実路線で中国との距離を維持

2016-05-20 22:42:56 | 東アジア

(馬英九氏に代って台湾総統に就任する蔡英文氏 https://tw.mobi.yahoo.com/home/%E9%A6%AC%E5%8D%B8%E4%B8%8B%E5%85%AB%E5%B9%B4%E7%B8%BD%E7%B5%B1-%E8%94%A1%E8%8B%B1%E6%96%87%E8%A6%AA%E9%80%81%E5%88%A5-011729740.html

香港では若者らの新たな政治的動きも 中国からの圧力、更に強まる
香港において「一国二制度」の形骸化、中国の管理・圧力の強化が進んでいることは、これまでも再三取り上げてきました。

1月10日ブログ“香港で強まる中国の管理統制 形骸化する「一国二制度」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160110
2月13日ブログ“香港 中国による出版関係者拘束でイギリスが中国批判  急進派の騒乱で民主化運動に更なる逆風”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160213

そうした厳しい現状のなかではありますが、台湾で自主性を主張する「ひまわり運動」を主導した若者らの新政党「時代力量」をも参考にして、香港でも若者らの政治参加の動きが加速されてはいます。

3月22日ブログ“香港 学生運動リーダーらの政治参加、過激な「本土派」への予想外の支持などあるものの、厳しい現実”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160322

こうした動きの背景には、中国が香港に「高度な自治」を認めた「一国二制度」が2047年に期限を迎えることから、「香港のあり方」を巡る議論が活発化していることもあります。

若者らの動きにも、“過激でも保守でもない選択肢”を求める穏健なグループも、“将来的には香港独立も選択肢の一つ”とする急進的なグループもあります。

****香港「雨傘運動」の若者ら新政党 立法会選挙を目指す****
2014年秋に香港行政長官選挙の民主化を訴えたデモ「雨傘運動」に参加した香港の若者らが10日、9月の立法会(議会)選挙に立候補するため、新政党「デモシスト(香港衆志)」を立ち上げた。
 
中心になったのは、雨傘運動を引っ張った学生団体「学民思潮」や「学連」の元メンバーら。代表の主席に就いた羅冠聡さん(22)らが会見し、「香港の未来のため、過激でも保守でもない選択肢を有権者に示していきたい」と語った。具体的な政策は、市民との対話を通じて決めていく方針。
 
政党名は、民主を意味する「デモクラシー」とラテン語で「立ち上がる」などの意味がある「シスト」を組み合わせたという。
 
また、香港こそが本土と考え、中国に批判的な本土派の若者グループ「青年新政」ら6団体も同日、立法会選挙で3〜4人の当選を目指し、協力していくと発表した。将来的には香港独立も選択肢の一つとし、21年に香港人による市民投票を実施するなどの政策を掲げている。【4月10日 朝日】
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しかし、現実問題としては、中国の香港に対する管理・圧力は更に強まってきている印象があります。

****香港の軍事評論家、日本に移住へ 「身の安全」理由に****
香港で軍事専門誌を発行してきた著名な軍事評論家、平可夫氏が「身の安全」を理由に、5月に日本へ移住することを決めた。雑誌の発行は続ける予定だが、中国当局の関与が指摘されている書店関係者の失踪事件を受け、香港での活動継続は危険性が高いと判断した。
 
平氏は中国雲南省出身だが、カナダ国籍で、香港の永住権も持っていた。日本への留学経験もあり、中国語のほか、日英ロシア語にも堪能で、幅広い人脈を生かして、雑誌「漢和防務評論」で、中国軍の動向や腐敗問題などを論じてきた。
 
失踪事件では、中国共産党に批判的な本を出版していた書店親会社の株主がタイや香港から中国本土に強制的に連行された疑いが指摘されている。

香港は「一国二制度」の下で、言論の自由が保障されていると考えられてきたが、平氏は「カナダ国籍があっても身の安全は守れないと感じた。香港はもう二制度ではない」と話している。【4月29日 朝日】
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****香港「天安門事件記念館」閉鎖の危機、中国当局の圧力か****
中国北京市で1989年6月4日に学生らによる民主化運動が武力弾圧されて多数の死傷者が出た「天安門事件」に関する資料や写真などを展示している香港の「六四記念館」が、年内にも閉鎖される見通しとなった。関係者の話で分かった。
 
香港の民主派団体が2014年、市民らからの寄付で九竜地区の雑居ビルに「世界初の天安門事件記念館」として開設した。だが、関係者によると、ビル所有者が「目的外使用だ」と主張して立ち退きを求めて提訴。記念館は運営資金が底をつき、退去せざるを得ない事態に追い込まれているという。
 
記念館には2年間で延べ2万人が入場。中国本土からの観光客も数多く訪れている。一方で、中国当局は香港の民主派勢力の影響力拡大に警戒を強めており、記念館側は、「ビル所有者による提訴の背後に中国共産党政権からの圧力があった」とみている。
 
香港では、共産党体制を批判する書籍を出版、販売した書店の関係者が連続失踪する事件が起きるなど、中国当局の関与が濃厚な政治的圧力や言論への統制が強まっている。【4月29日 産経】
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****新聞編集者解雇に数百人が抗議、報道の自由の侵害懸念 香港****
香港で2日、地元新聞社の著名編集者が最近、いわゆる「パナマ文書」問題に関連する記事を1面に掲載した後に解雇されたことに抗議し、数百人が同紙本社前でデモを行った。
 
解雇されたのは、調査報道紙として知られる明報の姜国元氏。

デモには、記者や活動家、一般市民など約300人が参加し、姜氏が解雇されたのは、中国政府が統制を強化しているのに伴い香港の報道の自由が侵害されていることを改めて示すものだと主張した。
 
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が先月公開したパナマの法律事務所モサック・フォンセカの内部文書、いわゆる「パナマ文書」からは、同事務所がいかにして中国の富豪や有力者らの財産をタックスヘイブン(租税回避地)に集める手助けをしていたかが暴露された。
 
姜氏は、パナマ文書の新たな暴露に関係する香港の実業家や政治家に関する記事を1面に掲載した直後に解雇された。
 
同紙職員組合の代表は、「市民は香港の報道の自由について強く懸念している。われわれは中国の人権状況といったデリケートな政治問題を含め、数多くのニュースを網羅し、良い仕事をしてきた」「姜氏解雇の本当の理由について、(経営陣からの)はっきりした説明を要求する」と述べた。

記者らは、姜氏解雇の決定を下したのは、親中派とみられているマレーシア出身の鐘天祥編集長だと指摘している。
 
鐘氏は2年前、調査報道を手掛けるベテランジャーナリストとして知られる劉進図氏の後任として編集長に就任し、同紙職員からの抗議を招いた。劉氏はそれから間もなく、白昼に刃物で襲われて重傷を負い、その際にも報道の自由を危惧する声が強まっていた。【5月3日 AFP】
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中国最高指導部メンバーの香港入りで懐柔と警告
今月17日には、中国全国人民代表大会(全人代=国会)の張徳江常務委員長が香港を訪問しました。
張委員長は共産党内で習近平国家主席、李克強首相に次ぐ序列3位。党中央香港・マカオ工作協調小組組長を務め、指導部内で香港問題を統括する立場にありますが、中国最高指導部メンバーの香港入りは2012年6〜7月の胡錦濤国家主席(当時)以来約4年ぶりになります。

張徳江氏の香港訪問は、先述のような一部の香港若者が中国政府に反発を強めるなかで、各界の声に耳を傾ける姿勢を強調し、香港の安定を図るねらいがあるとみられます。【5月17日 NHKより】
香港立法会(議会)の民主派議員らとも面会していますが、中国指導部が民主派議員と直接意見交換するのは異例とのこと。

しかし、香港独立にも言及する勢力に対しては強い警戒を示しています。

****香港独立勢力、容認せず=中国全人代委員長が警告****
香港を訪問している中国全国人民代表大会(全人代)の張徳江常務委員長は18日、香港で中国からの独立を主張する勢力が出現していることについて「分裂を目指す動きであり、一国二制度に背いている」と述べ、決して容認しないと警告した。
 
香港では2014年の行政長官の選挙制度民主化を求める大規模デモ以降、「本土派」と呼ばれる反中勢力が台頭。今年3月には公に独立を掲げる政党が旗揚げした。
 
地元テレビによると、張委員長は夕食会で「一国二制度は中国の国策であり、変更することはない」と述べ、改めて現状維持の方針を強調した。
 
張氏は18日午前、中国の提唱するシルクロード経済圏「一帯一路」構想に関するフォーラムで基調講演。「香港には独自の強みがあり、(実現に向けて)重要な役割を果たせる」と香港の積極的な参加を呼び掛けるとともに、中国も人民元国際化などの面で香港を側面支援していく考えを明らかにした。【5月18日 時事】 
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自ら「一国二制度」を形骸化するような動きを強めておきながら、「一国二制度は中国の国策であり、変更することはない」「(独立を主張する勢力は)分裂を目指す動きであり、一国二制度に背いている」と言われても・・・といったところですが、中国の立場からすればそういう話にもなるのでしょう。
“香港にもたらされる経済的な恩恵をちらつかせることで、政治介入や言論統制で強まった香港の反中感情や不満をやわらげる狙いとみられる。”【5月18日 産経】とのことですが、香港の若者らには全く響かないでしょう。

“中国国営新華社通信は張氏の香港訪問を、国家指導者の地方出張時に使われる「視察」と表現した。香港メディアによると、こうした表現は初めてで、中国と香港の関係を単なる中央政府と地方都市の「従属関係」にすぎないと強調したものだという。”【同上】というあたりに、中国側の強い姿勢が窺えます。

中国離れで共振する香港と台湾
香港が台湾の若者らの動きを意識するように、台湾側も、こうした香港の「一国二制度」の現状を強い関心を持って見ていると思われます。

そして、そのことは「私は(中国人ではなく)台湾人だ」と考える人は96年には44%、06年には55%と増え続け、2016年の調査では73%に達したという、台湾の人々の意識変化を後押しする形にもなっているでしょう。

その意識変化が、1月の総統選における民進党の蔡英文氏圧勝をもたらしています。

5月10日ブログ“台湾 「現状維持」の蔡英文新政権発足にあたり、「一つの中国」を認めるよう強まる中国の圧力”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160510でも取り上げたように、中台関係に関する「現状維持」を主張する蔡英文氏に対し、中国側は「中国はひとつ」という“92年コンセンサス”を認めるように強く迫っています。

しかし、「一つの中国」、更にその先にある「一国二制度」の実態を示すものが香港の現状であれば、台湾側としてはおいそれとその流れに乗る訳にもいきません。

注目された蔡英文新相当の就任演説は、玉虫色の現実路線
今日20日に新総統に就任した蔡英文氏が、その最初の演説で中台関係についてどのように述べるのか、中国が求める「一つの中国」承認をどのように扱うのか・・・非常に注目されていました。

****台湾 蔡総統 「1つの中国」言及避けるも一定の配慮****
蔡英文総統は、20日に台北の総統府で就任の宣誓をしたあと、総統府前で開かれた祝賀式典に臨み、就任の演説を行いました。

この中で蔡総統は、中国との関係について、「20年余り双方が交流や協議を積み重ねてきた事実と政治的な基礎を踏まえ、引き続き平和的な安定と発展を進めていかなければならない」と述べ、安定した関係の維持を目指す方針を強調しました。

そのうえで、中国が、1992年に当時の窓口機関どうしが「1つの中国」という考え方で合意したと主張し、蔡総統に認めるよう求めていることについて、「1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する」と述べました。

ただ、蔡総統は、その「共通認識」が「1つの中国」という考え方で合意したかどうかということについては言及を避けました。【5月20日 NHK】
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「1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する」とは言いつつも、「1つの中国」という考え方で合意したかどうかは明らかにしないということで、うまく玉虫色にした形です。
「現状維持」というのは、こうした政治的テクニックを必要とします。

****台湾新総統】「独立」も「一つの中国」も封印した玉虫色演説・・・巨大中国前に“挑発”や“約束”避け現実路線****
台湾の蔡英文総統は20日の就任演説で、中国側が求める「一つの中国」原則や「1992年コンセンサス(合意)」への言及を避ける一方、中台を不可分と定める「中華民国の憲法」に基づいて中台関係を処理するとも発言した。巨大な中国を前に、玉虫色の表現で、中国側の要求を完全に拒否も容認もしない現実路線を採用した形だ。
 
蔡総統は92年合意に言及しない一方で、92年の会談で「若干の共同の認知と了解に達した」と指摘。中台の「政治的基礎」に「中華民国の現行の憲法体制」が含まれるとも述べた。
 
民進党は綱領に「独立」に関する記述がある上、これまで92年合意の存在を認めておらず、蔡総統としては92年合意の受け入れはそもそも不可能だった。中国の王毅外相は2月、米ワシントンで、中国高官としては異例ながら台湾の「憲法」に触れ、蔡氏に「憲法の規定を受け入れるよう期待する」と述べていた。
 
淡江大学中国大陸研究所の張五岳所長は就任演説について「非常に巧みに、台湾内部と北京の双方が刺激的に感じる挑発的な言葉遣いを避けた」と指摘する。
 
民進党の陳水扁元総統は2000年の就任演説で、任期中に独立宣言をしないなどの「四不一没有(4つのノー、1つのない)」を提起。中国国民党の馬英九前総統は08年の就任時に「三不(統一せず、独立せず、武力行使せず)」を約束した。同じ民進党の陳政権の発足時に比べ、中台の経済力や軍事力の差は格段に開いている。
 
それでも、蔡総統は台湾の「民意」を背景に、将来の行動を縛る“約束”は避けた。加えて「両岸(中台)の政権党は過去の重荷を下ろすべきだ」とも述べ、中国側に92年合意に固執しないよう求めもした。
 
中国当局は蔡氏の「言葉を聞き、行動を見る」としてきたが、張所長は今回の演説で、「言葉を聞く」という「第1関門は越えた」と分析する。中国側は今後、中台関係の具体的なやり取りの中で、蔡政権の行動を観察するとみられる。【5月20日 産経】
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“1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する”“中台を不可分と定める「中華民国の憲法」に基づいて中台関係を処理する”ということで、これまで92年合意存在しないとしてきた蔡総統、台湾独立を掲げる民進党にしては相当に中国側の意を汲んだ発言のようにも思えますが、当然ながら中国側は「92年合意を明確に認めておらず、完全な答案ではない」(中国国務院(中央政府)台湾事務弁公室)と不満を明らかにしています。

ただ、蔡総統が92年合意を明確に認めることは当面ありえず、本音としては「まずまず・・・」と感じているのではないでしょうか。ここでこれ以上台湾を追い込んでも、中国にとっていい話はないでしょう。

圧力をかけすぎれば相手は離れていく・・・というのが常識であり、台湾・蔡新政権をこれ以上“反中国”に追いやっては、中国国内でいろいろ権力闘争的な話も囁かれている習近平主席の足元をすくう動きを加速させかねません。

党が管理するインターネット新聞「無界新聞」が、3月4日付で習主席に党と国家の職務から辞任するよう要求する檄文を転載した前代未聞の事件でも、習近平主席の“罪状”として台湾政策の失敗も挙げられています。
「香港、マカオ、台湾問題の処理では、小平同志の英明な『一国二制度』構想を尊重しなかったため、民進党が台湾の政権を得るのを許し、香港で独立勢力の台頭を招いた」

そもそもの話をすれば、中国が今のようなカネと力を誇示する自国中心の粗野で強圧的な姿勢を控えて、他国の立場を尊重する“徳”を示せば、香港・台湾も自ずと「大国」中国に近づいていくし、日本など近隣諸国との関係も改善すると思われるのですが、まあ、それは言っても詮無い話でしょう。
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